106 / 156
終章 決起
32.西王の策略
しおりを挟む
和議は成った。烈王が席を離れて自身の陣地に戻るのを確認した。西王もまた自身の住まいに戻る。行政府に帰るとすぐに集められていた軍の高官たちに今後の作戦について説明した。
「殿下、和議を結ばれたという話。せめて我々にも」
「時間がありません。国内には烈王のスパイもおるでしょう。漏洩も恐れて我が胸中にこれから話すことを直前まで
内に秘めておりました」
西王は、しまい込んできた考えをその場にいる者に話始める。私が守りに徹し続けていたのは兵や民の命を守るた
め。戦いは長期化すれば、敵兵の兵糧は尽きる。飢えに苦しむ敵に守りを解き猛攻を仕掛ける。当方の圧倒的な強さ
に敵の戦意を挫かせ、こちらに有利な条件で和睦する。そして和睦で帰路につく敵を背後から強襲し、敵をせん滅す
る。
彼女の思い描いた作戦に、軍の高官たちもまた顔色を変える。
場が落ち着いたとき、高官たちから質問が飛んだ。
「和議を結ばずとも、正面切って攻め滅ぼすので良かったのでは?」
「そうです。敵は遠方よりの襲来。食糧も尽きかかり、弱っている。わが軍の一撃をもってすれば――」
軍人たちの意見に対し、西王は静々と説明する。
「いくら弱っているとはいえ、敵は強兵。こちらの損害は大きなものになるでしょう。ならば、敵が安心して帰路に
ついている今こそ好機。背後から一気に軍勢を叩き滅ぼすのです」
彼女の言葉に、一同静かになる。
重々しい空気の中で一人が発言する。年は七十近く、白くなった髭はキチン整えられ、たるんだ皺の奥に宿る眼光は鋭かった。
「ですが、当方は約束を破ったというそしりを世間から受けませぬか?」
「問題ありません」
老人の問いに答えたのは意外にも、その場で一番若い士官だった。
「ほう、なぜかな?」
若い士官に老人は聞いた。
「烈王の悪評は、地に広まりつくしております。彼こそ約定を些かも守らぬ男はおりません。やつは逆臣なのです。そのような者との約定など何の意味などありません。一方こちらは、聖女陛下を奉じ、この世の安寧秩序のために戦っておる。殿下には義がございます。敵が油断している今こそ、諸国と連携し烈王とその兵を滅ぼすときです!」
よく言いました、と西王は言葉を発す。
「そう、烈王の害悪は世の大地を焦がし、川を干からびさせ、家を焼く。この最大級の害悪を取り除くために、きれいな手ばかりを使ってはいられません。毒は毒をもって制すほかにないのです」
西王の言葉は会議の終わりを意味していた。すべては王の意のままに。その後の行動は実に迅速だ。周辺国に出兵するよう伝令が各地に飛ばされた。西王は、胸中に隠された謀を抱え込みあたかも武装解除したそぶりを見せていた。
烈王の兵は、多数の大砲や弓矢といった武器を片付け、徐々に戦場にいた兵たちを暫時撤退されていく。和議が成ってから一週間。烈王軍は、全軍撤退した。
「殿下、和議を結ばれたという話。せめて我々にも」
「時間がありません。国内には烈王のスパイもおるでしょう。漏洩も恐れて我が胸中にこれから話すことを直前まで
内に秘めておりました」
西王は、しまい込んできた考えをその場にいる者に話始める。私が守りに徹し続けていたのは兵や民の命を守るた
め。戦いは長期化すれば、敵兵の兵糧は尽きる。飢えに苦しむ敵に守りを解き猛攻を仕掛ける。当方の圧倒的な強さ
に敵の戦意を挫かせ、こちらに有利な条件で和睦する。そして和睦で帰路につく敵を背後から強襲し、敵をせん滅す
る。
彼女の思い描いた作戦に、軍の高官たちもまた顔色を変える。
場が落ち着いたとき、高官たちから質問が飛んだ。
「和議を結ばずとも、正面切って攻め滅ぼすので良かったのでは?」
「そうです。敵は遠方よりの襲来。食糧も尽きかかり、弱っている。わが軍の一撃をもってすれば――」
軍人たちの意見に対し、西王は静々と説明する。
「いくら弱っているとはいえ、敵は強兵。こちらの損害は大きなものになるでしょう。ならば、敵が安心して帰路に
ついている今こそ好機。背後から一気に軍勢を叩き滅ぼすのです」
彼女の言葉に、一同静かになる。
重々しい空気の中で一人が発言する。年は七十近く、白くなった髭はキチン整えられ、たるんだ皺の奥に宿る眼光は鋭かった。
「ですが、当方は約束を破ったというそしりを世間から受けませぬか?」
「問題ありません」
老人の問いに答えたのは意外にも、その場で一番若い士官だった。
