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第6章
45話
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宿の外、入口の傍にて、与一は毎朝のようにタバコを吸うようになっていた。これといってやることもなく、かといって片付けなければならない仕事もない。むしろ、忙しい日々が懐かしくも感じ、かといって戻りたいとも思えず。ただただ、時間というものを無駄に浪費しているにすぎなかった。だが、そんな彼にも日課と呼べるようなものができつつあった。それは、
「お待たせしました。さ、大通りに行きましょう」
扉の開く音と共に、ひょっこりと顔を出したルフィナとの買い物。朝になれば、与一がここにいるということ。そして、特にやることがなくて暇を持て余していることを知った彼女は、こうして一緒に出掛けようと言ってくる。
特に断る理由もない与一は、お昼をごちそうになるという条件で共に出かけている。ここ最近、朝食としてだされるものに満足がいかなかった与一にとっては、買い物に付き添うだけでお昼にありつけるという環境は唯一の救いだといっても過言ではない。だが、ルフィナの買ってくるものは全て木箱につめられており、その数も多いので物置部屋にこれ以上は入らないからやめてくれ。と、宿主が苦情を垂れるほどなのだ。が、ルフィナはそう言われても変わらずに買い物へと出かける。
「今日は何を買いましょうか?」
大通りに差し掛かった時、彼女は頬に人差し指を当てながらつぶやいた。
「なんでもいいんじゃないか? 思ったんだけど、なんであんなに買い込むんだ?」
ひとつ、ふたつなら土産として考えられるのだが、ルフィナ自身が買い込んでいるものは何十という数だ。ふとした疑問であったのだが、毎度毎度買っては中身を確認するわけでもないので、与一は問うことにしたのだ。
「ヤンサでしか手に入らないものは、地方では高く売れるのですよ? 前に、最北端で手に入った調味料をアルベルト様に差し上げたら、大喜びされてしまって。それから、他のお世話になってる知り合いの方々にお土産を渡すついでに、仕入れを行っているのです」
そういえば、祝杯がどうのこうのと飲まされそうになったものがあったな。と、思い出しながら、あれが調味料だとは知らずに手を出さなくて良かったと胸を撫で下ろす与一。もし、酒だと思って飲んでいたら、それこそ祝杯という雰囲気が一変して地獄絵図となっていたかもしれないのだから。
「カミーユに感謝しなきゃだな……」
そう呟き、ルフィナの買い物に付き合う。
常連となってきたカフェで昼食を取り終え、宿へと戻る。これが、与一の日課になりつつある午前の過ごし方だ。
ルフィナと別れてから自分の部屋に戻ってすぐに、与一は違和感を覚えた。ちょっとしたものであったのだが、家具のあちらこちらが少しだけ移動していたり、ベッドの毛布が移動していたり。紛れも無く誰かが部屋に入り込んだ形跡があった。目的はなんなのだろうか。と、あちらこちらを確認する与一。
部屋に設けられているふたつのクローゼット。その片方には、物置部屋から退去させられたときに一緒に持ち出した粉塵が仕舞われた瓶たちが眠っている。最近となっては、アルベルトが怪我をしたときにのみ持ち出しているのだが、もしかしたら。と、クローゼットを開く。
「……減ってる」
中身を確認してすぐに、治癒の粉塵が減っていることに気がつく。
いったい誰が使っているのだろう。と、思考を巡らせて情報を整理していく。
まず最初に思い浮かんだのは、セシルだ。彼女は与一の調合を見るのが好きだ。と、いうよりも勉強しているようなので、隣で楽しそうに眺めているのを許している。彼女の性格を考えると、先生と呼ばれているだけあって、なにかに使ったり、自分で勉強したいと許可を求めてくるはずだ。
アニエスの場合はどれがどの粉塵かなんて見ていないのだから、理解していないだろう。カミーユも一度間近で見てはいるのだが、それでも勝手に人のものに手を出すとは思えない。カルミアもそうだ。彼女は朝からギルドに顔を出していたり、カミーユと共に街をうろついている。可能性としては低すぎる。そして、ルフィナは一緒に行動しているので、アリバイと呼べるものは与一が一番知っている。となると、
「あのオヤジ……」
怪我をすれば、毎度のようにわざとらしく大声で叫ぶあの男だ。与一の留守の間に怪我をして、部屋を漁って勝手に使っていると考えれば納得がいく。それに、アルベルトが朝の買出しを終えて宿に戻ってくる時間は、与一はルフィナと共に大通りにいる頃なので、むしろあの大男が一番最初に浮かんでこなかったこと自体が嘆かわしい。
心の中で、疑ってしまった仲間たちに謝罪をする。そして、目の前にある白い粉塵──『治癒の粉塵』の詰まっていた瓶を手にとる。最後に調合してから、セシル救出の際に半分ほど使ったので、すでに底を尽きそうになっていた。
「補充しなきゃだなぁ……いやし草を買おうにもお金ないし、どうするかな……」
金が無い、粉塵が勝手に使われる。という、ふたつの悩み事。どうすれば勝手に粉塵を使われないか。と、考えていたとき、階段の方から良く知った声が聞こえてきた。
『与一? セシルと一緒にギルドにいくのだけれど、今日はどうするの?』
