勇者の不可分

たりきん

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鬼彰 勁亮8話 隠された真実

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「あぁどうせ、光輝は『これ以上無駄な争いは必要ない』とか言って、毎回説得しようとしたんだろ?」

勁亮が半ば呆れたようにそう言うと、莉愛もすぐに同意して口を開いた。

「うん、それ完全に光輝だね。ニサもあの性格だから、光輝にベタ惚れだったし、一緒に説得してたんだろうなぁ」

アティードは、2人の的確な反応に満足げな笑みを浮かべた。

「そうだ、だが現実はそう甘くない。奴ら、邪神教の信者たちは、自らの意思で邪神を崇拝していた。そんな連中にとって、光輝こそ邪神みたいなもんだ」

アティードは一度、遠い過去を思い出すかのように視線を落とし、続けた。

「そんな状況の中で、ジャラートの幹部連中は、もはや説得は無意味だと言い始めた。彼らを殲滅するしかないと。まぁ、今まで受けてきた仕打ちを考えれば、そんな考えも理解できるがな」

「でも当然、光輝は反論したんだ。『負の連鎖を断ち切るために、相手を滅ぼすのは間違っている。歩み寄り、互いを尊重し、受け入れる。それこそが本当の平和だ』なんてな」

勁亮と莉愛は、その言葉を聞いて、頭の中に光輝の姿がすぐに浮かんだ。

「はは、アイツらしいな。本当に勇者だよ、光輝は」

「うん、まさに光輝の信念だね」

アティードは、懐かしさを感じながら2人の反応に笑みを浮かべつつ、続けた。

「そうだな。自分たちを救ってくれた勇者様がそう言うんだ。幹部たちも、何も言い返せなくなってしまった。だが……俺はそれがどうも腑に落ちなかったんだ」

アティードの表情が少し曇ったのを見て、勁亮は疑問を口にした。

「腑に落ちないって……何か裏があったってことか?」

アティードは頷き、さらに詳しく語り出した。

「俺もニサも、物心ついた頃には世界はすでに邪神によって支配されていた。俺たちはジャラートで育ち、邪神教の信者たちは洗脳されていると教えられていたんだ。だからそれを教えていたジャラートに疑念を抱き始めたんだ」

「俺は調べ始めたんだが、連中は慎重で、なかなか尻尾を出さなかった。そこで俺の魔法を使って、奴らの会議を盗聴してやったんだ」

その言葉に、勁亮と莉愛は思い出したかのように口を揃えた。

「あぁ、あの糸電話みたいに魔力の糸を使って話を聞くやつか」

「そうそう、あそこまで細く伸ばすのは私には無理だなぁ……」

ムアルヘオラでは、エルフや精霊族など多くの種族が当たり前に魔法を行使できる世界だったが、彼らのように魔法を使える人間は非常に珍しかった。しかしアティードは魔力蓄積容量が少なく戦闘向きではなかったものの、アティードは魔力の形状変化を極め、独自の通信魔法を編み出していたのだ。

「だが、護衛に魔法を使える連中もいてな。最小限の魔力でやらないと気づかれる可能性があった。だから、断片的にしか聞こえなかったが、それでも俺の疑念は確信へと変わった」

「それで、聞いた内容は?」

アティードの表情が険しくなり、話を続けた。

「聞けたのは……“気づかれる前に……”、“邪神教”……“アーティファクト”……“裏切る”……“ニサがいなければ……”という断片的なものだ」

それを聞いた瞬間、勁亮と莉愛の顔色が一変した。同時に声を荒げた。

「ニサは大丈夫なのか!?」「ニサは無事なの!?」

2人の焦りと心配が見え隠れする。その声に、アティードは神妙な表情を浮かべ、重々しく答えた。

「正直なところ、結果的には……よく分からない」

「分からないってどういうことだ!?」

「何があったんだ!?」

勁亮と莉愛は、これまで共に戦い、生死を共にした戦友であるニサの身に何か起こったのではないかという不安を感じ、言葉を強めてしまった。

「さっきの未来の場面の話に戻るが、あの場面を見た直後、いつものように邪神教の残党が小競り合いを始めたんだ。それを鎮めるために、光輝と俺で手分けして対応することになった……」

「ん……?ちょっと待て。ニサはどうしてたんだ?」

「うん、むしろニサなら超積極的に説得しに行くはずじゃない?」

アティードは、2人がまだ知らない重要な事実を伝え忘れていたことに気づいた。

「あぁ、そうだな。……その時、ニサは出産直後で、動けなかったんだ」

その一言に、勁亮と莉愛はあまりの驚きに目を見開き一瞬言葉を失った。

「出産!!?」

「え、え、え、え、光輝とニサの子供てこと!?」

「そうだ、話す順番がおかしくなっちまったな。名前はまだ決まっていなかったが、2人で持ち寄って決める予定だったんだ」

アティードの言い方に、勁亮は一抹の不安を感じ、思わず問いかけた。
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