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ラブラブ新婚編
No,155 上井夫妻の観梅ツアー 其の二 【みちのくの御仏たち】
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(…ぬかった★)
東京国立博物館を前にしての、真唯の最初の感想がソレだった。
“特別展”の名が冠されているから、てっきり平成館で大々的に催されているとばかり思っていたのだ。しかし本館の垂れ幕で、その間違いに気付かされた。そこにはくっきり『本館特別五室』と書かれていたのだ。
……まあ、滅多に行かない東北の土地から、わざわざ仏像がおいでになっているにかわりはないのだ。入館料のもとをとるためにも、ここはキッチリ拝ませて頂こうと、想いを改たにする真唯なのであった。
※ ※ ※
本館に入ろうとして、エントランス前に展示されている一艘の船に眼が止まる。
説明ボードを見れば、それは岩手県立高田高校の実習船「カモメ」だった。東日本大震災の大津波で流され、漂流を続け、アメリカの西海岸に漂着したのが、返還されたのだ。みちのくの仏たちは、あの大震災を乗り越え、再生を果たしたものだと力強く印象づける展示物だった。
正面の大階段の右側に、今回の特別展の入口があった。
音声ガイドがあったので、有り難く受ける事にする(無論、有料であるが/笑)。
入ってすぐに、ガラスケースに入れられた、岩手・天台寺の【聖観音菩薩立像】が出迎えてくれる。
お像の表面に荒々しいノミ目が残されている事が特徴である。これは“鉈彫”と呼ばれる技法で、お像の表面にあえてノミの彫り跡を縞模様に残す事で、仏師の“呼び掛け”を訴え掛ける技法である。ナレーションの女優の薬師丸ひろ子は、『樹木の神性を仏の形に表した』と解説している。
アタシは、観音菩薩像をジッとみる。正面から。側面から。裏側から。
普段、見慣れた、鎌倉時代の写実的な仏像とはまったく位相の異なるお像を。
昔、「見仏記」と云う本が有名になった事があったが、実はアタシは未読である。あのブームめいたモノが、どうしても肌に合わなかったのである。
自分のブログの中の仏像に関する文章をあえて言葉で表現するなら、真唯は自分の文は“感仏記”だと思っている。見て、体感して、仏像が真唯に語り掛けて来るものを文章に表しているのである。
静かな眼差しの聖観音菩薩は、アタシに『はるばる北の大地からやって来たのだ。好きに見てゆくが良い。』と言ってくれているようで、思わず笑みが零れた。
多くの来館者の隙間をぬうように近付いて、ノミの跡をしみじみと眺めさせて頂くと、素朴な東北の人々の信仰心を熱く感じる事が出来る。
順番通り、山形・吉祥院の【伝薬師如来】【伝阿弥陀如来】の菩薩さまと、【千手観音菩薩】を拝見させて頂いて。「みちのくの仏像と仏教」と題されたパネルを拝見、拝読させて頂いた。
真唯は奈良や京都には良く行くが、東北には滅多に行かない。平安時代、仏教が東北に伝来してゆく様、東日本大震災から四年を迎えようとしている復興の様子を、興味深く拝読、拝聴させて頂いた。
お次はいよいよ、“三大薬師”の一つ、宮城・双林寺の【薬師如来坐像】である。
欅の一木から彫り出された、力強いお像である。特別な技巧を凝らしている訳ではない。それ故の“逞しさ”がヒシヒシと伝わって来る。
両手の欠けている持国天と増長天が左右をお守りしているが、真唯はどうしても二天に踏んづけられている邪鬼さんに注目してしまうのだ。
『あっしの事も、見てやっておくんなさい。』
そんな声が聴こえて来るようだ。
(…邪鬼さん…永い間、ご苦労さまだね。これからも、ファイト…ッ!)
