黒の瞳の覚醒者

一条光

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番外編~フィオ・ソリチュード~

優しい時間

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『はい、見送る時はいつも不安です。でもワタルは全てを拾おうとする人ですから、目の前で起こる不幸を厭い、最後には打ち払ってしまう、そんな自慢の旦那様ですから信じて待っていられます』
 てれびを点ける度にどこかしらのチャンネルで昨日の事が流れてる。
「リオの惚気が二日に渡って全世界に流れてるのね」
 ティナにからかわれてリオの顔が赤く染まる。
 それと同時にワタルも悶えてる。

「ぬぅ、リオの事ばかりではないか、何故儂が映らぬ……こっちか? それともこっちか?」
 自分が映らないのが不服みたいでクーニャはさっきからころころチャンネルを変えてる。
『やはり彼は文明の進んだこの世界の知識で彼女たちを誑かしているんじゃないでしょうか? だってそうでしょう? 何年にも渡って引きこもっていた社会不適合者ですよ?』
『たしかに、皆さん美人揃いですしそういった方が揃って好意を寄せているのは違和感はありますよね』
『ドラゴンを従えるような力を得ていますし案外力で脅しているとかだったりするかもしれませんね』
 てれびの中で変な髭をした男と厚化粧の女がケラケラと笑っている。
「クーニャ消して」
 イラッとしてクーニャを睨み付けた。
「こやつらは何を言っておるのだ?」
「アンチも居るんだよ、そこの局は前からだからな」
「クーニャ消しなさい」
「う、うぬ」
 ティナにまで睨まれてクーニャは大人しくてれびを消した。

 ティナと二人してワタルの様子を窺うとワタルは手をひらひらさせて返してきた。
「気にしてないよ、変なおっさん達よりみんなにどう思われてるかの方がよっぽど重要だし受け入れてもらったんだからこんなのは今更気にしない」
 と、嘯いてるけど……やっぱり気にしてそう?
「とはいえテレビ効果で目立ち過ぎてるから東京に居るのもなぁ……ちょっと早めに家に戻るか」
「そうですね、ワタルのお母さんのお墓の掃除とかもしたいですし」
「主の母は亡くなっておるのか?」
「ああ」
「そうか……つまらぬな、主の話を聞いてみたかったのだが、他に家族はおらぬのか?」
「ここに居るぞ」
 そう返されてクーニャは目を丸くしたあと吹き出した。
「くく、そうか、そうか!」
 しばらくクーニャは楽しそうに笑っていた。

「おい主、なんだこの鉄の大蛇は、本当にこんな物に乗るのか? こんな物じゃなく儂に乗ればよいだろう?」
 帰宅の為に新幹線の乗り場に来てからクーニャは顔を顰めて頬を膨らませてる。
「なんで新幹線に対抗意識燃やしてるんだよ……車は普通に乗ってただろ、アリスは乗ってみたいよな?」
「え? ……私は別に、乗らなくても、いいと思うわ」
 ビビってる、新幹線の大きさと走り出したあとの速さにビビってる。
「ほれみろ」
 アリスが味方した事でクーニャが胸を張っている。

「じゃあ二人はホテルで留守番で――」
「乗る! 乗るから置いてかないで!」
「くっ……仕方ない」
 アリスが簡単に折れた事でクーニャは苦い顔をしながら渋々新幹線に乗り込んだ。
「怖いの?」
「べ、べ、別に? こんなのあの巨人と比べたらちっさいし」
 頬を膨らませたアリスは何も問題ないと座席に座って足を組んだ。
「アリスそこの席は別の人のだぞ」
「へ? ご、ごめんなさい」
「ほれ、こっちな」
「う、うん」
 真っ赤になったアリスは抱き上げられて本来の席に座らされた。
 アリスを窓側に、隣にワタル、その隣に私が座った。
 しばらくして新幹線が動き出して景色が流れ始めるとアリスの視線は窓の外へ釘付けになった。

 「こんなに速く動いてるのに全然揺れてない……」
「安全面と乗り心地は世界的にも有名らしいからな、事故も殆ど無いらしいぞ」
「へぇ~」
 アリスは興味深そうに窓の外を眺め続けてる。
「眠いのか? 寝てていいぞ」
「ん……」
 うとうとした私に気付いたワタルに撫でられて頭を預けるとあっという間に眠りに落ちた。

