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今宵もリッチな夜でした
その8
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そしてその日もまた同じく、気の抜けたような声が教室内に拡散した。
「えー、このように、金属性とはつまりは陽イオンになり易いって事なの。陽性が強いとも言う。まー何だね、日頃『陽性』って聞くと兎に角不吉なイメージが湧いて出るもんだけど、この場合は価電子を放出し易いって事ね、単純に。んで、ちょっと周期表を見て欲しいんだけど……」
教壇の上からいつも通りの調子で講義を行なうリウドルフの様子を、美香もまた窓際の席からいつも通りに眺めていた。
昼過ぎの空はどんよりと曇り、それに伴って教室も何処なく翳りが堆積し、教科書や資料集をめくる音、ノートに書き込む際の囁くような音などが、机と机の間を何処か冷ややかに行き来する。それでも、授業に臨む生徒達の姿勢は飽くまでも前向きであり、事実、講義は滞りなく進んでいた。
その様子を、周囲の有様を、美香は一人しかつめらしい面持ちで一瞥する。
それから、彼女は前方で解説を続けるリウドルフの様子を改めて見遣ったのだった。
染みや皺の目立つ白衣を今日も着込み、頭髪も乱れ気味で肌の血色さえ何やら悪く見えて来る。そして当の本人は自身のそんな有様になどまるで頓着する様子も覗かせず、言葉尻から空気が抜けて行くような独特の喋り方で飽くまでもマイペースに講義を続けるのだった。
「でー、金属って聞くと、皆はすぐにどんなイメージを思い浮かべるかな? 硬いとかテカってるとかあるだろうけど、まー、金属が艶やかなのは、結合した金属の結晶間を行き来する自由電子が光を強く反射する性質を持つからなのよ。更に……」
投げ遣りとまでは行かないが、何処まで熱意が篭っているのか甚だ怪しい声を撒き散らす痩身の男を凝視する内、美香の目元は次第に鋭さと険しさを帯びさせて行ったのだった。
夜の公園に、水音が響き回った。
他に音源も無い無人の公園での事ではあったが、音自体はすぐに途絶え、暗がりにはまた何事も無かったかのように静寂が戻った。
『洗って来ましたけど……』
美香が広場脇に置かれたベンチの方へ戻ると、そこに腰を下ろしていたリウドルフは徐に顔を上げる。
『じゃあ、ちょっと見せて御覧』
そうして差し伸ばされた少女の手を、リウドルフはしげしげと注視した。
広場を覆うように植えられた木々の上に、三日月が昇っていた。
『軽度の擦過傷、だな。大方さっき商店街を走り回ってる最中に、何処かの壁にでも引っ掛けたんだろ。傷の程度は浅い』
そう言いながら、リウドルフはベンチの上に置いた携帯用の救急ケースから消毒薬を取り出し、美香の手の甲に出来た擦り傷へと噴霧した。
実に手際良く応急処置をして行くリウドルフから、美香は些か所在無さそうに目を離した。
『済みません……』
『気にする事はない。俺の本業は医者だ』
『そうなんですか?』
意外そうに言った美香の手首に絆創膏を貼り付けた後、リウドルフは顔を上げた。
『いわゆる開業医とは違うがね、赤十字や国境なき医師団にも参加した事がある……と言うか、今でも参加している。教師をやってるのは余暇の暇潰しみたいなもんだ。医大の講師の枠がたまたま塞がってた所為もあって』
『すごい、ですね……』
『そうでもないさ』
救急ケースをスーツの懐にしまって、リウドルフはベンチから腰を上げた。
『最近は兎も角駆け出しの頃なんか、御飯事とも呼べない血迷った真似ばかり繰り返しては一丁前に粋がってた。それこそ過去に戻って自分を絞め殺したくなるぐらいに。そういうのをこの国じゃ『黒歴史』とか言うのか? 何にせよ、そんなに自慢出来る経歴を持ってる訳じゃない』
