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第8章
63話
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ここ最近、アルベルトは朝の買い出しを終えて帰宅すると同時に、どこかへと出掛けていた。
ヤンサの街、中央の大通りにて。アルベルトの姿はあった。彼がどこでなにをしているか、なんのために出かけているのか。それは、与一ですら、アニエスですら知らないことであった。
どこか、落ち着きのない様子のアルベルト。そわそわとしたり、誰かを探している様子できょろきょろとしたり。待ち人でもいるのだろうか。と、思えるようなその行動は、遠方から彼を呼ぶ声によって終わりを告げる。
「アルベルト! 君が、こんなところをうろついているなんて珍しいね」
フードを深く被った、見知った姿の女性──カミーユである。
前回の一件以来、アルベルトはこうして彼女と毎日のように情報のやり取りをするようになっていた。それも、与一の近辺状況のみならず、セシル、アニエス、ルフィナ含む女性陣の周りで危険が起きないように。と、配慮してのことだった。なお、カルミアはカミーユと共に行動していることが多いので、除外されているようだ。
遠くから手を振りながら、彼の元へと近づいてくるカミーユ。
「おぉ、カミーユ。ちょうどいい所に、おめぇを探してたんだ」
「私を? いや、それよりも。まさかあんなことになっているなんてね」
「……なにかあったのか?」
「いや、危ないことではないよ、アルベルト。なんと、あの与一君が働き始めたのさ!」
「がっはっは! やっと働き始めたのか、あの無一文が!」
我が子を祝うかのように、微笑むカミーユ。その姿を見たアルベルトは、彼女の報告に頬を緩めた。
与一の状況自体はカルミア経由で知っていた。が、彼が働き始めたことに関しては一切知らなかったのだ。毎日のように宿で一日の大半を過ごしている与一には呆れてすらいたのだが、ここ2、3日の出来事には驚かされていた。
大通りの真ん中で話し込むと邪魔になるので、彼らは脇の方へと移動しながら話していた。
「それで、あいつは何の仕事を始めたんだ?」
「自身の作った丸薬を持ち込んだらしいよ。おかげで、ギルド内は騒然としていてね。報酬に、彼の丸薬が提示されたってのを聞いたときは、心底驚かされたよ」
「そいつはまた、報酬と釣り合わないんじゃねぇのか? それ」
「また変わった仕組みになってるらしくってね。冒険者たちが討伐依頼ばっかりこなすから、採集依頼が余りに余ってしまって、ギルドの方は頭を抱えていたみたいなんだ。そこで、与一君の丸薬を餌に、余っている分だけでも解消しておこうと考えたんじゃないかな?」
「つまり、元々の依頼報酬は与一の手元に。依頼を受けた冒険者には、与一の……なんだ、丸薬? を、渡すっていうことだろ?」
「たぶん、ね」
通りを行き交う人々を眺めながら、カミーユはどこか考え込んでいる様子で答えた。
「ねぇ、アルベルト」
「ん? 今度はどうしたんだ?」
「もしかして、なんだけど。与一君は既に報酬を受け取っているんじゃないかな?」
「受け取っていたら、どうだっていうんだ?」
「いや、あそこ歩いてるのって、与一君だよね?」
「お、ほんとじゃねぇか。あいつ、なんでこんなところほっつき歩いてんだ……?」
ふたりして顔を揃え、目線の先、中折帽子を被り、黒いスーツを着た与一の姿があった。
「にしても、あの帽子はなぁ……」
「あはは。確か、ルフィナさんからのプレゼントだったよね?」
「あぁ、そう聞いてるが。なんか、被り慣れてねぇってか、不格好ってか……」
腕を組み、うぅん、と。唸るアルベルト。そんな、どこか父親を思わせる表情の彼を見て、カミーユは小さく微笑んだ。
「今のアルベルトは、まるで保護者だね」
「まるで、じゃねぇだろ。そのまんまだ。そのまんま……」
はぁ、と。溜め息をこぼし、改めて与一を見やる。
「っで、あいつは何しに大通りに来たと思う?」
「私に聞かれてもわからないよ。探し物でもしているんじゃない?」
「あいつが探し物、ねぇ。っま、何事もなさそうで何よりだ。それでだな──」
与一の知らないところで、アルベルトとカミーユは情報のやり取りを行っていた。そして、問題がなさそうであると判断すると、すぐに解散していくのだ。これが、アルベルトのここ最近の日常になりつつあるのであった。
「また、なにかしら起きそうだったら、先回りして回避できるかもしれないからね」
「そうだな。店番と飯作ること以外、俺は暇だしよ。使える時間に見回りでもしていいかもしれねぇな」
ふたりして壁に寄り掛かり、大通りを眺める。
「さて、俺は戻って夕飯の仕込みでもするかな」
そう言うと、アルベルトは壁から背を離し、人混みの中へと消えていった。
「私は、もうしばらくその辺で情報を集めてみるかな……」
