地獄の道の罪人ども

酸性元素

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天界決戦編

喜怒哀楽

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 無数の矢が飛び、血飛沫が上がる。だが、その赤血はウリエルのものでは無かった。それは、咄嗟に彼を庇ったマカのものだった。

「マカ……さん。」

 彼女の全身から、さらに血飛沫が上がる。彼女は優しい笑みを浮かべると、その場にバタリと倒れ込んだ。

「あら……まだ動けるだけの気力があったのね。でも滑稽だわ。ま、堕天使ごときがよく頑張ったわね。」

 アフロディーテはそう言うと、目の前に倒れるマカを嘲笑する。その状態を、ウリエルは呆然と眺めていた。既に、マカの体に生気は籠っていない。私は……私は彼女を死なせてしまった。私のせいで、また誰かが犠牲になった。私のせいで……

 混乱し続ける彼を無視して、アフロディーテは再び弓矢を生成する。

「今度こそ、さようなら。」

 悍ましい笑みを浮かべ、彼女は矢を発射した。私は……ウリエルは、自身の過去を回想した。


 私の仕事は、地獄の罪人を炎で焼き払う仕事だった。そこになんの意味も見出さず、ただ、その作業を繰り返すのみ。期待も夢も持ってはいなかった。要するに、私におおよそ人らしい感情は無かったのだ。だが、ある日のことだった。道端で、とある天使を見つけた。アイリス、と名乗る少女だった。ボロボロの服を着て、痩せ細った体を縮こまらせている。彼女は、生気のないその瞳で、こちらを恨めしそうに見ていた。天使なのに性別があるとは、珍しい。特殊な生まれなのだろう。その程度の興味を抱いたのが、始まりだった。

 私は、そんな興味から彼女を育てた。そこからだった。私の中に、感情らしきものが生まれたのは。彼女だけが、私に光を与えてくれたのだ。だが、もう彼女はいない。何処にもいないのだ。これが失うと言うこと。今まで他者から失わせてきた自分が初めて味わった喪失感だった。

 アテナが涙を流した時、私も同様に涙を流した。その意味を、無碍《むげ》にしたくない。私は……私は……!!

「ああああああああああああああ!!!」

 ウリエルは雄叫びをあげ、襲い来る矢の大群を弾き飛ばした。彼女の剣に炎は無い。光り輝く剣が、そこにあった。

「まさか……貴方……固有神器を……!」

 アフロディーテは驚愕した。天使には持ち得ない程の神性が、その剣には纏われていたのだ。

「神器解放・熾天剣《エデン》!」

 眩い光と共に、彼の手から剣が振り下ろされる。アフロディーテは咄嗟に避ける。そこから放たれた斬撃は、彼女の右肩に傷をつけた。

「ギャァァァァァ!!痛い……痛いいいいい……」

 初めて感じた痛みに、アフロディーテは悶える。ウリエルは、自身の後ろで横たわるマカを治療した。目を覚ました彼女は、ゆっくりと起き上がる。

「ミカエル……さん……」

「マカさん……無事ですか?私に合わせてください。2人で彼女を倒しましょう。」

 マカは、ウリエルのまっすぐな目つきを見て、困惑を止まる。そして立ち上がると、自身の剣に瘴気を込め、巨大化させた。

「ふざけんじゃないわよ……天使ごときがぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 アフロディーテは激昂すると、10000を超える量の弓矢を生成する。どうしてだろう、今は負ける気がしない。ウリエルは、和やかな笑みを浮かべると、マカと共に動き始めた。
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