無責任な応援をするしかないアタシを、どうか許して……
『姐さん…あっしを、見捨てないでおくんなさい…っ!』
そんな邪鬼さんの訴えを振り切る様に進めば、今回の目玉である、国宝の福島・勝常寺の【薬師如来坐像】がお目見得する。脇侍の日光、月光菩薩もご一緒だ。
東京での公開は十五年振りとの事だが、アタシは四年振りの再会だ。
一木造の堂々としたお姿は、東北唯一の国宝に相応しい威厳を備えていらっしゃる。
光背は破損が進んでいて、向かって右手の飛天を残すのみだが、ありし日は、病に苦しむ人々の心の拠り所となったのであろう。
お寺で拝観するのと、こうして博物館で拝見するのとでは、やはり感じ方が違う。
(…お薬師さま…原発の爪後に苦しむ人々を、どうかお救い下さい…)
アタシは心の中で、ソッと手を合わせた。
……何も言わずに、背後からアタシを見守ってくれている、旦那さまの優しい眼差しを感じながら。
“三大薬師”の最後の一つ。
岩手・黒石寺の【薬師如来坐像】をお見上げする。
勝常寺の、ふくよかなお薬師さまと違って、鋭い目つきの黒光りするお像だが、なぜだか国宝のお像より惹きつけられるものを感じる。光背は黄金色を保ち、七つの化仏もキチンと残っている。後補なのかも知れない。
“千年に一度の大地震”と言われた貞観地震をくぐりぬけ、再び東日本大震災を経験した、稀有な御仏である。
過酷な自然状況を生き抜く人々の尊崇を集めたのであろう。
日光、月光、両菩薩を従え、訪れる人々を厳しく温かく包み込んでくれているようだ。
秋田・小沼神社の【聖観音菩薩立像】
神社で仏像とはこれいかにと普通の人は思うかも知れないが、明治の神仏分離令で廃仏毀釈の嵐が吹き荒れるまで神仏習合だったのだから神社に仏像があっても何ら不思議はなかったのである。いや、あの蛮行から奇跡的に逃れる事が出来たのだと思うと、政府の命令を無視する形で仏像を守った土地の人々の信仰心に胸が熱くなる想いがする。頭上の化仏を拝見すると、“仏”と云うより雪んこか座敷童子の様な愛らしさを振り撒いていて微笑ましくなってしまう。
岩手・成島毘沙門堂の【伝吉祥天立像】は、頭上に二頭の象が彫られている菩薩形で、吉祥天とは思えないが、吉祥天の原型となったヒンドゥー神話のラクシュミーは象と縁が深い事から「吉祥天曼陀羅」との関連性を考えれば、このような形になったのも納得がゆかぬ事もない。
―――ふと。
アタシの足が止まった。
ガラスケースの中に、赤子を抱いた仏像の姿があったのだ。
鬼子母神……【訶梨帝母】である。
ボードを見れば、岩手・毛越寺とある。
毛越寺には、平泉の中尊寺を訪れた際に詣でた記憶があるが、この様なお像が在るとは知らなかった。
このお寺は藤原氏がこの世の極楽浄土を現そうと浄土式庭園を造ったが、時の権力者・源氏に滅ぼされてしまう。
半跏踏み下げ像で、台座には葉っぱが敷き詰められている。
大変、珍しい。
……子を抱く母……
己の母を、貴志さんの母親とは名ばかりの女性を思い……皮肉な想いしか浮かばない。口をへの字に引き結んでいる様も、とても子供の守護神とは思えない。
だが、一転。
すぐ横に眼を向ければ、優し気な女性のお像があった。
青森の恵光院のお像らしいが、【女神坐像】としか書かれていなくて、薬師丸ひろ子の解説もない。
尼僧の様な素朴な女性神像。
しかしアタシは、まるでインカの地母神・パチャママに相対する様な、柔らかな温かさに包まれ、さっきまでのトゲトゲしさを中和される様な穏やかな心持ちになる事が出来たのだった。
女神の優しさに触れた後は、雄々しい男神の像だ。
薬師如来の眷族、十二神将の四体。
丑神、寅神、卯神、酉神である。
山形・本山慈恩寺蔵であるが鎌倉時代の慶派のお像らしく、都の影響を受け仏教文化が栄えた往時を偲ばせる傑作である。
みなそれぞれ華麗で豪奢な甲冑を纏っているが、卯神だけが上半身裸体で、しかも頭に可愛いウサギさんを乗せているのが何とも微笑ましい気分にさせてくれる。
そして振り返って見れば。
そこには、巨像が聳え立っている。
宮城・給分浜観音堂の【十一面観音菩薩立像】である。
地理的に牡鹿半島の突端にあるようなこの御堂は、給分浜の高台にあった為、震災の高波による難を逃れる事が出来た。三メートル近いこのお像は鎌倉時代の作で、アタシが良く知る流麗なお姿をしていて、東北地方の仏像としては些か異彩を放っている。
お見上げすれば、その穏やかな眼差しは、人の世の悲哀を憐れんでいるかのようにも見える。
化仏も実に丁寧に造り上げられていて(ただ、何故か、正面が化仏ではなく宝塔(?)なのである)、もしかして背面の「暴悪大笑面」が見えないかと後ろに回ってみたのだが……暗くて全く見えなかった。 ……ライトプリーズ!
そしてラスト。
出口近くには、かの有名な【円空仏】が三体並んでいた。
秋田・龍泉寺の【十一面観音菩薩立像】と、青森・西福寺の【地蔵菩薩立像】。
そして円空はこんな北の果てまで行脚して来たのかと感嘆したくなる、青森・常楽寺の【釈迦如来立像】が鎮座ましましていた。
アタシは円空仏を観た事があったがノミ跡が荒々しいものばかりで、 螺髪まで丁寧に彫り込まれている前期のお像を初めて拝見させて頂いた。
全てのお像を観終わったアタシは貴志さんに断って、また入口近くの【聖観音菩薩立像】までとって返した。
そうして今一度、全てのお像を様々なアングルから飽くまで見つめて、拝見させて頂いて……アタシの「みちのくの仏さま」との逢引は、終わりを告げた。
……みちのくの御仏たちの表情は、奈良や京都におわします、悟り澄ました境地を表す表情ではなく、厳しい北の大地に根付き育まれた信仰を表す人間味溢れるお顔でありました。
出口付近のソファーに座って、しばしのたゆたう時に身を任せて、音声ガイドのボーナストラック「みちのくの僧・徳一」を拝聴して、奈良で学び、東北の地で活躍した徳一上人の事を勉強させて頂いたのは、大いなる余談である。
そして、展覧会の後のお楽しみと言えば、ミュージアムショップでのお買い物である。この展覧会の収益の一部は、被災した文化財の修復に役立てられると言うのだから、積極的に協力しなければ!!
様々なグッズの中から、あれやこれやと楽しく悩み。
結局、アタシはポストカードセットと、十二神将の栞セット。
そして、「みちのくの仏」お香セットを自分土産にしたのだった。
家に帰って、お香を聞くのが楽しみである♪
自分に払わせて欲しかったと、文句をおっしゃる旦那さまは、丸っと無視だ(笑)。
この博物館の正門前に、ロールスロイス・ファントムを停められて遠い目になってしまったのは、現在となっては独身時代の懐かしい思い出である。
縮小されてしまった噴水前の広場を貴志さんと腕を組んで歩きながら、上野公園内の束の間のデート気分を味わったアタシは、みちのくからはるばるやって来た御仏さまとの邂逅にすっかりご満悦だった。
東京国立博物館を前にしての、真唯の最初の感想がソレだった。
“特別展”の名が冠されているから、てっきり平成館で大々的に催されているとばかり思っていたのだ。しかし本館の垂れ幕で、その間違いに気付かされた。そこにはくっきり『本館特別五室』と書かれていたのだ。
……まあ、滅多に行かない東北の土地から、わざわざ仏像がおいでになっているにかわりはないのだ。入館料のもとをとるためにも、ここはキッチリ拝ませて頂こうと、想いを改たにする真唯なのであった。
※ ※ ※
本館に入ろうとして、エントランス前に展示されている一艘の船に眼が止まる。
説明ボードを見れば、それは岩手県立高田高校の実習船「カモメ」だった。東日本大震災の大津波で流され、漂流を続け、アメリカの西海岸に漂着したのが、返還されたのだ。みちのくの仏たちは、あの大震災を乗り越え、再生を果たしたものだと力強く印象づける展示物だった。
正面の大階段の右側に、今回の特別展の入口があった。
音声ガイドがあったので、有り難く受ける事にする(無論、有料であるが/笑)。
入ってすぐに、ガラスケースに入れられた、岩手・天台寺の【聖観音菩薩立像】が出迎えてくれる。
お像の表面に荒々しいノミ目が残されている事が特徴である。これは“鉈彫”と呼ばれる技法で、お像の表面にあえてノミの彫り跡を縞模様に残す事で、仏師の“呼び掛け”を訴え掛ける技法である。ナレーションの女優の薬師丸ひろ子は、『樹木の神性を仏の形に表した』と解説している。
アタシは、観音菩薩像をジッとみる。正面から。側面から。裏側から。
普段、見慣れた、鎌倉時代の写実的な仏像とはまったく位相の異なるお像を。
昔、「見仏記」と云う本が有名になった事があったが、実はアタシは未読である。あのブームめいたモノが、どうしても肌に合わなかったのである。
自分のブログの中の仏像に関する文章をあえて言葉で表現するなら、真唯は自分の文は“感仏記”だと思っている。見て、体感して、仏像が真唯に語り掛けて来るものを文章に表しているのである。
静かな眼差しの聖観音菩薩は、アタシに『はるばる北の大地からやって来たのだ。好きに見てゆくが良い。』と言ってくれているようで、思わず笑みが零れた。
多くの来館者の隙間をぬうように近付いて、ノミの跡をしみじみと眺めさせて頂くと、素朴な東北の人々の信仰心を熱く感じる事が出来る。
順番通り、山形・吉祥院の【伝薬師如来】【伝阿弥陀如来】の菩薩さまと、【千手観音菩薩】を拝見させて頂いて。「みちのくの仏像と仏教」と題されたパネルを拝見、拝読させて頂いた。
真唯は奈良や京都には良く行くが、東北には滅多に行かない。平安時代、仏教が東北に伝来してゆく様、東日本大震災から四年を迎えようとしている復興の様子を、興味深く拝読、拝聴させて頂いた。
お次はいよいよ、“三大薬師”の一つ、宮城・双林寺の【薬師如来坐像】である。
欅の一木から彫り出された、力強いお像である。特別な技巧を凝らしている訳ではない。それ故の“逞しさ”がヒシヒシと伝わって来る。
両手の欠けている持国天と増長天が左右をお守りしているが、真唯はどうしても二天に踏んづけられている邪鬼さんに注目してしまうのだ。
『あっしの事も、見てやっておくんなさい。』
そんな声が聴こえて来るようだ。
(…邪鬼さん…永い間、ご苦労さまだね。これからも、ファイト…ッ!)
無責任な応援をするしかないアタシを、どうか許して……
『姐さん…あっしを、見捨てないでおくんなさい…っ!』
そんな邪鬼さんの訴えを振り切る様に進めば、今回の目玉である、国宝の福島・勝常寺の【薬師如来坐像】がお目見得する。脇侍の日光、月光菩薩もご一緒だ。
東京での公開は十五年振りとの事だが、アタシは四年振りの再会だ。
一木造の堂々としたお姿は、東北唯一の国宝に相応しい威厳を備えていらっしゃる。
光背は破損が進んでいて、向かって右手の飛天を残すのみだが、ありし日は、病に苦しむ人々の心の拠り所となったのであろう。
お寺で拝観するのと、こうして博物館で拝見するのとでは、やはり感じ方が違う。
(…お薬師さま…原発の爪後に苦しむ人々を、どうかお救い下さい…)
アタシは心の中で、ソッと手を合わせた。
……何も言わずに、背後からアタシを見守ってくれている、旦那さまの優しい眼差しを感じながら。
“三大薬師”の最後の一つ。
岩手・黒石寺の【薬師如来坐像】をお見上げする。
勝常寺の、ふくよかなお薬師さまと違って、鋭い目つきの黒光りするお像だが、なぜだか国宝のお像より惹きつけられるものを感じる。光背は黄金色を保ち、七つの化仏もキチンと残っている。後補なのかも知れない。
“千年に一度の大地震”と言われた貞観地震をくぐりぬけ、再び東日本大震災を経験した、稀有な御仏である。
過酷な自然状況を生き抜く人々の尊崇を集めたのであろう。
日光、月光、両菩薩を従え、訪れる人々を厳しく温かく包み込んでくれているようだ。
秋田・小沼神社の【聖観音菩薩立像】
神社で仏像とはこれいかにと普通の人は思うかも知れないが、明治の神仏分離令で廃仏毀釈の嵐が吹き荒れるまで神仏習合だったのだから神社に仏像があっても何ら不思議はなかったのである。いや、あの蛮行から奇跡的に逃れる事が出来たのだと思うと、政府の命令を無視する形で仏像を守った土地の人々の信仰心に胸が熱くなる想いがする。頭上の化仏を拝見すると、“仏”と云うより雪んこか座敷童子の様な愛らしさを振り撒いていて微笑ましくなってしまう。
岩手・成島毘沙門堂の【伝吉祥天立像】は、頭上に二頭の象が彫られている菩薩形で、吉祥天とは思えないが、吉祥天の原型となったヒンドゥー神話のラクシュミーは象と縁が深い事から「吉祥天曼陀羅」との関連性を考えれば、このような形になったのも納得がゆかぬ事もない。
―――ふと。
アタシの足が止まった。
ガラスケースの中に、赤子を抱いた仏像の姿があったのだ。
鬼子母神……【訶梨帝母】である。
ボードを見れば、岩手・毛越寺とある。
毛越寺には、平泉の中尊寺を訪れた際に詣でた記憶があるが、この様なお像が在るとは知らなかった。
このお寺は藤原氏がこの世の極楽浄土を現そうと浄土式庭園を造ったが、時の権力者・源氏に滅ぼされてしまう。
半跏踏み下げ像で、台座には葉っぱが敷き詰められている。
大変、珍しい。
……子を抱く母……
己の母を、貴志さんの母親とは名ばかりの女性を思い……皮肉な想いしか浮かばない。口をへの字に引き結んでいる様も、とても子供の守護神とは思えない。
だが、一転。
すぐ横に眼を向ければ、優し気な女性のお像があった。
青森の恵光院のお像らしいが、【女神坐像】としか書かれていなくて、薬師丸ひろ子の解説もない。
尼僧の様な素朴な女性神像。
しかしアタシは、まるでインカの地母神・パチャママに相対する様な、柔らかな温かさに包まれ、さっきまでのトゲトゲしさを中和される様な穏やかな心持ちになる事が出来たのだった。
女神の優しさに触れた後は、雄々しい男神の像だ。
薬師如来の眷族、十二神将の四体。
丑神、寅神、卯神、酉神である。
山形・本山慈恩寺蔵であるが鎌倉時代の慶派のお像らしく、都の影響を受け仏教文化が栄えた往時を偲ばせる傑作である。
みなそれぞれ華麗で豪奢な甲冑を纏っているが、卯神だけが上半身裸体で、しかも頭に可愛いウサギさんを乗せているのが何とも微笑ましい気分にさせてくれる。
そして振り返って見れば。
そこには、巨像が聳え立っている。
宮城・給分浜観音堂の【十一面観音菩薩立像】である。
地理的に牡鹿半島の突端にあるようなこの御堂は、給分浜の高台にあった為、震災の高波による難を逃れる事が出来た。三メートル近いこのお像は鎌倉時代の作で、アタシが良く知る流麗なお姿をしていて、東北地方の仏像としては些か異彩を放っている。
お見上げすれば、その穏やかな眼差しは、人の世の悲哀を憐れんでいるかのようにも見える。
化仏も実に丁寧に造り上げられていて(ただ、何故か、正面が化仏ではなく宝塔(?)なのである)、もしかして背面の「暴悪大笑面」が見えないかと後ろに回ってみたのだが……暗くて全く見えなかった。 ……ライトプリーズ!
そしてラスト。
出口近くには、かの有名な【円空仏】が三体並んでいた。
秋田・龍泉寺の【十一面観音菩薩立像】と、青森・西福寺の【地蔵菩薩立像】。
そして円空はこんな北の果てまで行脚して来たのかと感嘆したくなる、青森・常楽寺の【釈迦如来立像】が鎮座ましましていた。
アタシは円空仏を観た事があったがノミ跡が荒々しいものばかりで、 螺髪まで丁寧に彫り込まれている前期のお像を初めて拝見させて頂いた。
全てのお像を観終わったアタシは貴志さんに断って、また入口近くの【聖観音菩薩立像】までとって返した。
そうして今一度、全てのお像を様々なアングルから飽くまで見つめて、拝見させて頂いて……アタシの「みちのくの仏さま」との逢引は、終わりを告げた。
……みちのくの御仏たちの表情は、奈良や京都におわします、悟り澄ました境地を表す表情ではなく、厳しい北の大地に根付き育まれた信仰を表す人間味溢れるお顔でありました。
出口付近のソファーに座って、しばしのたゆたう時に身を任せて、音声ガイドのボーナストラック「みちのくの僧・徳一」を拝聴して、奈良で学び、東北の地で活躍した徳一上人の事を勉強させて頂いたのは、大いなる余談である。
そして、展覧会の後のお楽しみと言えば、ミュージアムショップでのお買い物である。この展覧会の収益の一部は、被災した文化財の修復に役立てられると言うのだから、積極的に協力しなければ!!
様々なグッズの中から、あれやこれやと楽しく悩み。
結局、アタシはポストカードセットと、十二神将の栞セット。
そして、「みちのくの仏」お香セットを自分土産にしたのだった。
家に帰って、お香を聞くのが楽しみである♪
自分に払わせて欲しかったと、文句をおっしゃる旦那さまは、丸っと無視だ(笑)。
この博物館の正門前に、ロールスロイス・ファントムを停められて遠い目になってしまったのは、現在となっては独身時代の懐かしい思い出である。
縮小されてしまった噴水前の広場を貴志さんと腕を組んで歩きながら、上野公園内の束の間のデート気分を味わったアタシは、みちのくからはるばるやって来た御仏さまとの邂逅にすっかりご満悦だった。
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