286 / 315
【番外編】
興福寺中金堂再建記念特別展「運慶」にて
しおりを挟む
「……はァ……」
アタシは現在、軽い放心状態だ。
あまりにも、良い仏像を拝見させて頂けて。
※ ※ ※
待ちに待った、世紀の特別展「運慶」。
興福寺の中金堂再建記念に開催された今回の特別展は、全国各地に在る運慶作の仏像群の中から国宝級の“仏”を一気に見せて頂ける夢のような好機だ。アタシは無職なのを良い事に、九月の開始早々に拝見させて頂いて、巨きな衝撃を受けた。
あまりに素晴らしい仏像群の数々に。
アタシは思った。
『ここで、生活出来る!』
と。
数週間を掛けてルーヴル美術館を観て回るのが老後の夢だが。
この展覧会は、とても一回じゃ物足りない! 何度でも通いつめたいっ!!
さすがに運慶は日本人に人気があって、あの興福寺の【阿修羅像】はやって来ないが、連日大人気で土日・祝日は入場規制になる程であった。お気持ちは良く理解りますよ、皆さま!!
約束通りに優里ちゃんともやって来た。
秋雨も何のその、朝から午前中一杯堪能した。アタシも優里ちゃんも感涙ものだ。特設ミュージアムショップで散財したその後は、喫茶店で仏談義で大盛り上がりだ。貴志さんとも来た。勿論、デート半分だ(照)。いや、そっちが目的になってしまったかも知れない(赤面)。
そうして、アタシはまたまたやって来てしまった。
十月も来たかったのだが、由美センセとの合同結婚式があって展覧会どころではなかったのだ。貴志さんのお誕生日を無事にお祝い出来た後に、『最後に、もう一回だけ。』と自分に言い訳して。冒頭の場面へと戻るのである。
※ ※ ※
チケットを購入すると、国立博物館本館の左側の「平成館」へとまっしぐらだ。
この時期になっても、入場者が途絶える事はない。大きなポスターを背景に写真を撮ってらっしゃる方々のお気持ちは、良く理解る。アタシはブログアップ用に撮っただけだったけどね(苦笑)。
入館するとチケットのもぎりのオネーサマがいらっしゃて、にっこりと笑顔で送り出して下さる。「ゆっくり、楽しんでらして下さいね」と。アタシは勿論、「ありがとうございます!」と初めてのような澄ました表情して、笑顔で答える。エスカレーターで二階へ上がると、第一展示室へと誘導されるが、先ず一番のトップバッターは運慶のデビュー作品だ。
【大日如来坐像】
円成寺の御本尊である、このお像はアタシはなかなか御縁を頂く事が出来なかった。御寺に詣でる事なくお像のみを拝見させて頂くと、何だかズルをしたような心地になるが。今回の展覧会は、『展示品を陳列』と云う感じがまるでない。『御寺に拝観』と云う、敬虔な感じさえ与えてくれる。
大日如来の智拳印を結んだ威厳に満ちたお像は、とてもデビュー作には思えない。アタシはかつて、サン・ピエトロ大聖堂で観たミケランジェロの鮮烈なデビュー作【ピエタ】を思い出す。大理石の静謐な聖母子像は、キリスト教に懐疑的なアタシをさえ跪かせる崇高さが在った。このお像も、そうだ。密教宇宙の最高神を二十代で創り出してしまう、その早熟な天賦の才に感嘆する他はない。
【毘沙門天立像】
四天王のお一人なのだから、憤怒の表情は当然なのだが。
この奈良の中川寺の毘沙門天の容赦のなさは、例えようもない。仏法の守護神なのだから当然なのだが、『邪鬼さんから、どいてあげて下さい!!』と懇願して、すがりつきたくなってしまう非情さは一片の情けの欠片もない。
対して。
【不動明王立像】
神奈川県の浄楽寺のお像で、仏像も一度拝観してみたいと思っていたお像だ。アタシは仏像は、しゃがんで下からお見上げする事にしてるのだが。憤怒の相をしていながらも、こんなに静謐な不動明王は初めてだった。ヒンドゥーの神鳥・迦楼羅の炎を纏いながらの、この神秘的な静かさは、一体何なのであろうか? まるで、菩薩の表情だ。同じ憤怒の表情をとってはいても、四天王などの戦闘神とは違って、大日如来の教化の為の化身ゆえの御姿だからであろうか。確かな慈悲の精神を感じさせる運慶の造形に畏敬の念を覚えずにはいられない。アタシは長い間、そこから動く事が出来なかったのだった。
【毘沙門天立像】
願成就院の、あまりにも有名な国宝だ。
やはり、長い間の憧れのお像だった。先ほど観た毘沙門天立像とは、まるで違う。
特に憤怒の表情はない。けれども、仏の法を護らんとする強固な意志と威厳が、その肉感的なお像からは確かに感じられるのだ。『誰かに、似てるんだよねぇ~』と云う呟きが毎回のように周囲の方々から聞こえたのには、苦笑いを隠すのに苦労してしまった。
【聖観音菩薩立像】
瀧山寺のお像で、アタシは以前御縁を頂いた事があるのだが。
何故だろう、一際、精神に染み入る気がするのは。
あの浅草寺の御本尊が、この聖観世音菩薩さまだからであろうか?
色鮮やかで華やかなのだが、宝冠や光背も仏像に負けていない。相乗効果で、ただ一体のみで極楽浄土を、アタシたちに体感せて下さる素晴らしいお像なのだ。
【矜羯羅童子立像】
今回は高野山の金剛峯寺の不動堂の八大童子の、運慶作とされる六体のお像が出張なされる事が目玉となっているが。このお像も、二度目の御縁だ。八大童子は不動明王の眷属であるが、アタシはこの童子が特にお気に入りだ。他のお像も個性的で魅力的なのだが、この矜羯羅童子は穏やかな表情とただ無心な不動明王への信頼が表れている気がするのだ。特に下からお見上げすると、その印象は益々強まる。浄瑠璃寺の矜羯羅童子と違って、まるで現実の少年のようだが、受ける印象が同じなのが何だか嬉しい。
【無著菩薩立像】
興福寺の北円堂の弥勒如来の脇侍で秘仏で国宝である。
やはり以前上野に出張されてらっしゃった事があって、二度目の御縁なのだが。
今回の運慶展で、一番衝撃を受けたお像なのである。
九月に真っ先に押し掛けた時。このお像の前に立って、何の感情も感動も湧き上がって来ない事に愕然としたのだが。下からお見上げした瞬間。その啓示は、閃光のようにアタシの脳を刺し貫いた。このお像は。
「『空』である」
と。
般若心経で言う、「色即是空、空即是色」を体現しているお像なのである、と。
―――ああ。
大仏師・運慶は最晩年に遂に、この境地にまで到達する事が出来たのか―――
アタシはいつしか、涙を流していた。
仏の形をした真理の光の前に佇んで。
しばらく動く事が出来ないでいたのだったが。
この日もこのお像の前で合掌し涙して、しばらく動く事が出来ずにいたのだった。
【天燈鬼立像】
ようやく涙がおさまったら、やはりこの鬼にご挨拶を忘れてはならない。
左側には相方の【龍燈鬼】さんがおいでだが、アタシは誰が何と言おうと【天燈鬼】推進・擁護派なのだ♪
今回の運慶展のマスコットキャラクターのように扱われているから、ここも人気のコーナーだ。多くの人々がおいでになって、中には外国の方もおいでになって、ちょっち不安になってしまった。何故ならば、特設ミュージアムショップで売られていたトートバッグに『Standing Demons』と書かれていたからである。
アタシは声を大にして主張したい。
『「悪魔」じゃないのよ!