「フィオちゃん、フィオちゃん着きましたよ」
「んぁ?」
 体を揺さぶられて目を開けるとワタルの家に着いていて私は居間で横になってた。
 いつの間に車に乗ったんだろう?
「フィオったらずっとワタルに抱っこされてたから安心しきってたんでしょ?」
 なるほど……。
「ワタルは?」
「ナハト達と買い出しに行ったわよ」
「そう……」
 居ないのはナハト、クロエ、シロナ、アリス、クーニャ、ミシャ……私も行きたかったな。

「二人はなんで残ってるの?」
「妾たちも居るのじゃ!」
 廊下から何か荷物を準備したミシャ、アリス、クーニャが顔を覗かせた。
「フィオちゃん寝てましたし私たちはお墓掃除に行こうと思って残ったんですよ、フィオちゃんはどうします? もう少し寝ますか?」
「行く」
 お義母さんのお墓掃除は大事。
「じゃあ一緒に挨拶に行きましょ」
 掃除に必要な物を持って私たちは外に出た。

「あ~……結構酷いわね、どうして山の中にお墓を建てたのかしら、庭に余裕があるのだから庭でもいいと思うのだけれど」
「庭にお墓というのは少し変だと思いますけど、一応ここは他にもお墓がありますしこの地域の墓地なんだと思いますよ」
 お義母さんのお墓は落ち葉が積もり、そのせいでお墓の石も汚れた状態になってた。
「お義母様~、妾たちまた来たのじゃ、旦那様は相変わらず無茶をしておるが、妾たちが一所懸命支えるから心配しないでほしいのじゃ」
 落ち葉を払いながらお辞儀をしたミシャに習って私たちも頭を下げた。
「これが主の母の墓石か……汚れてはおるが随分と立派なものだな」
「ほんと……アドラだとこんなの上流貴族くらい」
「ほらほら、お夕飯の準備もありますし手早く済ませましょう」
 リオの掛け声で私たちは役割りを分担して掃除を開始した。

「こんなものかしらね、それにしてもミシャはズルいんじゃないかしら」
「なんでなのじゃ!?」
 能力を使って雑草を一掃して落ち葉を掃いてたミシャにティナがじっとりとした視線を向けた。
「ミシャちゃんのおかげで早く済んだからいいじゃないですか――お義母さん、お供えを持ってまた来ますね――さぁ、そろそろワタル達も帰って来ると思いますし私たちも帰りましょう」
「リオ~、肉じゃがが食べたいわ」
「妾は天ぷらが良いのじゃ!」
「儂は唐揚げが良い」
「私はお味噌汁がいいわねぇ」
「シロナさんがどんな食材を買ってくるか次第ですね~、フィオちゃんは何か希望はありますか?」
「お寿司」
「えっと、お家で作る場合は手巻き寿司でしたっけ」
「肉じゃがよ!」
「天ぷらなのじゃ!」
「唐揚げ、唐揚げだ!」
 私たちは賑やかに言い合いをしながら家路についた。

「何をやっているアリス!」
「もー! これどうなってるのよ! というかナハトも何してるのよ!」
 食後にゲームを始めたナハトとアリスが互いを罵り合ってる。
 そしてそんな隙を見逃さずクロエとシロナに吹っ飛ばされてアリス達の操作する戦士は死んだ。
「おー、やっぱりクロとシロは強いなー」
「くっくっく、間抜けめ、儂と交代せよ、こんなもの――なにー!? なんだこれは!? 全然ちゃんと動かぬぞ!」
 戦士が再登場したのに合わせてナハトから操作機を奪い取ったクーニャは飛び跳ねている間にあっさり脱落した。
「代われクーニャ、やはりここは私が――くっ、ぬ、なぁ!?」
 クロエとシロナの連携が完璧過ぎる……。
 クーニャから操作機を奪い返したナハトもいくらも動かないうちに脱落した。

