地獄の道の罪人ども

酸性元素

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天界決戦編

執念と信念

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 アポロンは、一同に向けて矢を発射する。数万発をも超える量のそれは、地面に次々と降り注ぎ始めた。

「ウリエルさん、やりますよ!」

「分かりました!」

 ミカエルとウリエルは、互いの炎を交差させる。赤い炎と青い炎。2種類の火炎は一同の周囲にある矢を吹き飛ばしていく。よし、聞いた通りだ。アポロン様の矢は、耐久力自体はそれほど無い。冷静に対処すれば、無傷でいられる。

「いっぺんよお……12神と戦ってみたかったんだよなああああああ!!!」

 ガブリエルは天高らかに笑うと、ラファエルと共に、デメテルに襲いかかった。双剣と拳。連携など微塵も取れてはいないその動きだったが、デメテルを動揺させるには十分だった。

「なるほど……ここまで強くなるとは……天使も侮れないものですね。しかし……所詮はその程度!!」

 デメテルは即座に冷静さを取り戻すと、両手を地面に置いた。まずい、と感じた2人は、咄嗟に彼女から距離を取る。デメテルには、正確な神器は存在しない。言うなれば、彼女自身が神器である。それは、豊穣の能力。即ち、植物を操作する能力とも言える。凄まじい速度で大樹は育っていき、2人を猛スピードで追いかける。2人は空中を滑空し、その追跡から逃げる。彼らが塔をグルリと一周しても、まだ大樹は追跡をやめなかった。

「おいおいどーするよラファエル!こいつは想像以上だぜ?!」

「作戦がある、聞いてくれるかい?」

 ラファエルは、ガブリエルに耳打ちする。彼はニヤリと笑うと、

「おもしれーじゃねえの」

 とそれに承諾した。そして2人は急降下を初め、地面スレスレの飛行を始めた。デメテルはそれに対して疑問を感じたが、植物による追跡は辞めなかった。二手に別れた2人を、それぞれの植物で追跡する。

 だが突然、彼女は違和感を感じた。それを感じた頃には既に遅かった。二つに分かれた植物が、互いに絡まり合っていたのである。しまった、これでは次の大樹の生成に一手遅れる。反撃を予測したデメテルは、思わず後ろに下がる。しかし、既に遅かった。

「おっしゃあ!!!ぶん投げるぜラファエルぅ!」

 ガブリエルは、ラファエルをブンブンと振り回すと、そのままデメテルに向かって勢いよく投げる。そしてその勢いに任せ、ラファエルは彼女の顔面に拳を叩き込んだ。地面に巨大な穴が空き、穴の底までデメテルは叩きつけられた。

「よっしゃあ!反撃完了!」

 ガブリエルがガッツポーズを取ったその時だった。突如、何かの悪寒を彼は感じ取った。このままだとまずい、と彼は伏せる。その直後だった。凄まじい速度で発射された矢が、彼の右肩を掠めたのだ。危ない、未来予知が無ければ死んでいた。

「これは……!まさか……」

 彼は後ろを見る。そこにいたのは、女神、アルテミスだった。

「金射弓《ゴルド・トクソー》」

 彼女は、自身の神器の名を詠唱すると、彼に向かって一歩、一歩と近づいてくる。

「お姉さんの出番も……もうちょっと作ってくれてもいいんじゃない?」

 そう言うと、アルテミスはニッコリと微笑んだ。それを見たラファエルは、ガブリエルに一旦引くぞ、と告げようとする。だが突然、自身の背後にある穴から伸びた大量の樹木によって、彼の体は絡め取られてしまった。

「くそ……!やっぱりまだ……」

 ラファエルはジタバタと暴れるが、完全に縛り付けられた彼の体は、一向に動いてはくれない。

「2対2……いや、これじゃ2対1か。」

 ガブリエルは苦笑し、そう言葉を漏らした。だがそれに対して、アルテミスは

「いいえ?2対0よ」

 と返す。どういう事だ、とガブリエルが眉を顰めたその時だった。突如、彼の体に途轍もない重りのようなものが覆い被さってきた。これは、なんだ。体が熱い。心臓の鼓動が早過ぎる。何より、息がくるしい。まさか……

「私の矢は疫病をもたらす……少しでも掠ればそれで終わりなの」

 同情するような笑みを浮かべながら、アルテミスは彼に向かって弓を引く。

「残念ですね……このような形での別れになってしまうとは」

 デメテルは、またもや涙を流しながら、ガブリエルの体を縛りつけた。俺は……俺は……薄れていく意識の中、彼は思い出した。それはルシフェルの姿だった。俺は、まだ負けたくない。もっと、強くならなきゃいけないんだ。

「ああああああああああ!!!!!!」

 ガブリエルは、手に持つ双剣で植物を切り裂き、その場に倒れ込む。それによって同様に植物から脱出したラファエルは、ガブリエルの右腕を掴むと、起き上がらせた。ガブリエルに振りかかった疫病に、ラファエルは困惑した。なんて熱。これがアルテミス様の疫病の力。

