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番外編 ドレスをもらった話
しおりを挟む番外編です。本編の雰囲気と違いはあまりないですが、本編とは分けて単体でお楽しみいただければと思います。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「りりな。」
現れた途端満面の笑みを浮かべたレオンに、今日は一段と機嫌が良さそうだなと思った。
レオンの顔の良さに慣れることはないけど、耐性は付いてきた。破壊力満点の微笑みで見つめられても見返せるようになったし、可愛いって言われたらレオンも可愛いって言い返せるようになった。
可愛いって言われたレオンは不満そうだったけど。
でも今日のはいつもと違って、なんだろう?少し興奮してる感じがする。見ると後ろ手に何か隠している。首を傾げて近づくと、何かを嬉しそうに差し出された。
「今日はりりなに贈り物を持ってきた。」
「ありがとう?」
後ろに隠せていたとは思えないほど大きな箱だ。金と緑の刺繍が入ったリボンが掛けられている。
テーブルに置いてくれたので、心なしかわくわくした顔で見つめてくるレオンに開けていい?と一言断ってから丁寧にリボンを解いて蓋を開けて、
絶句した
そこには、美しいドレスが収まっていた。
照明を受けて輝くのは至る所に縫い付けられた緑色の石で、いつかのレオンのジャケットを思い出す。手に持ってみると重厚感があり、肌触りの良い布地はそれだけで高級なものとわかる。袖は肘下からは切り替わってふわりと広がり、どうやって箱の中に収まっていたのかわからないボリュームのあるスカート部分は薄いチュールが幾重にも重なり、ここにも散りばめられた小さな宝石が星のように煌めいている。全体的に緑と白で纏められていて差し色の金糸が華やかな印象に仕上げていた。
ドレスだ。いつかレオンが言っていたドレスを、本当に作って持ってきたんだ。
リップサービスを言うような人ではないことはわかっていたけど、正直ダンスの後に少し話題に出ただけであれ以来何もなかったから流れたものと思っていた。
あの夜の記憶と一緒に次の日筋肉痛に悩まされたことも思い出す。
背筋に冷や汗が流れた。これ、総額いくらなんだろう。ドレスの相場なんてわからないけどきっととてつもなく高いに違いない。
レオンはものすごく期待した顔でこちらを見ている。こんな高いもの貰えないという気持ちと、断ってレオンを悲しませたくないという気持ちがせめぎ合う。けど、いつからか優先するのは自分よりもレオンの方だった。
「・・・ありがとう、すごく素敵だね!」
精一杯の笑顔を浮かべるとレオンも嬉しそうに微笑む。
手を優しく取られた。
「これを着て、ぜひ私と踊ってもらえないだろうか。」
ごくりと唾を飲み込む。勇気を出せ、りりな。私はやればできる子。
ドレスを掴む手が緊張で震える。
「もちろん。じゃあ、ちょっと着替えてくるね。」
自室に戻ってまずは少しメイクをした。いつもほとんどしないけど、流石にこのドレスにノーメイクは浮いてしまう。髪はどうしようか悩んで、ハーフアップにして箱に掛かっていたリボンを付ける。ドレスの着方は簡単にレオンに教えてもらったから慎重に袖を通していった。
胸元は薄いレースで覆われているけど思ったより襟ぐりが開いていて落ち着かない。にしてもサイズ感ぴったりだ。レオンが指定したんだろうけど、目測でよくわかるなと感心する。裾は靴を履かないでちょうどいいぐらいの長さになっていた。こう言う細かいところまで配慮されているのがレオンらしい。
鏡に映った自分を見る。
・・・悪くないんじゃない?
ドレスの豪華さに負けてる気もするけど、見苦しくはないと思う。何度かクルクルと回っておかしなところがないかチェックしてから、レオンが待つ一階に向かった。
階段の手すりを掴んでゆっくりと降りる。
別に勿体ぶっているわけじゃなくて、裾を踏んで転ぶのを避けるためだ。ちょっと踏んだだけでレースが破けそうで怖い。
降りながら下で待つレオンに目を向ける。
レオンは私に気づいて顔を上げた途端しばらく固まったように動きを止めたけど、はっとしたあと階段の方へ歩いてきた。レオンが階段の下で立ち止まったので私もあと3段のところで立ち止まる。今日のレオンは金糸で刺繍が施された黒いジャケットを着ていた。髪も以前のように上に上げており額が出ているから目元が良く見える。その目が眩しそうに細められた。
「あまりの美しさに、女神が降りてきたのかと思ったよ。」
うぅ、どうしてこんなくさいセリフが似合うんだろう。きっと他の人が言ったら笑っちゃうような言葉も、レオンが言うと馴染むのがすごい。
レオンは慣れた動作で上体を傾けると、階段の上にいる私に片手を差し出した。
「美しい人、貴女と踊る栄誉を私に頂けますか?」
熱を帯びた瞳が私を写す。
レオンの瞳から目を逸せないまま、差し出された手を取った。
ステップを覚えてるか不安だったけど、レオンがリードしてくれるからなんとか大丈夫そう。
今日のBGMはクラシックを小さく付けている。
腰を引き寄せられ身体が触れる。見上げると至近距離でレオンと目があったけど、すぐにふいっと顔ごと横に逸らされた。
「レオン?」
「・・・綺麗すぎて、直視できない。」
見ると耳の先がほんのり赤く染まっている。
珍しい。レオンが照れているとこなんて初めて見た。可愛くてふふっと笑ってしまうと悔しそうにこちらを見る。
「似合ってる?」
「想像以上に。可愛すぎて誰にも見せたくないぐらいだ。」
「レオンにしか見せないよ。」
だってこっちの世界ではこんなドレスどこにも着ていけない。
レオンはぎゅっと目を瞑って天を仰いでいた。一つ息を吐くと改めて手を握り直される。
「いくよ。」
前と同じように滑らかに踊り始める。
「足踏んじゃったらごめんね。」
「りりなに踏まれてもニンフィスに踏まれるようなものだよ。」
「ニンフィスって?」
「両手ぐらいの愛らしい見た目の長命獣だ。」
「流石にそれよりは痛いと思うよ。」
「見た目に似合わずとても凶暴らしい。」
「ちょっと。」
「滅多に人前に姿は現さないから、私もまだ見たことはないけれど。」
「レオンも?」
「見た者は2度と遭遇したくないと言っていた。」
「可愛いものほど裏があるって言うもんね。」
じっと見つめられた。
「なんで私を見るの?」
「いや、りりなはこんなに可愛いのに裏がないと思って。」
「あるかもしれないよ。」
「そう、例えば?」
「・・・私が好きじゃない味のお菓子ばっかりレオンに食べさせてる。」
「それは知らなかった。」
レオンが喉の奥で楽しそうに笑う。
絶対知ってた。なんならちょっと前からわざと私が好きじゃない味を紛れ込ませてるんじゃないかと疑っていた。なぜか?私に食べさせてもらうために決まってる。
誰にも聞かれないのに、耳元で小声で言い合う。
この日は途中で休憩を挟みながら踊り続けた。お互い離れがたくて、時間が許す限りずっとくっついていた。
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