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本編
キスの練習
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二人は境内に座っていた。
あの日の夜、最初に二人が約束をした場所だ。
「とりあえず落ち着いて言いたい事を話しなよ。な?」
太一は貴子の腕を掴んで境内へ座らせたのだ。
それから10分ほど貴子は体育座りで顔を完全に両膝の上に隠すようにして泣いた。
そしてさっきまで軽く揺れていた肩が収まると、
「ねぇ?・・・・・・・・・キスして?」
顔を上げるなり言った。
貴子の前でその辺の小石を拾っては、自分で決めた5mほど離れた木の枝に投げ込んでいた太一はびっくりして、
「え?・・・・・はい?・・・・・・な、なんて?」
慌てふためいて聞いた。
「だって・・・・・どうせその時は来るんだし・・・・・」
「・・・・・」
太一は投げたポーズから固まったまま聞いている。
「急に・・その時じゃ・・・・・・・・気持ちの準備が出来なくて・・・・・・・・・逃げ出しちゃうかも・・・・・・・」
「・・・・・・そ・・・・そうなんだ・・・・・」
ようやく身体を元に戻し、首と肩を回してながら、
「た、貴子は・・・・・その・・・・・したこと・・あんか?」
「何を?」
「だから・・・・・・・き・・・・・キス?」
「・・・・・・・・・・ある。」
「・・・あっ・・・・あ・・・・・そう?」
「あんたもあるでしょ?」
「へ?・・・・・・・・ば~か・・・・・そ、そんなの・・・・・あるわけ・」
「あるの!」
「は?」
「一応あるでしょ?・・・・・私達・・・・・・・」
貴子の顔は真っ赤だ。
「あ~・・・・・あれか・・・・・・・・・・子供の頃・・・・・」
太一も真っ赤な顔になっている。
「バカネェ・・・・・・・気付いてないと思ってるの?」
「あ?・・・・あ~!・・・・・そ、そうかも・・・・・」
太一は空を見上げながら自然に声が大きくなった。
あの帰りの電車の中で先に起きた太一が、つい自分の肩に寄りかかっていた貴子の顔を楽な位置にずらしてやろうとした時にふっと唇が触れたアクシデントだ。
太一もびっくりしてすぐに寝た振りをしたが、貴子も少し前から寝た振りをしていたのだった。
「でも・・・・・」
「ん?」
「タマオさんを吸い出す時のように・・・・・激しいんでしょ?」
「あれは無理やりだったからみたいだよ。」
「そうなの?」
「うん・・・・・・・・・」
二人は見詰め合っている自分達が恥ずかしくなって、同時にパッと目を背けた。
「だから、別に、練習なんて・・・・・」
「練習じゃないけど・・・・・・」
貴子は小さく呟いた。
「でも、まぁ・・・・・いざとなって怖気づくのは案外オレかも知れないしな。」
太一に何かのスイッチが入った。
そして貴子に近付いていく。
「まさか?」
貴子は太一をジッとみたが、顔つきが変わっているわけではなさそうだ。
「太一だよね?」
「うん。」
太一は貴子の横に座りジッと貴子を見た。
「な、なによ!」
「何って、貴子が言い出したんだろ?」
太一が少しずつ顔を近づけている。
「な、何急にやる気になってるのよ!」
貴子は居たたまれなくなり立ち上がった。
「ハハハハハハハ!」
太一は腹をかかえて笑い出した。
「やっぱり無理じゃん!・・・・・貴子の意地っ張り~!」
太一は境内の床をバンバン叩きながら叫んだ。
「も~!なんだっていうのよ~!」
貴子はそんな太一を叩こうと飛び掛った。
丁度背中を床にゴロンとさせた太一の上に被さった格好になった。
太一はとっさに貴子を守るように胸で受け止め、まさに二人の顔は目の前にあった。
太一は思い切って、チュッとキスをして、
「ほ~ら、したぞ!・・・・・なぁ?」
とおどけて見せたのだが、貴子が、
「このまま吸ってしまって・・・・・」
と小さな声で言い、目を閉じた。
「・・・・・・・・・・・」
「貴子が、もう面倒なんだったら・・・」
太一も小さく囁いて、もう一度顔を近づけた。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
さっきと違い、今度は慎重に、少しずつ、顔を近づける。
何となく触れたぐらいで、
「やっぱりやめた!」
貴子はパッと身体を起こし、目を開けた。
「へ?」
ちょっと口を尖らせまま太一も目を開けた。
「久しぶりの楽しいテニスがもったいないわ!」
貴子は完全に起き上がると制服の埃をパンパンと叩きながら言った。
「?」
「じゃあ、日曜日の10時頃に公園前で待ち合わせましょ。」
「あ、あぁ・・・うん。」
「お弁当作っていくから楽しみにしててね。」
貴子は鞄を持つと、
「じゃあ。」
と太一にニッコリ笑いかけ、家のほうへ歩いて行った。
「ありがとう・・・太一。」
小さく聞き取れないほど小さく呟いた。
太一は少しボーっとしたままでいたが、色々思い出しまた顔を赤くした。
やはり立ち上がると制服の埃をバンバン叩き落として、
「オレもやるときはやるもんだなぁ・・・・・」
と呟いて神社を後にした。
あの日の夜、最初に二人が約束をした場所だ。
「とりあえず落ち着いて言いたい事を話しなよ。な?」
太一は貴子の腕を掴んで境内へ座らせたのだ。
それから10分ほど貴子は体育座りで顔を完全に両膝の上に隠すようにして泣いた。
そしてさっきまで軽く揺れていた肩が収まると、
「ねぇ?・・・・・・・・・キスして?」
顔を上げるなり言った。
貴子の前でその辺の小石を拾っては、自分で決めた5mほど離れた木の枝に投げ込んでいた太一はびっくりして、
「え?・・・・・はい?・・・・・・な、なんて?」
慌てふためいて聞いた。
「だって・・・・・どうせその時は来るんだし・・・・・」
「・・・・・」
太一は投げたポーズから固まったまま聞いている。
「急に・・その時じゃ・・・・・・・・気持ちの準備が出来なくて・・・・・・・・・逃げ出しちゃうかも・・・・・・・」
「・・・・・・そ・・・・そうなんだ・・・・・」
ようやく身体を元に戻し、首と肩を回してながら、
「た、貴子は・・・・・その・・・・・したこと・・あんか?」
「何を?」
「だから・・・・・・・き・・・・・キス?」
「・・・・・・・・・・ある。」
「・・・あっ・・・・あ・・・・・そう?」
「あんたもあるでしょ?」
「へ?・・・・・・・・ば~か・・・・・そ、そんなの・・・・・あるわけ・」
「あるの!」
「は?」
「一応あるでしょ?・・・・・私達・・・・・・・」
貴子の顔は真っ赤だ。
「あ~・・・・・あれか・・・・・・・・・・子供の頃・・・・・」
太一も真っ赤な顔になっている。
「バカネェ・・・・・・・気付いてないと思ってるの?」
「あ?・・・・あ~!・・・・・そ、そうかも・・・・・」
太一は空を見上げながら自然に声が大きくなった。
あの帰りの電車の中で先に起きた太一が、つい自分の肩に寄りかかっていた貴子の顔を楽な位置にずらしてやろうとした時にふっと唇が触れたアクシデントだ。
太一もびっくりしてすぐに寝た振りをしたが、貴子も少し前から寝た振りをしていたのだった。
「でも・・・・・」
「ん?」
「タマオさんを吸い出す時のように・・・・・激しいんでしょ?」
「あれは無理やりだったからみたいだよ。」
「そうなの?」
「うん・・・・・・・・・」
二人は見詰め合っている自分達が恥ずかしくなって、同時にパッと目を背けた。
「だから、別に、練習なんて・・・・・」
「練習じゃないけど・・・・・・」
貴子は小さく呟いた。
「でも、まぁ・・・・・いざとなって怖気づくのは案外オレかも知れないしな。」
太一に何かのスイッチが入った。
そして貴子に近付いていく。
「まさか?」
貴子は太一をジッとみたが、顔つきが変わっているわけではなさそうだ。
「太一だよね?」
「うん。」
太一は貴子の横に座りジッと貴子を見た。
「な、なによ!」
「何って、貴子が言い出したんだろ?」
太一が少しずつ顔を近づけている。
「な、何急にやる気になってるのよ!」
貴子は居たたまれなくなり立ち上がった。
「ハハハハハハハ!」
太一は腹をかかえて笑い出した。
「やっぱり無理じゃん!・・・・・貴子の意地っ張り~!」
太一は境内の床をバンバン叩きながら叫んだ。
「も~!なんだっていうのよ~!」
貴子はそんな太一を叩こうと飛び掛った。
丁度背中を床にゴロンとさせた太一の上に被さった格好になった。
太一はとっさに貴子を守るように胸で受け止め、まさに二人の顔は目の前にあった。
太一は思い切って、チュッとキスをして、
「ほ~ら、したぞ!・・・・・なぁ?」
とおどけて見せたのだが、貴子が、
「このまま吸ってしまって・・・・・」
と小さな声で言い、目を閉じた。
「・・・・・・・・・・・」
「貴子が、もう面倒なんだったら・・・」
太一も小さく囁いて、もう一度顔を近づけた。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
さっきと違い、今度は慎重に、少しずつ、顔を近づける。
何となく触れたぐらいで、
「やっぱりやめた!」
貴子はパッと身体を起こし、目を開けた。
「へ?」
ちょっと口を尖らせまま太一も目を開けた。
「久しぶりの楽しいテニスがもったいないわ!」
貴子は完全に起き上がると制服の埃をパンパンと叩きながら言った。
「?」
「じゃあ、日曜日の10時頃に公園前で待ち合わせましょ。」
「あ、あぁ・・・うん。」
「お弁当作っていくから楽しみにしててね。」
貴子は鞄を持つと、
「じゃあ。」
と太一にニッコリ笑いかけ、家のほうへ歩いて行った。
「ありがとう・・・太一。」
小さく聞き取れないほど小さく呟いた。
太一は少しボーっとしたままでいたが、色々思い出しまた顔を赤くした。
やはり立ち上がると制服の埃をバンバン叩き落として、
「オレもやるときはやるもんだなぁ・・・・・」
と呟いて神社を後にした。
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