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⑹平穏な時間・・・?

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「なあ、俺が教える側だよな」
「はい!」
「じゃあ何で俺が前に座ってんだよ。普通お前が後ろだろ」

乗馬の指導をして欲しいというユリスの為に2人して馬に乗った訳だが何故か俺は前に乗らされてそんな俺を背後から抱き込むようにユリスが後ろに乗ったのだ。どう考えても逆ではないのか。 
不満を漏らすがユリスは何処吹く風でニコニコと笑っている。

「それにお前教えるも何も出来てるじゃん。もう1人で乗れるだろ」
「そんな事仰らないでください。エヴァ様の教え方が上手いんです、ね手綱の持ち方はこうであってます?」

全く、ユリスの手に重ねてこうだと示すように教えてやれば背後の男は尚喜でいた。使用人として友好的に接しつつも馴れ合いたい訳では無いのでこのやり方は間違いだったろうか。でも子犬のような目でこちらをじっと見られるとどうにも断りづらく何でも言う事を叶えてしまう。特に体なんかは酷いもんでろくなものを食べて来なかったのか骨と皮だけのガリガリの状態に我慢ならずあれを食えこれを食えと手ずから与えてしまった。その結果どうにもユリスは甘えたになってしまったようで9歳になった今でも俺に食べさせて欲しいと強請る時がある。
でもそんな関係も悪くは無いと思ってしまっている自分もいた。2人で馬に跨って穏やかな風を一身に受け止めるこの時間は平和そのものだ。
エヴァの屋敷はぐるりと森に囲まれている。馬を走らせ森をぬけた先には綺麗な湖が広がっていた。
2人は馬から降り持ってきたサンドイッチを頬張りながら水辺に足をつける。透き通った水はそこが見えるほど綺麗だ。冷たい感覚が気持ちよくてちゃぷちゃぷと遊んでいれば視線を感じる。

「何じっと見てんだよ・・・」
「ふふ、エヴァ様は人魚のようですね」
「はぁ?」

こいつはまた何を言い出すのかと思えば。意地悪のつもりで水を蹴り水飛沫をかけてやればケラケラと笑われる。ユリスはじゃぶじゃぶと音を立てながらこちらに歩み寄ってきて頬へと手を添えた。
水に濡れて冷たい頬にエヴァの熱を持った手のひらが触れてどこか心地よい。無意識にすり、と擦り寄ればユリスの瞳が熱を持った気がした。

「人魚ってなんだよ、俺は男だぞ」
「知ってます。でも美しい男の人魚だっているでしょう」
「・・・俺はちゃんと足生えてるし」

俺の的はずれな返答にユリスは笑みを深くしぐい、と腰に手を回される。

「おいっ何してっ・・!」
「僕エヴァ様のような人魚になら惑わされても良いです。惑わされて、湖に引きずり込まれて、食べられちゃっても」
「は・・・はぁ?何怖いこと言ってんだよ・・・早く戻るぞ」

慌ててユリスを引き剥がし歩き出す。波をかき分け岸辺へ向かう間もずっと背中に熱い視線を感じるようで居心地が悪かった。





「本気だよ・・・僕のエヴァ。エヴァになら何されたっていい」

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