壺花

戸笠耕一

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ストーリー

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 3月31日16時。1年生が講堂に集められた。誰もが白いブレザーを着こなし粛然と椅子に腰かけている。

 入学式の練習。入場の仕方から椅子の座り方に至るまで、事前に練習をするようだ。

「新入生の皆さん、お疲れ様です。新しく外部に来た方、ようこそお越しくださいました。内部生の皆さん、ご進学おめでとうございます」

 学園長の凛とした声が壇上から座っている生徒に声がかかる。

「さて皆さんは明日より堂上学園の高校一年生です。もはや立派な大人になられます。皆さんはきちんと社会の一員として、学園の生徒として恥じぬ行いをしなければなりません」

 長いお話が続くと、一年生は椅子の座り方を何度も練習させられた。先生がずれている生徒に指導をした。

 ようやくそれが終わったかと思えば、入退場の練習だ。

 生徒一人ずつ歩き方の指導が入るのでこれはきつかった。ここまでやるのかと辟易しながら三時間にわたる練習は終わった。

「長いわ。しんど……」

「外部の子はそう言う。内部生は先週から毎日のように練習やったで」

「そうなん?」

 グウと腹が鳴った。

「腹空いていないか。あ、ポテチ食うか?」

 榮子がすっとポテチを差し出す。

「そんなものより飯が食いたいわ。食堂ってやっている?」
「混んでいるよ。うちはポテチがあるからの」

「大丈夫なのか?」

「ばれなかったらええんよ。絶対ばれないところに隠しとるし」

「なんやそれ?」

「教えてほしいか?」
 榮子はトイレに向かうと便座の上に立つと天井を押した。一部が蓋になっていて動かせるようになっている。中に
はものが隠せる仕組みになっている。

「ここは絶対にばれへん」

「トイレなんて汚いな」

「あんたにはあげへん」

「うちは飯を食う」

 近美は部屋を出る。食堂に向かう途中で聡子にあった。横には榮子を泥棒猫の娘扱いした少女だ。確か結衣だった
か。

「近美ちゃん」

「聡子やないか。飯にせえへん?」

 食堂の前の券売機には、列をなして大勢の女子生徒が並んでいる。

「うちびっくりしてもうた」

「入学式の練習や。ほほ、外部の子からしたら驚くわな」

「こんなことするなんてびっくりや」

 近美はほっとため息をこぼした。

「ふん、そんなこと根性やとうちでやっていけへんで」

「なんで?」

「大体入学式の前に弱音を吐くやつは付いていけなくなってやめる。中学の時もそうやったし」

「別に誰だって弱音ぐらい吐くよ」

「ふん」

 結衣は配膳を片付けるとそそくさと行ってしまった。
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