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第2章:巡る記憶の回想

第1話:そもそもの話(2)

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初めて三人と泉の桟橋で出会った日から今日まで丸三日。実に気の遠くなるような時間を過ごした身としては、是が非でも距離を縮めてもらいたかった。自分に出来ることがあるのなら、そう言って差し出した身に災厄が訪れるなど、降り出した雨は教えてくれない。
灰色に遮られる視界のように、未来は読めないから質(タチ)が悪い。

* * * * *

三日前。乃亜が三人と出会った日。
屋敷の女主人は、夜更けに突然帰宅するなり乃亜たち全員を呼び寄せた。
深紅の瞳に栗色の巻き毛。首筋が見えるほど頭上で丁寧にまとめ、黒と紫が混じったドレスを着て、瞳と同じ赤い宝石をあしらったアクセサリーを身につけている。一目で美人だと称される女は口にしていた煙管(キセル)を置いて、同じように美しい三人の男をじっと見つめていた。並んだ三人は何も言わない。そして彼女は視線の端に乃亜をとめると、ふっとわずかな笑みを浮かべてこう言った。


「泉に何を願ったのかはわからないけれど、得た形はよくわかった。異例ではあるが、真実であれば認めよう。こうして目の前に存在していることが事実なのだから」


その一言が、乃亜の人生を決定したと言っても過言ではない。


「新しく人生が与えられたと思って、この屋敷で過ごす余生を楽しむといい。ただし、全員同室でだ」


にこやかに笑ったその顔は、屋敷中の使用人に対しても命令遂行を強要し、三人と乃亜が必ず同室になるようにしろと告げて消えていった。
屋敷をあけることの多い女主人。
主人に代わって屋敷の権限を与えられた有能な執事は、その命令通りに三人と乃亜を同じ部屋に閉じ込めた。
朝も昼も夜も同じ。着替えも、寝食もすべて同じ。まさか同室にされるとは夢にも思っていなかった乃亜は茫然と与えられた部屋で立ち尽くし、これからどう過ごしていけばいいのかと途方にくれたことを覚えている。けれどその心配は必要なかった。


「全員同じ?」


冗談だろうと、悪い夢でも見ていると言いたげな斎磨の声に端を発する。


「ボクはかまいませんよ。自分が自由の身であれば」

「だろうな」

「別にオレも問題ないよ。閉じ込められるって言うのはちょっと勘弁だけど」


斎磨に続いて、萌樹も三織も難色を示す。
部屋に案内した執事はその視線を受けて、軽くお辞儀をしながら「お部屋がコチラというだけで、屋敷内でしたら出歩いていただいて結構です」と規約を述べた。
屋敷内。
金持ちの領主が道楽で建てたとしか思えない広さの屋敷。庭も含めていいのなら、それ相応の自由があるのと同じような響きを持っている。


「よかった。んじゃ、ま。オレは少し席を外すわ」

「でしたらボクも。斎磨はどうします?」

「俺に聞くか?」

「でしょうね」


乃亜を素通りして三人は案内されたばかりの部屋の扉を通過していく。
話の流れが見えずに呆然としていた乃亜が彼らを引き留めようと振り返るころには、誰も残っていなかった。


「嘘、でしょ」


一人で過ごすには広すぎる部屋に一人きり。
置き去りにされた身で一体何をしろというのか、持て余してしまうほど退屈な時間しか想像できない。部屋はソファーや本棚、お茶が出来るテーブルがあるリビングのような作りの部屋を中心に、右側には大きなベッドが一つあるだけのベッドルーム。左側にはバスルームを兼ねた簡易の水場が用意されている。
着替えるための部屋は別にあるらしいが、先ほど「着替えは適宜、お持ちいたします」と説明をされた感じでは、本当にすべてをこの部屋でまかなうつもりなのだろう。
仮に閉じ込められたとしても、どうにか生きていけるとはいえ、彼らが早々に脱出を試みるのも仕方がないのかもしれない。


「うーん」


しかし、困った。その表情は隠せるものではない。
見ず知らずの女といきなり同室を義務付けられれば、そういう反応になるのかもしれないが、それでも放置されるなんて考えもしなかった。


「どうなさいますか?」


執事に問われたたった一言。


「私はどうしたら」


どうしたらいいのかわからない。それが本音。仲がいいのか悪いのかもわからない三人を呼び戻す方法がわからなければ、呼び戻せたとしてもどう過ごせばいいのかわからない。
屋敷内で自由に過ごしていいのであれば、わざわざ部屋を一緒にした理由もわからない。
途方に暮れる返答しか出来ない乃亜に、屋敷を任された執事は軽く咳ばらいをしたあと、妙案を告げるように指をひとつ天に突き立てた。


「望む通りにしてみてはどうか、と」

「私の?」

「他に誰かいらっしゃいますか?」


眉をしかめて確認されるような目を向けられれば唸る他ない。


「望む通りと言われても・・・」

「先に伝えておきますが、食事は全員でとっていただきます」

「つまり、あの三人がそろわない限り食事はなし?」

「さようでございますね」


それが執事の言うことだろうか。ニコリと満面の笑みを向けてくる異様さが怖い。
この部屋で一人寂しく引きこもり続ける限り、飢え死にしていく未来が手に取るように見えてしまう。乃亜は「んんん」と曖昧に返事を濁して、やがて観念したのか、三人の姿を求めて屋敷内を探索することにした。

To be continued...
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