鼻息交じりで評すると、リウドルフは少し姿勢を崩して美香を見下ろす。
『……ま、それでも俺は、自分を医者だと思ってるがね』
応急処置の施された自身の手首と、眼前に佇むリウドルフとを、美香は交互に見つめる。月光に引き伸ばされるように立った痩身の男の姿は、暗がりの中で吹き流されそうなまでに所在無く映った。
さながら地面から引き剥がされ、無理矢理引き起こされた影法師のように。
終了を告げるチャイムが、その時鳴った。
「はーい、んじゃ本日はここまで。良い週末をね、皆さん」
最後まで気の抜けたようなような声で締め括って、リウドルフは足音も残さずに教室を後にしたのであった。
室内に、波が寄せるようにざわめきが生じた。
生徒達が机の間を銘々に歩き回る中、美香の席の前に昭乃と顕子が近付いて来た。
「どーしたの、相変わらず冴えない顔して?」
茶化すように言葉を掛けて来た昭乃へ、美香は疲れた面持ちを持ち上げる。
「そりゃ化学の授業の後だもん。ウキウキしてる筈無いでしょ?」
「誠に御尤も。一分の隙も無いド正論。それこそナメクジに塩って感じ?」
「いやいや、むしろマラソンの給水ポイントで醤油の一升瓶渡されたようなもんでしょ」
顕子の冷やかしに昭乃が嬉々として口を挟み、美香が更に徒労感を面に重ね塗る。
「あー、何かますますしんどくなって来た……」
机の上で頬杖を付き始めた美香を、昭乃は面白そうに見下ろした。
「でも大変だよねー。巻き込まれたとは言え、ヤクザの借金取りなんかと追い掛けっこした後じゃ」
「ああ、まあ……」
「クリスも災難だったよね。結局人違いだったんでしょ? 警察の人も混乱してたみたいだったし、ツッキーが来てくれなきゃ話が結構拗れてたんじゃないの?」
「まあ、そうかもね……」
顕子が差し挟んだ指摘に、美香は視線を逸らしながら短く答えた。
実際に拗れて酷く混線する運びと相成ったのは、こちらの認識の方であるのだが。
教室の天井を仰ぎながら、美香は『あの時』の事を思い返す。
駅前まで戻った美香とリウドルフを迎えたのは、友人二人と彼女らに連れられた警官であった。
かてて加えてその脇に佇んでいたのは、美香達三人の担任である月影司であった。
皺一つ無い萌黄色のスーツに身を包み、学者風の丸眼鏡を掛けた細身の美丈夫は遠目からでもすぐに彼と判る容貌であり、意外に思った美香が眺め遣る中、近付いて来る彼女とリウドルフを至って穏やかな表情で見つめていた。
駅前の人波にはそれまでと然したる変化は認められず、帰宅する多くの人で賑わっていた。先刻の騒ぎも人の流れの中に一瞬の波紋を描いただけで終わったのか、現場に戻ったリウドルフの姿に、往来する人々は何の関心も遣さなかった。
『ええと、つまりあなたがこの人の……?』
事態が今一つ呑み込めていない若い巡査の言葉に、司は飽くまでも流暢に、そして毅然と答える。
『はい。こちらの方の身元保証人、とまでは行きませんが、それに近いものです』
『あー、僕のお目付け役なんです、この人』
元通りの気の抜けた口調で、リウドルフが傍らから補足した。
迎えてくれた友人達と無事に再会出来た事に安堵を覚えていた美香は、リウドルフの発した言葉に俄然困惑して首を巡らせたのであった。
隣に立つ美香の胸中などお構いなしに、リウドルフは空とぼけた調子で説明を続ける。
『ほら僕、御覧の通りの外人ですから、隣に付いててくれる人がいると何かと助かるんですよ。現にこうして助かってますし』
『それは御謙遜と呼ぶべきものでしょうが、私も職務上あなたのサポートに付かねばなりませんし。無論その事自体は義務ではありますが、個人的にはそれだけではない』
