Where In The World

天野斜己

文字の大きさ
上 下
39 / 64
本編

No,37 【シルヴィオ陛下SIDE XV】 ※残虐表現有

しおりを挟む
重罪人のみを収監する地下牢。
 全てが狭い独房で、最低限の明かりとりのみの場所は、孤独と絶望に満ちている。
静寂が支配する中で、私とフレドが降りてゆくコツコツと云う靴音だけが響く。


 現在、収監されている罪人は、僅かに二名。
 『ヤニ』と名乗った、ナツキを襲撃し私を殺した・・・重罪人と。

……エーロ王だ。

さすがにフレドが苦い表情かおをしている。




 「…おい…仮にも、一国の王をこんな場所に閉じ込めるのは、外聞が…」
 「…大丈夫だ…看守は全て“影”だし、買収も脱走も不可能だ…
 …私の魔法結界も張ってあるし、お前さえバラさなければ外界そとには漏れん…」
 「…よく大人しく、黙って入っているな…」
 「…“幻視”の魔法をかけているからな…本人は未だに、元の王族専用の客室にいるものだと思い込んでいる…」
 「…ならば、無理難題我儘を言い出さないか…?」
 「…私がそれを許すとでも…?」
 「……俺やお前を見ても、反応がないのはなぜだ…?」
 「…そんな余裕がないからだ…」
 「…………………」
 「…エーロ王は今、間断ない精神攻撃を受けている…」
 「…………………」
 「…腹心だと信じていた重臣どもや、寵姫達の裏切り…王太子の反逆…
 …とどめは民衆による革命の成功だ…
 …現在いまの奴の精神こころの中では、こんな牢の中に入れられて拷問にあっているんだ。
  …もっとも、全ては“夢”の中の出来事だと信じているがな…」
 「…王太子の反逆は、本当の事じゃないか…」
 「…だから、良いんじゃないか…」
 「…何だと…?」
 「…考えてもみろ…帰国したエーロ王こいつが、そのまま大人しくしていると思うか…?」
 「…………………」
 「…そう云う事だ…息子の新・国王に逆らう気など起きないように、とことんまで追い詰めてやる…」
 「…………………」
 「…この世界に拷問方法のバリエーションは少ない…だが、異世界は違うぞ…」
「…………………」
 「…ありとあらゆる拷問器具を使った拷問で責め苛んで…
 …最期は火炙りの刑か、断頭台の露と消えてもらう…勿論、“夢”の中でな…」
 「……お前を敵にまわさなくて、本当に良かった……」
 「それは、光栄だ。…最高の誉め言葉だな。」
 「…魔力の無駄遣いだな…」
 「馬鹿言え…最高に有効な使い方だ。」
 「…賢帝を気取っていたが…遂に本性を表しやがったな…」
 「…………………」 ……そう・・呼ばれているのは知ってるが、“賢帝”などになった覚えはないので肩を竦める事で無言を通した。






ふと気付いたようにフレドが言った。
 「…そう言えば…ナツキの襲撃犯は、どうしてるんだ…?」
と。

 私は一瞬、躊躇した。
……見せるのは構わんが、あまり気持ちの良いものではないからな……
だから忠告した。
しかしフレドは、その条件を飲んだ。
だから見せてやったのに。
 我慢出来ずに嘔吐しやがった。
“影”の看守に介抱させている間も、私は冷静に自称・ヤニの惨状を見つめた。

 奴ヤニには既に、右足の膝から先と、両手の手指が存在していなかった。
いや、厳密に言えば、のみが残っている。がないのだ。
 虎とライオンの獣人に、食事・・させてやっているのだから。
 食い千切られた瞬間ときの絶叫を反芻して、うっとりと酔う。
 一思いに殺しはしない。
 少しずつ。
 少しずつ。
“魔法封じ”の腕輪を嵌めて。
ゆっくりといたぶってやるのだ。
 『いっそ、ころしてくれっ!!』との絶叫を心地良く思い出す。
 食事・・の後は呻き声が五月蠅いから手当てをして、痛み止めの薬も飲ませる。
だがそれも、一時的な事だ。
 次の日には、またどこかを食われる・・・・のだから。
“獣人”の本能的な欲求不満を解消して、激烈な痛みと絶望を与えてやれる。
一石二鳥だ。
 我ながら、良い手を考えついたものだ。
 本来であれば、エーロ王のような肥え太った男にこそこのような戒めを受けてもらいたいものだが、そこは仕方がない。このような瘦せ細った男でも、人間の肉体を持っている以上、充分だ。ただ、この着想ヒントを得たのが、ダリオとダミアーノとの何気ない会話からなのは秘密だ。




―――魔力は、レヴィの力。

それは、本当の事なのだろう。


こんな悪党も、強い魔力の持ち主だった。
その理由は、良く考えればすぐに理解る。

この男に魔力があったから。
 慢心して傲慢になり、神子ナツキ殺害を企みそれを楽しもうとした。
それが失敗すると逆恨みし、仕置人の手を逃れ、再びナツキの襲撃を企んだ。


