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第六夜 暴虐の欲熱(中)
しおりを挟む「はむ…~っ…く…ッん……ぁっ…む」
やり方なんてわからない。
初めての行為に戸惑う暇くらいくれればいいのに、輝はそれさえも許さない。拒否も拒絶も許さない。絶対的な自信があるのか、それとも、口実を作るための材料作りか、輝は観察するように眺めながら優羽にすべてをゆだねていた。全責任は優羽にあるとでも言いたげに、同じ姿勢のまま動かない輝に泣きたくなる。
どれだけ必死に舌を動かそうと、輝は息ひとつ乱れない。
どれだけ必死に酸素を求めても、輝は指先ひとつ動かさない。
後ろだけでなく前からも壁に挟まれている錯覚を感じてしまいそうだと、優羽は朦朧としてきた意識で、輝のモノを咥え続けていた。
「……ッ…ん…」
苦しくて、すでに解放されたかった。
それでもどうにか相手の機嫌を損ねないように、優羽は必死に口を動かす。舌をまとわせ、こぼれおちるヨダレを飲み込むこともできずに、変わらない状況に耐え続けていた。
「…ん…ぁ…」
息の仕方がわからなくて混乱する。疲弊したアゴがつりそうになってきたが、勝手な判断でやめることは出来なかった。
ただ単純に酸素不足で力が入らなくなった優羽の手が、支えに使っていた輝の太ももから落ちていく。脱力した優羽に気づいた輝は、チッと舌打ちをこぼしてから自身の腰を後ろに下げた。
「そんなんで満たされっかよ」
「ッ!?」
つまらなさそうに息を吐いた輝に、髪を後ろに引かれたついでに、口から輝のモノも引き抜かれる。
急激な酸素の供給と解放感が優羽を襲って、大きく目を見開いた優羽は次の瞬間、床に吐くようにして嗚咽をこぼしていた。
「……ッ…ごほっ…ごほ」
はぁはぁとか細い息が肺を通り越して肩を揺らしてくる。
死を覚悟した窒息行為から逃れるためか。優羽は呼吸をなだめるために、放置されていた布の端をつかんで息が吸える喜びを味わう。口が開きっぱなしなのはこの際どうにもならない、鼻で吸い込める酸素の量は知れているのだから無理もない。
これならまだ、爪と牙で一気に殺してくれた方がましだと優羽は震えを通り越した絶望に心が折れそうになっていた。
「っ…ぁ…はぁッ…はぁ…」
そうして咳き込んだ優羽の前に輝が腰をおろして胡坐をかく。ここで優しい言葉でもかけてくれればまだ希望を持てたのに、あろうことか、輝は新鮮な空気を求めて喘ぐ優羽を真横に眺めながら苛立ったように睨み付けた。
「休んでんじゃねぇよ。さっさと、やり直せ」
「んんッ」
優羽の顔が、あぐらをかいた輝の足の間に埋まる。
今度は真上から頭を押さえつけられたせいで、四つん這いのまま輝のモノを拝む羽目になってしまったのだが、天に向かってそびえたつソレは、優羽のヨダレでイビツにひかり、脈打つ血筋が浮き立っている。
こんな状況なのに、思わずゴクリとノドがなった。
「見惚れてねぇで、さっさと咥えろ」
「──…ッ!?」
意地悪く笑う輝の声で、優羽はハッと気づいたように顔を赤く染める。
下を向いているおかげで、なんとか羞恥に染まる顔を輝に見せずにすんだが、再度咥えさせられた男根に、優羽の口内は虐(シイタ)げられていく。
優羽の頭を毬か何かと勘違いしているに違いない。重力に逆らう優羽の後頭部を輝の手は何度も自身の股座(マタグラ)に戻させる。
歯をあてないように神経を使うだけでも疲労していくに、このうえ何をどうすればいいのか見当もつかない。ようやく息が出来るようになったのに、変わったのは姿勢だけで、強制された行為の続きは先ほどと何も変わっていなかった。
「はぁ」
ぎこちない優羽の動きにしびれを切らしたのか、後頭部を押さえつけていた輝があきれたように息を吐く。
「咥えてるだけでいいわけねぇだろ。ちゃんと手も使え」
「…っ…は…ぃ……」
言われた通りに、優羽は自分を支えていた手の一方を輝の元へあてがう。顔を少し浮かせて、てかる男根を片手で軽く握りしめて、戸惑いながら輝を見上げた。
