雨の向こう

naomikoryo

文字の大きさ
上 下
14 / 17

14.心の波紋

しおりを挟む
麗華は、悠太が心配して探し回っていることも知らず、祠の中で小雪との会話に夢中になっていた。
祠の中は、島の外とは別世界のように静かで、柔らかな雨音がまるで小さな楽器のように響いている。
小雪の穏やかな笑顔と、どこか遠くを見つめるような瞳に、麗華は次第に心を引き寄せられていった。

「ここは、本当に落ち着く場所ですね」
と、麗華は周囲を見渡しながら言った。
「そうですね。
私は小さい頃からここが大好きでした。
何も考えずにただ、雨の音に耳を傾けていると、心が安らぐんです」
と、小雪は静かに答えた。
麗華はその言葉に頷き、しばらく二人で静寂を共有した。
やがて、小雪がそっと口を開く。
「でも、この島の雨は私が降らせているんですよ」
と、小雪は微笑んだまま、自分の秘密を打ち明けた。
麗華は一瞬驚いたが、小雪が「雨の精霊」であることは既に聞いていたので、驚くことはなかった。
それよりも、小雪が自分にそのことを話してくれたことが嬉しかった。
「島の雨が、あなたの力で降っているなんて、信じられないけど…でも、不思議と納得できる気がします」
と麗華は素直に言った。
小雪は少し恥ずかしそうに笑い、
「この島の人たちは、みんな優しくて、私を受け入れてくれました。
だから、私はこの島を守ることができるんです」
と答えた。
その言葉を聞いて、麗華はふと、悠太のことを思い出した。
悠太もまた、この島に惹かれているように感じていた。
彼は都会から来たにもかかわらず、まるでこの島の一部になったかのように、自然と人々に溶け込んでいた。
そして、小雪との間には、特別な何かがあることを感じずにはいられなかった。
「悠太君も、あなたのことを大切に思っているわ。
私にとっても大事な存在だけど、あなたにとっては特別なんでしょうね」
と、麗華は心の内を探るように小雪に尋ねた。
小雪は一瞬、言葉に詰まったが、やがて静かに頷いた。
「はい、彼はとても優しい人です。
でも、私は彼と一緒にいることで、彼の未来を縛ってしまうかもしれない。
それが怖いんです。」
その言葉に、麗華の胸は締め付けられるような痛みを感じた。
小雪が抱えている葛藤と犠牲心を知り、彼女がどれほど深く悠太を愛しているかを理解したのだ。

「小雪さん…」
麗華は小雪の手をそっと握り、言葉を探した。
「そんなこと、ないと思うわ。
悠太君はきっと、あなたと一緒にいることを幸せに感じるはずよ。
彼の気持ちを信じてあげて。」
小雪はその言葉に目を伏せ、わずかに微笑んだ。
「麗華さんがそう言ってくれると、少し安心します。
でも、私はまだ彼に全てを打ち明けられない。
それが、どんなに残酷なことか分かっているから。」
麗華はその言葉に、深い愛情と苦悩を感じた。
小雪が自分の想いを隠しながらも、悠太の未来を思っていることが、彼女自身をどれだけ苦しめているかを理解し始めていた。

(この島に来たときは、ただ悠太君を追いかけていたけれど…今は違うかもしれない)
麗華は心の中で静かにそう呟いた。
小雪の存在、彼女の役割、そしてこの島が持つ不思議な力に魅了されている自分に気づいた。
小雪がこの島を守り、悠太を守るために何をしてきたのかを知り、彼女自身もまた、この島で小雪と共に悠太を見守りたいという気持ちが芽生えてきたのだ。

「小雪さん、もしあなたがこの島で悠太君を守りたいと思うなら、私も力になりたいです。
今はまだ何をすべきか分からないけれど、私にできることがあれば、何でも言ってください」
と麗華は真剣な表情で言った。
小雪はその言葉に少し驚き、そして感動した様子で麗華を見つめた。
「麗華さん…ありがとうございます。
私、あなたがこの島に来てくれて本当に嬉しいです。
こうして話せることが、こんなに心強いなんて思いませんでした。」
二人はしばらく言葉を交わさず、静かな時間を共有した。
祠の外では、雨が優しく降り続けている。
まるで、彼女たちを包み込むように、穏やかな雨音が響いていた。

この日、麗華の心には新たな決意が生まれた。
悠太のことを追いかけてきた自分が、今では小雪と共に彼を見守りたいと思うようになった。
小雪がこの島で果たす役割の一端を、麗華も担っていきたいと感じ始めていたのだ。
これから先、どんな困難が待ち受けているかは分からない。
だが、今はこの祠の中で二人の心が繋がったことに感謝しながら、麗華は静かに目を閉じ、祠のひんやりとした空気と小雪の温もりを感じていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】王太子妃の初恋

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。 王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。 しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。 そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。 ★ざまぁはありません。 全話予約投稿済。 携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。 報告ありがとうございます。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

妻と夫と元妻と

キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では? わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。 数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。 しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。 そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。 まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。 なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。 そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて……… 相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不治の誤字脱字病患者の作品です。 作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。 性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします

天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。 側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。 それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

処理中です...