フランクリン・ヘイズの人生

nekome

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子供時代

No.6 いつも通りの日

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僕はまじまじと、板に映る僕を見る。
ゴッダードさんはずーっと何か言っていたけど、僕の耳にはもう聞こえなかった。
僕には、驚いた顔で僕を見つめる、僕しか見えていなかった。

それからは何があったのか覚えていない。多分、寝ちゃったんだと思う。
でも、気づいたら僕の家のベッドの上に居たし、体も軽くなっていた。
お父さんもお母さんもいつも通り、まるでゴッダードさんの家に行ったことが嘘みたいに、いつも通りだった。

「おはよう、お父さん」

「おはよう!フランクリン、良い夢は見られたか?かぶりものを着ようか」

いつも変わらない様子で、お父さんは言う。

僕は静かにうなずいた。

「朝ごはんはもう出来ているから、好きな時に食べるのよ」

お母さんもいつもと変わらない、ニコニコ笑って、僕を見ている。

朝ごはんもいつもと何も変わらない。バターをたっぷり塗ったパンに、とっても温かいくるみのスープ。

味も、いつもと同じ、ちょっと甘くて、とても美味しい。

いつもと同じで、何も変わらない。怖いことなんか何もない。

僕は自分の髪を引きちぎって、確認してみた。
やっぱりとっても真っ白で、やっぱりあれは夢なんかじゃないんだと分かる。

「ねぇお父さん、僕、なんでこんな見た目なの?」

朝ご飯を食べ終わって、外に出かけようとしているお父さんに、僕はそう聞いてみた。

「気にしなくていいよ、フランクリン、大丈夫だ!そのままで良いんだよ」

そう言って僕をぎゅっと抱きしめて、お父さんは外へと行ってしまった。

「ねぇお母さん、僕、なんでこんな身体なの?」

朝ご飯を作って、お皿を洗っているお母さんにも、僕は聞いてみた。

「お母さんはフランクリンがどんな見た目でも大好きよ!気にしなくて良いわ」

お父さんと同じことを、お母さんも言う。

自分の部屋に戻って、かぶりものを着たまま、僕はベッドの中に潜って、考え込んだ。

お父さんも、お母さんも、僕の見た目が変でも良いって言ってくれた。
でも僕は、気にしないで良いか聞きたかったんじゃなくて、普通かどうか知りたかった。変じゃないよって、言って欲しかったのに。

「フランクリン!もうお昼の時間よ!ご飯食べましょう?」

お母さんが、僕を呼びにきてくれた。ベッドに潜っている間に、とても時間が経っちゃったみたいだ。

「わかった、今行くね」

僕はそう急いで、かぶりものをもう一度着る。
今まで気にしたことも無かったけれど、かぶりものから出る僕の手は、真っ白で、青い線が浮き出てて、きもちわるかった。

今日のお昼ご飯はいつも通り、パンと、とってもあったかいスープだ。

「美味しいかしら?どう?フランクリン」

そう言うお母さんはやっぱりいつもと変わらない。お昼ご飯のスープは、美味しかったような気がしたけど、頭がボワボワとして、わからなかった。

「僕、外に行きたいな」

「お母さんと一緒に行こうね、お昼ご飯を食べ終わったら準備をしなくっちゃね」

いつもと何も変わらない。変わっているのは僕だけみたいだ。一人ぼっちになったみたいで、とっても寂しかった。

お昼ご飯を食べ終わった後、お母さんは食器を片付けて、僕が外に出るためにお薬を棚から出してくれた。

「ねえ、なんで僕だけお父さんとお母さんみたいに外に出れないの?」

僕はお薬を塗って貰うために、服を脱いだ。

「子供だからよ、フランクリンはまだ子供だから、お薬も塗らなきゃいけないし、かぶりものを被らなきゃいけないの、ごめんね」

嘘だ。だって初めて外に出た時に、僕以外にかぶりものを着ている子はいなかったし、皆んな家の中にいるみたいに走り回っていた。

お母さんは嘘つきだ。僕が皆んなと違うからだって、ゴッダードさんみたいに教えて欲しいのに。

「やっぱり良いよ、外に出なくて良いよ」

そう言って、僕は自分の部屋に逃げ込んだ。お母さんと話すのが嫌だった。

僕はただ、知りたいだけなのに、お母さんもお父さんも、僕には何も教えてくれないんだ。

頭の中がぐるぐるとする。何も変わっていないのに、僕だけが変わっていて、怖い。

僕はベッドの上で体を丸めて考えた。どうしたら教えてくれるんだろう。知りたいことが沢山あるのに、何も知れない。
どうしたら知れるのか、考えただけで頭がいっぱいになる。

とっても長い時間が経ったとき家がうるさくなった。ドタドタと、床が騒いでいる。
部屋の外から誰かの声がする。誰だろうか。

「誰?」

僕はそっと部屋のドアを開けて、覗いてみる。

「フランクリン!昨日ぶりだな」

そう言ってゴッダードさんはドアで隠れていた僕の体を持ち上げた。

「気分はどうだ?風邪も治っただろ?」

「うん、もう元気だよ」

ゴッダードさんは僕を抱えたまま部屋に入って、ベッドの上に座った。

「話があって来たんだ」

何だろう。ゴッダードさんだったら、僕の知りたいことを全部教えてくれるのか。
そう思うと、胸がドキドキする。

「どうしたの?」

「お前は普通じゃないだろう?だから、薬も塗らなきゃいけないし服も分厚いのを着なきゃいけない」

普通じゃない。僕にとっては、とても胸がチクチクする言葉だった。

「お前は自分のことを何も知らない。それは酷だと思ってな、教えるために、俺の家に来ないかというお誘いだ」

お父さんとお母さんと違って、全部教えてくれるんだと、僕はとても嬉しくなった。

「全部、教えてくれるの?でも、お父さんとお母さんと会えなくなるのは嫌だな」

「何も、ずっと俺の家にいるわけじゃない。たった一週間だけだ」

「一週間って、どれぐらいなの?」

「七日だ」

僕が聞くと、ゴッダードさんはすぐに答えてくれる。お父さんと話すより、ずっと楽しくて、いつまでも話していたくなる。

ゴッダードさんといたほうが、楽しいのかもしれない。
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