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本編
良いやつだ
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「わぁあ! いっぱい魚がいる!!」
青白い光でできた魔法の網が、バシャバシャと音を立てている。
その網の中には色んな種類の魚が跳ねていて、俺は声を弾ませた。
緑に囲まれた、流れの緩やかな綺麗な湖。
揺れている水面が太陽に輝き、妖精が出てきそうなくらい幻想的な雰囲気だった。
村長の話を聞いてから、俺が余りにも意気消沈しているのを見かねたクロが、
「湖に魚取りの罠を仕掛けてるから確認に行くぞ」
と、気分転換に連れ出してくれたのだ。
いつも通りのぶっきらぼうな言い方だったけど、気遣ってくれているのがよく分かる。
湖に来るまでに、木にぶつかったり石に躓いたりと散々だった俺に対して、クロは一度も怒ったり嫌味を言ったりしなかったから。
本当はあまり動きたい気分じゃなかったけど、じっと何もしていないのも落ち着かない。
もしかしたらずっとここに住むことになるかもしれないのだから。
気持ちを切り替えるためにも、俺はクロについてきた。
そして単純な俺は、魔法の罠に掛かった魚を見てテンションが爆上がりした。
「これも魔法道具なのか?」
「ああ。ここ、持ってみろ」
クロに言われるままに網の端っこを掴むと、ヒュンッと網が魚ごと縮んでいく。
みるみるうちに、手のひらに乗るくらいの小さな青白い箱になった。
「えー! すごい!」
「これを持って帰って、また大きくしたら村の皆で分けるんだ」
「魔法って便利だな! すんげぇコンパクトになった」
俺の手から魚の箱をとったクロは、腰のベルトに下げた給食袋くらいの大きさの革袋にそれを入れる。
代わりに、中からサンドイッチや果物がチラ見えしている布包みと、木の筒に入った飲み物まで出てきた。
見た目よりも明らかに容量が大きい。
「異空間にでも繋がってるのか?」
「なんだそりゃ。魔法で中の空間が広がってんだよ」
「それも魔法道具かぁ。なんでもありで楽しいな!」
「……ねぇんだな。お前の世界には」
声を低くしたクロが木陰にある岩に移動して腰を下した。
尻尾も耳も垂れていて元気がない。
村長のところでも、俺より感情的になってくれていたのを思い出す。
(良いやつだな)
クロの隣には丁度1人分の空間があったので、俺も岩に座った。
ごつごつしているのでベストポジションを探してもぞもぞしていると、クロの銀の眉が中央に寄る。
「あれは……」
「え? あ!」
クロの目線の先には黒い体に黒い羽、紅い瞳のドラゴンが居た。
手のひらに乗るサイズの小さい方のドラゴンだ。
まさかの再会に、俺は思わず笑って手を振る。
「おーい! ドラゴーン!」
「いや馬鹿かテメェ!」
クロが怒鳴ったと同時に、沢山の木の向こうからゆっくりと親のドラゴンが姿を現した。
俺は思わずクロの腕を掴む。
「お、おっきい方だ……」
「関わるな、目を合わせるな。水でも飲みに来たんだろ……って、なんでこっち来るんだよ!」
子どものドラゴンがパタパタと小さな羽を揺らしながら、草を踏んで俺とクロの方へ走ってくる。
クロが警戒して尻尾の毛を逆立てたけど、親ドラゴンは動くことなく子どもドラゴンを見送っていた。
「大丈夫、だと思う。なんかあの大きいドラゴン、遊んでこいって顔してる気がする」
「どんな顔だよそれは……」
口元を引き攣らせるクロと俺の間に、ドラゴンはちょこんと座った。
「キュー」
そしてクロの膝の上にある昼ごはんを包む布に、顔を寄せて匂いを嗅いでいる。
「もしかして、食べたいんじゃない? ドラゴンってサンドイッチ食べるのか?」
「知るかよ……」
「キュルキュル」
