恋模様

naomikoryo

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木下このみ③

13:胃袋を掴む?

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1月6日金曜日午前8時

一晩中降り続いた雪が木下家の敷地を埋め尽くしていた。
麗香は居間でテレビをつけ、ゆっくりと煎れたばかりのアールグレイを飲んでいた。
ニュースでは55年振りの記録的な大雪だと騒いでいた。
都内でも朝からあらゆる交通機関がマヒし、軒並み臨時休業する店が相次いでいるようだ。
「やっぱり、若い男の子を掴むとすれば・・・・・・・体か胃袋ね・・・・・」
そっと呟いた。

お嬢様育ちだった麗香も、実のところ学生時代は自分でお弁当を作らされていたことで、案外料理は上手だった。
最近は産休という事もありお手伝いさんに任せているが、そうじゃない時は夕食は麗香が作っていた。
このみにも覚えさせようと考えていたのだが、何しろあの過保護な父親がそれを良しと思わなかった。
「でも・・・・・・ちょうどいいかもしれない!」

(おそらくこのみの相談は彼を惹きつける方法だろうから、お弁当はうってつけね)
そして、やはり自分もこのみの父である幸雄に、懸命に弁当を作って渡していた。
病院という事もあり、手軽にちょっと食事がとれるサンドイッチが主だったが、分かりやすくハートのチーズを表面に付けたりした。
それと、チラリズムを駆使して自分への関心を増幅させた。
「あの人はちょろかったわね・・・・・・」
少し思い出しながら麗香はつい呟いた。


午前9時
「おはようございます。」
洗面で顔を洗い朝シャワーをしてすっきりとしたこのみが居間に入ってきた。
麗香が、
「女の子たる者、朝起きたらすぐにさっぱりしなくちゃダメなのよ!!」
と、自分も勿論のこと、このみにも実践させているのだ。
「おはよう。今日はアルバイトは休みなんでしょう?こんな雪だし・・・・・」
「確か、午後の1時ごろに連絡が入ります。午前中はないとは言っていました。」
「そう。」
「でも・・・・・車が走れなければどうしようもないですね。」
「あぁ、それは大丈夫よ!ついさっき、玄さんが来て、もうお嬢様をどちらへお送りするのも大丈夫です、っていつもの調子で言っていたわ。」
「そうですか!」
「まぁ彼の事だから、きっと暗いうちから行動していたと思うわ。」

そう、玄は朝5時前から敷地内の雪掻きを始め、すでに木下家とその隣接道路についてはほぼ雪は無くなっていた。
しかも!!
所々に高さが1mぐらいの雪だるまを置き、手には交通安全の旗を持たせていた。
勿論、歩行者の妨げにならないよう配慮もされていた。
これは、このみが小学生の頃から始まったことだが、今回の大雪のようではないため普通なら雪だるまも5,6個だったが今日は20個近くになっていた。
8時前ぐらいに終わった玄は、家でシャワーを済ませ、すっきりとしてから報告に来たのだ。

このみは冷蔵庫からヨーグルトを取り出すと麗香の横に座った。
「どうだったの、彼は?」
麗香はこのみを覚えていたのか、という事を聞くつもりだったが、
「えぇ、やっぱり素敵な人・・・・・・でも・・・・・・・」
「でも?」
「なんか・・・・・・・陽子先輩と仲良さそう・・・・・・・・」
「ふ~ん。」
「恋人同士って感じではないけど・・・・・・・・・」
「女の直感ね。」
「女の直感?」
「そう!女ってのは好きな男の人の事は、なんか分かってしまうことがあるのよ。・・・・・・・勿論、みんながそうじゃないけど・・・・・・」
「そうですか・・・・・・」
「大丈夫よ!!そんなの気にしたってしょうがないんだから。」
「えぇ・・・・・」
「このみは、このみの良い所を前面に出して、見てもらうだけよ!」
「そうですね。」
「ただし!!!」
「??」
麗香はこのみの両肩を掴み、
「先に好きと言っては駄目よ!」
「えっ?」
「恋愛なんてものは、先に言った方が負けよ!すぐにイニシアチブを取られてしまうわ!」
「イニシアチブ?」
「主導権ってことよ!!」
今度はドンっとソファーに深く腰掛けて、
「男ってものは、自分が優勢だと思うと、あれやこれやと要求してくるようになるのよ!!」
「お父様も?」
「勿論、違うわよ!!・・・・・・見ててわかるでしょう?」
「はい!」
「確かに最初から私が粉を撒き散らしたんだけど、猛烈にね!」
ウフ、っと麗香はほくそ笑んだ。
「粉?ですか・・・・・」
「まぁ、あまり良い言葉ではないけど・・・・・・・そうね・・・・・・・・やはり、何かしらのきっかけよ!」
「きっかけ・・・・・・」
「た~だ、好きですオーラ出してたって、鈍い男は気が付かないんだから・・・・・・・・そうねぇ・・・・・・」
麗香は考え込んで、そして思い出したようにパッと見開き、
「そうそう、お弁当よ!!」
「お弁当ですか?」
「賄いは出るって言ってたけど、そうじゃなくて、やはりこのみの味付けの食事の虜にするのよ!」
「虜ですか?」
「胃袋を掴むってこと!!」
麗香は何かをぐっと掴むジェスチャーをした。
「まぁ、いきなり作っていってもおかしいから、そうなるように会話はしなければ駄目ね。」
「う~ん・・・・・・・・分かりました。頑張ってみます!」
「そうそう!」
「でも料理と言っても・・・・・・」
「そんなのはこれからどんどん覚えればいいのよ!!場合によっては、シェフでも呼んでしまえばいいんだから。」
「シェフ??」
「この前みんなで行ったフレンチのお店でね、ケータリングサービスをしているみたいでね。」
うんうんとこのみは聞いている。
「このみがすごくおいしかった、って感動していたから、今度週末にでもケータリングで呼びましょう、って話をしていたの。」
「そうですか!!あそこおいしかったです。」
「でしょ?普通の料理は私がいくらでも教えてあげるけど、まずは食べたことのない料理で気を引いておくのよ!!それに一流の食材で!!」
「でも・・・・・・」
「大丈夫!!若い頃は多少目が聞かなくても、よっぽどじゃなければ気に入るはずよ!!」
「そうですか?」
「まぁ、やってみましょう!!」
「はい。」
「勿論、私もついでに覚えるつもりだったし!!」
「はい、ありがとう。」

結局、午後に陽子から電話が来て、今日は書店は休みという事になった。
ただ、明日は開店できるようにしておくから朝シフトのままで頼まれた。
せっかくなので、夕食は麗香に教わりながら一緒に作ることとなった。
多少の失敗はあったものの、病院から帰って来た幸雄が感激して涙を流しながら食べたのは言うまでもないが・・・
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