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ラブラブ新婚編

No,190 【インティ・ライミ】in仏蘭西 No,4

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「…眠れませんか…?」
「…貴志さん…」
「…眠れないのでしたら、私の寝酒ナイトキャップに付き合って頂けませんか…?」
「…はい…喜んで…」


―――夫の心遣いが、精神ココロにしみた。



※ ※ ※



【ルルドの泉】から帰って来て。
妙に言葉少なになってしまった。
貴志さんはそんなアタシを、静かに温かく見守ってくれた。

どこかに食べに出る気分になれなかったので、ルームサーヴィスを頼む事にした。早くもご飯が恋しくなってしまっていたアタシは、夕飯は日本食を頼んだ。ホントはおにぎりの様なものが食べたかったのだが我儘は言えない。お寿司を頼んだら、さすが四つ星ホテル、銀座の店に勝るとも劣らないものが出て来て、真唯の舌を満足させてくれた。貴志さんが『私もご相伴にあずかります。』と同じものを頼んだのは申し訳ない気分になったが、まだ明るい夜、窓から見える【オペラ・ガルニエ】を見ながら頂くお寿司は、やはり異国の味がした。

貴志さんがアタシのために予約ってくれた部屋は、この高級ホテルに四部屋しかないと云う、最高級のスイートだった。金と青を基調としたシックなインテリア、バルコニーから見えるのはバレエ界のエトワールが集うパリ・オペラ座と、アタシの大好きな【LANCEL】本店。抜群のロケーションだ。

夕食後は何をするでもなく、夫の腕の中に居た。
……そこが、真唯にとっての天国パライソだったから。

広いバスルームで、二人でお風呂に入る。
……何だか無性に甘えたい気分だったのだ。
そして穏やかに愛し合って。夫の腕の中で眠りに就こうとしたのだが……睡眠導入剤を飲んではいたのだが、眠りは一向に訪れる気配はなく……

そして、冒頭の会話となったのだった。



※ ※ ※



帝都ホテルと同じ、二十四時間のルームサーヴィス体制。豊富なメニューの中から、アタシは黒いカクテル【天使の接吻エンジェル・キッス】を。チョコレートリキュールと生クリームのハーモニーを楽しむ。強いアルコールにクラクラするが……その酩酊感が心地好い。

貴志さんは、【ダーティー・マザー】と云う、何とも意味深な名前のカクテルを頼んだ。
……でも、“黒の聖母”だって存在するのだ。



……アタシは、今日……いや、厳密に言えば既に昨日だが、天使のキスを……聖母の祝福を受ける事が出来たのだろうか……



「…正直、申し上げれば…【無原罪の御宿り】と云う教義や、聖書に書かれている事をあたまから信じる事は出来ません…ですが確かにあの場所ルルドには、聖母の…“神”の存在を感じました…」

「………………………」

「…でも、それを信じさせてくれたのは…その存在を信じる、人々の畏敬の念でした…」

「………………………」

「…聖母の無償の愛を信じる事が出来ないアタシは…やはり、罰当たりな人間なんでしょうね…」

「…聖なる母の聖地に赴いた翌日に、【穢れた母】なんて酒を愉しんでる、私の方がよっぽど罰当たりですよ…」

「…貴志さん…」

「…私は無神論者ですから…神も仏も…そして、聖母も所詮、この世にはいないのだと…私には…真唯さん…貴女さえいて下されば、それで良いんですよ…」

「………………………」

「…リザと澤木様のお申し出の事を考えてらしたのですね…」

「……それも…あります……」



……そうなのだ。

“不老不死”なんて奇跡、アタシに受ける資格があるのかと……“自分”を見つめ直してみたかったのだ……聖堂を…教会を見て……フランスの人々の日々の“糧”になってしまっているキリスト教への信仰に触れて……どうしても奇跡を“体感”してみたくなってしまったのだ……



「…収穫は…ありましたか…?」

「……ええ…ありました……」

「……答えは…出ましたか…?」

「……恥ずかしながら…それはまだ……」

「……恥ずかしい事なんてありませんよ…時間はたっぷりあるんです…ゆっくり考えて下さい……」

「……貴志さんは…貴志さんは、どうされたいんですか…?」

「……それは、あの時、申し上げました…私は、貴女の決定に従うまでです……」

「……永遠と云う永い時を…私と過ごしても構わないと…?」

「……他ならぬ、貴女とご一緒だからですよ…他の奴となんて、今すぐに死んだ方がマシですよ……」

「………………………」

「…明日は、のんびりして昼寝でもして…ロワールの城巡りは明後日からでも…」

「…いえ! …それは大丈夫です…予定通り、ロワールへ行けます…」

「…ですが…」

「…カーヴのあるシャトーへはツアーで行った事があるんですが…本格的なお城なんて初めてで、これでも楽しみにしてたんですから…あ、ベルサイユは別格ですが…」

「…ベルサイユは確か…優里さんが学生の頃、訪れてましたよね…」

「…半日観光で、眼が疲れました…」

「…それはお気の毒さまでした…」

「…だから、フランスの古いお城って云うのに、興味があるんです…」

「…名城と名高い処を巡る予定ですから、是非、真唯さんのインテリアの参考になさって下さい。」

「…! もしかして…っ!?」

「…貴女がおっしゃってたんですよ…アンティークの家具を集めてみたいと…」

「…だから、あくまで将来の話なんですってば…」

「…ええ、勿論です…ですから、今から本物に触れて、見るを養っておくんですよ…」

「…『親バカ』とか、『爺バカ』とか云う言葉なら聞いた事があるんですが…貴志さんほどの『夫バカ』はいないと思います…」

「…『夫バカ』か…素敵な言葉ですね…道化師も真っ青の愚か者フールになってみせますよ…」

「…そんな嬉しくない宣言、要りません…賢い旦那さまになって下さい…って、貴志さんは充分、賢いんですが…アタシの事に関しては、箍が外れ易くなると思います…」

「…それは仕方がありませんよ…何と言っても私は、理想の奥方を娶る事が出来た幸福な花婿なのですから…」

「~~~~~////」

「…おや…寝酒が効いてきましたか…?」

「…そのようです…お陰さまで、グッスリ眠れそうですよ…」

「…それは良かった…」

クスクス笑いをしているひとを軽く睨むが、夜目にも眩しい笑顔を返されて…苦笑いに解けてしまった。




―――そうして。



昂った気持ちも、いつもの貴志さんの寝言爆弾の威力で木っ端微塵に粉砕され……寝言は寝てから、夢の中のアタシに囁いてもらう事にして……アタシは密かに、貴志さんの夢の中の“アタシ”に同情してしまったのだった……




―――……おやすみなさい、貴志さん…夢の中のアタシ…頑張って、迎撃してね……―――






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