勇者の不可分

たりきん

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鬼彰 勁亮7話 時を超えた再会、開かれる過去

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あまりに予想外の状況に、勁亮の頭の中にはいくつもの疑問が一気に押し寄せた。しかし、どこから質問すればいいのかがわからず、言葉が詰まり、息が苦しくなる。隣の莉愛も同様に混乱し、ただただ疑問をぶつけることしかできなかった。

「え……と」

「な、なんで!?なんで!?」

彼女の声は震え、苛立ちとも驚きともつかない感情が込められていた。そんな様子を見て、アティードは微かに笑いながら、肩をすくめた。

「ハハ、無理もないな。混乱するのは当然だ。そりゃあ、いないはずの人間が目の前に現れ、その上歳を取ったオッサンになってるんだからな」

彼の冗談混じりの冷静な態度に、勁亮も少し落ち着きを取り戻し始めた。それでも、心の中にはまだいくつもの疑問が渦巻いている。

「勁亮、俺の力を覚えているか?」

アティードの質問に、勁亮は一瞬考え込む。すぐに莉愛が思い出したかのように答えた。

「力?……ていうと、魔法じゃなくて未来が見える、てやつか?」

莉愛も、当時アティードが話していたことを振り返り、言葉を続ける。

「子供の頃に魔物に襲われて、頭をケガしたせいで見えるようになった……って話だったよね?たしか、あんまり役に立たないって言ってたけど」

アティードは苦笑しながら、軽く頷いた。

「ああ、その通りだ。基本的に、俺の未来視は自分の意思とは関係なく、突然一部の未来の場面が俺の視点で見えるってだけだ。明日かもしれないし、1年後かもしれない。だから、その場面がいつ、どこで起きるのかも、俺にはわからないんだ。そもそも、よっぽど印象に残る場面でなければ、俺もすぐに忘れちまうしな」

勁亮は一瞬考え込んだ後、眉をひそめて問い返した。

「それとお前が歳食ってここにいるのとどう関係してるんだ?」

その問いに、アティードは少し顔を引き締め、真剣な表情で語り始めた。

「お前たちがムアルヘオラから帰還して、しばらく経った頃のことだ。突然、また未来の場面が見えたんだ……」

アティードの言葉に、勁亮と莉愛は黙って耳を傾けた。彼の語る未来の場面がどんなものだったのか、二人は興味と不安が入り混じった表情で聞き入る。

「それは、全てを飲み込むような巨大な闇の穴……黒く、禍々しく渦巻く闇が舞っていた。そして、その周囲には……邪神教の信者たちが、惨たらしく殺されていたんだ」

その強烈な描写に、一瞬の静寂が訪れる。勁亮と莉愛はその光景を想像し、背筋に寒気が走る。だが、すぐに同じ疑問が浮かび、同時に口を開いた。

「え? 邪神教……て、なんで?」

「確かに、邪神は光輝がトドメを刺したはずだよな。なのに、なんでまだ邪神教の信者がいるんだ?」

二人は混乱し、困惑した表情を浮かべた。彼らは、光輝と共に邪神を倒し、その後は平和が訪れたと思っていたのだ。

「まさか……邪神を倒しても、洗脳が解けなかったのか?」

その問いに、アティードは冷静に首を横に振った。

「いや、違う。奴らはそもそも洗脳されていなかったんだ。自らの意志で、邪神に従っていた。俺も後から知ったことだけどな」

当時、彼らが所属していた反邪神組織ジャラートでは、邪神教の信者たちは洗脳されていると聞かされていた。だからこそ、彼らを倒すことが正義だと信じて戦っていたのだ。

「ちょっと待て……なんで邪神なんかに進んで従うんだよ!?」

勁亮はその事実を受け入れられずに、声を荒げた。

「そうだよ!みんな、酷い目にあわされてたんでしょ!?」

莉愛も信じられないといった表情で問い詰めた。しかし、アティードは落ち着いた様子で続けた。

「ああ、確かにあいつらは邪神を倒されてもなお、その信仰を捨てなかった。邪神がいなくなっても、彼らはその名のもとに生き続けていたんだ、何故かはわからんがな。だから、ジャラートと彼らの小競り合いは続いていたよ」

アティードの言葉に、勁亮も莉愛も言葉を失った。彼らは、邪神を倒せば全てが終わると思っていた。しかし、それは彼らの甘い考えだったのかもしれない。

「勿論、光輝やニサがいれば、残党なんて簡単に倒せたさ。でも、アイツの性格だからな……お前も分かるだろ?」

アティードは、光輝のことをよく知る2人ならすぐに理解できるであろう問いかけを投げかけた。
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