Sの探索

戸笠耕一

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第4章 名探偵の不在の中で

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 蓮子に教えてくれたある女性を思い出す。過去の追憶は時に火との判断を鈍らせる。でも彼女のことは頭から払しょくできない。

 初めて見たとき、彼女は小悪魔的であり、口を開かなければ可愛らしい人形のようで、背格好は子どもにしか思えない存在だった。彼女の名前は理佐。

 懐かしい。彼女の存在は蓮子にとって人をだますことを生業とする者として、大事なことを教えてくれたのだ。最近、妙に過去が懐かしい。ふとあの日々が蘇ってきた。

 狙った相手は確実に仕留める。蓮子は引き金を引いた。虚空にすさまじい音を立てて弾が飛び出した。薬莢が落ちてカランと音を立てた。弾は彼女の思いとは外れた場所に着弾した。的の中心からは逸れている。

「おお、お見事。初めて撃って的のどこかに当てるなんて才能あるな」

「お世辞のつもり? あなたはどうなの?」

「これでも訓練したぜ」

 彼の毛深い色黒の腕が伸びた。重心は安定している。プロの構えだ。彼はしっかりと的を見据え、引き金を引いた。

「うん、まずまずだ」

 彼はゆっくりと拳銃を下ろす。新出の視線の先には目をやった。弾はしっかりと的の中心をとらえていた。正確に相手の急所を射抜いていた。生身の人間なら死んでいるだろう。

「ずいぶん訓練したのね」

「したさ。あいつには負けたくないからね」

「相棒?」

「そうさ」

「よくわからないわ。男のライバル心なの?」

「そうでもない。銃の腕前だけは彼に負けていた。そこが嫌だっただけさ」

「一つぐらい彼に勝たせてあげてもいいでしょうよ」

 他は全部自分が優れているといいたいわけだ。相手も彼の本心を聞いたら相棒なんて続けなかったのではないか。

「うぬぼれないでよ」

「違うさ。事実を言っているだけだ」

「そういうのをうぬぼれって言うのよ」

 新出は笑っていた。そしてこう返したのだ。

「よく言われる」
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