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再最終章
奇襲
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「ここで市長が到着いたしましたので、順番を飛ばしておりました、市長挨拶を始めたいと思います。」
イベント司会者の案内で2人の秘書を伴った市長が簡易壇上へと上がった。
このようなイベントに市長が遅れてくることは稀だったのだが、実はかなり深い事情があった。
市長は定刻に着くことは出来たが、あえて遅れて来たのだ。
この市長秘書もSPが変装しており、会場内の至る所に警備員風の警察官が配備されていた。
市長が公用車で公園に入ったところでこの公園周辺も密かに隔離され始めた。
あちらこちらで道路工事を装った通行止めが始まり、公園内に入ることも出ることも通常門1か所のみに制限したのだ。
「皆さん、遅れてしまい申し訳ございません。市長の米山でございます。」
市長の挨拶が一際大きくエコーした。
このエコー調整のために、ミキサーを操作していた係の男性がマイクの交換を指示した。
新しいマイクを持った市長秘書が市長の下へと走る。
だが、彼は走りながら会場を見渡しインカムに小声で話している。
「今の所、怪しい動きはありません。」
「・・・分かった。引き続き、マイクを交換したら市長の横にしゃがんだ状態で待機しておけ。」
「了解です。」
そんなやりとりが交わされていた。
マイクを交換したタイミングでミキサー係も静かにエコーのつまみを元に戻した。
「済みません、マイクの機嫌が悪かったようです。」
市長の一言に、会場に軽い笑いが起きた。
そのまま、続きを話し始めて数分後、何やら遠くで機械音が聞こえ始めた。
貴子も壇上の斜め奥にある関係者テント内に座っていたが、
「ヘリコプターかしら?」
と立ち上がってテントから出ると上空を見上げた。
音のする方を探しながらキョロキョロしていると、壇上に数人の来客者たちがあがり、市長の周りを取り囲んでいた。
そのうちの一人が市長からマイクを奪うように取り上げ、
「皆さん、落ち着いて後ろの警備員の指示に従ってください。」
と言った。
1分ほど経って、何事だろうとあまり慌てていない来客者たちに苛立ったのか、
「テロリストです!皆さん、急いで警備員の指示に従ってください。」
とマイクを持っている男が叫んだ。
急に、来客者たちは騒ぎだし、我先にと会場から出ようとした。
「あちらに向かって・・・」
警備員が音の来る方と逆方向を指差し、誘導しようとすると、
「あれだ!」
と誰かが叫んだ。
みんなが一様に上空を見た。
1台の大きなラジコンのヘリコプターが会場の方へ向かって飛んで来ていた。
そして、ヘリコプターのスキッド部分に何やら球体が幾つか括り付けられている。
ヘリウム風船のように見えた。
みんなヘリコプターの下にならないように逃げ始める。
「爆発物の可能性が高い。早く安全な屋内に避難させろ。」
インカムに怒鳴りながら市長を頭から庇う様に防護シーツを被せ移動を始めたとき、
パンパン、という小さな音がしてその風船たちは割れ始めた。
「えっ。」
会場の真上ではなくかなり手前の方で、しかも小さな破裂音で風船のようなものが割れたため、みんなは少し戸惑っていた。
「終わり?」
誰かが呟き、
「何だったの?」
と誰かが言った。
その後、無数の小さな赤い光がふわふわと散らばりながら落ちてくる。
風に揺られてあちらこちらにふわふわと飛んでいるため、とりあえず来客者はひきみんなテントの下を目指した。
入りきれない人達もこれといって騒ぐこともなかった。
そのうち、周辺の木々やテントの屋根に触れた赤い光が何の反応も起こさない為、みんな安心していた。
貴子はテント裏に用意されていたバンに市長たちと一緒に乗り込んでいた。
助手席の警察官がインカムで連絡を取った後、
「どうやら異常はないようです。」
とこちらに振り返って言ったことでホッっと安堵感が混みあがった。
貴子は会場に戻ろうと車のスライドドアを開けて真っ先に降りた。
「では、私は戻って様子を・・・」
振り返って車中の関係者に話しかけて、止まってしまった。
車の天井に降ってきた小さな赤い光が天井を通り抜けて・・・
