15 / 29
第4章 名探偵の不在の中で
3
しおりを挟む
蓮子に教えてくれたある女性を思い出す。過去の追憶は時に火との判断を鈍らせる。でも彼女のことは頭から払しょくできない。
初めて見たとき、彼女は小悪魔的であり、口を開かなければ可愛らしい人形のようで、背格好は子どもにしか思えない存在だった。彼女の名前は理佐。
懐かしい。彼女の存在は蓮子にとって人をだますことを生業とする者として、大事なことを教えてくれたのだ。最近、妙に過去が懐かしい。ふとあの日々が蘇ってきた。
狙った相手は確実に仕留める。蓮子は引き金を引いた。虚空にすさまじい音を立てて弾が飛び出した。薬莢が落ちてカランと音を立てた。弾は彼女の思いとは外れた場所に着弾した。的の中心からは逸れている。
「おお、お見事。初めて撃って的のどこかに当てるなんて才能あるな」
「お世辞のつもり? あなたはどうなの?」
「これでも訓練したぜ」
彼の毛深い色黒の腕が伸びた。重心は安定している。プロの構えだ。彼はしっかりと的を見据え、引き金を引いた。
「うん、まずまずだ」
彼はゆっくりと拳銃を下ろす。新出の視線の先には目をやった。弾はしっかりと的の中心をとらえていた。正確に相手の急所を射抜いていた。生身の人間なら死んでいるだろう。
「ずいぶん訓練したのね」
「したさ。あいつには負けたくないからね」
「相棒?」
「そうさ」
「よくわからないわ。男のライバル心なの?」
「そうでもない。銃の腕前だけは彼に負けていた。そこが嫌だっただけさ」
「一つぐらい彼に勝たせてあげてもいいでしょうよ」
他は全部自分が優れているといいたいわけだ。相手も彼の本心を聞いたら相棒なんて続けなかったのではないか。
「うぬぼれないでよ」
「違うさ。事実を言っているだけだ」
「そういうのをうぬぼれって言うのよ」
新出は笑っていた。そしてこう返したのだ。
「よく言われる」
初めて見たとき、彼女は小悪魔的であり、口を開かなければ可愛らしい人形のようで、背格好は子どもにしか思えない存在だった。彼女の名前は理佐。
懐かしい。彼女の存在は蓮子にとって人をだますことを生業とする者として、大事なことを教えてくれたのだ。最近、妙に過去が懐かしい。ふとあの日々が蘇ってきた。
狙った相手は確実に仕留める。蓮子は引き金を引いた。虚空にすさまじい音を立てて弾が飛び出した。薬莢が落ちてカランと音を立てた。弾は彼女の思いとは外れた場所に着弾した。的の中心からは逸れている。
「おお、お見事。初めて撃って的のどこかに当てるなんて才能あるな」
「お世辞のつもり? あなたはどうなの?」
「これでも訓練したぜ」
彼の毛深い色黒の腕が伸びた。重心は安定している。プロの構えだ。彼はしっかりと的を見据え、引き金を引いた。
「うん、まずまずだ」
彼はゆっくりと拳銃を下ろす。新出の視線の先には目をやった。弾はしっかりと的の中心をとらえていた。正確に相手の急所を射抜いていた。生身の人間なら死んでいるだろう。
「ずいぶん訓練したのね」
「したさ。あいつには負けたくないからね」
「相棒?」
「そうさ」
「よくわからないわ。男のライバル心なの?」
「そうでもない。銃の腕前だけは彼に負けていた。そこが嫌だっただけさ」
「一つぐらい彼に勝たせてあげてもいいでしょうよ」
他は全部自分が優れているといいたいわけだ。相手も彼の本心を聞いたら相棒なんて続けなかったのではないか。
「うぬぼれないでよ」
「違うさ。事実を言っているだけだ」
「そういうのをうぬぼれって言うのよ」
新出は笑っていた。そしてこう返したのだ。
「よく言われる」
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
ビジョンゲーム
戸笠耕一
ミステリー
高校2年生の香西沙良は両親を死に追いやった真犯人JBの正体を掴むため、立てこもり事件を引き起こす。沙良は半年前に父義行と母雪絵をデパートからの帰り道で突っ込んできたトラックに巻き込まれて失っていた。沙良も背中に大きな火傷を負い復讐を決意した。見えない敵JBの正体を掴むため大切な友人を巻き込みながら、犠牲や後悔を背負いながら少女は備わっていた先を見通す力「ビジョン」を武器にJBに迫る。記憶と現実が織り交ざる頭脳ミステリーの行方は! SSシリーズ第一弾!