改心した「鬼」で、「天部」にも等しい存在なのよ!! 』と。
仏燈籠を灯すお役目を頂戴しているのだから、アタシの主張は正しいと思うのだ。
天燈鬼は阿形で龍燈鬼は吽形なのだから、仏法を守護する金剛力士像にも通じるとすら思う。
アタシのブログではフォントを倍にした太字で訴えているから、日本のアタシの読者様には通じていると思うが。異国の皆様はどうであろうか? こー云う時は、貴志さんの「ブログを英訳して、海外に発信してみては?」との誘いに乗りたくなってしまう。
そうでなければ、『オレは仏様からお役目を頂戴して、ここで頑張っているんだァ~!!』と、己の持ちうる力の限りで仏燈籠を灯してらっしゃる天燈鬼さんがあまりにも哀れでお気の毒である(涙)。
※ ※ ※
そうして、現在。
アタシは【椿屋珈琲店 上野茶廊】に来ているのだ。
瞳と精神の保養と栄養補給をして、素敵な仏像群が醸し出す余韻に浸っているのだ。馥郁たる芳香を放つ美味な珈琲と、秋の王者の風格を放つ巨きな栗さんが鎮座しているマロンショコラケーキを前にして。
遂にイヤホンガイドは使わなかった。
自慢する訳ではないが、その手の本はかなり読んでいるし。最新情報もネットなどで入手済である。ミュージアムショップは、華麗にスルーだ。一番最初に来た時には勢いのままに、優里ちゃんと来た時もそれなりに買ってしまったから。それにしても、興福寺さんは商売上手である。マスコットキャラクターのお菓子は序の口で、お香などはハッキリ言ってやり方が上手すぎる。あんなに知恵がまわるのなら、まだ復興支援を必要としている各地への募金などを募ったりして欲しいものである。まあ、思惑が理解っていながらも、それに乗ってしまうアタシたちも悪いんだけどネ(苦笑)。
それにしても、『運慶仏』は格別であった。
独身時代には感じる事のなかった感覚を体感する事が出来た。
仏師・運慶は、仏教で言う『末法』と呼ばれた乱世の時代を生きた人間である。南都復興に力を尽くすが、興福寺の再興事業への参加や東大寺の仁王像はその顕著な例であろう。一切の妥協を許さない、その真摯な姿勢は正に「大仏師」の称号に相応しいと言えよう。運慶の造る仏像には、“祈り”があり、観る人の心に訴える何かがあるのだ。それ故に時代や世代を超え、人々に愛され続けているのであろう。
ただ、アタシ的には、広目天像や毘沙門天像の下の邪鬼さんにまでは神経がゆき届いてないように見えて、些か残念である(苦笑)。ああ、誤解なきようにお願いしたいのだが、邪鬼さんの造形に文句がある訳ではない。他の仏師が造る『姐さん、助けておくんなさ~い!』とか『しょーがねーなァ、オレっちが支えてやるゼ。』みたいな邪鬼さんの囁きが聴こえて来ないから、ちょっとだけ寂しいのである。
ないものねだりで、申し訳ございません(ココロの中の土下座)。
それにしても。
仏像を観て涙したのは、久し振りである。
般若心経はソラで言える程だし、解説書だって飽きる程読んだ。
あの澤木さんのお申し出を受けるか否かを決める為に悩んだ時に。
ただ、あのように感じたのは初めてであり、今日やっと腑に落ちたように思うのだ。これも、貴志さんと【結魂】して、アタシの精神が満たされているからであろうか(照)。
いずれにしても。
平安の天皇や貴族の時代から、武士が台頭してきた鎌倉時代を駆け抜けた、一人の天才仏師の魂に触れる事が出来る、素晴らしい展覧会であった。このように仏像を魅せて頂けるのは、本当に嬉しく有り難い。
アタシは季節のケーキを味わい、珈琲の最後の一口を含むと席を立ったのだった。
貴志さんの誕生日をお祝いする心算が、自分が結婚記念日を祝福して頂くかのような凄まじい体験をする事になるのは、また別のお話である。
FIN
アタシは現在、軽い放心状態だ。
あまりにも、良い仏像を拝見させて頂けて。
※ ※ ※
待ちに待った、世紀の特別展「運慶」。
興福寺の中金堂再建記念に開催された今回の特別展は、全国各地に在る運慶作の仏像群の中から国宝級の“仏”を一気に見せて頂ける夢のような好機だ。アタシは無職なのを良い事に、九月の開始早々に拝見させて頂いて、巨きな衝撃を受けた。
あまりに素晴らしい仏像群の数々に。
アタシは思った。
『ここで、生活出来る!』
と。
数週間を掛けてルーヴル美術館を観て回るのが老後の夢だが。
この展覧会は、とても一回じゃ物足りない! 何度でも通いつめたいっ!!
