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ラブラブ新婚編

No,166 ホワイトデー・クルージング No,5

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槵觸神社くしふるじんじゃ

瓊々杵尊ににぎのみことを始めとし、天児屋根命あめのこやねのみこと天太玉命あめのふとだまのみこと経津主命ふつぬしのみこと武甕槌命たけみかづちのみことを御祭神とする神社である。
早い話が、天孫降臨の主人公の神々様なのである。

『クシ』とは神様の霊性を顕す4つの側面【奇魂、幸魂、荒魂、和魂】の一つ、奇魂(神の起こされる奇跡)の事らしい。さしずめ“奇跡が降って来た地”と云う意味だろうか。

創建は不明で、天照大御神さまのお孫さまにあたる瓊々杵尊が天降ったとされるクシフル峰の中腹に在る。元々は、この峰自体を御神体としていたのだが、社殿は17世紀に建立されたとの事である。
気持ちの良い森林浴をしながら遊歩道を登って行くと、そのお社は在った。
鳥居もかなり立派で、木立の中、急な階段がそのまま参道のようである。真唯は内心ヒーヒー言いながら登っていたのだが、それでも優しい旦那さまのエスコートがあって、一人きりだったらもっと大変だっただろうと思う。

やっと辿り着いた拝殿で、真唯は手を合わせた。
あの木花開耶姫さまのご夫君が天下られた土地だと思うと、何やら背筋が伸びる想いがしてしまう。


……高千穂の地に御縁を頂けた事に感謝を申し上げ。


参拝を終えると、木漏れ日の中をゆっくり今来た道を戻る。

“奇跡の地”のパワーを身体中に吸収し。
クシフル峰を後にしたのだった。





お次は、いよいよ大本命に案内された。
夜も来るのだが、昼の明るいうちにもしっかり参拝させて頂く事になったようだ。


【高千穂神社】

聳える鳥居の巨きさに、ご本殿への期待が否応なく高まる。
ご由緒を拝読すれば、主祭神は、一之御殿の高千穂皇神たかちほすめがみさまと、二之御殿の十社大明神さま。
高千穂皇神とは、日本神話の“日向三代”と称される皇祖神とその配偶神(瓊々杵尊と木花開耶姫命さま、彦火火出見尊と豊玉姫命、彦波瀲武鸕鷀草葺不合尊と玉依姫命)の総称で、十社大明神とは、神武天皇の皇兄、三毛入野命みけぬのみこととその妻子神九柱(三毛入野命の妃神である鵜目姫命うのめひめのみことと、両神の御子神である御子太郎命、二郎命、三郎命、畝見命、照野命、大戸命、霊社命、浅良部命あさらべのみこと)の総称とされる。

高千穂は日向三代の宮である高千穂宮が置かれた地と伝えられるが、天孫降臨伝承と在地固有の信仰が融合し、更に熊野修験も加わるなど複雑な信仰を包含する。社伝が伝える詳しい歴史は、丸っと無視させて頂いた(笑)。木内さんの説明によれば、諸説あるらしいとの事なので。


鳥居の前で一礼し。
境内に踏み入れば、明らかに空気が変わるのが理解る。


貴志さんと腕を組んでいても…恥ずかしいなんて思わない。
だって、御祭神さまからしてご夫婦カップルばっかりなんだもん。



……ちょっと、そこのご婦人!
……貴女には、ちゃんと隣にご主人がいらっしゃるでしょ!!

……出たな、女子力百点満点女!
……そんなに見てたって、このひとはあげないからね!!
アタシのなんだからっ!!



などと周囲を威嚇しながら歩いていて……見えて来た杉木立に、そんなイライラが吹き飛んでしまう。
樹齢千年はありそうな立派な大樹。注連縄がないから、御神木じゃないんだ! じゃあ、チャンスだ!! アタシは貴志さんに断って、彼の腕から離れて、その大木に思い切り抱き付いて参りましたヨ!! 
……精気を……“御神気”を頂けているようだ……アタシは瞳を閉じて、樹の温もりを……パワーをひたすら感じておりました。
……背後に、優しい旦那さまの眼差しを感じながら……

有り難い自然のパワーを頂いて。再び貴志さんと腕を組んで歩き出せば、本当の御神木には注連縄が巻かれ、柵が立ててあった。【夫婦杉】なるものもあって、ますます“夫婦和合”の御力を……御神徳を感じて、思わず合掌してしまう真唯なのであった。

が、しかし。
木内さんから「夫婦が手をつないでこれを3周すると、夫婦円満・家内安全・子孫繁栄の3つの願いが叶うと言われていますよ。」と言われてしまい。
……アタシたちの事情を知らない事とは言え……真唯の天の邪鬼の虫が疼いた。

(…アタシたちは子供なんかいらないから、周らないからね! それを不敬とするなら、アタシたちを別れさせてみろってんだ!!)

……怖れ多くも、御神木に喧嘩を売ってしまった真唯なのであった。



そしていよいよ、拝殿へ。
お賽銭は五円と決めている真唯ではあるが、今日は御神楽を拝見させて頂く事でもあるし……お礼の意味も込めて、五百円玉を奮発した。

今回の御縁に感謝を申し上げ。御神楽と云う貴重なものを拝見させて頂ける事にも、重ねて御礼を申し上げた。


木内さんの案内で、御本殿の裏にまわってみると、何やら憤怒の像が彫刻されていた。
聞けば、当時この地方を荒らしまわっていた悪神・鬼八を退治した三毛入野命との事であった。そして鬼八に捕らわれていた、祖母岳明神の娘神・鵜目姫命は三毛入野命に助け出され、後にその妃神になったというから、八岐大蛇の伝説と、ついでにペルセウスの伝説を思い出してしまった。 

……助けると、妻にするのね……たまには、報酬なしで働いてみたら…?

などと皮肉な想いをいだいてしまったのは、ブログには書けない秘密である(苦笑)。





そして、次に案内されたのは、この境内にあると云う事であった。


荒立神社あらたてじんじゃ

猿田彦命さるたひこのみことさまと天鈿女命あめのうずめのみことさまを御祭神とする神社であった。
猿田彦命は、天孫降臨の際の道案内をした事から、道開きの神として知られ、また、天鈿女命は天照大御神が天岩戸に隠れた際に、半裸で楽し気に舞い踊った神として知られている。こうした事から、交通安全、五穀豊穣、商売繁盛、厄除、夫婦和合、安産、芸事の上達、厄除け、子宝、長寿などに利益があるとされている。
社伝に因れば、猿田彦命の先導で当地に天孫降臨が行われ、猿田彦命は当地で降臨に供奉した天鈿女命と結婚して当地に住む事となったが、この結婚が急であったために切り出したばかりの荒木で宮居を建てなければならないとの言い伝えが残ったらしい。
白木造で、新婚さんのマイホームのような、綺麗でこじんまりとしたお社である。

真唯は、有名なこの二柱の神様がご結婚あそばされている事を知らなかったので、木内さんの説明を聞いてかなり驚いた。

……猿田彦命さまは、導きの神様として有名である。



(……アタシたち夫婦を、どうかよろしく、お導き下さいませ…っ!!)



“祈願はしない”と云う真唯Myルールを、あっさり破ってしまう真唯なのであった(笑)。

お社も綺麗だが、真唯は右に位置する森が気に入ってしまった。
何だか、ずっと居たくなるような、清々しさを感じるのである。


……この森になら、妖精フェアリーがいそうである……乙女の精霊ウィリーは、いて欲しくない(苦笑)。


しばしの間、森林浴を楽しんで。
樹々のパワーをフル充電チャージしたのだった。






オーラスは、日本創生神話の里でった。


【二上神社】

日本と云う島と、多くの神々を御産みになられた伊弉諾尊いざなぎのみことさまと、伊弉冉尊いざなみのみことさまをお祀りする神社であった。男岳、女岳の二つの岳が一つになっていることから“二上山”と呼ばれる山にある神社で、高千穂町と五ヶ瀬町にまたがる御山だとの事である。

道理でいくつもの山並を越えて来た訳である。車窓から見える景色も素晴らしかったが、やはりこー云う処は、歩いてなんぼだろう(と言っても、山岳信仰の修験者のように歩けと言われても困るのだが/笑)。

さっきまでの高千穂神社の賑わいが嘘のような、深い緑に囲まれた静かで落ち着いた佇まいである。

真唯は全ての神々の御親神様であられる二柱の神様に、今回の高千穂の地に頂いた御縁に心からの感謝を申し上げた。

そして、さすが神々の御先祖がお祀りされていらっしゃる神社、実に太っ腹である。境内には、触ってご祈願をして下さいと推奨している御神木が存在したのである。

【二上銀杏】

イザナギノミコトさまとイザナミノミコトさまが、国を創る営みを表した神聖な男女の持ち物が自然に形とられた御神木との事である。縁結び、結婚、家庭円満、その他の願いが叶いますようにとご祈願して良いらしい。

真唯は瞑目し、少しの間考えて……そして、樹の肌にソウッと触れて祈願した。



……ここまで案内して下さった木内さんと、ずっとガードして下さるSPさんたちの幸福しあわせを。

……この旅を快適にして下さる山本船長さんとクルーの皆さんと……この旅に関わって下さったすべての方々の幸福を、心からの感謝と共に祈願したのだった。



※ ※ ※



「貴志さん、今日はありがとうございました!
 とっても、楽しかったです!!」
「…まだお礼を言われるのは、早いと思いますよ。
 …メインイベントが残っているのですから…」

今、アタシたちは、一旦御宿に戻って来て、レストランでお夕飯を頂いていた。
【高千穂牛】のしゃぶしゃぶだ。

本当に、舌が蕩けてしまいそうな柔らかさだ。
お薦めの地酒と共に頂けば、美味しさが一層増すような気がする。
けれど、あんまりすごして酔っ払ってしまってはいけない。
……貴志さんの言うメインイベント……【夜神楽】が待っているのだから……


「…それはそうなんですが…あんなに素敵なお社をいっぱい巡れて…こんなに美味しいお料理まで…どうしても、お礼を言いたい気分だったんです。」

「…真唯さん…私に礼を言いたいなら…是非、今夜だけでも、禁欲は解禁にして頂きたいですね。」

「…っ! …もう、貴志さんったら、そんな事ばっかり…っ!!」


真唯は照れ臭さを誤魔化すように、お猪口をクイッと呷って。
優し気に愛し気に見つめる瞳を丸っと無視して、姫鱒と岩魚のお造り、山女魚の塩焼きなどの、地元の食材がふんだんに使われた郷土料理の数々に舌鼓を打った。







……今夜ぐらいは、許してあげようかな…?






などと思ってしまったのは、旦那さまにはまだ秘密の、真唯奥さまのトップシークレットなのであった。







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