3 / 55
私の務めだもの
しおりを挟む夜会の次の日、普通に目が覚めた。
そうだった。侍女も居ないのだ。1人で準備して登城しなければならない。
何とか準備が整い馬車を待つ。昨夜の馭者が共に行ってくれるらしい。丁寧に仕事を全うしようと頑張ってくれる。
冷たい視線が刺さる中、王城を歩き執務室へ。其処には文官のみが待っていた。 今日は、殿下は大切な用事があるとの事。全て今日中に終わらせておく様にとの言伝のみがあった。
「アリアーナ様、申し訳ありません。殿下からは、以上でございます。」私が何か言いたげな顔をしていたのだろうか。微妙な空気感が伝わってくる。
「分かりました。こちらは、私の方で処理しておきます。」
こうして、公務の中で執務のみが私の元へ下される様になり、リーゼファルト様のお顔をみる事は無くなった。
ソフィアと共に過ごされるお姿を遠目で見る以外は・・・
年に一度の夜会が近づくにつれて執務は多忙を極めた。 王太子妃教育が無くなっていたのもあり、執務のみであったのが救いなのだろうか。
殿下からドレスを贈られることも無く、婚約解消も、破棄もされる事なく夜会の日が近づいてきた。どうすれば良いのかしら・・・王太子の婚約者のままなのだ、他国の出席者の手前欠席するわけにも行かない。 手持ちのドレスで出席するしかないのだろうか。
夜会を明日に控えた日。 私はお母様が渡してくださった鍵を握りしめて桜の木の元を訪れていた。時折来てはこの桜の木に話しかけていた。
「お母様、婚約解消も破棄もされず、夜会の日を迎えてしまいそうです。
あり得ないと思っておりましたが、年に一度の夜会で破棄されるのでしょうか?
国の恥になるからと、あり得ない事と思っておりましたが・・・」
思わず、弱音と涙が溢れてくる。
「桜の木よ、どうか鍵を受け入れてくださいませ。」何処に鍵穴があるかも分からなかったが桜の木にお願いし、鍵を近づけた
すると、記憶の中にある桜の花の色をした光が煌めいた。 桜の花の季節でも無いのにヒラヒラと花びらが舞い落ちて来た。何と、儚くも美しい花なのだろう。思わず見惚れていた。光が一際煌めいた後、気づけば優しい空気に包まれた穏やかな場所に居た。
『愛するアリアーナ、ここに来れたって事は貴女にとって望ましく無いことが起こったか、起こりそうなのね・・・側にいてあげられなくて、貴女を独りにしてしまってごめんなさい。
この、私は記憶の残像とでも言うべき存在。それでも、貴女に残したかった。
少しでも、貴女の助けになれば良いのだけれど。
貴女には、力が眠っているの。ソレはまだ小さな貴女には負担が大きく、何も無ければそのまま眠らせておくのも一つの手だと、ある賢者に言われたの。コレはお父様にも、リーゼファルト殿下にも内緒よ?
いえ、ココに来れた時点でそのお二人は味方では無い可能性があるわね。
ココを出たら、桜の木は無くなってしまうわ。でも、心配しないで・・・
この鍵が苗木になるわ。貴女が安心出来る場所に植えてね。
そして、貴女の思う通りに、自由にすると良いわ。幸せになって良いのよアリアーナ・・・
思い出した時、辛いかもしれない。でも、幸せになって欲しい。
愛しているわ、アリアーナ』
お母様に、抱きしめられて久しぶりに穏やかな暖かい気持ちになった。
気づくと、桜の木は無く、桜色のバッグに桜色の艶やかなドレスと真珠色の靴。
ドレスよりも濃い色だけど優しい色合いの煌めくネックレスとイヤリングが入っていた。
涙を溢しながら
「まるでお伽話のようね。」と呟きながら部屋へと戻り。久しぶりの優しい眠りに着いた。
10
お気に入りに追加
161
あなたにおすすめの小説
今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて
nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…
裏切者には神罰を
夜桜
恋愛
幸せな生活は途端に終わりを告げた。
辺境伯令嬢フィリス・クラインは毒殺、暗殺、撲殺、絞殺、刺殺――あらゆる方法で婚約者の伯爵ハンスから命を狙われた。
けれど、フィリスは全てをある能力で神回避していた。
あまりの殺意に復讐を決め、ハンスを逆に地獄へ送る。
前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る
花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。
その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。
何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。
“傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。
背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。
7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。
長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。
守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。
この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。
※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。
(C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない
かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、
それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。
しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、
結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。
3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか?
聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか?
そもそも、なぜ死に戻ることになったのか?
そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか…
色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、
そんなエレナの逆転勝利物語。
【完結】あなたのいない世界、うふふ。
やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。
しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。
とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。
===========
感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。
4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。
彼が愛した王女はもういない
黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
シュリは子供の頃からずっと、年上のカイゼルに片想いをしてきた。彼はいつも優しく、まるで宝物のように大切にしてくれた。ただ、シュリの想いには応えてくれず、「もう少し大きくなったらな」と、はぐらかした。月日は流れ、シュリは大人になった。ようやく彼と結ばれる身体になれたと喜んだのも束の間、騎士になっていた彼は護衛を務めていた王女に恋をしていた。シュリは胸を痛めたが、彼の幸せを優先しようと、何も言わずに去る事に決めた。
どちらも叶わない恋をした――はずだった。
※関連作がありますが、これのみで読めます。
※全11話です。
「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚
ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。
※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。
婚約破棄されなかった者たち
ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。
令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。
第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。
公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。
一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。
その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。
ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる