恋模様

naomikoryo

文字の大きさ
上 下
118 / 120
横山健二①

13:なんだって~?

しおりを挟む
「94番の札をお持ちの方は3番の診察室へお入りください。」

今日も病院の中は慌しく、整形外科も患者さんが多かった。
心なしか普段は土曜日にはあまり見ない年配の方が多かった。
健二は診察室の引き戸のドアを軽くノックし数秒待ってみた。
が、やはり今日もドアがスライドすることはなさそうだった。
「お願いします・・・」
自分でスライドさせながら診察室に入った。
「こんにちは。・・・なんか疲れてそうね?」
がっかりしている健二の顔を見るなり、女医さんが言った。
「えぇ・・・まぁ。」
と言いながら女医さんの後ろに立っている看護婦さんを見て、また少しため息をついた。
勿論、気付かれないようにだ。

「だいぶリハビリの様子も良さそうだけど、出来れば激しい運動はもう少し我慢したほうが良いと思うわね。」
「そうですか・・・」
「今無理をしてもね。」
「はい・・・」
「もう大きな大会も終わったのでしょう?」
「はい・・・でも、屋内なので冬にもあるんですよ。」
「そう・・・」
女医さんはカルテとレントゲンを見ながら話している。
でも健二は今日も心ここにあらず状態だった。
あの体育館以来、このみがこの病院にいないため会えないでいるのだ。
勿論連絡先も分からないまま。
女医さんは更にレントゲンを眺めながら、ちらっと健二を見た。
よほどかわいそうに思ったのだろう、
「ただ・・・今日のレントゲンの様子では・・・う~ん・・・・・そうねぇ・・・・・そろそろ部活動に顔を出すくらいなら・・・良いとも思うわ。」
「そうなんですか!」

健二は思いがけない言葉に、ちょっと戸惑いながらも女医さんを一気に見つめて言った。
「やっぱり辛かったのね。」
女医さんはにっこり笑って言った。
(違うんです・・・)
「若いから治りも早いけど、急激に動いてはだめよ。・・・あくまでもリハビリ程度でね。」
「はい。」
(え~と・・・・・何か折角だから・・・・・聞いちゃえ!!)
ちょっとした気分の高揚に便乗して、聞いてみる事にした。

「あの・・・・・」
「何でしょう?」
女医さんは次の言葉を待ったが、何故か健二は俯いて一人でぶつぶつ呟いている。
「??」
(とは言っても・・・やっぱりおかしいよなぁ?・・・・・)
「??」
(ええ~い!!)
「あの~?」
「はい?」
「とりあえず、わかりました。」
「そ、そう・・・良かったわ。」
少し構えていた女医さんの気がほぐれたのを見計らって、
「あっ、そういえば。」
何故か棒読みの台詞みたいな話方になりながら、
「最近、このみさんはお手伝いに来ないんですか?」
「あぁ~・・・・このみね。・・・・・あの子は・・・」
女医さんは健二のカルテをファイルに戻しながら後ろを向いて、それを看護婦に渡した。
「ど、どうかしたんですか?」
何かあったのかと健二は思ってしまった。
すると振り返った瞬間に少し笑いながら言った。
「何だか、気になる相手に会いたくて書店でバイトを始めたのよ!!」
「はっ?」
(な、なに~!!)
放心状態の健二をそっちのけで女医さんは話した。

「全く若いって良いわね。
私も思えばガンガン行くタイプだけど、このみもとはねぇ・・・
とは言っても、何だか女子高の先輩の書店で、ほら、メガマートの所にある書店よ。
父親がこの病院以外でバイトなんか駄目だって息巻いていたけど、可愛い子には色々経験も大切よね。
それで、とりあえず私が後押しして働かせてみることにしたの。
あ、そうそう・・・・しばらく前までは健二君のことやたら聞いてきたことがあったから気があるかと思ってたんだけど・・・どうやら違ったのかしらねぇ。」
「はぁ・・・」
途中から健二はボーっとしたまま立ち上がっていた。
「じゃあ、ありがとうございました。」
軽くお辞儀をして立ち去ろうとする健二に、
「あっ、これ、受付に出してね。」
と女医さんは会計用のファイルを渡した。

診察室を出た健二は、部活に顔を出せる喜びと、このみに好きな人が出来たようだという悲しみで胸の中はぐちゃぐちゃだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

これ以上ヤったら●っちゃう!

ヘロディア
恋愛
彼氏が変態である主人公。 いつも自分の部屋に呼んで戯れていたが、とうとう彼の部屋に呼ばれてしまい…

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

処理中です...