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第21話 聖なる導き(前編)

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季節外れの嵐が過ぎ去ったせいか、今年は例年になく寒気が肌に突き刺さる。いつもより冷え込んだ冬の気配に、世間ではホワイトクリスマスになるのではないかとの期待が高まっていた。


「くしゅん。」


リビングのソファーの上でくしゃみをした優羽は、その瞬間に暖かな毛布にくるまれ、温かな飲み物を口に流し込まれる。
ありがとうとお礼を言いたいところだが、正直少し鬱陶しい。


「熱はないみたいだね。」

「あれば俺がもらってやる。」


両手に華だといえば、誰もがきっと羨ましく思うだろう。けれど隙間がないほど両端から密着されて過ごす数十分は、身動きのとれない優羽にとってはツラい時間だった。


「晶は早く仕事に行け。」


しっしっと、邪魔だという風に晶を追い払う仕草をみせた涼のせいで、晶の笑顔が増したことに優羽は気づく。
新たに加わった涼という家族に、更に賑やかさの増した魅壷家も、今ではこれが当たり前の風景だとでもいうように、すっかり馴染んでいるから驚きだった。おかげで心の中にあった寂しさももどかしさも消えてくれたが、いつも通りと表現するにはあまりにも過剰サービスの過ぎる朝の様子に、優羽はうんざりと息を吐き出した。


「このままだと一人じゃ何も出来なくなりそう。」


もちろん、優羽を抱き枕扱いしている涼と晶にもその声は届く。


「本当にそうなってくれたらいいんだけどね。」

「早くそうなれ。」


滅茶苦茶な依頼に優羽は二人の間で顔をひきつらせていた。
そうなりたくないと言っているのに、どこをどう聞き間違えたらそれを望んでいると解釈できるのだろうか。本当に謎で仕方がない。


「はぁ。」


どうしてこうなったのだろうと、肩を落とした優羽のため息を不思議そうな顔でのぞきこんでくる涼と晶は、優羽は誰にも渡さないと言わんばかりの勢いで朝から独占状態だった。
それぞれが思うままにお互いから優羽を奪還しようと、あの手この手で迫ってくる。


「えーから、はよ。仕事行けや。」


毎朝毎朝、同じ言葉を繰り返して助けてくれるのはいつも決まって竜だった。


「晶が行ったらな。」

「涼が行ったらね。」

「だだっ子か。えー年して、恥ずかしないんか!?」


仕事に行きたくないと、いっこうに優羽から離れない男たちを竜は無理矢理引き剥がして、それぞれを玄関まで連行していく。
文句をいう涼と晶の声がどんどん小さくなって、やがて車の音と共に消えてしまった。


「はぁ。」


玄関からリビングに戻ってきたばかりの竜は、そこに新たな人物を見つけて疲れたような息を吐き出す。


「ごくろーさん。」


一難去ってまた一難。
今度は輝が優羽の隣を陣取っていた。


「って、そっちに座んのかよ。」

「ええやん、別に。俺かて優羽と一緒にいたいもん。」


両手に華から、両手に野獣。
どの組み合わせになるかはその日の気分次第だが、大抵は家にいるこの二人が最後になることが多い。


「優羽、のど乾いてへんか?」

「うん、大丈夫。」

「こんなんにくるまれて暑くねえの?」

「あ、大丈夫。」


両サイドからかけられる声に顔を往復させて答える優羽は、まるでどこぞのお姫様のようにいたれりつくせり状態だった。初めの方は楽だと思って彼らの行為に甘えていたが、少し慣れてくるとやはりしんどい。
気持ちは嬉しいのだが、限度の知らない甘やかし方に、自分の自由を求めて体がうずうずと動き出す。


「私のことはいいから、輝も竜も仕事して。」


その訴えには、両頬へのキスで答えてくれた。だからだろう。無事に輝と竜から解放された優羽は、台所に立ってポツンとつぶやく。


「慣れってすごい。」


はぁーと、大きなため息をこぼすしかない。
涼が幸彦の秘書として仕事に復帰し、晶も不規則な勤務に身を投じ、いつものように輝は自室にこもり、戒、陸は学校に行ってしまった午後の昼下がり。
仕入れに行くからと、クリスマスと年末を控えた準備に余念がない竜は、先ほどバイクに乗って出掛けていった。
ついて行くことも出来たのに、ついて行かなかったのには大きな理由がある。


