再び君に出会うために

naomikoryo

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「♪ふんふんふん・・・・・・・・ただいま~。」
「あら、今日は早かったのね?」
「え、えぇ。」
貴子は上機嫌で鼻歌を歌いながら帰ってきたのだが、玄関を開けてすぐに母がいたので少しびっくりした。
「丁度良かったわ!これからちょっと買い物に行かなきゃ行けなかったんだけど、代わりに行って来て頂戴。」
「あっ、はい。いいわよ。」
靴を履きかけていた母に買い物袋とメモを渡された。
「駅前のスーパーで特売やってるから・・・・・卵は2パックね。」
「は~い。」
「お金は持ってるわよね?」
「うん、大丈夫。」
「・・・・・今日はやけに素直なのね・・・・・・」
「えっ、そう?」
「・・・じゃあ、よろしくね。」
「は~い。」
貴子は鞄を母に託して又、来た方向へと戻ることになった。
いつもなら1言2言文句を言ってしぶしぶ行くはずの貴子がやけに素直なので母は台所に戻ると首をかしげた。

「え~なになに・・・・・・ブロッコリーとレタスと・・・・・ピーマンと・・・トマトと・・・・・・・・野菜ばっかり!」
(最近、あなたが大量に御飯を食べるから、野菜を多めにしようとしてるのかも)
「大量ってね!・・・・・・・あんた達の為でしょ!」
(私達っていうか・・・あの子の為だと思いますけど!)
「そ、そんな事は無いわ。」
(だって、あの子の希望を叶える為でしょう?)
「それは見返りでしょ?あなた達を助けた後の。」
(でも、あなたは見返りを求めないで、その手助けをしたいのでしょう?)
「・・・・・・・」
(それって、あなたがあの子を好きだからしてることで・・・)
「い、いつ私が太一を好きだって・・・」
(あら?私はあなたの身体を使わせてもらってるんだから、あなたの気持ちなど・・)
「・・・いや、気持ちは分からないでしょ?」
(あのねぇ・・・・・・・あの子に触れられてるときのあなたの鼓動が、好きっ好きっ好きっって大太鼓のように騒いでるのよ)
「・・・・・」
(それが恋じゃないなら何なの?)
「あ~・・・・・もういいわ。・・・・・・・スーパーに着いたからちょっと黙ってて。」
貴子はスーパーに着いたのでかごを持って静かに店内を歩き始めた。
(え~・・・・・何?・・・・・・・勝手にダンマリ?)
「独り言言ってるみたいで恥ずかしいから後でね。」
(な~に、それ~?)
「はいはい、あなたの言ってることで間違っていませんよ。ワタさん。」
結局、正体は宇宙人だとしても名称が元々無いようなので、というか、地球人では発せない音だそうなので、最初のオオワタツミからワタさんと呼ぶことになった。
聞けば、もう何年、いや何光年生きているのかさえ分からないようなので、一応年上の存在としては敬うことにしたのだ。
本来は生物学的上でオスなのかメスなのかも分からないのだが、少なくとも貴子は同じ女性と認識できた。
ひょっとすると自分の中にいるからこうであって、太一の中に入ると男っぽくなるのかもしれない、と考えたこともあるがそれならそれということで終わった。
貴子も案外と大雑把なところがあるのだ。
太一は勿論O型だが、貴子もO型なのだ。
貴子が小学3年生の時に、図書館から借りてきた『血液型相性占い』という本を、太一や美智子、健や明日香に読んで聞かせてやったことがある。
その時、O型はA型と最も相性が良いというフレーズが頭に強烈に残ったのを今でも忘れていない。
それもあってA型の美智子が羨ましかったのだ。

(ちょっと、そのもやしの賞味期限見た?)
「えっ?」
(ごちゃっと置いてあっても賞味期限を良く見て、一番長持ちするのを選ぶのよ!)
「・・・・・何の知識?」
(あなたが面倒がって時々私に押し付けてる時に、お母さんから教わったのよ!)
「・・・・・そう・・・・・・ありがとう。」
実は、貴子は面倒なときはワタに代わってもらい自分は眠っているというズルを時々していた。
それに、夜10時に眠ってから12時までは好きにしていいという許しも与えていた。
勿論、外出は禁止で読書やテレビ鑑賞が主だが、ワタはたいそう喜んでいる。
こんなおかしな状況でもすんなり受け入れ、しかも自分にも都合の良いように考えられる所はO型特有かもしれない、と貴子は思っている。

そんなこんなで一通りメモの食材をかごに入れてレジに並んだ。
「あれ?」
何気に窓の外を見ていると、自分のクラスメートの男の子と並んで歩く美智子の姿を見つけた。
(知り合い?)
「あれが例の、美智子よ。」
貴子はとっさに前に並んでいたサラリーマン風のおじさんの背中に隠れた。
常々ワタには、話題に出てくる美智子とはどんな子なんだと聞かれていた。
あの校庭での覚醒まではワタ自身も美智子の体の奥底にいた感覚しかなかったようだ。
(そう、あれが・・・・・・・・何だか楽しそうに喋ってるみたいね?)
確かに美智子は隣に並んでいる男の子に満面の笑みをしたまま喋っている。
貴子はふいに後を付けたくなって・・・というよりは声を掛けたくなってソワソワしだした。
「あ~、行ってしまう~!」
ようやくレジが自分の番になって更に慌てた。
「エコバッグ持ってますので袋は要りません。」
と早口で言い、財布を出すと高速で買い物を済ませた。
素早くスーパーを出て美智子が歩いていった方をキョロキョロ見渡し、二人の姿を百m程先の曲がり角に見つけた。
「ラッキー!」
そんな言葉を発して貴子は小走りに追いかけた。
「あいつ・・・・・サッカー部の高橋よね。・・・・・・・そんな噂聞いてなかったけどなぁ。」
ゆっくり距離を縮めながら貴子はボソッと呟いた。
(あんた、たまに下世話よね?)
「うっさい!」
貴子は自分でも分からないぐらい顔がニヤついていることには気付かなかった。
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