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しおりを挟むあれから3日後、ニコラたちの働きのおかげでイザベル、ユーリ、そして御者兼護衛のためにラウル、そして普段からユーリの世話を任されており、最も交流する時間の多かったネアが同行することとなった。
「留守は任せたぞ」
「承知致しました。お気をつけていってらっしゃいませ」
街へと赴くイザベル達を見送るために今日も変わらず残された全員が屋敷の入り口に見送りに訪れていた。
少しずつ速度を上げていく馬車。
発起人であった二コラは遠ざかっていく馬車が小さくなっても見つめていた。
二コラの表情から自身の提案をイザベルが受け入れてくれて嬉しさと、自分も一緒にいきたかった寂しさを、少し後ろから眺めていたナインとリアムには感じられた。
しかし子供の頃より奴隷として愛情を受けずに生きてきた2人はすぐに何か声をかけることはできなかった。
子供の頃より奴隷であった2人は誰よりも早く気づくことはできる。
しかし、幼い二コラの心をに寄り添ったような言葉を自身が与えられたことも持ってもいなかった。
そんな時に声をかけたのはこの中では最年長のルディだった。
「さて、今日の昼食は二コラの好きなチーズを入れたシチューにしようか」
そう明るく言葉をかけ、ニコラの頭に手を置く。
その言葉に二コラは勢いよく顔を向け、歯を見せて微笑んだ。
特別な言葉はいらない
信頼できる人間が自分を想ってくれる。
それが自体が特別なのだから
――――――――――――――――――――――――
イザベルは悩んでいた。
「ううむ…どちらが良いか」
イザベルの目の前にいるのは、襟元にジャボが装飾されている白いシャツの上に、銀糸の美しい花の刺繍が施された朱色のジャケットを羽織り、黒のトラウザーズパンツを着こなしているユーリが落ち着きなく行き場のない瞳をきょろきょろと左右に向け、気まずそうに立っている。
そんなユーリを気にもとめず、今のイザベルの意識はユーリの着ている服に集中していた。
「お客様、シャツにもこちら以外に金糸のものもございます!」
そう言って店員が腕に何枚かのシャツを抱えて戻ってくる。
「ああ、そちらもよいな。よし、ニコラこれも着てみなさい」
そう何食わぬ顔で言い放ったイザベルに、ユーリに与えられた選択肢はその服を受け取るしなかった。
――――――――――――――――――――――――
店内に設置されている試着用の簡易的な個室にて、ユーリは珍しく少し顔に辟易としたような感情を浮かべ、小さくため息をついた。
―僕の服なんて選んだってしょうがないのに―
目の前に設置されている姿見にはユーリのの大嫌いな自分が同じようにこちらを見ていた。
一見外から見れば普通の扉だったが、薄い木の板で仕切られただけの個室は周囲の物音や声をよく通す。
「お客様の弟様ですか?」
そう愛想よく人好きのするような笑みを浮かべながら、イザベル達の接客をしていた女性の店員は声をかける。
店員にとっては若いイザベルを見て、ユーリの事を年の離れた弟のように見えたようだ。
個室にいたユーリにもその声が聞こえ、思わずその手に持っていたシャツが手の内から滑り落ちた。
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