「ほう、なぜかな?」
若い士官に老人は聞いた。
「烈王の悪評は、地に広まりつくしております。彼こそ約定を些かも守らぬ男はおりません。やつは逆臣なのです。そのような者との約定など何の意味などありません。一方こちらは、聖女陛下を奉じ、この世の安寧秩序のために戦っておる。殿下には義がございます。敵が油断している今こそ、諸国と連携し烈王とその兵を滅ぼすときです!」
よく言いました、と西王は言葉を発す。
「そう、烈王の害悪は世の大地を焦がし、川を干からびさせ、家を焼く。この最大級の害悪を取り除くために、きれいな手ばかりを使ってはいられません。毒は毒をもって制すほかにないのです」
西王の言葉は会議の終わりを意味していた。すべては王の意のままに。その後の行動は実に迅速だ。周辺国に出兵するよう伝令が各地に飛ばされた。西王は、胸中に隠された謀を抱え込みあたかも武装解除したそぶりを見せていた。
烈王の兵は、多数の大砲や弓矢といった武器を片付け、徐々に戦場にいた兵たちを暫時撤退されていく。和議が成ってから一週間。烈王軍は、全軍撤退した。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
異世界転移したロボ娘が、バッテリーが尽きるまでの一ヶ月で世界を救っちゃう物語
京衛武百十
ファンタジー
<メイトギア>と呼ばれる人型ホームヘルパーロボット<タリアP55SI>は、旧式化したことでオーナーが最新の後継機に買い換えたため、データのすべてを新しい機体に引継ぎ、役目を終え、再資源化を迎えるだけになっていた。
なのに、彼女が次に起動した時にいたのは、まったく記憶にない中世ヨーロッパを思わせる世界だった。
要人警護にも使われるタリアP55SIは、その世界において、ありとあらゆるものを凌駕するスーパーパワーの持ち主。<魔法>と呼ばれる超常の力さえ、それが発動する前に動けて、生物には非常に強力な影響を与えるスタンすらロボットであるがゆえに効果がなく、彼女の前にはただ面倒臭いだけの大道芸に過ぎなかった。
<ロボット>というものを知らないその世界の人々は彼女を<救世主>を崇め、自分達を脅かす<魔物の王>の討伐を願うのであった。
龍騎士イリス☆ユグドラシルの霊樹の下で
ウッド
ファンタジー
霊樹ユグドラシルの根っこにあるウッドエルフの集落に住む少女イリス。
入ったらダメと言われたら入り、登ったらダメと言われたら登る。
ええい!小娘!ダメだっちゅーとろーが!
だからターザンごっこすんなぁーーー!!
こんな破天荒娘の教育係になった私、緑の大精霊シルフェリア。
寿命を迎える前に何とかせにゃならん!
果たして暴走小娘イリスを教育する事が出来るのか?!
そんな私の奮闘記です。
しかし途中からあんまし出てこなくなっちゃう・・・
おい作者よ裏で話し合おうじゃないか・・・
・・・つーかタイトル何とかならんかったんかい!
忘れられた元勇者~絶対記憶少女と歩む二度目の人生~
こげ丸
ファンタジー
世界を救った元勇者の青年が、激しい運命の荒波にさらされながらも飄々と生き抜いていく物語。
世の中から、そして固い絆で結ばれた仲間からも忘れ去られた元勇者。
強力無比な伝説の剣との契約に縛られながらも運命に抗い、それでもやはり翻弄されていく。
しかし、絶対記憶能力を持つ謎の少女と出会ったことで男の止まった時間はまた動き出す。
過去、世界の希望の為に立ち上がった男は、今度は自らの希望の為にもう一度立ち上がる。
~
皆様こんにちは。初めての方は、はじめまして。こげ丸と申します。<(_ _)>
このお話は、優しくない世界の中でどこまでも人にやさしく生きる主人公の心温まるお話です。
ライトノベルの枠の中で真面目にファンタジーを書いてみましたので、お楽しみ頂ければ幸いです。
※第15話で一区切りがつきます。そこまで読んで頂けるとこげ丸が泣いて喜びます(*ノωノ)
かの世界この世界
武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
人生のミス、ちょっとしたミスや、とんでもないミス、でも、人類全体、あるいは、地球的規模で見ると、どうでもいい些細な事。それを修正しようとすると異世界にぶっ飛んで、宇宙的規模で世界をひっくり返すことになるかもしれない。
斬られ役、異世界を征く!!