安直に「どうすればいいの?」と訳してほしかったのだが、野性的な動物にその訴えが届くとは思えない。やはり自分で活路を見出さなくてはいけないのかと、優羽は銀色の瞳からそらすように視線を下げた。
「上下にさすりながら、舌で舐めんだよ」
「…ッ…ん……」
まさかの指導に口と手がついてこない。
「むぅ…ん…ぁ…」
これ以上何をどうすればいいのか、指示するならもっと具体的に教えてほしいと優羽は輝のものを咥えながらその瞳に不満を宿す。それがどう伝わったのかはわからないが、また輝の機嫌が不機嫌の方へ少し傾いた気がした。
「ったく、全然なってねぇな。こうやって動かせっつってんだよ」
「ッン!?」
喉の奥を突かれた反動で吐き気がこみあげてくる。支えられた後頭部と下から突き上げられる律動。
「奥までもっと広げろ」
感情のない暴力が息苦しさに輪をかけて優羽の喉元を犯してくる。今度こそ抵抗の意思をこめて輝の足を両手で固定してみたのに、まったく無意味なものだった。男と女。オスとメス。同じ種族でも力の差は歴然だというのに、カミを名乗る猛獣との力の差を何で埋めろというのか。
ただ弑逆(シイギャク)される喉の奥を広げろと言われても、涙を浮かべて口を開け続けることしか出来ない。
「んっ…ぅ…はぁ…ンゥ…ぁ」
「ああ、いいぜ。そうやって俺に犯されてる顔はそそるもんがある」
「…ぅ…んぁ…ッ」
激しい口唇の動きは休まることなく優羽の喉を犯し続ける。
卑猥な音が唇から零れ落ち、朦朧とした意識のまま優羽は輝の激情を受け入れていた。
力強い動きに、ノドの奥まで侵入してくる異物。嗚咽をもらしそうになるのをなんとか堪(コラ)えながら、ひたすら時間の経過を耐えるだけ。それなのに、何度も何度も喉の奥から舌の上を通り過ぎ、出入りを繰り返す輝の行為に感じ始めている自分がいる。
不可解な心情に答えをくれる相手ではないからこそ、この現状下でも下半身に潤みを帯びているメスの自分に脳内は混乱していく。
「やれば出来んじゃねぇか」
お尻を高く突き上げたまま、あざわらう男の股に顔を埋める自分の姿は、さぞ滑稽(コッケイ)にうつっていることだろう。それでも自分の口元を伝う生暖かいヨダレと、歯をたてないようにすぼめる口から聞こえる卑猥な音は、優羽の精神までもを揺さぶっていく。
変な気持ちがわいてくる。
「…っ…んぅ…ッ…む……」
しんどい、つらい、疲れた。文句ならいくらでも出てくるはずなのに、ますます大きくなっていく口の中のものから解放されたいはずなのに、優羽は輝に動かされるまでもなく顔を上下に動かし始めていた。
口と一緒に、無意識に添えた両手も舌も輝のモノをしごきあげる。
まるで輝とは別の生き物のように脈打つ男根は、最初に咥えたときよりも、随分硬く大きく膨らんでいた。
「──…キャッ!?」
突然、引き上げられた優羽は輝の真横に突っ伏す。
目の前には床。何が起こったのか認識する暇もなく、四つん這いのまま混乱していた優羽の腰が後方に引き寄せられる。犯人はもちろん一人しかいない。
「ひッ?!」
今まで口の中にあったものが、本来収まるべき場所へ収まっていく。抵抗など意識の端にもちらつかなかった。そうされることが当然のように、優羽の身体は獣を受け入れていくことの悦びを感じ取っている。
「イヤッ…~~~ぁ…アァッ」
理性が言葉で優羽の感情を代弁する。
「こんなに濡らして嘘ついてるんじゃねぇよ」
「ヤァッ…~ッく…ぁ」
背後から押さえつけられた優羽は、秘部に侵入した輝のモノに反応して身体をのけぞらせた。
ためらいなど、微塵も感じられない。
重なるように振り落ちて来た胸板に背中を押し付けられ、高く上がった腰の間を一気に貫かれる力強さに視界がちらつく。
思わず、星を飛ばして感じてしまったなど、この暴力的な男の元で認めたくない。
「あっ…く…ッ…──」
「なに。お前、感じてんの?」
「───…ちが、アッ…っ…」
そんなハズはないと言いたくても、実際に輝の進入を許した部分は濡れて小刻みに震え、伸縮を繰り返している。内部から蜜をしたたらせ、太ももまでも愛液を染み渡らせていた。
「淫乱だな」
「アッ…違ぅ……ひ、ァ……ちが…ッ…」
「否定すんなよ。無理矢理突かれて感じてんだろ?」
半身を起こした輝が、突っ張った優羽の背筋を指先でスッとなぞる。
「やっ、らめ……だ、メッ」
「敏感に締まってんじゃねぇか」
「…っ…ちが…ッヒ…~っ~…アッ……」
これでは輝のことを獣だと馬鹿にできない。重低音に降り落ちてくる威圧的な声、荒々しい律動に、支配的な指先。どれをとっても敵うものなど見当たらない。全身が犯されているこの状況を本能的なメスとして感じているのだから、輝の言葉を否定できない。
どちらが獣か。性の前ではすべてが無意味。
「懇願してみろよ。輝さま、イカせて下さいって言ってみろ」
背中を優しく撫でられて、優羽は思わず零れた吐息を隠すように唇を噛み締める。
「ほら。優羽、一人で感じてねぇで、俺にねだれ」
「ヤッ…っあ…ァア」
「ちゃんと言えたら、身体の芯から可愛がってやるよ」
「誰が…そッ…な~~ッひ、ぁ」
そんな言葉は言いたくないと、優羽はかたくなに口を閉ざす。ただ単純に浅瀬を抜き差しされるもどかしさに、本能が砕けそうになるが、まだ人間であることを捨てたつもりはない。彼らを満足させるためのエサとはいえ、どこまでも墜ちていくわけにはいかない。
必死に理性と戦う優羽を楽しむつもりなのか、輝は自身を突き刺したまま、深く動いてはくれなかった。
「誰が腰、動かせつった?」
「~~~~ぅ、くッ」
「お前、ほんとよく締まるな」
優羽は、床に片ホホを押し付けながら悔しさに両目をつぶる。勝手に鼻からも口からも漏れだす吐息は、輝と繋がる部分から断続的に神経を通して快感を訴えているのだからたまらない。負けたくないのに負けそうになる。
全身が恥ずかしくて、真っ赤に燃えていた。
「俺にヤられて熱くなる変態は、世の中では淫乱って言うんだぜ」
「…ちが、そんな…ッ…じゃ…ヒッ…あっ…」
「淫乱な女だって認めるんなら、欲しいだけくれてやってもいいけど」
羞恥に顔を染めた優羽のほほを折りまがってきた輝の舌がペロリと舐める。
「ほら、俺にその顔を見せてみろよ」
「~~~~~~~くッ…ん…」
わずかに身体を支えていた腕の一本を持ち上げられて、優羽は上半身を半分ひねる形で輝を見上げた。
「いい顔してんじゃねぇか」
「…ぅ…ッ……」
勝ち誇ったように見下ろしてくる顔が憎たらしい。
「ヒァ、な、アッ~ンッ」
もう片方の腕も持ち上げられて、そのまま両腕を背中でひとまとめに固定される。支える力をなくした上半身は、床についたホホに重力を預けてきた。
「~~~~~…ッ…あ…」
輝に突き刺されたままの下腹部の位置が変わらないせいで、への字に曲がった優羽の胴体は地面に胸をこすりつける。感じるつもりなんてないのに、床にすれた乳首に反応した膣が勝手に輝のものを締め上げていた。
「お前、本当に自分の本性に気づいてねぇのか?」
「ぁ…ヤだ…ぁ…ッ…ぁ」
「いいもん持ってんな」
持っていたことすら忘れていた布を目ざとく輝に奪い去られた優羽は、後ろ手に両手首を布で縛られていく。
輝を下腹部に埋め込み、胸を床に押しあて、片ホホを支えに、両腕を背中で固定されたとあっては、自由に動かせる場所なんてどこも存在しなかった。
「だから、んな腰動かすなって言ってんだろ」
「はぁ…ッ…はぁ……っく、ぁ」
「この調子じゃ、乳首までおっ立ててんじゃねぇの?」
顔の熱がひいてくれない。
バカにしてくる輝の声に、からかわれる言葉の一つ一つに、どうしようもなく感じてしまう。感じたくないのに、そう思えば思うほど、髪の毛の先端まで見られている気がして、全神経が敏感に張り詰めていく。空気にすら輝の視線を感じる意識に犯されていく。
「やだぁ……やだ、アッ…っ…ダメッ!!」
確認するように床に垂れた乳房へと腕を伸ばしてきた輝に、優羽は拒否の言葉を発した。が、それが間違いだったことを知る。
「なに期待してんの?」
「ッ!?」
両手で腰をつかみながら、輝は倒してきた身体のまま優羽の耳もとで囁いた。耳の先まで真っ赤に染まった優羽は、輝の笑い声をその耳でとらえながら、ギュッと目をつぶる。
「お前、変態だろ?」
「ぅ……ひっ、く…ぁ……~~っ」
「さっきから、すっげぇ、締め付けて苦しいんですけど?」
「……ッ……ぅ」
何も言い返せなかった。
自分で輝の一挙手一投足に感じていることを知らせてしまった上に、否定できない現実に視界がかすむ。妙な屈辱感に、悔しさと快感が織り交ぜになって優羽を苦しめていた。
「ヒァッ!?」
「やっぱり、立たせてんじゃねぇか。こんなに乳首固くさせて、俺にどうされたいわけ?」
耳たぶに噛みつきながら届けられる言葉に背筋がぞくぞくと震えていく。捻られ、摘まみあげられた両胸の乳首が、ジンとした快感をもたらしていた。
男を埋めたままの腰は激しい律動を求めているのか、先ほどから輝のモノを味わうように伸縮を繰り返している。繋がったままの輝には、もう何もかもが伝わっているだろう。そう思うとまた、悔しさと恥ずかしさが綯い交ぜになって優羽の心を震わせていく。
「無理矢理犯されて感じてんだろ?」
「チガ…っ…ん……アッ」
「どこが違うのか言ってみろよ。淫乱優羽ちゃん」
悔しくて、泣いてしまいたかった。
何が面白いのか。輝はクックッと笑っている。
低い声が耳元を通りすぎ、乱れていた髪をすくうように取り払われる。あらわになった白い首筋に、一瞬、輝の動きがピタリと止まった。
「……ッ?」
ひねるような体勢で輝の顔を覗き見た優羽の顔が、なぜか恐怖に強張る。
「へぇ」
その低い重低音が首筋に何を見たのかはわからないが、明らかに今まで楽しんでいた空気を一掃したことだけは見て取れた。
細く鋭利に変わる銀色の瞳。
一体どうしたのだろうかと輝を見つめていた優羽は、爪先でなぞられた首筋に声を震わせる。
「ア…ヤッ…なっなに」
首を掻き切られると思った。
その一瞬が訪れても違和感のない空気に、優羽はごくりと喉を鳴らす。
「輝?」
「……………ありえねぇ」
ポツリとつぶやかれた輝の言葉の意味が、優羽にはよくわからない。ただ横目に見える輝の表情が妖艶にうつるだけ。
「な…ッ…ニャッ!?」
密着させていた上半身を輝が起こす。つながったままの下半身はもとより、再び床に顔をつけることになった優羽は、次の動作を予期できずに悲鳴をあげていた。
「ァァアァぁ、待っ……ぃっ、ヤ……ァッ」
あれだけ捕食者としての立場を楽しんでいた輝が、前触れなく腰を激しく動かし始めた。
なにが逆鱗に触れたのか、わからない。
わからないのに、卑猥に響き始めた音から与えられる刺激を拝受してしまう。奥までえぐられ、掘り起こされる感覚。メスとしての本能が輝を喜び、人間としての理性が危険から回避しようとする。
今さら、逃がしてくれるわけもない。
優羽は混乱したまま、前後に打ち付けられるしかなかった。
「ァッ激し、ィ…待っアッ……ひ、」
正しく、待ちわびた快感だったのだろう。肉体は受け入れる態勢が整っていたが、どうして急にと思わなくもない。何か怒らせるようなことをしただろうかと戸惑うほど、輝の律動には容赦がなかった。
「ぅッんアッ…なん…ッ…デッ、て、る」
「うるせぇ。黙って食われてろ」
「そ…アァッ…あっ…はぁ…ンッ」
あまりの激しさに舌を噛みそうになる。
高く持ち上げられる腰が内壁をこすり、愛液をかきだし、優羽の情緒を乱していく。
どれだけ状況が変わろうとも、与えられる快楽に違いはない。限界に近かった身体はすぐに絶頂を呼び寄せる。
「イッ…あ…クッ…っ…ん…あっやぁ」
鳴き声とも泣き声ともつかない声で、優羽はただ快楽を貪っていた。
「イクッ…イッちゃ…ヒッ…あっ」
許されるかどうかは、もうどうでもいい。このまま理性を捨てて、本能が示すままの獣になれば、至高の絶頂を味わえることを知っている。
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