上 下
34 / 41

転校生#2

しおりを挟む
しばらく同じ空間で授業を受けて、転校生が『色んな意味ですごい。』と言われていた意味が、よくわかった。

「なあなあしゅうじ!これなんて読むの?なあなあ!」

まず、どんなときでもお構いなしに話しかけてくる。

「……齋藤君?今は小テスト中だから、隣の子に聞いちゃだめですよ」
「なんで?」
「な、なんでって……」

転校生のあまりの返答に、先生は絶句していた。

「なあせんせー、これいつまでやんの?」
「はい?」
「もうおれ、飽きたんだけど」

そして爆弾発言。今度こそ先生は言葉を失った。

「……もういいです……」

そう言った先生は哀愁が漂っていた。

――この午前中、ずっとこんな感じだった。
そして俺はその間ずっと話しかけられまくって、午前中にして気力がもう限界だった。
話しかけてくる声が大きいから只でさえ痛い頭に響くし……せっかく熱下がったのに、また上がりそう……。


――キーンコーンカーンコーン……

チャイムが鳴り、ようやく午前の授業が終わった。や、やっと休憩だ……。
また話しかけられてはたまらないと、即座に立ち上がり医務室へと向かった。

診察を終えていつもの空き教室で祥吾に再会した。
ハルはいないので、今日は一日サボりのようだ。久しぶりに会いたかったんだけどなあ……。

祥吾は憔悴した俺の顔を見て、「だから言ったのに……」と呆れた。

「転校生には関わらない方がいいって言ったのに」
「俺だってそうしたかったけど、転校生くん、俺の席の隣だったんだよ……」
「えっ……マジで?」

既にどっと疲れている俺は、結局昼食は一口も口にできず、薬だけ胃に流し込んだ。

「また午後もあの転校生くんと隣か……、っゲホゲホッ!」

ため息を吐いた途端に咳き込んでしまい、祥吾に背中をさすられた。
まだ風邪も完全に治っていない。

「大丈夫?まだ本調子じゃないんだし、今日はもう帰ったら?」
「この程度で帰ってたら俺、お前と一緒に卒業できないよ。それは困るだろ」
「それは、そうだけど……無理だけはしないでね」
「わかってるって」

教室の前で祥吾と別れて中に入ると、「しゅうじー!」と大きな声で呼ばれた。ウッ、頭に響く……。

「……な、何?」
「せんせーに、これ渡せっていわれた!しゅうじとおれ、いっしょなんだって!!」
「何が……?」

転校生の手から渡されたのは、補習授業の案内文だった。
出席日数の足りない生徒や中間テストの結果が思わしくなかった生徒のための補習らしい。
俺の出席日数が足りないのは明らかだし、この案内を貰うのは当然だ。
それはそうなのだが……

……補習のときまで転校生と一緒なのか……。

「……そう……、ありがとう」
「おう!!」

嬉しそうな転校生をよそに、俺は頭痛が増した。


***


午後の授業を、俺は何とか薬で誤魔化しつつ乗り切った。だが、今日はこれから補習授業が残っている。

「柊、本当に大丈夫?補習、受けられる?大分顔色悪くなってるけど……」
「さっき薬もう一回飲んだし、平気だよ」
「え、また飲んじゃったの?間隔早くない?」
「でも、咳とか頭痛い方がつらいし……」
「そんなこといって、胃まで痛めても知らないよ?」
「う……」

祥吾に言われて、過去の苦い経験が思い起こされた。
この学校に入学する前、どうしても頭の痛みが治まらず鎮痛剤をあまり間隔を開けずに飲んだらものの見事に胃が荒れて悲惨なことになったのだ。
頭の痛さプラス気持ち悪さが加わり、あのときは本当にひどい思いをした。

「だ、大丈夫。胃薬も一緒に飲んだから……多分」
「はあ……、もう仕方ないなあ」

薬漬けの兄に対して、祥吾は呆れ気味だった。
祥吾はきつかったらすぐ先生に言うんだよと俺に念を押し、陸上部の放課後練習へ向かっていった。
弟に心配かけっぱなしの至らない兄でホントごめん……。