「どうやればいいんだっけ?」


竜が食事担当になってからというもの、すっかり変わってしまった台所の勝手がわからない。


「やっぱりお菓子作りは諦めて、何か違うものにしようかな?」


焦った優羽の不安な声だけが、広いキッチンに響いていた。
クリスマス間近だと言うのに、プレゼントが決まらない。いつももらってばかりだから、心を込めた何かを贈りたいのに、名案が何も浮かんでこなかった。
お金も地位も名声も全てをもつ彼らが望むものなんて見当もつかない。


「裸にラッピングとか?」


唯一思い当たるものを想像して、優羽はブルブルと首を横にふる。あげたいものはそういうものじゃない。
何か違う形で思いを彼らに伝えたい。


「んー。」


ついに途方に暮れた優羽は、茫然と台所に立ち尽くしていた。
出来ることなら、内緒で用意をしておきたい。勘の鋭い彼ら相手にどこまで秘密に出来るかわからないが、サプライズに驚いた顔を一度は拝んでみたいと思う。
孤軍奮闘。
四文字熟語が頭に浮かんでくるほど、優羽はうーんと困った風に考え込んでいた。


「あ、そういえば。」


優羽は着ていたワンピースのポケットを探る。そこには、竜に引き剥がされて渋々仕事へと重い腰をあげた涼が忘れ形見のように突っ込んでいった小さな瓶が入っていた。
仕事に行く挨拶のキスがてら、耳元で囁かれた涼の一言を思い出す。

"あいつらには、今夜眠ってもらっとけよ。"

そういってポケットに入れられた謎の秘薬を取り出した優羽は、目の前にそれを掲げて胡散臭そうな顔をした。


「どこで手に入れてくるんだろう。」


変な色の液体の中身は、あえて聞かなかった。
もちろん使うつもりはハナからないが、手元に準備されている"個人の材料"は今のところこれしかない。


「私が気付かれずに薬を盛れる訳がないじゃない。」


下手をすれば返り討ちに合うというのに、涼の願いには困ったものだと優羽は瓶をキッチン台の上に置いて息を吐く。
見るからに毒のような色をした液体は、見ている分には綺麗だった。


「何をすれば喜んでくれるだろう。」


どうしても特別なものにしたい。
たぶん、何をあげてもあげなくても、大好きだと伝えるだけで喜んでくれるだろうことはわかっている。
わかっていても、自分がイヤなのだからしょうがない。


「やっぱり、竜ちゃんについていけばよかったかな。」


はぁ~っとため息をはいて、優羽は買い物についていかなかったことを後悔した。


「おや。優羽はそんなところで何をしているのかな?」

「おッお父さん!?」


てっきり一人だと思っていただけに、すぐ真隣で感じた気配に驚いて優羽は勢いよく体を向ける。


「仕事じゃなかったの?」


いつからそこにいたのかわからないが、真横で微笑む幸彦の姿に優羽は挙動不審に狼狽えていた。
突如現れた隠し事が一番通用しない相手を目の前にして平然としていられるほど、優羽の精神は丈夫ではない。


「あっ」


パリンと可愛らしい音が聞こえる。
どうやら焦ったあまりに当たってしまったのか、唯一の材料が床に落ちて粉々に砕け散っていた。
小さな瓶はもっと小さな欠片にかわり果て、妖しい色をした液体が床をキレイに染めていく。


「たっ大変…っ痛!?」


慌てて拾い集めようとして伸ばした指先が、とがったガラスの破片に刺さって血を流した。
小さく眉をしかめた優羽は、その指を加えようとして顔を赤く染める。


「ッ」


視線を合わせるようにひざまずいた幸彦に手をとられ、先に指を加えられてしまった。傷口をいたわるように舐めあげる舌に、なぜかゾクゾクと身体が痺れてくる。


「痛むかい?」

「へっ平気。もう、だだ大丈夫。」


幸彦に解放された手を握りしめて、優羽は自分の胸にまだ甘い痺れを残すその手を引き寄せた。
別に変なことをされたわけでもないのに、どくどくと身体中が熱く顔が火照ってくる。