「どのようにして勝つのです?貴方たち勝算はありません」

 デメテルは、苛立ちを感じつつも、2人に聞いた。

「勝つとか勝たないとかじゃねえ……やる事はもう、達成してんだよ」

 ガブリエルは、遠方にあるものたちを見ながら、力のない声で答える。まさか、と2人はその方向を見た。そこにいたのは、カンダタとアテナだった。まさか、まさか……

「時間稼ぎですね!」

 デメテルは顔を顰める。

「あっちゃあ……やられたか」

 アルテミスは、気さくな態度でそう言うと、遠方の2人に対して弓を引く。だが、発射された矢は、その間に割って入ったラファエルによって止められた。

「ぐぅ……!」

 降りかかった疫病に、思わず彼は膝をつく。だが、それでも立ち上がった。

「まだ……倒れちゃいけない。倒れるわけには行かないんだ……!」

「その通りだぜ、ラファエル。いっちょ粘って行こうやぁ!」

 ラファエルとガブリエルはヨロヨロと立ち上がると、2人の神へと立ち向かって行った。

 ……………………………………………
「カンダタさん……!来たんですね!」

 マカは、到着したカンダタ達に駆け寄る。カンダタは

「おう……そんで、あそこの扉に神器を読み取らせりゃあ良いんだな?」

 とマカに聞く。彼女はコクリと頷くと、

「ここは私が切り開きます!お二人は温存していてください!」

 と自身の剣を構えた。その前に立ちはだかったヘラは、悍ましい表情で彼女を睨みつける。

「貴方程度が……私を出し抜けると?」

「マカ、あなた1人じゃどうにもならない。私も……」

 凄まじい量の神性を放つヘラを前に、アテナは盾を構える。だが、マカは首を横に振り

「温存してくださいって言ったでしょう?大丈夫です、私ならできます!さあ……掴まってください!」

 マカはそう言うと、カンダタとアテナの2人に両手を差し出す。2人はそれを掴む。その瞬間、勢いよく彼女は前に飛び出し、塔の前に立ちはだかるヘラに向かっていく。

「私は最高女神よ?その程度で……捉え切れると思ったか!!」

 ヘラは雄叫びをあげるようにそう言うと、マカを地面に強く叩きつけた。

「マカさん!」

 そのまま地面を転がったカンダタは、マカが倒れているのを確認すると、彼女に駆け寄ろうとする。だが、それをアテナは引き留めた。

「犠牲を無駄にしちゃダメ!行くわよ!」

「行かせるか!」

 ヘラは怒りに満ちた表情で、王笏を取り出した。本来戦いになど使用する事はない、彼女の神器。そこから、凄まじい神性が放たれた。人の生命を司る力。触れたものは、即死する。そのまま彼女の力は、2人に触れる……事はなかった。

 そこにいた筈の2人は、そこにいなかったのだ。まさか……ヘラは、その場に倒れるマカの方を向く。彼女はニヤリと笑い、独り言のように

「良かった……私の能力は神にも通じるらしい」

 と言った。ヘラの神性から逃れたアテナは、自身の盾を扉に読み取らせる。扉はゴゴゴゴ……という音と共に開く。カンダタとアテナの2人は、そこに空いた隙間に入っていく。

「逃すかぁ!!!」

 ヘラは、怒号をあげながら扉に向かって突進する。だが、その前に立ちはだかったマカによって、それは阻止されてしまった。彼女の突進を受けたマカは、そのまま塔の壁に叩きつけられ、その場に倒れた。そして、そのまま扉は閉められてしまった。

「この……このぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 この扉は、一度閉まったら暫くの間開くことはできない。つまり、自分は詰んだのだ。ヘラは、既に動くことのないマカに向かって拳を振り下ろした。だが、その攻撃は、何者かによって阻止される。

「……?!」

 それは、紛れもない羽山額だった。

「さて……君の相手は僕だ。オリンポスの神々を3人も倒す羽目になるとは思わなかったよ」

 冗談めいた口調で、額は言う。

「ふざけんじゃないわよ、この羽虫が!」

 目に血管を浮かばせながら、ヘラは構えを取った。

 ……………………………………………
 扉の中に転がり込んだ2人は、辺りをキョロキョロを見渡す。中は、巨大な螺旋階段で形成されていた。

「ここの構造は変わってないみたいね……よし、行くわよ」

 アテナは、カンダタに向かって言う。彼はコクリと頷くと、彼女の後ろについていく。だが、その時だった。

「よーよーよーよーよー!!!!よーく来たな、お前ら!」

 螺旋階段を、サングラスをかけたアロハシャツの男が、ゆっくりと降りてきた。この声は、まさか……アテナは思い出した。そうだ、あの中にもいなかった。私にとっても因縁の相手それは……

「ポセイドン!」

 その名を呼ばれ、男はニヤリと笑うと

「よお、アテナ。相変わらずだな。」

 と言った。
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