小さくなっていく彼の背中を眺めながら、カミーユもまた、人混みの中へと姿を消した。
ヤンサの街、中央の大通りにて。アルベルトの姿はあった。彼がどこでなにをしているか、なんのために出かけているのか。それは、与一ですら、アニエスですら知らないことであった。
どこか、落ち着きのない様子のアルベルト。そわそわとしたり、誰かを探している様子できょろきょろとしたり。待ち人でもいるのだろうか。と、思えるようなその行動は、遠方から彼を呼ぶ声によって終わりを告げる。
「アルベルト! 君が、こんなところをうろついているなんて珍しいね」
フードを深く被った、見知った姿の女性──カミーユである。
前回の一件以来、アルベルトはこうして彼女と毎日のように情報のやり取りをするようになっていた。それも、与一の近辺状況のみならず、セシル、アニエス、ルフィナ含む女性陣の周りで危険が起きないように。と、配慮してのことだった。なお、カルミアはカミーユと共に行動していることが多いので、除外されているようだ。
遠くから手を振りながら、彼の元へと近づいてくるカミーユ。
「おぉ、カミーユ。ちょうどいい所に、おめぇを探してたんだ」
「私を? いや、それよりも。まさかあんなことになっているなんてね」
「……なにかあったのか?」
「いや、危ないことではないよ、アルベルト。なんと、あの与一君が働き始めたのさ!」
「がっはっは! やっと働き始めたのか、あの無一文が!」
我が子を祝うかのように、微笑むカミーユ。その姿を見たアルベルトは、彼女の報告に頬を緩めた。
与一の状況自体はカルミア経由で知っていた。が、彼が働き始めたことに関しては一切知らなかったのだ。毎日のように宿で一日の大半を過ごしている与一には呆れてすらいたのだが、ここ2、3日の出来事には驚かされていた。
大通りの真ん中で話し込むと邪魔になるので、彼らは脇の方へと移動しながら話していた。
「それで、あいつは何の仕事を始めたんだ?」
「自身の作った丸薬を持ち込んだらしいよ。おかげで、ギルド内は騒然としていてね。報酬に、彼の丸薬が提示されたってのを聞いたときは、心底驚かされたよ」
「そいつはまた、報酬と釣り合わないんじゃねぇのか? それ」
「また変わった仕組みになってるらしくってね。冒険者たちが討伐依頼ばっかりこなすから、採集依頼が余りに余ってしまって、ギルドの方は頭を抱えていたみたいなんだ。そこで、与一君の丸薬を餌に、余っている分だけでも解消しておこうと考えたんじゃないかな?」
「つまり、元々の依頼報酬は与一の手元に。依頼を受けた冒険者には、与一の……なんだ、丸薬? を、渡すっていうことだろ?」
「たぶん、ね」
通りを行き交う人々を眺めながら、カミーユはどこか考え込んでいる様子で答えた。
「ねぇ、アルベルト」
「ん? 今度はどうしたんだ?」
「もしかして、なんだけど。与一君は既に報酬を受け取っているんじゃないかな?」
「受け取っていたら、どうだっていうんだ?」
「いや、あそこ歩いてるのって、与一君だよね?」
「お、ほんとじゃねぇか。あいつ、なんでこんなところほっつき歩いてんだ……?」
ふたりして顔を揃え、目線の先、中折帽子を被り、黒いスーツを着た与一の姿があった。
「にしても、あの帽子はなぁ……」
「あはは。確か、ルフィナさんからのプレゼントだったよね?」
「あぁ、そう聞いてるが。なんか、被り慣れてねぇってか、不格好ってか……」
腕を組み、うぅん、と。唸るアルベルト。そんな、どこか父親を思わせる表情の彼を見て、カミーユは小さく微笑んだ。
「今のアルベルトは、まるで保護者だね」
「まるで、じゃねぇだろ。そのまんまだ。そのまんま……」
はぁ、と。溜め息をこぼし、改めて与一を見やる。
「っで、あいつは何しに大通りに来たと思う?」
「私に聞かれてもわからないよ。探し物でもしているんじゃない?」
「あいつが探し物、ねぇ。っま、何事もなさそうで何よりだ。それでだな──」
与一の知らないところで、アルベルトとカミーユは情報のやり取りを行っていた。そして、問題がなさそうであると判断すると、すぐに解散していくのだ。これが、アルベルトのここ最近の日常になりつつあるのであった。
「また、なにかしら起きそうだったら、先回りして回避できるかもしれないからね」
「そうだな。店番と飯作ること以外、俺は暇だしよ。使える時間に見回りでもしていいかもしれねぇな」
ふたりして壁に寄り掛かり、大通りを眺める。
「さて、俺は戻って夕飯の仕込みでもするかな」
そう言うと、アルベルトは壁から背を離し、人混みの中へと消えていった。
「私は、もうしばらくその辺で情報を集めてみるかな……」
小さくなっていく彼の背中を眺めながら、カミーユもまた、人混みの中へと姿を消した。
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