地獄の道の罪人ども

酸性元素

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天上編

裏の世界の内側へ

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「彼女、今回でとても落ち込んでいる見たいで……」

 ウリエルは、どこか悲しげな表情で言う。そうだ、確かに彼女は帰路の中で一言も喋らなかった。それに、何か理由でもあるのだろうか。2人は、ウリエルの話に耳を傾けた。彼はそのまま話を続ける。

「彼女は、ね……私が拾ったんです。天使の中にも格差が存在するものですから。これ、みてください。」

 彼は、一つの写真を取り出した。そこには、暴行を受け、ボロボロの姿になった少女の姿があった。その痛ましい構図に、思わず2人は顔を顰める。

「私に拾われた直後の彼女です。この写真は、一度検査をしようとなった時のものです。……アテナ様、天使についてどう思いますか?」

 突然投げられた質問にアテナは困惑しつつも、慎重に答える。

「完璧な存在……と前なら思ってたわ。でも、そうじゃない事を最近知った。」

 ディガエル。少なくとも、あの天使はその限りではなかった。下の階級のものに対して無関心を貫いてきたアテナにとって、それは深い傷として胸にこべりついていた。

「そうです。天使は、神の知らないところで悪行を重ねてきた。……この独裁体制になって尚更それは加速した。天使による暴行事件は10倍になり、それによる被害者が毎日後を経たなくなった。それでも政府はそれを放置している。アイリスさん……彼女は、目の前で天使達に親を殺された。」

「……!」

 2人は、その事実を前にして絶句した。天使に、親を?あり得ない。堕天使でもないものに、殺されたと言うのか?アテナは困惑する一方だった。ウリエルは話を続ける。

「きっかけは、彼女の両親の血筋でした。彼女の血筋は天使の中でも特別……ですが、故に迫害される。そのいざこざが、最終的に両親の殺害にまで至ってしまった。」

 あり得ない、そんな事。天使の中の迫害は密かに聞く。だが、それで……

「それで事実死んだのですよ、アテナ様。人も天使も、そして神も変わらない。些細なことで殺し合う。貴方もそんなご経験があるのでしょう?」

 アテナはハッと気がついた。そうだ、ディガエルと言う天使。彼とは面識がなかった。だが、それでも彼は私に明確な殺意を向けた。そこに何があったかはわからないが、それでも……。

「貴方も、そしてオリンポスの神々も、過去にあまりに気まぐれに人を殺してきた。天界では命が軽すぎるんだ。」

 ウリエルは、不満をこぼすように言う。アテナは、過去の自分の暴虐を思い出した。大昔、自分が蛇の怪物に変えた女。そして、些細なことで殺してきた人間たち……他のオリンポス12神も同様だ。今ならわかる。自身の愚かさが。

「……私は、こんな天界を変えていきたいと思っています。彼女がああやって少しのことにも責任を感じてしまうのは、両親を守れなかった悲しさから。そんな悲劇を産まないためにも、私は……」

 ウリエルは、悲しげな表情で言う。そうか、こいつにもこいつなりの信念と言うものがあるのか。カンダタはため息を一度つくと、

「よし、アンタの野望はわかった。大した革命心だよ。……だから改めてよろしく頼むぜ、大天使サマ。」

 と言ってウリエルに右手を差し出す。彼はいつもの笑顔に戻ると、その手を無言で握り返した。アテナもそれに続くように、2人の手を握る。

「わ、私も入れなさい。……仲間外れは嫌よ。」

 それを目にした2人は、プッと吹き出し、笑い始めた。

「な、何よ!何がおかしいのよ!」

 アテナは、腕をブンブンと縦に振ると、赤面して頬を膨らませた。

「……」

 その一連の会話を、アイリスは陰から聞いていた。自身の上司が、自分にそんな思いを待ってくれていたとは思いもしなかった。でも、私は……私は本当は……

 彼女はその場に蹲ると、一人で息を殺し、啜り泣いた。

 次の日の朝、カンダタ達は叩き起こされ、ウリエルの元へと召集された。しまった、二日酔いだ。頭がガンガンと痛む。頭を抑えるカンダタ達に、にこやかな笑顔でウリエルは言う。


「さて……皆さん。今日から訓練です!はっきり言って、皆さんでは叶いませんからね!はい、返事はー?」

「あ、アイアイサ~……」

 ヘロヘロとした声で、その場にいる一同は答える。この状況で襲撃でもされれば、間違いなく全滅だろう。

「じゃあ、まずは四大天使直伝・『100連組み手』です!はいはい並んで並んで~……」

 ウリエルは、適当にペアを作ると、カンダタ達を横一列に並ばせる。そして、彼らの前に天使達が同様に整列した。

「さて……知らない方もいますので説明を。……100回ローテーションして戦う。以上!」

「説明になってないんですけどぉ?!」

 納言がウリエルに突っ込みを入れる。確かにその通りだ。いきなり戦えと言われたところで……

「はい、初めぇ!!」

 いきなり組み手は開始された。対応する暇もなく、カンダタ達に天使は飛びかかる。カンダタの腰に、天使が掴み掛かった。まずい、このままじゃひっくり返される。

「カンダタ頑張ってー。」

 どう言うわけか、アテナはパンをかじりながらその様子を観戦しているではいか。この野郎、お前もやれってんだよ。と思わずカンダタは怒号を浴びせそうになる。

「へっへっへ……今日の昼飯を賭けてるんだ……大人しくやられてくれや……」

 天使はニヤリと笑うと、カンダタをそのまま持ち上げようと、腰を掴んだ。だが、その程度でやられるほど、彼はヤワではない。

「人で勝手に賭け事すんなや!!」

 カンダタは踏みとどまると、逆に天使の体を持ち上げ、勢いよく投げ飛ばした。オオオオオオ、と周囲から歓声が上がる。カンダタは周囲を見る。すると、納言を除いた全員が、天使を相手に一本取っていた。

「はい、終了!」

 ピピー、と笛を鳴らし、ウリエルは組み手の終了を告げる。

「はあ……はあ……よし……これで……」

 カンダタは達成感を味わい、空を見る。正確には地下なので空などありはしないが。だが、そんな彼らに対して、容赦なくローテーションは回る。

「お、おいおい……疲れてるところを襲うなんて男じゃないぜ?」

 右手を前に突き出して抵抗の意を示す美琴に対して、容赦なく天使は襲いかかった。

「ギャァァァァ!!」

 彼はバタリと倒される。

「あーもう!こうなったら100本取ってやるんだから!!」

 やけになったのか、マカは勢いよく天使を投げ飛ばした。

「無理、逃げる。」

「行かせねえよ?」

 その場から逃げようとする馬頭を、牛頭は引き留めた。

「……」

 納言は既に体力の限界を迎えたのか、その場に倒れたまま動かない。対するカンダタは……

「このままぶん殴って戦闘不能にすりゃ終わりじゃあああああ!!」

 容赦なく天使の顔面を殴り飛ばしていた。最近やったぷ◯ぷよとか言うゲームと同じ。消せば解決だ。この馬鹿げた組み手もパズルゲームと同じだと考えればいい。

「あ、ちなみに気絶させた人は最初からやり直しでーす。」

 だが、そんな彼に対して、ウリエルは無常にも反則を告げた。一瞬にして自身の計画が崩れ去ったことに絶望し、カンダタは膝をついて倒れた。

「畜生……こんな事しにきたんじゃなぁぁぁぁい!!」

 彼は天を仰いで……天と言っても土の天井だが、とにかく天を仰いでそう叫んだ。

 ………………………………………
「はぁ……はぁ……おわったぁ……。」

 数時間後、ようやく組み手が終了し、一同はその場にばたりと倒れ込んだ。

「マジか、いきなりこれを完走したとは……」

 周囲の天使は、その結果に驚いている。どうやら凄いことらしいが、カンダタ達には最早それはどうでも良かった。

「なあ、ウリエルさんや。こんな事、やって意味あるのか?」

 寝転がった状態のまま、カンダタはウリエルに聞く。彼は笑顔で説明を始めた。

「ええ、ありますよ。まず、天使って言うのは神性を常に持っているものです。それに合わせた戦いを当然彼らは持っているわけですから……それに慣れると言う意味では重要です。それと、過度な長時間の運動で身体中に瘴気を行き渡らせて、能力を底上げする効果もあります。」

 思い返せば、天使たちの動きは皆独特だった。変則的と言うか、優雅と言うか。なるほど、とカンダタは心の中で納得する。対するウリエルは、その場に唯一、平然と立っている額に対して視線を向ける。

『あの男……全く疲れていない。瘴気にも一切乱れを感じない。何者?心を読む限り裏切る可能性は無いと思うが……』

 そして彼は、マカに向けて目を凝らす。その体からは、光るオーラ……神性が漏れ出ている。

『彼女は堕天使だが……生まれつきのものと聞いた。出生から堕天しているものは強いと聞くが……潜在している神性は、どう考えても異常だ。彼女も何者なんだ?そして何より……』

 ウリエルは、再びカンダタに視線を戻す。彼からは、とてつもない量の瘴気が出ている。否、周囲の瘴気を吸収している。周りは、その状態に気づいていない。それがあまりにも異常な行為だからだ。かくなる上は……

「カンダタさん、ちょっと私と戦ってみませんか?」

「はあ?!」

 いきなり告げられた提案に、カンダタは思わず顔を顰める。だが、やはりウリエルに強引に手を引かれ、強制的に彼は立たされた。

「ち、ちょっと待てよ……体力がもう限界……」

「大丈夫です。手加減はしますから。」

 ウリエルはそう言うと、自身の腰から剣を引き抜き、詠唱した。

「神器解放。」

 燃え盛る剣を持つウリエルが、カンダタにジリジリと近づいてくる。

「今畜生……燃える剣はお前だけじゃねえんだぞ……なんなら糸も貼れるんだぞ俺は!やるしかねえか。いくぜ、奈蜘蛛!」

 カンダタは、突然の開戦に困惑しつつも、周囲に糸を張り巡らせ、同時に刀を瘴気で燃やした。
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