雨の日に開く扉

naomikoryo

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かつて諦めた恋人

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三度目の雨の日。莉子は窓の外を眺めながら、心に引っかかるある思い出を抱えていた。
それは大学2年の頃、心から愛していた恋人・涼（りょう）のことだった。

涼は優しくて穏やかで、莉子にとって初めて「未来を一緒に描きたい」と思えた相手だった。
しかし、涼が突然地元を離れて海外での夢を追いかけると決めたとき、莉子はその距離に耐えられず、別れる道を選んでしまったのだ。

「もしあの時、別れを選ばなかったら……
私たちはどうなっていたんだろう？」

その思いが胸を締めつけるたび、涼の笑顔が脳裏に浮かぶ。
ふと気づくと、足は例の公園に向かっていた。

雨の中に立つ扉は、いつもと同じ場所にあった。
莉子は深呼吸をし、静かに扉を押し開ける。

眩しい光が消えた先に現れたのは、大学時代のキャンパスだった。
そこには、あの頃の涼がいた。
長い脚を組み、留学先の大学のカフェのテラスらしい場所でノートパソコンを操作している姿は、変わらない涼そのものだった。

「……涼くん？」

莉子が声をかけると、涼は驚いた顔で顔を上げた。
「え、莉子？」

現実ではありえないはずの再会に、莉子は息を呑む。
涼は少し戸惑いながらも、すぐににこやかに笑みを浮かべた。

「久しぶりだね。
元気にしてた？」

その笑顔に、莉子の心は不意に熱くなった。

涼に誘われ、二人はキャンパス近くの公園を歩いた。
周囲には大学生たちの笑い声が響いている。
莉子は涼との会話の中で、自分が「別れを選ばなかった未来」に来ていることに気づいた。

「ねえ、涼くん。
この世界の私たちって、今どんな関係なんだろう？」

涼は少し驚いたように笑う。
「変なこと聞くんだな。
俺たちはもちろん、付き合ってるだろ？
3年も一緒にいるんだから。」

その言葉を聞いて、莉子の胸はじんと熱くなった。
この世界の莉子と涼は、別れを選ばず、共に未来を歩んでいる。
彼は海外行きを決めたが、莉子もそれを支える道を選んだらしい。

「莉子がいたから、俺も頑張れたんだよ。」
涼の言葉に、莉子は言葉を返せなかった。

涼の提案で、二人は大学時代によく訪れていた河川敷へ足を運んだ。
懐かしい場所で並んで座ると、涼がポツリと話し始めた。

「莉子、覚えてる？
俺がアメリカ行きを決めた時、君はずっと背中を押してくれたよね。」

莉子は黙って頷いた。
この世界の自分は、涼を支える決意をしていたのだ。

「俺ね、あの時、莉子がいたから挑戦する勇気が持てたんだ。
でも、遠距離になるのに一度も不安そうな顔を見せなかったのが、逆に少し寂しかった。」

その言葉に、莉子はハッとした。
現実の自分が別れを選んだ理由も、まさに「寂しさ」だった。
距離が生む孤独を乗り越えることができなかったのだ。

涼が微笑む。
「でも、莉子はすごいよ。
寂しいって言葉より、頑張れって俺を応援してくれたんだ。
そんな君だから、俺はどんな時でも戻ってきたいって思えたんだよ。」

涼と別れの時間が近づく。
莉子はこの世界に留まりたい衝動に駆られるが、ふと扉の守護者の警告を思い出す。

「この扉にはリスクがある。
行くたびに元の世界に戻れなくなる確率が高まるんだ。」

涼と笑い合う時間の中で、莉子は心の中で葛藤を繰り返していた。

「私は現実で涼くんと別れを選んだ。
それをやり直したいと思うのは、ただの逃げじゃないの？」

この世界は幸せだったが、そこには「現実の自分」が存在していない。
彼女は涼に別れを告げる決心をする。

「急にこっちに来るなんて驚いたよ。
昨日の電話ではそんなこと、言ってなかったのに。」
「あぁ、えっと…
驚かせようと思って。」
「驚いた、驚いた。」
涼は満面の笑みで答えた。
「どっか、ホテルでも予約してるのかい？」
「そ、そうなの。
実は、両親と来ているから…」
「そっか。
まぁ、俺も寮住まいだから泊めることは出来ないけど…」
「うん。」
そうして、近くのレストランで食事をとった後、地下鉄の入り口まで、涼は莉子を見送りに来てくれた。

「莉子、今日は楽しかったよ。
これからも、ずっと一緒にいような。」

莉子は微笑んで頷きながら、心の中で別れを告げる。
「さようなら、涼くん。」

彼女は扉を開き、振り返らずに進んだ。
その瞬間、光が強く輝き、涼の声が遠ざかっていった。

現実の雨の街に戻ると、莉子は静かに涙を流していた。
涼との思い出が心に強く残りながらも、彼女は新たな決意を抱く。

「私が選んだ現実を受け入れよう。
それがどんなに苦しくても、私の未来は私が創るんだ。」

雨が上がり、夕焼けが街を染める。
莉子は歩き出す。
涼との別れが、彼女の心をさらに強くしていた。

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