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17.新たな誓いの日
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あれから一年が経ち、季節は再び夏を迎えようとしていた。
島の夏祭りが明日から始まるという前日、島中はどこかそわそわとした空気に包まれていた。
普段は静かな通りも、準備をする人々の声や笑い声が響き、子供たちのはしゃぐ声があちらこちらから聞こえてくる。
そんな賑やかな空気の中、小雪の家でもいつになく活気に満ちた朝を迎えていた。
今日は、小雪と悠太の結婚式の日だった。
祠での花火の夜から一年。
二人は悩みながらも互いに歩み寄り、ついにこの日を迎えることができたのだ。
「小雪さん、これをどうするんだっけ?」
悠太が声をかけながら、手にした結婚式用の飾りを見つめていた。
彼の顔には少し緊張の色が見えている。
小雪は着物の帯を整えながら、微笑んで答えた。
「それはテーブルの上に置くの。
ほら、花束の横に飾るとバランスが良くなるわ。」
「なるほど、分かった!」
悠太は頷き、言われた通りにテーブルの上に飾りを置いた。
緊張しながらも、どこか嬉しそうな表情を浮かべている彼の姿に、小雪は微笑を深めた。
「なんだか不思議な気持ちだね。
こうして二人で結婚式の準備をしているなんて、夢みたいだ」
と悠太は照れ笑いを浮かべながら言った。
「そうね。
まるで昨日のことのように感じるわ、あの夜のことが…」
小雪はそっと手を伸ばし、悠太の手を握りしめた。
「でも、こうしてあなたと一緒にいられることが、私にとって何よりも幸せ。」
「僕もだよ、小雪さん。」
悠太は彼女の手をしっかりと握り返し、真剣な眼差しで彼女を見つめた。
「どんな困難があっても、僕は君のそばにいる。
君を守り続けることを誓うよ。」
小雪はその言葉に目を閉じ、小さく頷いた。
「私も、あなたと一緒にいることを選んだの。
どんな未来が待っていても、あなたと一緒なら怖くないわ。」
彼女の言葉に、悠太は胸が熱くなるのを感じた。
小雪の未来が長くないかもしれないということを知りながらも、彼はそれを受け入れ、彼女と共に歩むことを決めた。
二人の心は固く結ばれていた。
「でも、悠太さんにひとつだけお願いがあるの。」
小雪は少し照れくさそうに言った。
「何でも言って。
僕にできることなら、どんなことでも約束するよ。」
悠太は真剣な顔で答えた。
「もし、私が先にいなくなっても、どうかその後も幸せでいてほしいの。
新しい未来を築いて、また誰かを愛して、そして…」
小雪の声は徐々に震えを帯び、言葉が途切れそうになる。
「そして、笑顔でいてほしいの。」
悠太はその言葉に一瞬戸惑ったが、すぐに彼女の手を優しく包み込んだ。
「またそれか…
そんなこと、約束できないよ。
君以上に大切な人なんて、僕にはいないから。」
「悠太さん…」
小雪は涙を浮かべながら、彼の言葉を聞いた。
「でも、君がそう願うなら、僕は君の望む未来を生きてみせるよ。」
悠太は深い息をついて、彼女の瞳をじっと見つめた。
「君の笑顔が、僕の心にずっと残るように。
君の願いを胸に刻んで、僕は君の分まで生きる。」
小雪はその言葉に小さく頷き、静かに涙を拭った。
「ありがとう、悠太さん。
私、あなたと結婚できて本当に幸せ。」
二人は互いに微笑み合い、静かに唇を重ねた。
これからの未来を、どんなに短くても、二人で歩んでいくことを誓い合った。
その時、玄関から軽やかなノックの音が聞こえた。
「おはよう、おふたりさん!準備はできまして?」
「麗華さん!」
小雪は嬉しそうに顔を上げ、急いで玄関に向かった。
ドアを開けると、そこには麗華が満面の笑みを浮かべて立っていた。
彼女は鮮やかな和服を身にまとい、まるで花のように華やかだった。
「わあ、小雪さん!
とっても綺麗!」
「ありがとうございます。
麗華さんも素敵です。」
小雪は照れくさそうに笑いながら麗華を迎え入れた。
「ありがとう、でも今日は主役の二人にかなわないわ。」
麗華は微笑みながら二人を見つめた。
「悠太君、準備は万端かしら?」
「おかげさまで、なんとか…」
悠太は少し恥ずかしそうに答えた。
「それならよかった。
私も今日の二人の晴れ姿を見られるのが本当に嬉しいのよ。」
麗華は二人を見つめ、心からの笑顔を浮かべた。
「小雪さん、悠太君、二人がこうして一緒になれて本当によかった。」
「麗華さん、ありがとうございます。
あなたがいてくれたから、私たちはここまで来られたんです。」
小雪は麗華の手を握り、感謝の気持ちを込めて言った。
「そんな…私は何もしていなくてよ…いないわ。」
麗華の口調はこの1年の間にだいぶ砕けてはきたものの、やはり時々お嬢様言葉が出るのだった。
麗華は少し照れくさそうに言いながらも、二人の絆の深さを感じて心から嬉しく思っていた。
「でも、これからもずっと二人のことを見守っていくからね。」
「ありがとう、麗華さん。」
麗華はいつの間にか役場で働き始めていた。
島中のお年寄りはすっかり麗華に心を奪われ、毎朝役場が開く前に麗華と話したいためだけの行列が出来ている。
【高齢者ケア課】という部署が出来て、その課長なのだ。
悠太も感謝の言葉を口にした。
「これからも、僕たちのことをよろしくお願いします。」
「もちろん!」
麗華は頷き、軽やかに笑った。
「さあ、そろそろ時間ね。
みんなが待っているわよ。」
三人は笑顔で家を出て、結婚式の会場へと向かった。
穏やかな風が彼らの頬を撫で、どこか優しい雰囲気が漂っていた。
島の小さな神社で行われる結婚式は、まさに彼らにとって特別な場所での新たなスタートとなるのだ。
これからの未来がどうなるかは分からない。
それでも、二人は互いに支え合い、どんな困難も乗り越えていくことを誓っていた。
小雪の家で過ごした日々、共に笑い、時に涙を流した思い出が、二人の心の中で輝いている。
結婚式の鐘の音が島中に響き渡り、悠太と小雪は新たな誓いを胸に抱きながら、そっと手を繋いだ。
麗華はそんな二人を優しく見守りながら、彼らの幸せを心から願っていた。
「お幸せにね、
悠太君、小雪さん…」
麗華は小さな声で呟き、微笑みながら二人がバージン・ロードを歩く背中を見送った。
島の夏が、彼らの新たな未来を祝福するかのように、暖かな光で包み込んでいた。
The END
島の夏祭りが明日から始まるという前日、島中はどこかそわそわとした空気に包まれていた。
普段は静かな通りも、準備をする人々の声や笑い声が響き、子供たちのはしゃぐ声があちらこちらから聞こえてくる。
そんな賑やかな空気の中、小雪の家でもいつになく活気に満ちた朝を迎えていた。
今日は、小雪と悠太の結婚式の日だった。
祠での花火の夜から一年。
二人は悩みながらも互いに歩み寄り、ついにこの日を迎えることができたのだ。
「小雪さん、これをどうするんだっけ?」
悠太が声をかけながら、手にした結婚式用の飾りを見つめていた。
彼の顔には少し緊張の色が見えている。
小雪は着物の帯を整えながら、微笑んで答えた。
「それはテーブルの上に置くの。
ほら、花束の横に飾るとバランスが良くなるわ。」
「なるほど、分かった!」
悠太は頷き、言われた通りにテーブルの上に飾りを置いた。
緊張しながらも、どこか嬉しそうな表情を浮かべている彼の姿に、小雪は微笑を深めた。
「なんだか不思議な気持ちだね。
こうして二人で結婚式の準備をしているなんて、夢みたいだ」
と悠太は照れ笑いを浮かべながら言った。
「そうね。
まるで昨日のことのように感じるわ、あの夜のことが…」
小雪はそっと手を伸ばし、悠太の手を握りしめた。
「でも、こうしてあなたと一緒にいられることが、私にとって何よりも幸せ。」
「僕もだよ、小雪さん。」
悠太は彼女の手をしっかりと握り返し、真剣な眼差しで彼女を見つめた。
「どんな困難があっても、僕は君のそばにいる。
君を守り続けることを誓うよ。」
小雪はその言葉に目を閉じ、小さく頷いた。
「私も、あなたと一緒にいることを選んだの。
どんな未来が待っていても、あなたと一緒なら怖くないわ。」
彼女の言葉に、悠太は胸が熱くなるのを感じた。