「でも欲しそうだよ」
布の結び目を小さな口で引っ張ってアピールしているドラゴンが可愛らしくて、俺は思わず笑ってしまう。
クロは溜息をついて、中から紫色の果物を取り出した。
朝食べた時はびっくりしたけど、一粒がりんごくらいの大きさのぶどうなんだ。
目の前に巨大ぶどうを置いてもらったドラゴンは、嬉しそうに口を開けた。
親ドラゴンは湖の水を舐めながらチラチラとこちらを伺っている。
怒ってこないということは、この果物はあげて大丈夫なんだろう。
「クロって、やっぱり良いやつだよな」
ドラゴンが果汁を零しながら美味しそうにぶどうにかぶりつくのを見ながら呟くと、クロの目が丸くなる。
「は? どこが」
「ドラゴンにちゃんと果物あげてさ」
「こんだけ強請ってきてたら、なんかやらねぇと仕方ねぇだろ」
「それだけじゃないよ。俺が帰れないかもしれないこと、俺よりも心配してくれてるだろ?」
村に案内してくれたり、魔獣から庇おうとしてくれたり、家に泊めてくれたり。
「俺はクロの優しさに助けられてるって思うよ」
心からそう感じて、クロの顔を真っ直ぐ向いて笑ってみせる。
でも、その直後。
いつも強気そうなクロの顔がくしゃりと歪んでしまった。
「優しい、とかじゃねぇ……」
「ど、どうしたんだ!?」
ただならぬ様子を見て問いかける。
クロは俯いてしまい、食べ物の入った布を持つ手を小刻みに震わせている。
「……から……」
「え?」
喉から絞り出すようなか細い声。
聞き取れなくて、聞き返す。
「オレの、せいだから……」
「クロのせい? なにが?」
「悪かった。こんなつもりじゃなかったんだ」
「え? 分からない、クロ。説明してくれ」
俺はクロの力なく落ちた肩を掴んで、こっちを向かせた。
全く話が読めない。
いったい、何を謝られているんだろう。
泣きそうな色をした青い瞳が、困惑している俺の顔を映した。
「銀狼族が勇者を召喚できる話、しただろ」
「うん」
「俺が、お前を召喚したんだ」
青白い光でできた魔法の網が、バシャバシャと音を立てている。
その網の中には色んな種類の魚が跳ねていて、俺は声を弾ませた。
緑に囲まれた、流れの緩やかな綺麗な湖。
揺れている水面が太陽に輝き、妖精が出てきそうなくらい幻想的な雰囲気だった。
村長の話を聞いてから、俺が余りにも意気消沈しているのを見かねたクロが、
「湖に魚取りの罠を仕掛けてるから確認に行くぞ」
と、気分転換に連れ出してくれたのだ。
いつも通りのぶっきらぼうな言い方だったけど、気遣ってくれているのがよく分かる。
湖に来るまでに、木にぶつかったり石に躓いたりと散々だった俺に対して、クロは一度も怒ったり嫌味を言ったりしなかったから。
本当はあまり動きたい気分じゃなかったけど、じっと何もしていないのも落ち着かない。
もしかしたらずっとここに住むことになるかもしれないのだから。
気持ちを切り替えるためにも、俺はクロについてきた。
そして単純な俺は、魔法の罠に掛かった魚を見てテンションが爆上がりした。
「これも魔法道具なのか?」
「ああ。ここ、持ってみろ」
クロに言われるままに網の端っこを掴むと、ヒュンッと網が魚ごと縮んでいく。
みるみるうちに、手のひらに乗るくらいの小さな青白い箱になった。
「えー! すごい!」
「これを持って帰って、また大きくしたら村の皆で分けるんだ」
「魔法って便利だな! すんげぇコンパクトになった」
俺の手から魚の箱をとったクロは、腰のベルトに下げた給食袋くらいの大きさの革袋にそれを入れる。
代わりに、中からサンドイッチや果物がチラ見えしている布包みと、木の筒に入った飲み物まで出てきた。
見た目よりも明らかに容量が大きい。
「異空間にでも繋がってるのか?」
「なんだそりゃ。魔法で中の空間が広がってんだよ」