さすがに運慶は日本人に人気があって、あの興福寺の【阿修羅像】はやって来ないが、連日大人気で土日・祝日は入場規制になる程であった。お気持ちは良く理解りますよ、皆さま!!
約束通りに優里ちゃんともやって来た。
秋雨も何のその、朝から午前中一杯堪能した。アタシも優里ちゃんも感涙ものだ。特設ミュージアムショップで散財したその後は、喫茶店で仏談義で大盛り上がりだ。貴志さんとも来た。勿論、デート半分だ(照)。いや、そっちが目的になってしまったかも知れない(赤面)。
そうして、アタシはまたまたやって来てしまった。
十月も来たかったのだが、由美センセとの合同結婚式があって展覧会どころではなかったのだ。貴志さんのお誕生日を無事にお祝い出来た後に、『最後に、もう一回だけ。』と自分に言い訳して。冒頭の場面へと戻るのである。
※ ※ ※
チケットを購入すると、国立博物館本館の左側の「平成館」へとまっしぐらだ。
この時期になっても、入場者が途絶える事はない。大きなポスターを背景に写真を撮ってらっしゃる方々のお気持ちは、良く理解る。アタシはブログアップ用に撮っただけだったけどね(苦笑)。
入館するとチケットのもぎりのオネーサマがいらっしゃて、にっこりと笑顔で送り出して下さる。「ゆっくり、楽しんでらして下さいね」と。アタシは勿論、「ありがとうございます!」と初めてのような澄ました表情して、笑顔で答える。エスカレーターで二階へ上がると、第一展示室へと誘導されるが、先ず一番のトップバッターは運慶のデビュー作品だ。
【大日如来坐像】
円成寺の御本尊である、このお像はアタシはなかなか御縁を頂く事が出来なかった。御寺に詣でる事なくお像のみを拝見させて頂くと、何だかズルをしたような心地になるが。今回の展覧会は、『展示品を陳列』と云う感じがまるでない。『御寺に拝観』と云う、敬虔な感じさえ与えてくれる。
大日如来の智拳印を結んだ威厳に満ちたお像は、とてもデビュー作には思えない。アタシはかつて、サン・ピエトロ大聖堂で観たミケランジェロの鮮烈なデビュー作【ピエタ】を思い出す。大理石の静謐な聖母子像は、キリスト教に懐疑的なアタシをさえ跪かせる崇高さが在った。このお像も、そうだ。密教宇宙の最高神を二十代で創り出してしまう、その早熟な天賦の才に感嘆する他はない。
【毘沙門天立像】
四天王のお一人なのだから、憤怒の表情は当然なのだが。
この奈良の中川寺の毘沙門天の容赦のなさは、例えようもない。仏法の守護神なのだから当然なのだが、『邪鬼さんから、どいてあげて下さい!!』と懇願して、すがりつきたくなってしまう非情さは一片の情けの欠片もない。
対して。
【不動明王立像】
神奈川県の浄楽寺のお像で、仏像も一度拝観してみたいと思っていたお像だ。アタシは仏像は、しゃがんで下からお見上げする事にしてるのだが。憤怒の相をしていながらも、こんなに静謐な不動明王は初めてだった。ヒンドゥーの神鳥・迦楼羅の炎を纏いながらの、この神秘的な静かさは、一体何なのであろうか? まるで、菩薩の表情だ。同じ憤怒の表情をとってはいても、四天王などの戦闘神とは違って、大日如来の教化の為の化身ゆえの御姿だからであろうか。確かな慈悲の精神を感じさせる運慶の造形に畏敬の念を覚えずにはいられない。アタシは長い間、そこから動く事が出来なかったのだった。
【毘沙門天立像】
願成就院の、あまりにも有名な国宝だ。
やはり、長い間の憧れのお像だった。先ほど観た毘沙門天立像とは、まるで違う。
特に憤怒の表情はない。けれども、仏の法を護らんとする強固な意志と威厳が、その肉感的なお像からは確かに感じられるのだ。『誰かに、似てるんだよねぇ~』と云う呟きが毎回のように周囲の方々から聞こえたのには、苦笑いを隠すのに苦労してしまった。
【聖観音菩薩立像】
瀧山寺のお像で、アタシは以前御縁を頂いた事があるのだが。
何故だろう、一際、精神に染み入る気がするのは。
あの浅草寺の御本尊が、この聖観世音菩薩さまだからであろうか?
色鮮やかで華やかなのだが、宝冠や光背も仏像に負けていない。相乗効果で、ただ一体のみで極楽浄土を、アタシたちに体感せて下さる素晴らしいお像なのだ。
【矜羯羅童子立像】
今回は高野山の金剛峯寺の不動堂の八大童子の、運慶作とされる六体のお像が出張なされる事が目玉となっているが。このお像も、二度目の御縁だ。八大童子は不動明王の眷属であるが、アタシはこの童子が特にお気に入りだ。他のお像も個性的で魅力的なのだが、この矜羯羅童子は穏やかな表情とただ無心な不動明王への信頼が表れている気がするのだ。特に下からお見上げすると、その印象は益々強まる。浄瑠璃寺の矜羯羅童子と違って、まるで現実の少年のようだが、受ける印象が同じなのが何だか嬉しい。
【無著菩薩立像】
興福寺の北円堂の弥勒如来の脇侍で秘仏で国宝である。
やはり以前上野に出張されてらっしゃった事があって、二度目の御縁なのだが。
今回の運慶展で、一番衝撃を受けたお像なのである。
九月に真っ先に押し掛けた時。このお像の前に立って、何の感情も感動も湧き上がって来ない事に愕然としたのだが。下からお見上げした瞬間。その啓示は、閃光のようにアタシの脳を刺し貫いた。このお像は。
「『空』である」
と。
般若心経で言う、「色即是空、空即是色」を体現しているお像なのである、と。
―――ああ。
大仏師・運慶は最晩年に遂に、この境地にまで到達する事が出来たのか―――
アタシはいつしか、涙を流していた。
仏の形をした真理の光の前に佇んで。
しばらく動く事が出来ないでいたのだったが。
この日もこのお像の前で合掌し涙して、しばらく動く事が出来ずにいたのだった。
【天燈鬼立像】
ようやく涙がおさまったら、やはりこの鬼にご挨拶を忘れてはならない。
左側には相方の【龍燈鬼】さんがおいでだが、アタシは誰が何と言おうと【天燈鬼】推進・擁護派なのだ♪
今回の運慶展のマスコットキャラクターのように扱われているから、ここも人気のコーナーだ。多くの人々がおいでになって、中には外国の方もおいでになって、ちょっち不安になってしまった。何故ならば、特設ミュージアムショップで売られていたトートバッグに『Standing Demons』と書かれていたからである。
アタシは声を大にして主張したい。
『「悪魔」じゃないのよ!
改心した「鬼」で、「天部」にも等しい存在なのよ!! 』と。
仏燈籠を灯すお役目を頂戴しているのだから、アタシの主張は正しいと思うのだ。
天燈鬼は阿形で龍燈鬼は吽形なのだから、仏法を守護する金剛力士像にも通じるとすら思う。
アタシのブログではフォントを倍にした太字で訴えているから、日本のアタシの読者様には通じていると思うが。異国の皆様はどうであろうか? こー云う時は、貴志さんの「ブログを英訳して、海外に発信してみては?」との誘いに乗りたくなってしまう。
そうでなければ、『オレは仏様からお役目を頂戴して、ここで頑張っているんだァ~!!』と、己の持ちうる力の限りで仏燈籠を灯してらっしゃる天燈鬼さんがあまりにも哀れでお気の毒である(涙)。
※ ※ ※
そうして、現在。
アタシは【椿屋珈琲店 上野茶廊】に来ているのだ。
瞳と精神の保養と栄養補給をして、素敵な仏像群が醸し出す余韻に浸っているのだ。馥郁たる芳香を放つ美味な珈琲と、秋の王者の風格を放つ巨きな栗さんが鎮座しているマロンショコラケーキを前にして。
遂にイヤホンガイドは使わなかった。
自慢する訳ではないが、その手の本はかなり読んでいるし。最新情報もネットなどで入手済である。ミュージアムショップは、華麗にスルーだ。一番最初に来た時には勢いのままに、優里ちゃんと来た時もそれなりに買ってしまったから。それにしても、興福寺さんは商売上手である。マスコットキャラクターのお菓子は序の口で、お香などはハッキリ言ってやり方が上手すぎる。あんなに知恵がまわるのなら、まだ復興支援を必要としている各地への募金などを募ったりして欲しいものである。まあ、思惑が理解っていながらも、それに乗ってしまうアタシたちも悪いんだけどネ(苦笑)。