通 行人(とおり ゆきひと)
ファンタジー
剣の腕を見込まれ、復活した古の魔王を討伐する為に勇者として異世界に召喚された男、唐観武光(からみたけみつ)……
しかし、武光は勇者でも何でもない、斬られてばかりの時代劇俳優だった!!
とんだ勘違いで異世界に召喚された男は、果たして元の世界に帰る事が出来るのか!?
愛と!! 友情と!! 笑いで綴る!! 7000万パワーすっとこファンタジー、今ここに開幕ッッッ!!
王女様は聖女様?いいえ、実は女神です(こっそり)~転生王女は可愛いもふもふと愛するドラゴンを守るため最強の仲間と一緒に冒険の旅に出る~
しましまにゃんこ
ファンタジー
アリシア王国の第3王女ティアラ姫には誰にも言えない秘密があった。
それは自分が全属性の魔力を持ち、最強のチート能力を持っていた「建国の賢者アリシア」の生まれ変わりであること!
8才の誕生日を境に前世の記憶を取り戻したものの、500年後に転生したことを知って慌てる。なぜなら死の直前、パートナーのドラゴンに必ず生まれ変わって会いにいくと約束したから。
どこにいてもきっとわかる!と豪語したものの、肝心のドラゴンの気配を感じることができない。全属性の魔力は受け継いだものの、かつての力に比べて圧倒的に弱くなっていたのだ!
「500年……長い。いや、でも、ドラゴンだし。きっと生きてる、よね?待ってて。約束通りきっと会いにいくから!」
かつての力を取り戻しつつ、チートな魔法で大活躍!愛する家族と優しい婚約者候補、可愛い獣人たちに囲まれた穏やかで平和な日々。
しかし、かつての母国が各国に向けて宣戦布告したことにより、少しずつ世界の平和が脅かされていく。
「今度こそ、私が世界を救って見せる!」
失われたドラゴンと世界の破滅を防ぐため、ティアラ姫の冒険の旅が今、始まる!
剣と魔法が織りなすファンタジーの世界で、アリシア王国第3王女として生まれ変わったかつての賢者が巻き起こす、愛と成長と冒険の物語です。
イケメン王子たちとの甘い恋の行方もお見逃しなく。
小説家になろう、カクヨムさま他サイトでも投稿しています。
プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜
ガトー
ファンタジー
まさに社畜!
内海達也(うつみたつや)26歳は
年明け2月以降〝全ての〟土日と引きかえに
正月休みをもぎ取る事に成功(←?)した。
夢の〝声〟に誘われるまま帰郷した達也。
ほんの思いつきで
〝懐しいあの山の頂きで初日の出を拝もうぜ登山〟
を計画するも〝旧友全員〟に断られる。
意地になり、1人寂しく山を登る達也。
しかし、彼は知らなかった。
〝来年の太陽〟が、もう昇らないという事を。
>>>
小説家になろう様・ノベルアップ+様でも公開中です。
〝大幅に修正中〟ですが、お話の流れは変わりません。
修正を終えた場合〝話数〟表示が消えます。
私、凄いスキルが遺伝しました。
龍夢
ファンタジー
最近は最初から強いチート系の作品が多いので、ある程度成長過程のある作品にしました。ただし、物語はだいぶスローペースだと思います。
◇ ◇ ◇
私の名前はアイシャ。
この物語は、私がS級冒険者になるまでの成長と冒険の物語です。
今はまだ駆け出し冒険者ですが、ママから遺伝した? スキルでS級冒険者を目指し頑張ります。
どんな傷でも治ってしまう再生能力、そして、よくはわからないんだけど、『そこに在る』と思えば、何処かに繋がって物を出し入れ出来る便利能力。この二つだけが、今私が持っている力の全てです。
母(エリーゼ)・職種(魔術師)
【肉体再生能力・空間操作能力・不老・その他不明】
肉体年齢は十九歳の時に固定された。いろいろ隠し事が多い。
娘(アイシャ)・職種(剣士)
【肉体再生能力・空間操作能力・その他不明】
歳は十八歳。まだまだ成長予定。
ーーーーーーーーーーーーーーー
スマホでの入力の為、誤字脱字等は後で修正します。もし指摘等ありましたら感想等に宜しくです。
龍夢
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる