公爵様が信じるのは奴隷だけ

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イザベルは1時間ほど自室で休んだ後、食堂へと向かった。

食堂にはすでに風呂に入り、着替えた3人が椅子に座らず、壁際に立っていた。
風呂に入り身支度を整えた3人のその姿は、一見すると奴隷とは思えないまでになっていた。


「待たせたな」

そう声をかけ、イザベルは一番上座の椅子へと腰かけた。

「いえ、とんでもございません」

リアムはすぐに言葉を返した。

「よい、お前たちも座ることを許す」

イザベルは3人に同じ卓に座ることを許可した。
3人は戸惑いながらも、今度は固まることなく椅子へと腰かけた。


「最初に話したと思うが、お前たちにはこのマルシャン家にて使用人として働いてもらう」

イザベルは3人に向き直って、話し出す。

「これだけは絶対に守れ。私の事は絶対に裏切るな。私に嘘をつくことも、逆らうことも禁じる」

イザベルは今までの中で一番厳しく、そして冷たい視線を3人に向ける。


奴隷紋の制約はあるが、これがイザベルにとって1番重要な問題であるから、改めて伝えておかなければならなかったのだ。

3人は初めて向けられた主人の冷えた眼差しに息をのんだ。



「今までマルシャン家に仕えていた使用人はすべて辞めさせた。今はお前たち3人のみだが、これからさらに奴隷を増やしていく」

3人は足を踏み入れた時からこの広い屋敷が静かすぎると思っていたが、自分たちと主人以外の人間が1人もいないことに驚愕していた。


「リアム、お前は伯爵家で働いていた経験があると聞いている。お前にはこの屋敷の管理をしてもらおうと思っている。ラウルはこの屋敷の守護と、馬車の御者も兼ねてもらう。そしてルディ、お前には厨房すべてを任せる。ここまでで、何か意見はあるか?」


先ほどの冷え切った眼差しはなくなり、イザベルの視線が変わったことに3人は少し安堵した。


「いえ、ご主人様の命に従います」
リアムは相変わらずに1番に頷いた。

「私も何もありません」
ラウルも淡々と頷く。


「あっ、あのご主人様……おれ、いえ私が、厨房で、は、はたら…いてもよろしいのですか…?」

唯一ルディだけが、すぐに同意することなく、視線を彷徨わせながら辿々しく聞いてきた。

「何を言っている。お前に料理させる、そのために私はお前を買ったのだ」

イザベルはまっすぐにルディを見つめる。

「商館で私はお前に聞いただろう。毒を盛ったのはお前かと。しかしお前はそれを否定した」

その言葉にルディは少しうつむく。

「私はお前のその言葉と瞳を信じた。…もう一度だけ聞こう。先程の発言は嘘で、毒を盛ったのはお前なのか?」

イザベルのその言葉にルディは思わず顔を上げる。
まっすぐルディを見つめるイザベルは視線を逸らすことはしない。


「い、いえ、私では絶対にありません!」

ルディは思わず立ちあがり、声が大きくなる。

その返答にイザベルは満足そうにうなずく。
奴隷紋があるから、嘘をつけないはずだ。


「ご、ご主人様、厨房を任せていただき、ありがとうございますっ」

ルディはそう言って、深く深くイザベルへ頭を下げた。
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