小雪の未来が長くないかもしれないということを知りながらも、彼はそれを受け入れ、彼女と共に歩むことを決めた。
二人の心は固く結ばれていた。
「でも、悠太さんにひとつだけお願いがあるの。」
小雪は少し照れくさそうに言った。
「何でも言って。
僕にできることなら、どんなことでも約束するよ。」
悠太は真剣な顔で答えた。
「もし、私が先にいなくなっても、どうかその後も幸せでいてほしいの。
新しい未来を築いて、また誰かを愛して、そして…」
小雪の声は徐々に震えを帯び、言葉が途切れそうになる。
「そして、笑顔でいてほしいの。」
悠太はその言葉に一瞬戸惑ったが、すぐに彼女の手を優しく包み込んだ。
「またそれか…
そんなこと、約束できないよ。
君以上に大切な人なんて、僕にはいないから。」
「悠太さん…」
小雪は涙を浮かべながら、彼の言葉を聞いた。
「でも、君がそう願うなら、僕は君の望む未来を生きてみせるよ。」
悠太は深い息をついて、彼女の瞳をじっと見つめた。
「君の笑顔が、僕の心にずっと残るように。
君の願いを胸に刻んで、僕は君の分まで生きる。」
小雪はその言葉に小さく頷き、静かに涙を拭った。
「ありがとう、悠太さん。
私、あなたと結婚できて本当に幸せ。」
二人は互いに微笑み合い、静かに唇を重ねた。
これからの未来を、どんなに短くても、二人で歩んでいくことを誓い合った。
その時、玄関から軽やかなノックの音が聞こえた。
「おはよう、おふたりさん!準備はできまして?」
「麗華さん!」
小雪は嬉しそうに顔を上げ、急いで玄関に向かった。
ドアを開けると、そこには麗華が満面の笑みを浮かべて立っていた。
彼女は鮮やかな和服を身にまとい、まるで花のように華やかだった。
「わあ、小雪さん!
とっても綺麗!」
「ありがとうございます。
麗華さんも素敵です。」
小雪は照れくさそうに笑いながら麗華を迎え入れた。
「ありがとう、でも今日は主役の二人にかなわないわ。」
麗華は微笑みながら二人を見つめた。
「悠太君、準備は万端かしら?」
「おかげさまで、なんとか…」
悠太は少し恥ずかしそうに答えた。
「それならよかった。
私も今日の二人の晴れ姿を見られるのが本当に嬉しいのよ。」
麗華は二人を見つめ、心からの笑顔を浮かべた。
「小雪さん、悠太君、二人がこうして一緒になれて本当によかった。」
「麗華さん、ありがとうございます。
あなたがいてくれたから、私たちはここまで来られたんです。」
小雪は麗華の手を握り、感謝の気持ちを込めて言った。
「そんな…私は何もしていなくてよ…いないわ。」
麗華の口調はこの1年の間にだいぶ砕けてはきたものの、やはり時々お嬢様言葉が出るのだった。
麗華は少し照れくさそうに言いながらも、二人の絆の深さを感じて心から嬉しく思っていた。
「でも、これからもずっと二人のことを見守っていくからね。」
「ありがとう、麗華さん。」
麗華はいつの間にか役場で働き始めていた。
島中のお年寄りはすっかり麗華に心を奪われ、毎朝役場が開く前に麗華と話したいためだけの行列が出来ている。
【高齢者ケア課】という部署が出来て、その課長なのだ。
悠太も感謝の言葉を口にした。
「これからも、僕たちのことをよろしくお願いします。」
「もちろん!」
麗華は頷き、軽やかに笑った。
「さあ、そろそろ時間ね。
みんなが待っているわよ。」
三人は笑顔で家を出て、結婚式の会場へと向かった。
穏やかな風が彼らの頬を撫で、どこか優しい雰囲気が漂っていた。
島の小さな神社で行われる結婚式は、まさに彼らにとって特別な場所での新たなスタートとなるのだ。
これからの未来がどうなるかは分からない。
それでも、二人は互いに支え合い、どんな困難も乗り越えていくことを誓っていた。
小雪の家で過ごした日々、共に笑い、時に涙を流した思い出が、二人の心の中で輝いている。
結婚式の鐘の音が島中に響き渡り、悠太と小雪は新たな誓いを胸に抱きながら、そっと手を繋いだ。
麗華はそんな二人を優しく見守りながら、彼らの幸せを心から願っていた。
「お幸せにね、
悠太君、小雪さん…」
麗華は小さな声で呟き、微笑みながら二人がバージン・ロードを歩く背中を見送った。
島の夏が、彼らの新たな未来を祝福するかのように、暖かな光で包み込んでいた。
The END
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