それにしても、『運慶仏』は格別であった。
独身時代には感じる事のなかった感覚を体感する事が出来た。
仏師・運慶は、仏教で言う『末法』と呼ばれた乱世の時代を生きた人間である。南都復興に力を尽くすが、興福寺の再興事業への参加や東大寺の仁王像はその顕著な例であろう。一切の妥協を許さない、その真摯な姿勢は正に「大仏師」の称号に相応しいと言えよう。運慶の造る仏像には、“祈り”があり、観る人の心に訴える何かがあるのだ。それ故に時代や世代を超え、人々に愛され続けているのであろう。
ただ、アタシ的には、広目天像や毘沙門天像の下の邪鬼さんにまでは神経がゆき届いてないように見えて、些か残念である(苦笑)。ああ、誤解なきようにお願いしたいのだが、邪鬼さんの造形に文句がある訳ではない。他の仏師が造る『姐さん、助けておくんなさ~い!』とか『しょーがねーなァ、オレっちが支えてやるゼ。』みたいな邪鬼さんの囁きが聴こえて来ないから、ちょっとだけ寂しいのである。
ないものねだりで、申し訳ございません(ココロの中の土下座)。
それにしても。
仏像を観て涙したのは、久し振りである。
般若心経はソラで言える程だし、解説書だって飽きる程読んだ。
あの澤木さんのお申し出を受けるか否かを決める為に悩んだ時に。
ただ、あのように感じたのは初めてであり、今日やっと腑に落ちたように思うのだ。これも、貴志さんと【結魂】して、アタシの精神が満たされているからであろうか(照)。
いずれにしても。
平安の天皇や貴族の時代から、武士が台頭してきた鎌倉時代を駆け抜けた、一人の天才仏師の魂に触れる事が出来る、素晴らしい展覧会であった。このように仏像を魅せて頂けるのは、本当に嬉しく有り難い。
アタシは季節のケーキを味わい、珈琲の最後の一口を含むと席を立ったのだった。
貴志さんの誕生日をお祝いする心算が、自分が結婚記念日を祝福して頂くかのような凄まじい体験をする事になるのは、また別のお話である。
FIN
0
お気に入りに追加
476
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約者を寝取られた公爵令嬢は今更謝っても遅い、と背を向ける
高瀬船
恋愛
公爵令嬢、エレフィナ・ハフディアーノは目の前で自分の婚約者であり、この国の第二王子であるコンラット・フォン・イビルシスと、伯爵令嬢であるラビナ・ビビットが熱く口付け合っているその場面を見てしまった。
幼少時に婚約を結んだこの国の第二王子と公爵令嬢のエレフィナは昔から反りが合わない。
愛も情もないその関係に辟易としていたが、国のために彼に嫁ごう、国のため彼を支えて行こうと思っていたが、学園に入ってから3年目。
ラビナ・ビビットに全てを奪われる。
※初回から婚約者が他の令嬢と体の関係を持っています、ご注意下さい。
コメントにてご指摘ありがとうございます!あらすじの「婚約」が「婚姻」になっておりました…!編集し直させて頂いております。
誤字脱字報告もありがとうございます!
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
元妃は多くを望まない
つくも茄子
恋愛
シャーロット・カールストン侯爵令嬢は、元上級妃。
このたび、めでたく(?)国王陛下の信頼厚い側近に下賜された。
花嫁は下賜された翌日に一人の侍女を伴って郵便局に赴いたのだ。理由はお世話になった人達にある書類を郵送するために。
その足で実家に出戻ったシャーロット。
実はこの下賜、王命でのものだった。
それもシャーロットを公の場で断罪したうえでの下賜。
断罪理由は「寵妃の悪質な嫌がらせ」だった。
シャーロットには全く覚えのないモノ。当然、これは冤罪。
私は、あなたたちに「誠意」を求めます。
誠意ある対応。
彼女が求めるのは微々たるもの。
果たしてその結果は如何に!?