「それも魔法道具かぁ。なんでもありで楽しいな!」
「……ねぇんだな。お前の世界には」
声を低くしたクロが木陰にある岩に移動して腰を下した。
尻尾も耳も垂れていて元気がない。
村長のところでも、俺より感情的になってくれていたのを思い出す。
(良いやつだな)
クロの隣には丁度1人分の空間があったので、俺も岩に座った。
ごつごつしているのでベストポジションを探してもぞもぞしていると、クロの銀の眉が中央に寄る。
「あれは……」
「え? あ!」
クロの目線の先には黒い体に黒い羽、紅い瞳のドラゴンが居た。
手のひらに乗るサイズの小さい方のドラゴンだ。
まさかの再会に、俺は思わず笑って手を振る。
「おーい! ドラゴーン!」
「いや馬鹿かテメェ!」
クロが怒鳴ったと同時に、沢山の木の向こうからゆっくりと親のドラゴンが姿を現した。
俺は思わずクロの腕を掴む。
「お、おっきい方だ……」
「関わるな、目を合わせるな。水でも飲みに来たんだろ……って、なんでこっち来るんだよ!」
子どものドラゴンがパタパタと小さな羽を揺らしながら、草を踏んで俺とクロの方へ走ってくる。
クロが警戒して尻尾の毛を逆立てたけど、親ドラゴンは動くことなく子どもドラゴンを見送っていた。
「大丈夫、だと思う。なんかあの大きいドラゴン、遊んでこいって顔してる気がする」
「どんな顔だよそれは……」
口元を引き攣らせるクロと俺の間に、ドラゴンはちょこんと座った。
「キュー」
そしてクロの膝の上にある昼ごはんを包む布に、顔を寄せて匂いを嗅いでいる。
「もしかして、食べたいんじゃない? ドラゴンってサンドイッチ食べるのか?」
「知るかよ……」
「キュルキュル」
「でも欲しそうだよ」
布の結び目を小さな口で引っ張ってアピールしているドラゴンが可愛らしくて、俺は思わず笑ってしまう。
クロは溜息をついて、中から紫色の果物を取り出した。
朝食べた時はびっくりしたけど、一粒がりんごくらいの大きさのぶどうなんだ。
目の前に巨大ぶどうを置いてもらったドラゴンは、嬉しそうに口を開けた。
親ドラゴンは湖の水を舐めながらチラチラとこちらを伺っている。
怒ってこないということは、この果物はあげて大丈夫なんだろう。
「クロって、やっぱり良いやつだよな」
ドラゴンが果汁を零しながら美味しそうにぶどうにかぶりつくのを見ながら呟くと、クロの目が丸くなる。
「は? どこが」
「ドラゴンにちゃんと果物あげてさ」
「こんだけ強請ってきてたら、なんかやらねぇと仕方ねぇだろ」
「それだけじゃないよ。俺が帰れないかもしれないこと、俺よりも心配してくれてるだろ?」
村に案内してくれたり、魔獣から庇おうとしてくれたり、家に泊めてくれたり。
「俺はクロの優しさに助けられてるって思うよ」
心からそう感じて、クロの顔を真っ直ぐ向いて笑ってみせる。
でも、その直後。
いつも強気そうなクロの顔がくしゃりと歪んでしまった。
「優しい、とかじゃねぇ……」
「ど、どうしたんだ!?」
ただならぬ様子を見て問いかける。
クロは俯いてしまい、食べ物の入った布を持つ手を小刻みに震わせている。
「……から……」
「え?」
喉から絞り出すようなか細い声。
聞き取れなくて、聞き返す。
「オレの、せいだから……」
「クロのせい? なにが?」
「悪かった。こんなつもりじゃなかったんだ」
「え? 分からない、クロ。説明してくれ」
俺はクロの力なく落ちた肩を掴んで、こっちを向かせた。
全く話が読めない。
いったい、何を謝られているんだろう。
泣きそうな色をした青い瞳が、困惑している俺の顔を映した。
「銀狼族が勇者を召喚できる話、しただろ」
「うん」
「俺が、お前を召喚したんだ」
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