祥吾が去ると、横から大きな声で呼ばれた。

「しゅうじー!ほしゅう行こうぜー!」
「……ッ、う、うん。行こうか……」

眼鏡と髪でよくわからないが、多分満面の笑みを浮かべているであろう転校生に、俺は頭の痛みに顔を顰めつつ返事した。
本当、その大きな声良く出るね……。


「たのもー!!」

補習の行われる教室に着いた途端、そんなことを叫びながら転校生が勢いよく扉を開けた。

「……道場破りでもする気?」
「ともだちが、扉を開けるときはこういっとけばいいっていってたんだ!!」
「どういう友達?」

ちょっと不思議な転校生の友達も、やはりちょっと不思議なようだ。
教室にはまだ誰もいなかったが、すでに三つの机上にプリントが置かれていた。とりあえずあのプリントの置かれている席に座ればいいのかな。

「おれ、ここ!!」

転校生が元気よく真ん中の、教卓の前の席に着いたので、俺はその左隣、窓側の席に着いた。
席に着いてからも転校生は本当に良く喋るなあと感心してしまうほどにずっと話続けていた。その大半が『ともだち』の話だった。
楽しそうに『ともだち』の話をする彼の様子は、本当にその『ともだち』が好きなんだと伝わってきたが、相槌を打つのも大分疲れてきた。

「んで、きょうやが――」

頭痛が再発し始めたころ、ガラリと教室の扉が開かれた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる

天災
BL
 高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる。

小さい頃、近所のお兄さんに赤ちゃんみたいに甘えた事がきっかけで性癖が歪んでしまって困ってる

海野
BL
小さい頃、妹の誕生で赤ちゃん返りをした事のある雄介少年。少年も大人になり青年になった。しかし一般男性の性の興味とは外れ、幼児プレイにしかときめかなくなってしまった。あの時お世話になった「近所のお兄さん」は結婚してしまったし、彼ももう赤ちゃんになれる程可愛い背格好では無い。そんなある日、職場で「お兄さん」に似た雰囲気の人を見つける。いつしか目で追う様になった彼は次第にその人を妄想の材料に使うようになる。ある日の残業中、眠ってしまった雄介は、起こしに来た人物に寝ぼけてママと言って抱きついてしまい…?

童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった

なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。 ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…

平凡な俺、何故かイケメンヤンキーのお気に入りです?!

彩ノ華
BL
ある事がきっかけでヤンキー(イケメン)に目をつけられた俺。 何をしても平凡な俺は、きっとパシリとして使われるのだろうと思っていたけど…!? 俺どうなっちゃうの~~ッ?! イケメンヤンキー×平凡

元会計には首輪がついている

笹坂寧
BL
 【帝華学園】の生徒会会計を務め、無事卒業した俺。  こんな恐ろしい学園とっとと離れてやる、とばかりに一般入試を受けて遠く遠くの公立高校に入学し、無事、魔の学園から逃げ果すことが出来た。  卒業式から入学式前日まで、誘拐やらなんやらされて無理くり連れ戻されでもしないか戦々恐々としながら前後左右全ての気配を探って生き抜いた毎日が今では懐かしい。  俺は無事高校に入学を果たし、無事毎日登学して講義を受け、無事部活に入って友人を作り、無事彼女まで手に入れることが出来たのだ。    なのに。 「逃げられると思ったか?颯夏」 「ーーな、んで」  目の前に立つ恐ろしい男を前にして、こうも身体が動かないなんて。

気づいて欲しいんだけど、バレたくはない!

甘蜜 蜜華
BL
僕は、平凡で、平穏な学園生活を送って........................居たかった、でも無理だよね。だって昔の仲間が目の前にいるんだよ?そりゃぁ喋りたくて、気づいてほしくてメール送りますよね??突然失踪した族の総長として!! ※作者は豆腐メンタルです。※作者は語彙力皆無なんだなァァ!※1ヶ月は開けないようにします。※R15は保険ですが、もしかしたらR18に変わるかもしれません。

モブ男子ですが、生徒会長の一軍イケメンに捕まったもんで

天災
BL
 モブ男子なのに…

処理中です...