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
特殊捜査官・天城宿禰の事件簿~乙女の告発
斑鳩陽菜
ミステリー
K県警捜査一課特殊捜査室――、そこにたった一人だけ特殊捜査官の肩書をもつ男、天城宿禰が在籍している。
遺留品や現場にある物が残留思念を読み取り、犯人を導くという。
そんな県警管轄内で、美術評論家が何者かに殺害された。
遺体の周りには、大量のガラス片が飛散。
臨場した天城は、さっそく残留思念を読み取るのだが――。
誰何の夢から覚める時
多摩翔子
ミステリー
「隠し事のある探偵」×「記憶喪失の喫茶店マスター」×「忘れられた怪異の少女」による、"美珠町の怪異"に迫るホラー・ミステリー!
舞台はC部N県美珠町は人口一万人程度の田舎町
僕こと"すいか"は”静寂潮”という探偵に山の中で倒れているところを助けられた。
自分が”喫茶まほろば”のマスターだったこと、名前が”すいか”であること、コーヒーは水色のマグに入れること……と次々と脳内で少女の声が響き、”認識”が与えられるが、それを知るまでの”記憶”が抜け落ちていた。
部屋に残された「記憶を食べる代わりに願いを叶える怪異、みたま様」のスクラップブックを見つけてしまう。
現状を掴めないまま眠りにつくと、夢の中で「自分そっくりの顔を持つ天使の少女、みたま様」に出会い……
「あなたが記憶を思い出せないのは、この世界で”みたま様”が忘れられてしまったから」
忘れられた怪異の行方を追うため、すいかは喫茶オーナー兼駆け出し探偵助手となり、探偵静寂潮と共に、この町に隠された謎と、自分の記憶に隠された秘密を暴くため動き出す。
___例え、その先にどんな真実があろうとも
◇◇◇
こちらの作品は書き手がBLを好んでいるためそういった表現は意識していませんが、一部BLのように受け取れる可能性があります。
マチコアイシテル
白河甚平@壺
ミステリー
行きつけのスナックへふらりと寄る大学生の豊(ゆたか)。
常連客の小児科の中田と子犬を抱きかかえた良太くんと話しをしていると
ママが帰ってきたのと同時に、滑り込むように男がドアから入りカウンターへと腰をかけに行った。
見るとその男はサラリーマン風で、胸のワイシャツから真っ赤な血をにじみ出していた。
スナックのママはその血まみれの男を恐れず近寄り、男に慰めの言葉をかける。
豊はママの身が心配になり二人に近づこうとするが、突然、胸が灼けるような痛みを感じ彼は床の上でのた打ち回る。
どうやら豊は血まみれの男と一心同体になってしまったらしい。
さっきまでカウンターにいた男はいつのまにやら消えてしまっていた・・・
マクデブルクの半球
ナコイトオル
ミステリー
ある夜、電話がかかってきた。ただそれだけの、はずだった。
高校時代、自分と折り合いの付かなかった優等生からの唐突な電話。それが全てのはじまりだった。
電話をかけたのとほぼ同時刻、何者かに突き落とされ意識不明となった青年コウと、そんな彼と昔折り合いを付けることが出来なかった、容疑者となった女、ユキ。どうしてこうなったのかを調べていく内に、コウを突き落とした容疑者はどんどんと増えてきてしまう───
「犯人を探そう。出来れば、彼が目を覚ますまでに」
自他共に認める在宅ストーカーを相棒に、誰かのために進む、犯人探し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる