雨の向こう

naomikoryo

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4.島

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悠太がしばらく聞いていてわかったことは、どうやらこの祠の奥には雨の精霊様がいるようで、それは女性であるということ。
(声は若そうだが、精霊様なのだから年齢は二百歳ぐらいだろう)
と悠太は思った。
でも役場長さんの話し方だと、ものすごく気を使っているようではなく、それよりもかなり親しみがこもっていた。
役場長さんが申し訳なさそうに話している内容からは、毎年この島祭りの三日間は精霊様がこの奥に閉じ籠っていることで、島は快晴になり最終日の花火が可能になるようだ。
(そうなると、普段はどこにいるんだろう?)

そうは言っても、精霊様の御蔭でこの島は成り立っているという事らしい。
前に誰かに聞いた話だと、この島の財政は特別な雨から作られる浄化水にあるという。
この国のあらゆる所の飲料水はこの浄化水様様なのだ。
又、【精霊の結界】と呼ばれるこの島を中心とした範囲は、台風や雪なども精霊の降らせる柔らかい静かな雨に勝てないそうだ。
そんなわけで、結界内の海はとても穏やかで、雨粒で海水面が見えにくいらしく魚も大量に取れるようだ。
海苔は駄目なようだが、牡蠣の養殖には適しており、真珠も大層上質なものが出来るらしい。
一年中大した寒暖差も無いためとても過ごしやすいのだが、一番のデメリットはやはり湿気のようだ。
どこの家にも必ず大きな乾燥機があり、役場の隣には大きなコインランドリー施設が存在している。
畑や田んぼは雨ばかりでは作物は育たない為見かけず、木々の間に平たい工場のようなものが点々と存在している。
それらは、もやしやキノコ類の栽培や発酵食品が主となっている。
悠太もその一つの施設へ勤めている会社の指示で長期出張で来ているのだ。

でも、それらを相殺しても余りある恩恵を島の住民たちは精霊様に感じているようだ。
ただ、その割に島の住民が少ないのは、言い伝えで精霊様が加護できる島の住民数が限られているからと言われている。
その為、役場の住民管理や船場での人の往来管理は厳重に行っているのだそうだ。


「じゃあ、そろそろわしは帰るけど、明日は何を持ってこーか?」
そんな声が聞こえてきたので悠太は慌てて祠から離れて、来た道とは違う方向の木の後ろに隠れた。
「食材は十分ありますので大丈夫です。」
「そうかい?」
「はい。・・・・・・その・・・」
「あーわかっちょる。くれぐれもあの子には言わんとくから。」
「・・・お願いします。」
小雪が淋しそうにそう言った顔を見て、役場長は少し不憫に思いながら祠を後にした。
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