『ああ……要するに、その、保護者みたいな間柄という事で……』
リウドルフと司が他人事のような遣り取りを繰り返す間で、若い巡査は頬を掻いた。
その巡査へと、リウドルフは徐に首を巡らせる。
『やー、そうなんですよ。僕、法律とか詳しい事は判らないんで、この人を交えて話を進めてくれた方がありがたいんですけど……』
『私からもお願いします。事情聴取に応じさせては頂けませんか? この場で立ち話を続けるも何ですから、署まで是非同行させて下さい』
『はあ……』
二人の教師に半ば言い包められる形で、駅前まで駆け付けた巡査は、三人の少女を置いて帰途に就く。
去り際に司は美香達を見回し、いつもと変わらぬ優しげな口調で促した。
『ああ、君達、どうやらとんだ災難だったみたいだね。詳しい経緯は後日教えて貰うけとして、今日はもう遅いからこれで帰りなさい。大丈夫、後の事は上手くやっておくから』
まるで結果の判っている合格発表を確認しに行くような、微かに億劫さすら滲ませた余裕に満ちた口調であった。
半ば呆然と見送る美香達三人の前で、二人の教師は警官と共に夜の人込みの中へと消えて行く。
そして翌日、登校してすぐ美香が耳にしたのは、リウドルフが人込みで別の誰かと間違われ、借金の取り立てに来た闇金業者に追い回されたという、実際に見聞きした事実から大きく掛け離れた内容の噂であった。
「けど意外だったよねぇ。あの二人が結構親しかったなんて」
「そうそう。変な所で馬が合ってんのかね、あの二人」
未だお喋りを続ける昭乃と顕子の声で、美香は回想から現実へと引き戻された。
「えっ、何々? 何の話?」
会話の内容を聞き付けて、付近の席からも同級生が集まって来る。
「やァ、三日前の事なんだけどさ、そこの駅前で……」
同じクラスの女生徒達へ、何処か得意げに話して聞かせる顕子の様子を、美香はむず痒い面持ちで眺め遣る。
暗い空から、雨の雫がぽつぽつと滴り始めた。
学校脇を伸びる道路を、その時、黒い高級車が滑るように通り過ぎた。
「えー、このように、金属性とはつまりは陽イオンになり易いって事なの。陽性が強いとも言う。まー何だね、日頃『陽性』って聞くと兎に角不吉なイメージが湧いて出るもんだけど、この場合は価電子を放出し易いって事ね、単純に。んで、ちょっと周期表を見て欲しいんだけど……」
教壇の上からいつも通りの調子で講義を行なうリウドルフの様子を、美香もまた窓際の席からいつも通りに眺めていた。
昼過ぎの空はどんよりと曇り、それに伴って教室も何処なく翳りが堆積し、教科書や資料集をめくる音、ノートに書き込む際の囁くような音などが、机と机の間を何処か冷ややかに行き来する。それでも、授業に臨む生徒達の姿勢は飽くまでも前向きであり、事実、講義は滞りなく進んでいた。
その様子を、周囲の有様を、美香は一人しかつめらしい面持ちで一瞥する。
それから、彼女は前方で解説を続けるリウドルフの様子を改めて見遣ったのだった。
染みや皺の目立つ白衣を今日も着込み、頭髪も乱れ気味で肌の血色さえ何やら悪く見えて来る。そして当の本人は自身のそんな有様になどまるで頓着する様子も覗かせず、言葉尻から空気が抜けて行くような独特の喋り方で飽くまでもマイペースに講義を続けるのだった。
「でー、金属って聞くと、皆はすぐにどんなイメージを思い浮かべるかな? 硬いとかテカってるとかあるだろうけど、まー、金属が艶やかなのは、結合した金属の結晶間を行き来する自由電子が光を強く反射する性質を持つからなのよ。更に……」
投げ遣りとまでは行かないが、何処まで熱意が篭っているのか甚だ怪しい声を撒き散らす痩身の男を凝視する内、美香の目元は次第に鋭さと険しさを帯びさせて行ったのだった。
