孤島に浮かぶ真実

戸笠耕一

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第三部

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 早朝、外のかすかな走行音で目覚めた。ついでにトイレに向かった。室内はどうもガランとしていた。

「パパ、ママ……」

 気になり尾坂夫妻の寝室をノックしたが、何も反応がない。とびらは開いた。

 寝室は誰もいない。急に出て行くわけでもあるまい。何かあったのだ。

 両親の部屋にも思い出があるかもしれない。記憶を呼び起こす何かが潜んでいる可能性は大いにある。

 千里の健忘症逆行の治療方法についての言葉が頭に響いた。何か妙な拍子に記憶は蘇ることも捨てきれない。

 理佐は引き出しを開けてみる。中をごそごそといじっていると気になる冊子が出てきた。

 里親制度。薄い数ページの冊子を開くと尾坂夫妻の経歴がかかれてあった。上岡洋子。一体誰なのだろうか。

 何の目的で里親制度に登録したのか。理佐の頭が目まぐるしく動いた。この家には自分の前に誰か住んでいた。

 スーツケースにあった異臭の正体とは何だろう。

 二階の一番奥の物置部屋が気がかりだ。あそこには色々雑多なものが置いてあった。

 理佐はこっそり物置部屋に忍び込もうとしたが開かなかった。鍵がかかっている。

 朝日によって中の様子はわかる。ゴルフバックや釣り竿などいろいろなものが立てかけられていた。

 確かこの辺りじゃ……

 ない。ラックがあってその隣にはじっとスーツケースが置いてあった場所を見ていた。置いてあったはずのものが忽然と姿を消していた。

 何でないの?

 自分が寝ている間に運び出したのか。理佐は背後の人の気配に気づかなかった。

「あらおはよう、理佐ちゃん。物置部屋には入らないでねって言わなかったかしら?」

 優しい声だったが、どこか不気味な雰囲気を立ち込めていた。理佐はごくりとつばを飲み込んだ。

「ごめんなさい。トイレに行こうとしたら間違えて入ってしまったの。ママ、どこにいたの?」

「私のことなんてどうでもいいわよ。二階にはトイレはないのよ。次からは気を付けてね。お母さん、ずっと見ているから」

 理佐は部屋に戻った。あそこには絶対置いてあったものがあった。腐った卵のような臭いは何だ。

 夜中にトイレに行ったことがなぜばれたのだろうか。慎重に音を立てないよう警戒したのに。

 ハッとひらめいた。部屋の中に盗聴器があるのではないだろうか。真夜中にトイレに行ったこともわかってしまう。

 真夜中に聞いた会話が本当なら自分は理佐ではない。でも親を名乗る二人組は自分を娘と言い、住む場所を与えている。目的があるはずだ。とにかく記憶を取り戻し、ここから逃げ出そう。

 自分が何者かをまずは調べないといけないために、障壁となるものを除かないといけない。

 自分ならどこに仕掛けるか。ざっと理佐は部屋を見渡した。普段触らないような場所で、盗聴器を仕掛けるのに適した場所を探した。

 ガチャガチャと動かしていたら、コンセントのカバーは外れる。中に手を突っ込むと黒い四角いものが出てきた。

 盗聴器だ。本当の予想は当たってしまった。下の二人は人知れず自分の生活を見張っていたわけだ。

 疑惑は確信に変わる。一刻も早く自分の記憶を取り戻してこの家から逃げ出さなければいけない。

 理佐はある計画を考えていた。どんなに取り繕っても変え難いものを調べることだった。
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