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本編

夢だから大丈夫!

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 小さなドラゴンは、子猫くらいの大きさだった。

 羽根があるなら飛べそうだから心配ないかとも思ったけど、鳥でも子どもは飛ぶ練習するらしいし。
 ドラゴンも小さい子は飛べないのかもしれない。

 そう思って地面に下ろしてあげた。

「キューキュー!」
「うんうん、どういたしましてー!......って、お礼いってるのかわかんないけどな!」

 狭い額を指先で撫でてやると、意外と柔らかくて、温かみを感じた。

 小さな翼をパタパタと忙しなく動かして、高い声で鳴いている小さなドラゴン。
 心なしか嬉しそうだ。

 先っぽに向けて黒から赤へグラデーションしている小さなツノ、そのそばにある耳。
 体全体は黒い鱗で覆われている。
 やっぱり、大好きな漫画やゲームで見るドラゴンそのものだ。

 さすが俺の夢。
 ここは冒険の世界か何かなんだろう。

「どうしたんだ?」

 小さなドラゴンは俺の足に鼻先を擦り寄せてきた。
 すりすりされるとくすぐったくて足をモジモジさせてしまう。
 すると、

「え!?」

 足元が紅い光に覆われた。

 慌ててドラゴンから離れたけど、キラキラときれいな光は消えない。
 熱くもなく痛くもない。
 そして、10秒くらいで消えていった。

「く、靴!?」

 光が消えると、俺は黒い靴を履いていた。
 いつも履いているスニーカーみたいな黒い靴。
 思わずその場で駆け足してみると、俺の足にピッタリで動きやすかった。

「お前、魔法が使えるのか!ありがとうなー!」

 嬉しくなって手を差し出すと、ちょこんと両手のひらに乗ってくる。
 爪が皮膚に当たったけど、全然痛くなかった。

「裸足は痛かったから助かったー......ん?」

 顔の近くまで持ち上げたところで、俺は動きを止める。
 何か、音が近づいてきている気がする。

 そう思った瞬間、バキバキベキっと物騒な音と共に周囲が暗くなって顔を上げる。

「......ぁ」

 グルォオオオオオオアアアア!!!

 真っ黒で大きな怪物が、俺の頭上の空を覆っていた。

「あーーーー!!!!!!!!!」

 急いでドラゴンを抱きしめて、大声をあげながら地面を蹴って逃げ出した。


 と、いうわけだ。
 それからなんとか逃げ続けていたのだが、ついに俺は転けてしまった。
 一体全体、どういうことなのだろう。

(夢だから大丈夫!夢だから大丈夫!)

 自分に言い聞かせながら小さなドラゴンを庇って丸まる。
 鋭い牙がたくさん生えた巨大な口が開かれて、背筋が凍る。

「いややっぱり夢でも怖いいぃぃぃ!!」

みっともなく半泣きで叫んだその時。

「ドラゴンの子どもから手を放せバカ野郎!!!」

 怒鳴り声と共に、甘い果物のような香りが辺りを満たした。
 弾けるように顔を上げると、怪物が動きを止めている。

 そしてその怪物の足元には、灰色の犬がいた。

「え?い、犬が喋っ......!?」
「聞こえてねぇのか!死にたくなきゃ抱いてるドラゴンを放せってんだよ!!」
「え、あ、はいぃ!!」

 俺はその犬の乱暴な指示に従って、腕を開いた。
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