「これからは、気を付けなさい。」

「はぃ。」


恥ずかしくて直視できない幸彦の言葉に、小さく答えることしかできなかった。


「優羽。」


一歩近寄ってきた幸彦の呼び掛けに、優羽はビクリと身を縮ませる。
ドキドキと落ち着かない鼓動を感じていた優羽は、再び腕を引かれて小さな悲鳴をのみ込んだ。


「っ、アッ」


幸彦のもつ独特の色気は万物に通用するのではないかと思う。
どうしてかわからない。
ただ抱き締められているだけなのに、変に身体がうずいてくる。


「本当に治ったかな?」

「ッ?!」


抱き締められた腕の中で、再度見つめて口に含まれた指先がおかしい。
たった一本なのに、その指が全身の性感体になってしまったようだった。
丁寧に指をなめながら、無言で見つめてくる幸彦の視線に犯される。


「やっ…~んっなん…ッで」


直視できなくて、思わず顔を背けてしまった。身体中が熱い。


「もっもう、ほんとに大丈夫だからっ」


加えられた指を引き抜こうとしても、幸彦に掴まれた手はビクリとも動かなかった。

なんだかジンジンする。

じわじわと指先から快楽の波が全身に染み渡っていくように、この空間がもどかしく感じる。


「ヤッめ…っあ…幸彦さ…ま」


絶対わざとだ。
反応をみて面白がってるだけだ。
そう思っても、ウズき始めた欲情は止まりそうにない。


「ッ?!」


指を加えたまま口角をあげた幸彦の視線に、優羽は完璧に欲情を掻き立てられていることを自覚した。
怖いくらいに見つめてくる綺麗な瞳をそらせない。何もかも見透かされているようで、くらくらと目眩がしそうなほど射抜いてくるその目力に、腰まで抜けてしまいそうになる。


「優羽。」


名前を呼ばれてもうまく答えられなかった。


「治ったようだね。」

「えっ?」


あれだけ微動だにしなかった手が、幸彦から解放される。
目の前で舌舐めずる幸彦から、自分の指先に視線を送った優羽は、さっきたしかに切れたはずの傷口がないことに驚いた。


「あっ…あれ?」


ない。
気のせいだったかと思えるほど、キレイさっぱり消えてしまった。


「どうしッ───」


幸彦の腕の中から思わず見上げた先に、優羽は固まる。
幸彦の瞳がわずかに揺らいで見えた。


「───ッ!?」


一瞬、目の前にいた幸彦が違うなにかに見えた。でもそれは一瞬で元に戻ってしまったために、本当かどうかわからない。
現実ではあり得ない話。


「どうかしたかい?」


悠然と微笑む幸彦の瞳が銀色に見える。瞳だけではない。先ほど幻覚のように揺らいだ幸彦の姿は、まるで白銀の化身のように美しかった。
見間違いだと思いたいのに、心が懐かしいと叫んでいる。


「そんなっ?!」


驚愕の事象に目を見開いて一歩後退した優羽の身体は、逃げることを許されないように幸彦の腕の中に捕まっていた。
あの日、家族は本当は人間じゃないかもしれないと疑い始めた心に信憑性が増してくる。だけど、そんなことがあるはずない。
あっていいわけがない。


「う…ぁ…っく」


突如歪んだ視界に優羽は額を押さえて、幸彦の腕の中でガクンと膝をおった。見たことのないような景色が、頭の中に浮かんでは消えていく。


「優羽。」


どこか遠くで、幸彦の声が優羽の名を呼んでいる。


「くっ~あ…ヤメ…っ…て」


割れそうなほど痛み始めた頭に、優羽は恐怖の汗を滲ませた。自分では止めることの出来ない頭痛は、まるで鈍器で殴られ続けているみたいに視界を点滅させる。
そして何かを思い出しかけたところで、ぷっつりと意識は途切れていった。


「優羽。」


誰の声かわからない。
白銀の草原に揺られる身体は、ぐらぐらと優羽の意識の奥深くへと潜っていく。
どこまでも深く、闇の先に見えたのは広大な自然。空に浮いているかのように眼前には深い森が広がり、泣きたくなるほど綺麗な月が空に浮かんでいる。