全員の頭の上に落ちて、すっと入り込んだように見えた。
イベント司会者の案内で2人の秘書を伴った市長が簡易壇上へと上がった。
このようなイベントに市長が遅れてくることは稀だったのだが、実はかなり深い事情があった。
市長は定刻に着くことは出来たが、あえて遅れて来たのだ。
この市長秘書もSPが変装しており、会場内の至る所に警備員風の警察官が配備されていた。
市長が公用車で公園に入ったところでこの公園周辺も密かに隔離され始めた。
あちらこちらで道路工事を装った通行止めが始まり、公園内に入ることも出ることも通常門1か所のみに制限したのだ。
「皆さん、遅れてしまい申し訳ございません。市長の米山でございます。」
市長の挨拶が一際大きくエコーした。
このエコー調整のために、ミキサーを操作していた係の男性がマイクの交換を指示した。
新しいマイクを持った市長秘書が市長の下へと走る。
だが、彼は走りながら会場を見渡しインカムに小声で話している。
「今の所、怪しい動きはありません。」
「・・・分かった。引き続き、マイクを交換したら市長の横にしゃがんだ状態で待機しておけ。」
「了解です。」
そんなやりとりが交わされていた。
マイクを交換したタイミングでミキサー係も静かにエコーのつまみを元に戻した。
「済みません、マイクの機嫌が悪かったようです。」
市長の一言に、会場に軽い笑いが起きた。
そのまま、続きを話し始めて数分後、何やら遠くで機械音が聞こえ始めた。
貴子も壇上の斜め奥にある関係者テント内に座っていたが、
「ヘリコプターかしら?」
と立ち上がってテントから出ると上空を見上げた。
音のする方を探しながらキョロキョロしていると、壇上に数人の来客者たちがあがり、市長の周りを取り囲んでいた。
そのうちの一人が市長からマイクを奪うように取り上げ、
「皆さん、落ち着いて後ろの警備員の指示に従ってください。」
と言った。
1分ほど経って、何事だろうとあまり慌てていない来客者たちに苛立ったのか、
「テロリストです!皆さん、急いで警備員の指示に従ってください。」
とマイクを持っている男が叫んだ。
急に、来客者たちは騒ぎだし、我先にと会場から出ようとした。
「あちらに向かって・・・」
警備員が音の来る方と逆方向を指差し、誘導しようとすると、
「あれだ!」
と誰かが叫んだ。
みんなが一様に上空を見た。
1台の大きなラジコンのヘリコプターが会場の方へ向かって飛んで来ていた。
そして、ヘリコプターのスキッド部分に何やら球体が幾つか括り付けられている。
ヘリウム風船のように見えた。
みんなヘリコプターの下にならないように逃げ始める。
「爆発物の可能性が高い。早く安全な屋内に避難させろ。」
インカムに怒鳴りながら市長を頭から庇う様に防護シーツを被せ移動を始めたとき、
パンパン、という小さな音がしてその風船たちは割れ始めた。
「えっ。」
会場の真上ではなくかなり手前の方で、しかも小さな破裂音で風船のようなものが割れたため、みんなは少し戸惑っていた。
「終わり?」
誰かが呟き、
「何だったの?」
と誰かが言った。
その後、無数の小さな赤い光がふわふわと散らばりながら落ちてくる。
風に揺られてあちらこちらにふわふわと飛んでいるため、とりあえず来客者はひきみんなテントの下を目指した。
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そのうち、周辺の木々やテントの屋根に触れた赤い光が何の反応も起こさない為、みんな安心していた。
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助手席の警察官がインカムで連絡を取った後、
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とこちらに振り返って言ったことでホッっと安堵感が混みあがった。
貴子は会場に戻ろうと車のスライドドアを開けて真っ先に降りた。
「では、私は戻って様子を・・・」
振り返って車中の関係者に話しかけて、止まってしまった。
車の天井に降ってきた小さな赤い光が天井を通り抜けて・・・
全員の頭の上に落ちて、すっと入り込んだように見えた。
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