フランクリン・ヘイズの人生

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子供時代

No.8 リスの死体

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次の日、僕は初めてかぶりものを着ないで外に出た。ゴッダードさんが良いと言ってくれたから。
家の中に居るみたいに体が軽くて、歩きやすかった。

シャクシャクと、今まで聞こえなかった音が聞こえる。雪を踏む音だった。
シャクシャクとした音が楽しくって、僕は走り回る。

そのうちこけてしまって、雪の上に転がった。

雪はとても冷たくて、気持ちが良かった。
目の前では太陽がキラキラと光って、僕を照らしている。

「痛っ」

手に、鋭い痛みが走った。
直ぐに起き上がって辺りを見渡すと、とても小さい動物がそばに立っていて、手を見ると、指から血が流れているのが分かった。
小さな動物はとても痩せていた。

「お腹すいてるの?」

小さな動物は僕の声なんか気にもしないで、ただ僕を見つめている。

「これ、あげる」

僕は小さな動物に、ゴッダードさんから貰った木の実を自分の手に乗せて差し出した。
小さな動物は、とぼとぼと僕の方に近づいてきて、少しづつ、手の上にある木の実を食べた。

「美味しい?」

小さな動物は当たり前だけど、何も答えない。手の上にあるものを全て食べてから、急ぎ足で森の中へと消えていった。

僕は小さな動物を追いかけて、森の中に入る。
少し歩くと小さな窪みがあるのが分かって、覗いてみるとさっきと同じ、小さな動物が居た。

「もっと、食べる?」

僕はポケットから木の実を出して、窪みの前に並べた。
さっきより多めに出したのに、小さな動物は食べないし、動かなかった。

「もっと、欲しいの?」

僕はそう思って、ポケットからゴッダードさんに貰った分を全て出して、窪みの前に置いた。

「何で、食べないの?」

そんな僕の言葉にも小さな動物は反応しないで、背を向けている。

小さな動物は少しも動かない。まるで時間が止まっているみたいだった。

「ほら、これで食べれる?」

自分の手に乗せて差し出しても、小さな動物は動かなかった。
なんで動かないのかがわからなくて、僕は手を伸ばして、小さな動物を触れてみた。

「寒いの?」

小さな動物の体はとっても冷たくて、持ち上げてみても動かなかった。
ゴッダードさんの所へ連れて行ったら治してくれるはず。僕はそう思って、家の方へ小さな動物を持って歩いて行った。

シャクシャクと、雪を踏んで、僕は家へと戻る。ドアを開けて、ゴッダードさんの所へ行く。

「ねぇ、ゴッダードさん。これ、治してほしいな」

「ん?ああ、もうすでに死んでる。死んだ者は治せない」

僕はその言葉を聞いて、すぐに飲み込むことができなかった。
さっきまで僕の手に乗った木の実を食べていたのに、今はもう死んじゃっているだなんて。

「これ、なんていう名前なの?」

「リスだ。この時期は寝ているはずなんだが、どうやらこいつは運が悪かったらしい」

運が悪いってだけで、このリスは死んでしまうんだ。なんてあっけないんだろう。
このリスが死んでいるっていうことが分かっただけなのに、胸がドキドキするし、自分の持っているリスが、とても気持ち悪いものに見えて仕方がなかった。

僕はゴッダードさんにお礼を言って、外へと飛び出して、走った。リスは家のそばに捨てて、とにかく走り回った。
胸のドキドキを消し去りたかったし、暗い気持ちを忘れたかった。

ずっと走って、森の木の根元で休むころにはもう日が暮れていて、空は真っ赤に染まっていた。

「そろそろ帰らなきゃ」

自分が走ってきてついた足跡を辿って帰る。

家の前まで来てドアを開けると、ワインの匂いがした。

「ああ、帰って来たのか、机の上に置いてるのが晩飯だから、食べておけ」

机の上に置いているのは、パンと肉のスープ。大きく切られた肉を食べるのは大変だったけれど、美味しかった。

「美味しかった」

「そりゃあ良かった。もう一杯どうだ?」

「ううん、大丈夫、もうお腹いっぱいだから」

そういって立とうとすると、目の前がぼやけた。僕は驚いてこけてしまって、椅子の角に頭を打ってしまった。

「大丈夫か?」

ゴッダードさんの声が聞こえる。頭は何ともなかったけれど、目の前がずっとぼやけていて、気持ちが悪い。
僕はフラフラと立ち上がって辺りを見回してみる。右左、どこをみてもずっとぼやけていた。

「大丈夫だよ」

暫くすると治ったけれど、いつもと全然違う景色になって、とても怖かった。

「おやすみ」

僕はそう言って、ベッドに潜りこむ。体を丸めて、目を瞑る。暗闇の中に昼間にいたリスが浮かび上がって、僕を見つめる。
なぜだかとても気味が悪くって、気持ち悪い。
僕には何にも関係のないことのはずなのに。
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