「優羽。」


その先は知りたくない。
悲しい出来事しか待っていない気がして、優羽は伸ばされた腕に答えなかった。



「───ッ痛」


頭が痛い。知っているはずの名前がノドまで出掛かっているのに、割れるような頭痛に画面が歪んでいく。


「っ!?」


そうして目を開けた先に優羽は悲鳴をあげて固まった。


「おや、目が覚めたかい?」


どちらが夢かと疑いたくなるほど、あまりの恥ずかしさに声が出ない。
いつもの自室ではなく、幸彦のベッドの上で目覚めた優羽の脳は現実逃避を起こしかけていた。


「まったく記憶がない、というわけではないらしいね。」


幸彦の言葉に耳を疑う。
こうなるまでの記憶は全くない。
目の前にはスーツを着たままの幸彦の姿。百歩譲って、幸彦が服をまとっているのに対し自分が全裸なのは、別に今に限ったことじゃないのでまだ受け入れられる。
優羽が受け入れられないのはただひとつ。


「とても似合っているよ。」


後ろ手に回された腕、カエルのように開いて縛られた足、胸を強調するように食い込む細くて真っ赤な糸。
微笑む幸彦によって、卑猥なほどに縛り上げられた自分の身体だけ。


「ッ…どう…し───」

「少しは希望をもてそうだ。」

「──そこャ…だ…ッ」


幸彦に広げられたせいで割れ目からのぞいた蕾は、指の腹で丁寧に撫で回されて膨張していく。


「だんだん硬くて大きく膨らんでくるよ。」

「ヤッ…言わな…で」

「何もしていないのに乳首も上を向いてるね。」


見てごらんと無理矢理顔を向けさせられた。明るい部屋の中で見える自分の恥体は、強烈なまでに優羽の脳を刺激する。
網目から盛り上がった柔肌に赤い色が食い込んで、尖った先を主張しながらわずかに震えていた。


「随分と成長したものだ。」


クスッと幸彦が笑う。

いっそのこと消えてしまいたい。
割れ目をなぞる幸彦の指に合わせて、粘着性のある音が響き始めている。
指をいれてくれるわけでもなく、身体をなぞられる訳でもなく、ただ割れ目を往復されるだけ。
それなのに、全身が快感に震えていく。吐息がくぐもるように、口からもれていってしまう。


「ァ…はぁ…はぁ…ッん」


キモチイイ。何故か腰が動いてしまうほど快感の神経がピリピリとうずいていた。


「ヤッ…っ…どうしテッ」


どうしてこんなことになっているのかさっぱりわからない。
悪い夢の続きなんじゃないかと思うが、ヌルヌルと幸彦の指を滑らせる蜜は、たしかに優羽の秘部を濡らしていた。


「そこ…ば…かり…ヤッ」


吐く息に甘さが混ざり、ジワジワと侵食してくる快楽に、縛り上げられた身体がもどかしさを訴える。自ら求めることも、逃げることも出来ない微弱な愛撫に潤んだ優羽の瞳が幸彦を見上げいた。
縛り付けられ、まるで実験体のようにベッドの上に放り投げられた優羽の身体は、微笑みながら指だけを往復させる幸彦に、くねくねと腰を動かしてその先をねだる。
息ひとつ乱さないくせに、眼差しひとつで欲情を刺激するその崇高な男に与えられる愛撫は、物足りなくて欲しくなる。


「おや、気持ちがイイのかい?」


幸彦の指が、力強く秘芽をはじいた。


「ひァッ!?」


ビクンと跳ねた優羽の身体が面白いのか、幸彦は何度も何度も敏感に尖った優羽の淫核を指先ではじく。


「アッゃ…っく…あぁ…っあ」


繰り返され、閉じることの叶わない足の間から、ドクドクと悦なる蜜が溢れ出てきた。
どうしてこんなことになっているのか、思考は停止したように黙って幸彦の愛撫を受け入れていく。