どうやら、アニエスたちが与一を誘いに来たようだ。いつもの彼なら、ここで誘いを断ってなにをして暇を潰そうか考えるのだが、
「今行く! ちょっと待っててくれ!」
今日は珍しく、仕事に向かうことにしたようだ。
「お待たせしました。さ、大通りに行きましょう」
扉の開く音と共に、ひょっこりと顔を出したルフィナとの買い物。朝になれば、与一がここにいるということ。そして、特にやることがなくて暇を持て余していることを知った彼女は、こうして一緒に出掛けようと言ってくる。
特に断る理由もない与一は、お昼をごちそうになるという条件で共に出かけている。ここ最近、朝食としてだされるものに満足がいかなかった与一にとっては、買い物に付き添うだけでお昼にありつけるという環境は唯一の救いだといっても過言ではない。だが、ルフィナの買ってくるものは全て木箱につめられており、その数も多いので物置部屋にこれ以上は入らないからやめてくれ。と、宿主が苦情を垂れるほどなのだ。が、ルフィナはそう言われても変わらずに買い物へと出かける。
「今日は何を買いましょうか?」
大通りに差し掛かった時、彼女は頬に人差し指を当てながらつぶやいた。
「なんでもいいんじゃないか? 思ったんだけど、なんであんなに買い込むんだ?」
ひとつ、ふたつなら土産として考えられるのだが、ルフィナ自身が買い込んでいるものは何十という数だ。ふとした疑問であったのだが、毎度毎度買っては中身を確認するわけでもないので、与一は問うことにしたのだ。
「ヤンサでしか手に入らないものは、地方では高く売れるのですよ? 前に、最北端で手に入った調味料をアルベルト様に差し上げたら、大喜びされてしまって。それから、他のお世話になってる知り合いの方々にお土産を渡すついでに、仕入れを行っているのです」
そういえば、祝杯がどうのこうのと飲まされそうになったものがあったな。と、思い出しながら、あれが調味料だとは知らずに手を出さなくて良かったと胸を撫で下ろす与一。もし、酒だと思って飲んでいたら、それこそ祝杯という雰囲気が一変して地獄絵図となっていたかもしれないのだから。
「カミーユに感謝しなきゃだな……」
そう呟き、ルフィナの買い物に付き合う。
常連となってきたカフェで昼食を取り終え、宿へと戻る。これが、与一の日課になりつつある午前の過ごし方だ。
ルフィナと別れてから自分の部屋に戻ってすぐに、与一は違和感を覚えた。ちょっとしたものであったのだが、家具のあちらこちらが少しだけ移動していたり、ベッドの毛布が移動していたり。紛れも無く誰かが部屋に入り込んだ形跡があった。目的はなんなのだろうか。と、あちらこちらを確認する与一。
部屋に設けられているふたつのクローゼット。その片方には、物置部屋から退去させられたときに一緒に持ち出した粉塵が仕舞われた瓶たちが眠っている。最近となっては、アルベルトが怪我をしたときにのみ持ち出しているのだが、もしかしたら。と、クローゼットを開く。
「……減ってる」
中身を確認してすぐに、治癒の粉塵が減っていることに気がつく。
いったい誰が使っているのだろう。と、思考を巡らせて情報を整理していく。
まず最初に思い浮かんだのは、セシルだ。彼女は与一の調合を見るのが好きだ。と、いうよりも勉強しているようなので、隣で楽しそうに眺めているのを許している。彼女の性格を考えると、先生と呼ばれているだけあって、なにかに使ったり、自分で勉強したいと許可を求めてくるはずだ。
アニエスの場合はどれがどの粉塵かなんて見ていないのだから、理解していないだろう。カミーユも一度間近で見てはいるのだが、それでも勝手に人のものに手を出すとは思えない。カルミアもそうだ。彼女は朝からギルドに顔を出していたり、カミーユと共に街をうろついている。可能性としては低すぎる。そして、ルフィナは一緒に行動しているので、アリバイと呼べるものは与一が一番知っている。となると、
「あのオヤジ……」
怪我をすれば、毎度のようにわざとらしく大声で叫ぶあの男だ。与一の留守の間に怪我をして、部屋を漁って勝手に使っていると考えれば納得がいく。それに、アルベルトが朝の買出しを終えて宿に戻ってくる時間は、与一はルフィナと共に大通りにいる頃なので、むしろあの大男が一番最初に浮かんでこなかったこと自体が嘆かわしい。
心の中で、疑ってしまった仲間たちに謝罪をする。そして、目の前にある白い粉塵──『治癒の粉塵』の詰まっていた瓶を手にとる。最後に調合してから、セシル救出の際に半分ほど使ったので、すでに底を尽きそうになっていた。
「補充しなきゃだなぁ……いやし草を買おうにもお金ないし、どうするかな……」
金が無い、粉塵が勝手に使われる。という、ふたつの悩み事。どうすれば勝手に粉塵を使われないか。と、考えていたとき、階段の方から良く知った声が聞こえてきた。
『与一? セシルと一緒にギルドにいくのだけれど、今日はどうするの?』
どうやら、アニエスたちが与一を誘いに来たようだ。いつもの彼なら、ここで誘いを断ってなにをして暇を潰そうか考えるのだが、
「今行く! ちょっと待っててくれ!」
今日は珍しく、仕事に向かうことにしたようだ。
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