「今度は妾がやるのじゃ」
「このっこのっこのっ! なんでこいつこんな動きなのよ!」
「アリスがそのキャラ選んだからだろ……」
 アリスが選んだ戦士は動きの間に変な動作を挟んで無駄が多いせいかクロエ達の連携に追いつけず翻弄されてる。
「ふにゃ!? アリス何をやっているのじゃ!?」
 アリスの暴走に巻き込まれたミシャの戦士が吹っ飛んだ。
「まったく、ゲーム相手にそんなに声を荒げて、みんな子供ねぇ」
「ならお前がやってみろ! クロエとシロナに翻弄された後に同じ事が言えるか見ものだな」
「そうなのじゃ、ティナとリオもやってみるのじゃ」
 アリスとミシャから操作機を渡されたリオとティナが互いの顔を見合わせて固まった。

「よっ、っと」
「えいっ」
 リオとティナが……クロエとシロナに拮抗してる。
 それを二人に瞬殺された全員が面白くなさそうに見つめてる。
「主! 他に、他に何かないのか!?」
「え~っと……格ゲー以外だと、あとはすごろく的な物とかかな」
「すごろくとはなんなのじゃ」
「簡単に言うとサイコロを振って出た目の数で進んでゴールを目指すゲームだな」
「それ運ではないのか?」
「そうだな、まぁ操作技術が絡まないから勝てる可能性はあると思うけど?」
 実力が絡まないのが嫌なのかナハトは悩む素振りを見せて戸惑っていたけど結局格ゲーだと勝ち目が無いと思ったみたいで私たちは遅い時間まですごろくに興じた。

「皆さん、お花見に行くので買い出しに行きますよ」
 昨日に引き続きゲームに興じてた私たちにリオがそう宣言した。
「アリスちゃんとクーニャちゃんはスーパー初めてだから驚きますよ~」
「すーぱーとはなんなのだ?」
「買い物に行くのよね? こんびにとは違うの?」
「コンビニよりも安くて色んな商品があるんですよ」
「ほほぅ?」
 わくわくしてるクーニャは一番に車に乗り込んでシートベルトを閉めた。
「流石にこの人数だと狭いわねぇ」
「何人か待っててくれてもいいんだけどな」
 みんなに反対されて結局みんなで買い出しに出た。

「これとこれ、あと……」
「クロエ様こちらも美味しそうですよ」
 クロエとシロナはお花見に関係なさそうなカップ麺をカゴいっぱいに入れていく。
「ほんと好きだな……アリスも興味ある物は入れていいからな?」
「う、うん」
「主この冷たいのはなんだ?」
「アイスだな、冷たくて甘い菓子だ」
「ほぅ、甘いのか」
 興味が湧いたようでクーニャがアイスをいくつか投げ込んだ。

「リオ、私も何か手伝いたい」
「フィオちゃん花嫁修業中ですもんね、おむすびを作るのでフィオちゃんが良いと思う具材が買っておいてくださいね」
 美味しい具材……ぷちぷち、ぷちぷちのやつがいい。
 売り場を回って赤いぷちぷちのやつをカゴに放り込んだ。
「フィオも作るのか……ならば私もワタルの為に腕を振るおうではないか」
 私が食材をカゴに入れるのを見てたナハトが対抗意識を燃やしてたらこを放り込んだ。
 ナハトもぷちぷちを……絶対負けられない。
「妾はおむすびは絶対シャケだと思うのじゃ」
 ミシャまで参戦してきた!?
「あらミシャ、昆布だって美味しいと思うわよ」
 ティナまで……。
 こうしてみんなそれぞれが思う具材を買ってワタルに振る舞う事になった。

「このままでも良いと思いますけどちょっとだけ醤油に漬けるともっと美味しくなると思いますよ」
「ん……もさ」
『きゅ』
「どう?」
 ちょっとだけ味を付けたイクラをもさに渡すとぺろりと舐め取った。
『きゅっきゅう!』
 バンザイしたもさが足踏みしてる。
「美味しい?」
『きゅっきゅう!』
「良かった」
『きゅう~、きゅう~』
「あとはお花見の時ね」
『きゅう……』
 ちょっと残念そうにしたけど聞き分けてくれてテーブルに登って私たちの作業を眺め始めた。
「くっくっく、私の炎で絶妙な炙り具合のたらこに勝てるものはない」
「妾だって良い感じにシャケが焼けたのじゃ!」
 騒がしくも楽しい準備をして私たちはお花見の準備が進み楽しい時間がゆっくりと過ぎていった。
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