「いやぁ…ヤッ…~~っ」


こんなことで感じているなんて恥ずかしくて耐えられない。
指先ひとつで可笑しくなりそうなほど与えられる強烈な刺激に、優羽の瞳には涙がにじんでいた。


「こんなに勃起させて悪い子だね。」

「アッ…あぁっヤメあっ…アァッ」

「嘘はいけない。」

「ヒぁッ?!」


ギュッと敏感な蕾を摘まみあげられ、愛液を塗りたくられる。
涙で歪んだ視界でもキレイだと表現できる魅惑の根元に、優羽はされるがまま悶え喘いでいた。
唯一、助けを乞えるのは声だけ。
それなのに、その声は優羽の意思に反して、幸彦に絶頂を与えてほしいと訴えている。


「アッ…ヤメ…っやだぁ」


激しいほどにすべる指の腹が、理性と本能の狭間で揺れ動く優羽の蕾を痛く腫れさせていた。


「教えてあげたはずだろう?」


吸い込まれそうなほどの綺麗な瞳。
一切乱れないその姿で、幸彦は優羽をジッと見下ろしてくる。
何を叫べばいいのか。
願いは祈りに、祈りは呪いとなって優羽の心に刻まれる。


「ァッいッ…いかせてください」


勇気を振り絞ってお願いしたのに、幸彦は変わらず最低限の動きしかくれなかった。


「ヤァッお願いしま…ッ…幸彦さまッイキタぃっい──」

「いけない子だ。」

「──ヤッ…優羽にくださぃ…アッアッ…イきたぃ」


予想外の事象に焦った優羽の身体に力がこもっていく。
もう少し、ほんの少し圧力を込めてもらえれば容易に達することが出来るのに、それ以上にも以下にもならない幸彦の微弱な愛撫に、優羽は泣きながら矯声をあげた。
イキタイ
イカセテクダサイ
欲しい ほしい ホシイ


「その瞳はとてもいいのだが。まだ、わたしはあげられない。」


その宣告に、優羽は断続的な息を吐くことでしか答えられなかった。
身体中が熱く、赤く染まっていく。
芯からうずく感覚に、蜜壺の上を何度も通りすぎていく指が憎くて仕方がない。
そのまま突き刺して、掻き回してほしいのに、敏感に主張する秘芽にしか与えられない刺激に可笑しくなる。


「~~っ…ん…ぅ?」


突然止まった幸彦の愛撫に、優羽は涙を堪(コラ)えた瞳で首をかしげた。


「どれだけ性欲を引き出されようと、礼儀を忘れてはいけない。」

「っ?!」


困ったような笑みを向けられると、どうしていいかわからなくなる。
羞恥に赤く染まった顔のまま、優羽は自分の口から発した言葉を頭の中で繰り返していた。
信じられない。いつもはもっと"自分"であり続けられるのに、どう見ても今のは快楽を貪るただの亡者(モウジャ)。
身動きのとれない優羽は、醜態を晒(サラ)した現実に耐えきれず、背を向ける幸彦から顔をそらせた。
とりあえずほどいてもらいたい。
もしこんな格好、他の誰かに見られでもしたら────

「おい、いつになったら取りにくんだよ。ったく、は?」

────突然、乱入してきた輝の声が途中で止まる。
一瞬目を見開いて足を止めた輝が、驚愕にパクパクと口を動かす優羽を見つけてニヤリと口角をあげた。


「ヒャァァッ!?」


いきなり指を突き立てられた割れ目に腰が浮く。思わず目を開けた優羽の先に、心底面白がってる輝がいた。


「随分と敏感だな。」

「こら、輝。わたしが食事中だ。」

「なんだよ、ちょっとくらいイイじゃねぇか。」


会話しながらも、優羽をいじめる輝の手は止まらない。
冷めかけた熱が再び沸き起こってきた。


「ヤッだ…ッあ~ぁだめッ!?」


輝が指をより深く差し込んだせいで、優羽の身体は硬直する。
欲しかった刺激にもう我慢できない。
すぐ目の前にちらつく限界の扉に、優羽の甘い喚声(カンセイ)が輝の指を喜ばせていた。


「輝。」


ギュッとしまった膣内と優羽の奇声が轟く前に輝の行為は終わりを見せる。


「あっ…ッ…アァ…はぁ」


またイカせてもらえなかった。
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