夜の公園に、水音が響き回った。
他に音源も無い無人の公園での事ではあったが、音自体はすぐに途絶え、暗がりにはまた何事も無かったかのように静寂が戻った。
『洗って来ましたけど……』
美香が広場脇に置かれたベンチの方へ戻ると、そこに腰を下ろしていたリウドルフは徐に顔を上げる。
『じゃあ、ちょっと見せて御覧』
そうして差し伸ばされた少女の手を、リウドルフはしげしげと注視した。
広場を覆うように植えられた木々の上に、三日月が昇っていた。
『軽度の擦過傷、だな。大方さっき商店街を走り回ってる最中に、何処かの壁にでも引っ掛けたんだろ。傷の程度は浅い』
そう言いながら、リウドルフはベンチの上に置いた携帯用の救急ケースから消毒薬を取り出し、美香の手の甲に出来た擦り傷へと噴霧した。
実に手際良く応急処置をして行くリウドルフから、美香は些か所在無さそうに目を離した。
『済みません……』
『気にする事はない。俺の本業は医者だ』
『そうなんですか?』
意外そうに言った美香の手首に絆創膏を貼り付けた後、リウドルフは顔を上げた。
『いわゆる開業医とは違うがね、赤十字や国境なき医師団にも参加した事がある……と言うか、今でも参加している。教師をやってるのは余暇の暇潰しみたいなもんだ。医大の講師の枠がたまたま塞がってた所為もあって』
『すごい、ですね……』
『そうでもないさ』
救急ケースをスーツの懐にしまって、リウドルフはベンチから腰を上げた。
『最近は兎も角駆け出しの頃なんか、御飯事とも呼べない血迷った真似ばかり繰り返しては一丁前に粋がってた。それこそ過去に戻って自分を絞め殺したくなるぐらいに。そういうのをこの国じゃ『黒歴史』とか言うのか? 何にせよ、そんなに自慢出来る経歴を持ってる訳じゃない』
鼻息交じりで評すると、リウドルフは少し姿勢を崩して美香を見下ろす。
『……ま、それでも俺は、自分を医者だと思ってるがね』
応急処置の施された自身の手首と、眼前に佇むリウドルフとを、美香は交互に見つめる。月光に引き伸ばされるように立った痩身の男の姿は、暗がりの中で吹き流されそうなまでに所在無く映った。
さながら地面から引き剥がされ、無理矢理引き起こされた影法師のように。
終了を告げるチャイムが、その時鳴った。
「はーい、んじゃ本日はここまで。良い週末をね、皆さん」
最後まで気の抜けたようなような声で締め括って、リウドルフは足音も残さずに教室を後にしたのであった。
室内に、波が寄せるようにざわめきが生じた。
生徒達が机の間を銘々に歩き回る中、美香の席の前に昭乃と顕子が近付いて来た。
「どーしたの、相変わらず冴えない顔して?」
茶化すように言葉を掛けて来た昭乃へ、美香は疲れた面持ちを持ち上げる。
「そりゃ化学の授業の後だもん。ウキウキしてる筈無いでしょ?」
「誠に御尤も。一分の隙も無いド正論。それこそナメクジに塩って感じ?」
「いやいや、むしろマラソンの給水ポイントで醤油の一升瓶渡されたようなもんでしょ」
顕子の冷やかしに昭乃が嬉々として口を挟み、美香が更に徒労感を面に重ね塗る。
「あー、何かますますしんどくなって来た……」
机の上で頬杖を付き始めた美香を、昭乃は面白そうに見下ろした。
「でも大変だよねー。巻き込まれたとは言え、ヤクザの借金取りなんかと追い掛けっこした後じゃ」
「ああ、まあ……」
「クリスも災難だったよね。結局人違いだったんでしょ? 警察の人も混乱してたみたいだったし、ツッキーが来てくれなきゃ話が結構拗れてたんじゃないの?」
「まあ、そうかもね……」
顕子が差し挟んだ指摘に、美香は視線を逸らしながら短く答えた。
実際に拗れて酷く混線する運びと相成ったのは、こちらの認識の方であるのだが。
教室の天井を仰ぎながら、美香は『あの時』の事を思い返す。
