勇者の不可分

たりきん

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陽生 光輝14話 新たな敵

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「なっ!?」

鎧から放たれた魔力球が空間を裂くように飛び出した瞬間、メストの頭の中は急速に計算を巡らせ始めた。人質として使っていた杏は、この状況ではもはや役に立たないと判断。いくつかの選択肢を瞬時に考え、いずれも現実的ではないと感じながら、最もリスクが少ないものを選ぶ。

「くそっ! この私が情けなく逃げることになるとは……!」

彼の考えは冷静だった。本気を出し魔力球に対抗し魔力を使い切れば逃げる術を失い、鎧に勝つ手段もなくなる。

「ムアルヘオラならばこんなことには……!」

防御に徹してもダメージは免れない。そして、メストは決断する――全力で逃げることを。

「逃がさない!」

突然、覚悟を決めた杏がメストに向かって突進し、彼の体にしがみついた。その一瞬の出来事が、メストの脱出を阻んだ。

「チッ、邪魔だ!」

「きゃぁぁ!!」

メストは杏を軽々と振り払い、無意識のうちに時間を稼がれてしまったことに苛立ちを感じた。彼は振り返り、迫り来る魔力球に対し歯を食いしばりながら、不気味な笑い声を上げた。

「ンフフフフ、まさかこんなガキ共に追い詰められるとは思いませんでしたよ……!」

そして、直撃まで残された時間はわずか。メストは全力で迎え撃つことに意を決した。

「私の全力を見れるなんて光栄ですよ、よく見ておくんですね」

その瞬間、魔力球の横から眩い赤い光が飛び出し、魔力球はまるでシャボン玉が弾けるように消え去った。そして、赤い光は目にも止まらぬ速さで鎧に向かい、次の瞬間、鎧を吹き飛ばした。

「これは……!?」

メストの目が驚きで見開かれた。その赤い光からは覚えのある魔力を発していた。やがて光の中から姿を現した。

一見メストと同じように人間に見える、しかしその頭には悪魔のような2本の赤い角を持つ者だった。瞳は赤く輝き、右目の周りには不気味な赤い紋様が刻まれ耳が尖っている。

「あ……あ……」

まるで力や暴力を体現したかのような出で立ちに、杏は恐怖で身動きが取れなくなった。

「情けねぇ、何やってんだお前」

「仕方がないでしょう、こんなものが現れるとは計算外ですよ」

「まぁいい、居場所はわかったんだ。撤退だ」

「チッ、しょうがないですね」

メストは素直にそれに応じ浮遊し始めた。魔力球を消し去り鎧を吹き飛ばすほどの力を使ったとなると、彼の魔力消費は大きく、この場で無理をすることは得策ではないと判断したのだ。

「それでは、光輝さんのことはまたの機会に」

去り際、メストは杏に向かって丁寧に挨拶をするような素振りを見せた。

「今度こそ、光輝さんをお迎えに来させていただきます。では失礼」

そう言うや否や、二人は一瞬で空間から消え、後にはただ静寂だけが残った。



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