ミツヒデ、寺を継ぐ

ニ話

「起きて下さい、ミツヒデ様」

んっ？気のせいか？ノブナガの声が聞こえる。

「ミツヒデ様、お忘れですか？今日から、修行が始まるのですよ」

あぁ、気のせいじゃなかった。

確かにノブナガの声だ。

「やだよ、まだ、眠い」

「わがまま云わないで下さい」

ノブナガは、そう云って、蒲団を引っ剥がした。

「分かったよ、起きるよ」

おれは、そう云って起き上がった。

時計を見ると、三時だった。

「えっ？三時？まだ、夜中じゃん」

「夜中ではありません、四時には、皆と、一緒に本堂の掃除をして貰わなければなりませんからね」

「はぁ？」

「皆と一緒の修行をして頂かねばと、云うか、むしろ、他の弟子たちより、厳しい修行をして頂かねば、示しが付きませんから」

「……」

「ミツヒデ様が、朝、弱いのを知っているから、こうして、早めに起こしに来たのですよ、明日からは、きちんと、ご自分で起きられる様にして下さいね」

ノブナガの声は静かだが、いつも、凛としている。

「あ、それと、学校は今まで、通りに通うようにと、そして、今、お付き合いされている恋人の方々とは全て、お別れするようにとの、オヤカタさまからの伝言です」

「何云ってるの？おれに恋人なんて居ないよ」

「オヤカタさまも、ワタクシも、やんわりとした、言い回しをしたのに…」

「…」

「では、云い方を変えましょう。全てのセフレとは手を切るようにとのことです」

んっ？気のせいか？怒っているような声に聞こえる？

「はぁ？何云ってるの？そんなことしたら、おれは、どうやって処理すれば良いの？」

「……」


「もしかして、ノブナガが相手してくれるの？」

おれは、ノブナガの耳元で囁く。

「ご心配なさらなくても、そんなことを考えている暇もないくらいに、お忙しくなりますから、さあ、起きて準備して来て下さいね」

ノブナガはそう云って、部屋を出て行った。

ノブナガは顔色一つ変えなかった。おれには、全く興味がないと云うことなのだろうな。