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あなたのことが知りたい
しおりを挟む「こんばんは。」
異世界からの訪問者であることが発覚した翌日。
再び魔法陣と共に現れた彼にまずは挨拶をする。
いきなり話しかけられたことに少しびくっとしていたけれど、彼も慣れてきたのか穏やかにこんばんはと返してくれた。
昨日と同様高そうな細工が施された椅子に座っている。
ふと、疑問に思って聞いてみた。
「そういえば初日ティーカップを持ってましたけど、触れているものは一緒に移動するんですか?」
「ああ、そうみたいだな。さっきまで飲んでいたけれど、ちょうど魔法陣が光り始めたから置いてきた。」
なぜかふいっと横を見ながら返答されたが、
予想通りの答えにふむふむと頷く。
じゃあきっと椅子も触れている判定で一緒に転移しているんだろう。
2日目は立った状態だったもんね。
私が一人納得していると、少し逡巡するようなそぶりを見せた後に彼が口を開いた。
「向こうにいる間に魔法陣のことを調べてみたが、今のところそれらしいものは見つからなかった。
・・・私は原因と結果は必ず一致すると考えている。
この現象にも何かしらの理由があるのなら、今後の方針を決めるためにもまずはお互いを知ることから始めてみないか?」
その言葉にちょっと驚いた。と、同時に過去の嫌な思い出が蘇って少しだけ身体に力がこもる。
どこか私のことを警戒しているようだったから、彼からそういった提案をされるとは思ってなかったな。
今日もお供をしてくれているるるちゃんを縋るように握りしめた。
お互いのことかぁ・・・。
魔法のことしか頭になかったけど確かに考えてみたら今の状況は見知らぬ男性と二人きりな訳だし、色んな意味で相手のことを知る必要はあるのかも。
・・・ほんとは、あまり自分のことを話すのは好きじゃない。
2年前のあの出来事からなるべく人と関わることを避けてきたけど、この現象が今後どんな展開に転ぶか分からないし、彼の言うように"原因と結果"があるのなら、早めに解決方法を探るべきだとも思う。
それに、と過保護な叔父を脳裏に思い浮かべる。
今は撮影で海外にいるけど急に帰国することもあるし、もし今叔父さんが帰ってきて彼を見たら卒倒しちゃうかもしれない。
「そう、ですね。何が解決の糸口になるかも分からない状況では、今出来る限りのことを試してみるべきだと私も思います。」
私の返答を聞いて彼は一度頷くと、椅子から徐に立ち上がりこちらを向いて、右手を胸に当てた。
真摯な色を宿した瞳と視線が絡む。
「祖国アル・ルクレイティアでは第一師団で獣魔騎士をしている、レオン・ザイツフェルドだ。
突然このような事態になり、婦女子の家に許可なく足を踏み入れざるを得なかった状況を申し訳なく思う。
・・・すぐに信用しろとは言えないが、決して貴女に危害を加えるつもりがないことを祖国と剣に誓おう。」
そう言って彼、レオンはとても綺麗な所作で頭を下げた。
いつもと変わらない自宅のはずなのに、そこだけがまるで絵画の中のようだと思った。
神聖さすら感じる美しさに言葉もなく見つめてしまう。
初めて目にした時から綺麗な人だとは思っていた。
けれど、いま私が感じているのはそれとは別の、彼の内面から滲み出るものな気がする。
ほぼ初対面の自分に対して礼を尽くそうとしてくれるその姿勢に、胸の奥から何かが込み上げてくるのを感じた。
どのくらいそうしていたんだろう。
遠くから聞こえるクラクションの音に我に返る。
レオンが頭を下げ続けたままなことに気づき慌てて私も立ち上がった。
やばい、思いっきり見惚れてしまった。頬が熱い。
「顔をあげてください!あなたの、レオンさんのせいではないんですから!こちらこそ、不束者ですがよろしくお願いいたします!」
てんぱって変なことを言ってしまった。
顔をあげたレオンがどこかほっとした表情で微笑む。
その表情に、ますます顔に熱が集まるのを感じて思わず視線を外した。
「ありがとう。私の事はレオンでいい。貴女のことを聞かせてもらえるだろか?」
「私は各務りりな。各務が苗字です。いまは医大・・・医療専門の学校で学んでいて、この家は日本の首都・東京にある私の叔父のものです。」
それから、少しお互いの家族のことを話した。
レオンは小さい頃に母親を亡くして、父親と弟2人の四人家族で暮らしているらしい。
私も両親はいないこと、訳あって今は叔父さんの家にお世話になっていること、日中は大学に行っていて夕方は図書館でアルバイトをしていることを話した。
私の表情から両親のことにあまり触れて欲しくないことを察してくれたのか、自然に他の話題を振ってくれる。
レオンはうちにメイドがいないことを不思議がり、そこから話が広がって日本には貴族制度がないことを話したら衝撃を受けていた。そしてやっぱりレオンは貴族らしい。私の直感は当たっていた。
ちなみにここ何日か転移を経験して、魔法陣が作動する気配がわかるようになったようで、話の途中でレオンがふいに顔を上げる。
「そろそろだな。」
「ではまた、明日もよろしくお願いします。」
「ああ、また。」
こちらを見て小さく笑みを浮かべるレオンの足元に魔法陣が広がりその姿が消える。
時計を見ると25分ほどが経っていた。
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