駅前まで戻った美香とリウドルフを迎えたのは、友人二人と彼女らに連れられた警官であった。
かてて加えてその脇に佇んでいたのは、美香達三人の担任である月影司であった。
皺一つ無い萌黄色のスーツに身を包み、学者風の丸眼鏡を掛けた細身の美丈夫は遠目からでもすぐに彼と判る容貌であり、意外に思った美香が眺め遣る中、近付いて来る彼女とリウドルフを至って穏やかな表情で見つめていた。
駅前の人波にはそれまでと然したる変化は認められず、帰宅する多くの人で賑わっていた。先刻の騒ぎも人の流れの中に一瞬の波紋を描いただけで終わったのか、現場に戻ったリウドルフの姿に、往来する人々は何の関心も遣さなかった。
『ええと、つまりあなたがこの人の……?』
事態が今一つ呑み込めていない若い巡査の言葉に、司は飽くまでも流暢に、そして毅然と答える。
『はい。こちらの方の身元保証人、とまでは行きませんが、それに近いものです』
『あー、僕のお目付け役なんです、この人』
元通りの気の抜けた口調で、リウドルフが傍らから補足した。
迎えてくれた友人達と無事に再会出来た事に安堵を覚えていた美香は、リウドルフの発した言葉に俄然困惑して首を巡らせたのであった。
隣に立つ美香の胸中などお構いなしに、リウドルフは空とぼけた調子で説明を続ける。
『ほら僕、御覧の通りの外人ですから、隣に付いててくれる人がいると何かと助かるんですよ。現にこうして助かってますし』
『それは御謙遜と呼ぶべきものでしょうが、私も職務上あなたのサポートに付かねばなりませんし。無論その事自体は義務ではありますが、個人的にはそれだけではない』
『ああ……要するに、その、保護者みたいな間柄という事で……』
リウドルフと司が他人事のような遣り取りを繰り返す間で、若い巡査は頬を掻いた。
その巡査へと、リウドルフは徐に首を巡らせる。
『やー、そうなんですよ。僕、法律とか詳しい事は判らないんで、この人を交えて話を進めてくれた方がありがたいんですけど……』
『私からもお願いします。事情聴取に応じさせては頂けませんか? この場で立ち話を続けるも何ですから、署まで是非同行させて下さい』
『はあ……』
二人の教師に半ば言い包められる形で、駅前まで駆け付けた巡査は、三人の少女を置いて帰途に就く。
去り際に司は美香達を見回し、いつもと変わらぬ優しげな口調で促した。
『ああ、君達、どうやらとんだ災難だったみたいだね。詳しい経緯は後日教えて貰うけとして、今日はもう遅いからこれで帰りなさい。大丈夫、後の事は上手くやっておくから』
まるで結果の判っている合格発表を確認しに行くような、微かに億劫さすら滲ませた余裕に満ちた口調であった。
半ば呆然と見送る美香達三人の前で、二人の教師は警官と共に夜の人込みの中へと消えて行く。
そして翌日、登校してすぐ美香が耳にしたのは、リウドルフが人込みで別の誰かと間違われ、借金の取り立てに来た闇金業者に追い回されたという、実際に見聞きした事実から大きく掛け離れた内容の噂であった。
「けど意外だったよねぇ。あの二人が結構親しかったなんて」
「そうそう。変な所で馬が合ってんのかね、あの二人」
未だお喋りを続ける昭乃と顕子の声で、美香は回想から現実へと引き戻された。
「えっ、何々? 何の話?」
会話の内容を聞き付けて、付近の席からも同級生が集まって来る。
「やァ、三日前の事なんだけどさ、そこの駅前で……」
同じクラスの女生徒達へ、何処か得意げに話して聞かせる顕子の様子を、美香はむず痒い面持ちで眺め遣る。
暗い空から、雨の雫がぽつぽつと滴り始めた。
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