もし万が一、この男ヤニが魔力を持っていなかったら。
 単にナツキ誘拐を成功させただけだったに違いない。
その場合、ペッレグリーノの国王交代劇は変わらず成立したかも知れないが。
その代わり。
クリュヴェイエの呪いの解呪は、成らなかっただろう。
 私の幽体もどうなっていたのか、判明わからない。



まったく運命と云うものは、神々の深い御業企みによるものだとしか思えないのだ。


それ・・が理解っていながら、ヤニにこんな残酷な罰を与える私は、心底狭量な男なのだろう。



※ ※ ※



「…ああ…酷い目に、あった…」
 「お前が見たがったんじゃないか。」
 「…折角の葡萄酒が台無しだ…胃液まで吐いちまったじゃないか…」
 「飲みなおすか?」
 「…………………」
 「…何だ…?」
 「…お前のそんな面は、絶対にナツキには内緒にしろよ…立派な離婚の理由になるぞ…」
 「馬鹿者。ナツキには散々、酷い目に合わせてしまったんだ。これからは、優しく愛するに決まってる。離婚などと不吉な事を言うな。」

 私室に戻って葡萄酒ワインの代わりに蒸留酒ブランデーを出してやれば。
フレドが微妙な表情かおをしてる。

 「…どうした…?」
 「…いや…『優しく愛する』が『舐めるように可愛がる』に聴こえたんだが…気のせいだよな…」
 「…まだ若いのに…もう、耳が遠くなったか…フローラ嬢がお気の毒だ…」
 「…なぜだろう…お前にフローラの事を言われるのが、凄く嫌なんだが…」
 「…失礼な奴だな…帰国したら、正式に求婚するんだろう…?」
 「…ああ、やっとだ…やっと肩の荷が下りたからな…」
 「…すまん…お前には、本当に迷惑を掛けた…」
 「…迷惑などと思った事など、一度もない…
 …我が国にも、いつ神子が“降臨”する事になるか判明わからんからな…」
 「…………………」
 「…だが、父上に言われたタイムリミットに間に合って、本当に安心した…」
 「…何か、私に手伝える事はないか…?」
 「…そうだな…ナツキがフローラと仲良くしてくれれば、それだけで良い…」
 「…………………」
 「…フローラは侯爵家の令嬢だが、いかんせん田舎の領地に住んでいて王都の高位貴族令嬢達に引け目を感じている…“奇跡の神子”と仲良しだと、箔が付く…」
 「…それなら、大丈夫だ…」
 「…………………」
 「…ナツキならば、何を言わずとも仲良くなってくれる…」
 「……そうだな…そうだったな……」
 「……ああ…だから、安心しろ……」





それからは、エーロ王やヤニの不愉快な事など忘れて、互いの愛する女性の話になって。
 私の独身最後の夜は更けていったのだった。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の裏事情

夕鈴
恋愛
王家のパーティで公爵令嬢カローナは第一王子から突然婚約破棄を告げられた。妃教育では王族の命令は絶対と教えられた。鉄壁の笑顔で訳のわからない言葉を聞き流し婚約破棄を受け入れ退場した。多忙な生活を送っていたカローナは憧れの怠惰な生活を送るため思考を巡らせた。

【完結】地味令嬢の願いが叶う刻

白雨 音
恋愛
男爵令嬢クラリスは、地味で平凡な娘だ。 幼い頃より、両親から溺愛される、美しい姉ディオールと後継ぎである弟フィリップを羨ましく思っていた。 家族から愛されたい、認められたいと努めるも、都合良く使われるだけで、 いつしか、「家を出て愛する人と家庭を持ちたい」と願うようになっていた。 ある夜、伯爵家のパーティに出席する事が認められたが、意地悪な姉に笑い者にされてしまう。 庭でパーティが終わるのを待つクラリスに、思い掛けず、素敵な出会いがあった。 レオナール=ヴェルレーヌ伯爵子息___一目で恋に落ちるも、分不相応と諦めるしか無かった。 だが、一月後、驚く事に彼の方からクラリスに縁談の打診が来た。 喜ぶクラリスだったが、姉は「自分の方が相応しい」と言い出して…  異世界恋愛:短編(全16話) ※魔法要素無し。  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆ 

【完結】愛されなかった私が幸せになるまで 〜旦那様には大切な幼馴染がいる〜

高瀬船
恋愛
2年前に婚約し、婚姻式を終えた夜。 フィファナはドキドキと逸る鼓動を落ち着かせるため、夫婦の寝室で夫を待っていた。 湯上りで温まった体が夜の冷たい空気に冷えて来た頃やってきた夫、ヨードはベッドにぽつりと所在なさげに座り、待っていたフィファナを嫌悪感の籠った瞳で一瞥し呆れたように「まだ起きていたのか」と吐き捨てた。 夫婦になるつもりはないと冷たく告げて寝室を去っていくヨードの後ろ姿を見ながら、フィファナは悲しげに唇を噛み締めたのだった。

自称乙女ゲームのヒロインに婚約者を譲れと脅されましたが、王子は私を絶対に離しません。

夢咲桜
恋愛
アイネリーゼはロージェンス王国の第一王子のエミリオと婚約中。そんな二人の前に、希少な治癒魔法が使える男爵家の庶子リディナが現れる。そしてアイネリーゼに、ここは乙女ゲームの世界で自分はそのゲームのヒロイン、そしてエミリオはリディナと結ばれるヒーローなのだと言い放つ。エミリオは自分と結ばれる運命にあるのだから婚約を破棄しろとアイネリーゼに迫るリディナ。ありもしない罪をでっち上げてエミリオがアイネリーゼと婚約を破棄するように仕向けてくる。しかしエミリオは··· 「僕の可愛いアイネがそんな事する筈がないだろう。次アイネを陥れようとするなら、容赦しないからね?」 リディナはゲームのシナリオとやらのせいで勘違いしているようですが、私が彼から離れないんじゃなくて、彼が私から離れてくれないんです! ヘビー級の愛を与えてくれる王子にかかれば、ゲームのシナリオなんて簡単に変えられるみたいです。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

今日も空は青い空

桃井すもも
恋愛
グレースは才を買われて侯爵家に輿入した。夫には長く付き合う恋人がいる。それを承知の上での婚姻であった。 婚家では、義父母にも使用人達にも大切にされて不自由は無い。けれども肝心の夫は、恋人を住まわせる別宅にいて戻らない。気まぐれにグレースのいる本邸に戻るのは、月に数える程である。 夫不在の邸にいて、グレースは自らが立ち上げた商会の経営に勤しむのだが...。 ❇只今番外編執筆中です。公開まで今暫くお待ち下さいませ。 加筆に伴い全体の微修正を行いました。 「いいね!」「エール!」を頂戴しましたお話しに影響の無いよう留意致しました。 あらすじ・一話毎のストーリーに大きな改変はございません。 ❇相変わらずの100%妄想の産物です。史実とは異なっております。 ❇後半厳しいシーンがございます。ご不安な方は、気配を感じられましたら即バックor飛ばしてお読み下さる事をお勧め致します。 ❇妄想遠泳の果てに波打ち際に打ち上げられた妄想スイマーによる寝物語です。 疲れたお心とお身体を妄想で癒やして頂けますと泳ぎ甲斐があります。 ❇座右の銘は「知らないことは書けない」「嘘をつくなら最後まで」。 ❇例の如く、鬼の誤字脱字を修復すべく激しい微修正が入ります。 「間を置いて二度美味しい」とご笑覧下さい。

義妹ばかりを溺愛して何もかも奪ったので縁を切らせていただきます。今さら寄生なんて許しません!

ユウ
恋愛
10歳の頃から伯爵家の嫁になるべく厳しい花嫁修業を受け。 貴族院を卒業して伯爵夫人になるべく努力をしていたアリアだったが事あるごと実娘と比べられて来た。 実の娘に勝る者はないと、嫌味を言われ。 嫁でありながら使用人のような扱いに苦しみながらも嫁として口答えをすることなく耐えて来たが限界を感じていた最中、義妹が出戻って来た。 そして告げられたのは。 「娘が帰って来るからでていってくれないかしら」 理不尽な言葉を告げられ精神的なショックを受けながらも泣く泣く家を出ることになった。 …はずだったが。 「やった!自由だ!」 夫や舅は申し訳ない顔をしていたけど、正直我儘放題の姑に我儘で自分を見下してくる義妹と縁を切りたかったので同居解消を喜んでいた。 これで解放されると心の中で両手を上げて喜んだのだが… これまで尽くして来た嫁を放り出した姑を世間は良しとせず。 生活費の負担をしていたのは息子夫婦で使用人を雇う事もできず生活が困窮するのだった。 縁を切ったはずが… 「生活費を負担してちょうだい」 「可愛い妹の為でしょ?」 手のひらを返すのだった。

救国の大聖女は生まれ変わって【薬剤師】になりました ~聖女の力には限界があるけど、万能薬ならもっとたくさんの人を救えますよね?~

日之影ソラ
恋愛
千年前、大聖女として多くの人々を救った一人の女性がいた。国を蝕む病と一人で戦った彼女は、僅かニ十歳でその生涯を終えてしまう。その原因は、聖女の力を使い過ぎたこと。聖女の力には、使うことで自身の命を削るというリスクがあった。それを知ってからも、彼女は聖女としての使命を果たすべく、人々のために祈り続けた。そして、命が終わる瞬間、彼女は後悔した。もっと多くの人を救えたはずなのに……と。 そんな彼女は、ユリアとして千年後の世界で新たな生を受ける。今度こそ、より多くの人を救いたい。その一心で、彼女は薬剤師になった。万能薬を作ることで、かつて救えなかった人たちの笑顔を守ろうとした。 優しい王子に、元気で真面目な後輩。宮廷での環境にも恵まれ、一歩ずつ万能薬という目標に進んでいく。 しかし、新たな聖女が誕生してしまったことで、彼女の人生は大きく変化する。

処理中です...