勇者の不可分

たりきん

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夏目 晴斗9話 俺に理解できるのか……

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晴斗は、ワクワクしながらエレベーターに乗り込むと、階数を示すボタンが「1」しかないことに気づいて首をかしげた。

「え、1って……地下一階だけ?」

「え? うん、そうだけど……なんで?」

「いや、もっと地下深くまであんのかと思ったからさ」

少しがっかりした様子の晴斗に、姫凪乃は呆れた顔で軽く肩をすくめた。

「あのね、ここは国家機密レベルの施設よ。今使ってるエレベーターは、機密度の低い一般職員や外来用の出入口なの」

「あぁ、なるほど……そういうことか」

エレベーターが開くと、目の前にはシンプルなエントランスが広がっていた。正面には受付があり、右手には奥へ続く通路がある。見渡す限り、特に目立った装飾もなく、まるで普通のオフィスビルのようだ。晴斗が想像していた「国家機密」のイメージとは全く異なり、どこか拍子抜けしてしまった。

「なんか……思ってたのと違うな……」

晴斗はキョロキョロと周囲を見回しながら、少し落胆した声を漏らした。それを見た姫凪乃は、軽く笑いながら彼に説明を始めた。

「晴斗が想像してるのはもっと地下の方ね。最下層にはアビリティのデータを取るためのシミュレーションや訓練施設、それにランキング戦なんかで使う広い演習場もあるのよ」

「おぉ、それっぽい!」

晴斗は少し感動しながらも、まだ完全には納得していないようだった。そのまま姫凪乃が受付に向かい、目的を伝える。

「三神さんと13時にお約束した鬼彰です」

「はい、鬼彰様ですね。お待ちしておりました。少々お待ちください」

数分待つと、奥の通路から現れたのは、白いタンクトップに白衣を羽織り、ボディビルダーのような屈強な肉体を持つ男だった。

「やぁ!姫凪乃君!久しぶりじゃないかぁぁぁ!!」

「あ、三神さん!お久しぶりです!」

晴斗は、目の前にいる筋骨隆々の男が「三神」と呼ばれているのを耳にし、思わず自分の耳を疑った。

「え、え?この人が三神さん……?」

姫凪乃がにこやかに答える。

「そ!この人が三神修造さん、アビリティ研究の第一人者よ」

「やぁ!君が夏目晴斗君か!真取さんから君の話を聞いてるよ。空間転移なんて凄い力を持ってるんだってね!」

三神は晴斗に両手を差し出し、握手を求めてきた。それに応えると、驚くほどの握力で晴斗の手が振り回され、肩が抜けるのではないかと感じるほど強烈だった。

「んん?晴斗君、アビリティは凄いけど、体がなってないなぁ。もっと筋肉をつけないとダメだね!」

三神はそう言うと、ボディビルダーのように自分の筋肉を強調するポーズをとり、胸筋をピクピクと動かし始めた。

「そうよ、ヘナチョコなんだから、もっと鍛えなさいよ」

「え、あぁ……はい、考えときます……」

姫凪乃にまで言われ、晴斗は苦笑いを浮かべた。

「ほらほら、元気出して!今日は晴斗君の疑問に納得できる形でしっかり答えるからね!」

「いや……こちらこそ、貴重なお時間を僕のために割いていただいて、ありがとうございます」

「はっはっは!そんなにかしこまらなくていいよ!じゃあ、早速だけど、あっちの部屋に行こう!」

三神に連れられ、晴斗と姫凪乃は8畳ほどの会議室に案内された。

「さ、座って座って!」

二人は椅子に座り、久々の授業のような感覚に、晴斗は学生時代のテストをふと思い出していた。

「(赤点とか補習ばかりだった俺が、こんなところで授業を受けることになるとは……人生わからないもんだな……)」

三神は晴斗に向かって笑顔で問いかける。

「じゃあ、晴斗君。まず、何か知りたいことはあるかい?」

「あ、えーと……そうですね……」

「ふむ、まだ何が分からないのかも分かっていない、という状態だね。よし、それならまずこの施設について説明していこうか!」

「お願いします!」

晴斗は、高校を卒業してから約8年ぶりに、真面目な授業姿勢をとった。

「晴斗君はこの大学で働いているんだよね?」

「はい、そうです」

「大学の関係者の大半は、ここに地下施設があることすら知らない。私も教授として教鞭をとっているが、この施設について知っているのはごく一部だけだ」

「そうなんですね……」

「(こんな目立つ人いたか……?まぁ広いし外部の人も普通に入ってきて食堂使えるしなぁ)」

同じ大学構内にあるとはいえ、その敷地は広く、数多くの建物が点在している。晴斗はその中でも自分が担当している建物以外には、業務で立ち寄ることがほとんどなく、殆どの時間を管理室の受付にいるため三神を見たことがなかった。
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