決めたのはあなたでしょう?
みおな
恋愛
ずっと好きだった人がいた。
だけど、その人は私の気持ちに応えてくれなかった。
どれだけ求めても手に入らないなら、とやっと全てを捨てる決心がつきました。
なのに、今さら好きなのは私だと?
捨てたのはあなたでしょう。
義妹がすぐに被害者面をしてくるので、本当に被害者にしてあげましょう!
新野乃花(大舟)
恋愛
「フランツお兄様ぁ〜、またソフィアお姉様が私の事を…」「大丈夫だよエリーゼ、僕がちゃんと注意しておくからね」…これまでにこのような会話が、幾千回も繰り返されれきた。その度にソフィアは夫であるフランツから「エリーゼは繊細なんだから、言葉や態度には気をつけてくれと、何度も言っているだろう!!」と責められていた…。そしてついにソフィアが鬱気味になっていたある日の事、ソフィアの脳裏にあるアイディアが浮かんだのだった…!
※過去に投稿していた「孤独で虐げられる気弱令嬢は次期皇帝と出会い、溺愛を受け妃となる」のIFストーリーになります!
※カクヨムにも投稿しています!
貴方様の後悔など知りません。探さないで下さいませ。
ましろ
恋愛
「致しかねます」
「な!?」
「何故強姦魔の被害者探しを?見つけて如何なさるのです」
「勿論謝罪を!」
「それは貴方様の自己満足に過ぎませんよ」
今まで順風満帆だった侯爵令息オーガストはある罪を犯した。
ある令嬢に恋をし、失恋した翌朝。目覚めるとあからさまな事後の後。あれは夢ではなかったのか?
白い体、胸元のホクロ。暗めな髪色。『違います、お許し下さい』涙ながらに抵抗する声。覚えているのはそれだけ。だが……血痕あり。
私は誰を抱いたのだ?
泥酔して罪を犯した男と、それに巻き込まれる人々と、その恋の行方。
★以前、無理矢理ネタを考えた時の別案。
幸せな始まりでは無いので苦手な方はそっ閉じでお願いします。
いつでもご都合主義。ゆるふわ設定です。箸休め程度にお楽しみ頂けると幸いです。
えっと、幼馴染が私の婚約者と朝チュンしました。ドン引きなんですけど……
百谷シカ
恋愛
カメロン侯爵家で開かれた舞踏会。
楽しい夜が明けて、うららかな朝、幼馴染モイラの部屋を訪ねたら……
「えっ!?」
「え?」
「あ」
モイラのベッドに、私の婚約者レニー・ストックウィンが寝ていた。
ふたりとも裸で、衣服が散乱している酷い状態。
「どういう事なの!?」
楽しかった舞踏会も台無し。
しかも、モイラの部屋で泣き喚く私を、モイラとレニーが宥める始末。
「触らないで! 気持ち悪い!!」
その瞬間、私は幼馴染と婚約者を失ったのだと気づいた。
愛していたはずのふたりは、裏切り者だ。
私は部屋を飛び出した。
そして、少し頭を冷やそうと散歩に出て、美しい橋でたそがれていた時。
「待て待て待てぇッ!!」
人生を悲観し絶望のあまり人生の幕を引こうとしている……と勘違いされたらしい。
髪を振り乱し突進してくるのは、恋多き貴公子と噂の麗しいアスター伯爵だった。
「早まるな! オリヴィア・レンフィールド!!」
「!?」
私は、とりあえず猛ダッシュで逃げた。
だって、失恋したばかりの私には、刺激が強すぎる人だったから……
♡内気な傷心令嬢とフェロモン伯爵の優しいラブストーリー♡
訳あり冷徹社長はただの優男でした
あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた
いや、待て
育児放棄にも程があるでしょう
音信不通の姉
泣き出す子供
父親は誰だよ
怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳)
これはもう、人生詰んだと思った
**********
この作品は他のサイトにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる