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第1章:深夜の鐘が鳴るとき

第2話:赤い瞳を持つ獣たち(3)

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我慢しようと歯を噛み締めても無駄な足掻きだということはわかっている。
それでも現実を拒んだ理性が、与えられる快楽を拒絶していた。


「ああ、可愛い。すっごく可愛い。ほら、遠慮しなくていいんだよ」

「ァア…っ…なっ三織…み…ぉり」


斎磨と萌樹に得体のしれない液体を渡した三織が、二人に侵される体を真上から見下ろしてくる。
赤い瞳が狂喜に揺らめいて、優越な笑みを浮かべているのだからたまったものじゃない。突起物に塗りたくられる液体は彼らの指先に合わせて硬度を増し、熱を帯びて体中を支配してくる。
ジンジンと、痺れにも似た感覚が荒く変わる呼吸まで狂わせようと襲ってくる。


「なぃ塗った…の…ッイ…な…にぃ」

「うんうん、うまく呂律が回ってないのも可愛いよ」


よしよしと頭を撫でるついでに口付けられた行為に全身が跳ね上がる。
三織が唇を重ねるついでに飲まさせてきたものは何か、想像もしたくない。


「や…っ…ヤら」

「ほら、中からも外からももっと感じよう?」

「ッ…ぅ…ぁ…~~んっ…ぁ」

「気持ちいいでしょ。これは乃亜ちゃんが、素直で従順になるために大事なお薬だって、オレたちがいっぱい教えてあげるからね」


微睡む意識に白い肌が、同じく白いシーツの海の上で透明の涙を流して呼吸している。
力がうまく入らない。縛られた手首はベッドの柵に持ち上げられた形で役割を終え、腹部を覆っていた意味を成さない布は取り払われ、開脚して折り曲げられた足は斎磨と萌樹の手にその身を横たえていた。


「逆らう相手を間違えないよう躾てやらねば」

「夜は長いですしね。それに」


萌樹の言葉を奪うように乃亜の体が弓なりにしなり始める。
力を失った口から舌が伸び、小さく痙攣するようにその歯をのぞかせている。


「二度と逃げ出したいと思わないくらいに、念入りに時間をかけて教えるのは得意分野です」

「よかったねぇ、乃亜ちゃん」


ビクリと覚醒したように気が付いた乃亜は、敏感に騒ぎ立てる肌をなだめることもできずに、彼らの愛撫を受け入れていた。
飛ぶ、という感覚はこういうものかもしれない。
器の容量を超えた快楽は、人を簡単に壊していく。


「じゃあ、オレももっともっと奥まで塗ってあげる」

「だっダメぇッ、そこ、そっちは違っいやぁあぁああぁっ」

「そんなに期待されると特別に調合した甲斐があるよ。ほら、ここもちゃんと好きになろうね」


萌樹の指が出入りする下の排泄口に指をねじ込んだ三織のせいで、泣き声以外の何をあげろというのだろう。


「そうそう上手だよ、乃亜ちゃん。あはは、震えちゃって可愛い」

「んっ…~~~っ…ァ…はぁ」

「そうだね、苦しいよね。ほとんどの子は耐えられなくて壊れちゃうけど、乃亜ちゃんはどうかなぁ?」

「ヒッ…ぁ…ァッ…んっ」


感じたくないという言葉は、この世界の共通言語ではなくなってしまったのか。
吐き出す言葉の何もかもが通じない三人を相手に、いつまで正常を保とうと奮闘する神経を持っていればいいのかもわからない。


「くっ…いっちゃゥ…ぁ」


内側から爆発してしまいそうなほどの快楽の波が押し寄せてくる。


「乃亜ちゃん。オレたちに、たくさんお話聞かせてね」

「やっ…イヤ…ぁ…ヤメてぇっぇえええぇ」

「そうしたら欲しいもの。ちゃんとあげるかもしれない」


自分は何を求めていたのか。
正常に考えるはずの思考回路が仕事を放棄しているに違いない。
本当に欲しいもの。理性や理屈、論理も倫理も道徳も、自分を人間として象っていたすべてが剥ぎ取られて行く感覚に狂いそうになる。体の内側から突き破るほどの獰猛な獣が牙を向いて、本性が告げるまま彼らに悦をねだってしまいたくなる。
与えられた記憶はない。
あるのはただ、奪われた記憶だけ。


世界が同じ秒針を刻んでいるなら、彼らと出会ってから片手に満たない月日しか流れていない。
たった三日。
あの頃はこんな風になるとは夢にも思っていなかった。
ありふれた平凡な日々がずっと続いていくのだと思っていた。不幸せでも幸せでもなく、回る時間の中を泳ぎ続ける魚と同じだと、心からそう思っていた。

To be continued...
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