七宝物語

戸笠耕一

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第3章 戦い開始

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 南都。かつて最大の海運国として栄えた国だった。海の向こう側にある黄金の国と通商し、なされた贅は伍の国のみならずこの世全体を覆っていった。

 ただ国の繁栄はいつの事態も王とともにある。王が倒れた時、多くの国はその隆盛を終え、衰退に入る。緩やかないい下り坂もあれば、負担のかかる急な下り坂もある。

 南都は、不幸なことに後者だった。

 商いで財を成したものはとうの昔に逃げ出し、残った一般の国民は、隣国の侵略になけなしの財産や家族を強奪されていた。火炎が都の端々で上がっている。悲鳴や怒号また同様だ。

「おやめくだされ!」

「どけ、お前のようなものに用はない! 娘、こっちにこい!」

「いやあ!」

 男たちが一つの家族を取り囲んでいた。彼らの目的は金銀のほかに可憐な若い女を所望していた。

「烈王様は、金銀のみならず女子をご所望だ。どれ、そこの娘を献上する前に我々が吟味してやろう」

「おお、そうさ。これほどありがたいことはあるまい。王の王たるお方のお妃になれる機会を与えられたのだ」

「いやです!」

「家族は――ここで死にさらせ」

 おお、という父親のむさしい叫びと、娘の悲痛な叫びが交差した。男たちはそれでも笑っている。他人の者を生来より生業としていたから、まったくそこに感情が入る余地などない。あるとしたら快楽へのさらなる追求のみ。

「お父さん!」

 父は無残に、胸を槍で貫かれドウっと倒れ込んだ。

「さあ来るのだ。我らを楽しませるがいい」

 この光景は南都のいたるところで繰り広げられていた。道の方々に、死体が散らばり、烏がついばむ。肉に飢えた者たちが彩る暗黒の都と化していた。

 男たちは自分たちの根城に娘を連れ込んだ。そこには同じように金銀や女を連れ込み侍らせていた。主たる王が来るのはまだ先だ。それまでに堪能できるものはやっておく必要があった。

「生きのいい女が一人見つかったぞ」

「さあこっちに来て酒を注ぐのだ」

 男たちはガハハハッと大声で笑い合う。その笑い声が響き渡るたびに女たちは小さく縮こまっていた。

「王のいない国ほど攻略がたやすい国はないな」

「まったくだ。南都にこんなにもいい女子がいるとは。お前何人引っ張ってきた?」

「8人だ」

「はは、残念俺は9人だ」

「ほお!」

「こうして何人集めておけば、多額の報酬を王はお約束されている。集まった金で、うまい酒や女を買う。世の中これの繰り返しで、成功するってわけだ!」

 男の1人がでかい声で笑うとまた便乗してほかの者が続いた。

 その時、彼らがいた伍の王の庭がぐらぐらと揺れる。

「おい、揺れていないか?」

「なーに、お前が酔っているだけさ」

「いや本当に揺れているぞ!」

 酔いに潰れかかった火の国の兵たちが口々に身の異変に叫んだ。

 地鳴りがしている。馬のいななきが聞こえる。すぐ近くに何かが差し迫っている。男たちの目に焦りが生じていた。

 だが彼らが焦りを隠せなかったのは、誰が自分たちを攻めようとしていて、どこから挑んできているか分からないからだ。おまけに彼らの体は酒のおかげで正常な判断ができなかった。

 ピュッという音がして一筋の矢が飛んできた。

「ぐああ!」

 一人が倒れる。

 烈王の兵たちは剣を抜くが、誰もがプルプルと震えていた。

 ワ~という喚声が響き渡ると銀色の甲冑に身に包んだ兵士たちが、現れた。たちまちのうちに切り合いになる。

 戦いはあっけなく方がついた。そこにいた烈王の兵は切られるか、捕らえられた。捕らえられていた女たちは解放される。

 南都の戦いが始まる。宣戦布告のない烈王が率いる同盟軍と、西王が率いる連合軍が初めて激突した。

 5万の兵を南都に進出させた同盟軍は、わずか数日で南都を占領したが、この状況に西王は奇襲作戦を展開した。

 連合軍の先発隊総大将は、流星。のちに新たなる伍王となる存在だ。かくして南都の戦いを起因とした西烈戦争が始まる。
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