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八章~臆病な姫と騎士の盟約~
予兆
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「ねぇワタル、フィオが帰って来てからフィオばかり贔屓し過ぎじゃないかしら」
「そうか?」
「どう見てもそうだっ! 私たちがワタルに甘えたくとも常にフィオが傍に居て引っ付いている状態だぞ。歩く時は寄り添い、食事など座っている時は膝の上、寝ているところに忍び込んでも既にフィオが居る状態!」
忍び込むなよ…………ナハトだけじゃないけど。
「駄々をこねて嫌われたくはないから色情狂で欲張りなところは我慢して目を瞑ろう思っていたが、贔屓をして平等にしてくれないのなら我慢も限界だ」
ん~、そんなにずっと一緒に居るか……確かに帰って来てから甘えんぼモードな気がするけど、座る時に乗ってくるのは今更だし、同じ部屋で寝てるのも寝てる間に忍び込まれてるからなんとも…………そして手は出してないのに色情狂とはこれ如何に。
「ワタルはろりこんだから仕方ない」
ぐはっ!? フィオにまでそんな認識されてるのか。元々はそうではなかったはずだからロリコンなんだとしたらロリコンになったのってフィオのせいだと思うんだけどなぁ。
「ふむ、やはり小さくないと駄目なのじゃな。ではティアに頼むとするか」
「待てまて、ただでさえ異常な状態なのに小さい娘を囲ってたら完全な異常者になるから勘弁してくれ、それに……大きいのも好きだし」
「ワタル何言ってるんですか…………」
顔を赤くしたリオに呆れられてしまった。
「ぷぷぷっ、そうよねぇ。よく私の事も見てるしぃ~」
「のしかかってくるなっての」
「胸が当たって嬉しいくせに~」
「大きくも小さくもない妾はどうすればいいのじゃーっ!」
「ミシャは猫耳と尻尾があるから」
「なるほど、違いを堪能しておるのじゃな。流石旦那様、やっぱり変態なのじゃ」
俺は大事にされているのか貶されているのか…………。
「あー、はいはい、ロリコンでも変態でも色情狂でも好きに呼んでくれ」
「どこに行くんですか?」
「散歩っ!」
「まったく……誰かを選ばずはっきりしない俺も悪いとはいえ、手を出してないのに色情狂ってのはどうなんだ――というかすげぇ贅沢な状態だな。みんなはこれでいいのか? ナハト以外は大して文句も言わないけど――」
「誰か一人に取られるくらいならみんなで共有した方が良いってティナが言った」
「うおっ!? 付いて来てたのか」
突然後ろから声がして振り返るとフィオが付いて来ていた。
「ワタルを一人にしたら何かしら問題が起こるから、もう一人にしない」
「俺はトラブルメーカーかよ…………」
「とらうまめーかー?」
なんか悪化したんだけど、俺ってばトラブルだけじゃなくトラウマも製造してるのか? ……俺が起こしたトラブルってそんなにないと思うんだが。
「どこに行くの?」
「どこでもいいだろ」
「怒ってるの? ……ろりこんって言ったのが嫌だったの? 私はワタルが小さい方が好きな方が嬉しい」
頬を薄く染めて少し不安そうな顔で可愛く見上げられましても…………可愛い、やっぱ俺がロリコンになったのこいつのせいだわ。
「まぁ、フィオの事は大切に思ってるよ」
ん~、顔を真っ赤にして動揺したように視線を忙しく彷徨わせている。こういう反応するようになったから余計に……それともこういう反応をするような事を俺が簡単に言ったりするようになった? だとしたらただの女誑しなんだが。
「あ、あっちにある屋台、美味しいから」
そう言って俺の手を引いて歩き出した。七日も家出してればこの町の店の良し悪しも知ってるか。クレープの屋台か、家出中に通ったんだろうか?
「あらお嬢ちゃん、仲直り出来たのね」
こう言うって事は家出中はここに来てたんだな。多少なりとも事情を知ってる風だし、知らない人とも打ち解けるようになってるんだなぁ。
「ん」
「そう、良かったわね。それじゃあこれはあたしからのお祝いだ。ほら君も」
「あ、どもです。へぇ、これ美味いですね」
店主のおばさんから受け取ったクレープを齧ると爽やかな香りが口いっぱいに広がった。何かの果肉なんだろうけど、瑞々しくてとても柔らかい。味は酸味を弱めて甘さを強くしたレモンってところだろうか。甘いけどしつこい感じじゃなくてさっぱりしている。
「メドゥって果実なんだ。美味しいでしょう? うちの人気商品さ。気に入ったら次は買って食べとくれ」
「じゃあ早速五つ」
かなり美味しいし変な感じで出て来てしまったからお詫びとしてリオ達に買って帰ろう。
「あっはっは、そうかいそうかい、そんなに気に入ってくれたのかい――」
「き、キサラギ様ーっ…………はぁはぁ、はぁ~、よかった、まだこの町に居られた。つい今し方知らせの者が、着きまして、この町から南へ行った所にある村が魔物の群れに襲われているとの知らせが! 騎士団にも知らせの者が行きましたが団長様は王都に戻っておられるし、村などの小さな集落にまでは陣は設置されておりませんからすぐに移動できるという訳でもありません。どんなに馬を走らせても五日は掛かる距離です、少しの時間も惜しいのです。今すぐに向かって頂けないでしょうか? 急がないと、村が、私の故郷がっ! お願いします!」
俺を捜して走り回ったのか、額から大量の汗を流し、血相を変えた若い兵士が頭を下げ必死に訴えかけてくる。
「行きます。案内を頼めますか?」
「は、はいっ! よろしくお願いします。すぐに馬を準備しますので町の入り口で落ち合いましょう」
「忙しくなってきたな。フィオはリオ達に伝えに――」
「私も行く」
「いや、でも伝えとかないと心配させるし――」
「それならあたしが言付かるよ。どこに行けばいいんだい?」
「闘技場近くの宿に居るリオに今兵士の人が言ってた村に行く事を伝えてもらえますか? フィオも居るから心配ないって」
「分かった。村の人たちを頼むよ、黒雷の騎士様」
「全力を尽くします」
「お待たせしました。すぐに向かいましょう、こちらの馬をお使いください。騎士団の方は準備が整い次第村に向かうとの事ですからどうかそれまでお願いします」
兵士が連れて来た馬にフィオと一緒に乗り、既に駆け出した兵士の後を追う。故郷が、と言っていたから気が気でないのだろう。
「やれる事はやりますけど…………あの、気になってたんですけど知らせも馬で来たんですか? それに状況とかは?」
「ええ……馬での知らせです。ですので村が魔物に囲まれてから既に五日が経っている事になります。状況はコボルトやオークなどが狩りを愉しむかのように徐々に人を殺し追い詰めているような状況だったそうです。頭も回るようでただ逃げるだけなら怯えさせて遊ぶような素振りを見せたり放置もするようなんですが、町へ救援要請に向かった者は見せしめのように痛めつけ叫ばせた後に殺され寸断した死体を投げ付けてくるそうです。知らせに来た者は命からがら辿り着いたそうです。村人たちは近くの森に散り散りに隠れているそうですがいつまで持つか……村にも多少の兵士は居ましたが、それでは対処出来ない程の数だからこそこんな事になっている訳で…………分かっています。間に合わない可能性の方が高いと、でもっ! それでも――」
「急ぎましょう」
「はいっ!」
それからはどちらも喋る事なく馬を走らせ、途中にある別の村で馬を乗り換えひたすら馬を走らせ目的地を目指した。
五日後、目的の村に辿り着いた時には村は酷い有様だった。形を留めている家はまだマシな方で、焼け落ちたり破壊されている物の方が多かった。
「そんな…………誰も生きていないのか…………?」
村の中央に奇妙なくらい等間隔に並べられた首の円陣の前に兵士のロニが崩れ落ちた。村の入り口からここまでの間に遺体の一部が散乱していたが、首だけはここに集めてあるようだ。
「……全員、なのか?」
聞き辛かったが聞くしかない。異様な光景に吐き気がするしじっくりも見られないが、村の規模、家の数に比べて死体が少ない気がする。
「え? …………違う、まだ生きてる。ここに居ない人もいます。まだ逃げてるんだ、捜さないと……手伝ってもらえますか!?」
「急ごう、土地勘のある人の助けがないと捜せない」
「そ、そうですね。土地の者しか知らない場所もありますし、逃げ延びている人もいますよね!」
まだ生きている人が居る、その可能性を信じて自分を奮い立たせたロニは村近くの森へ向かって歩き出した。その後を周囲を警戒しながら俺とフィオが続いた。
「あ、あ、ああ、あぁぁあああああああああああっ!? 父さんっ、母さんっ! そんな、どうして……なんでこんな、なんでっ!」
間に合わなかった。森の奥で見つけたのはオブジェか何かのように木々に痛々しい姿で磔にされた残りの村人だった。ここに辿り着くまでにもバラバラにされた遺体と点々と続く血の跡があったし、この数から考えてもこれで全員なんだろう。今度こそ動けなくなってしまったロニは村人が磔にされた木々の前でうずくまった。
「フィオ、変な気配はあるか?」
「…………ない。ここ以外は普通の森」
「そうか」
この事態を引き起こした魔物だけでも処理しておきたかったが、救援を警戒する頭があるだけあって既に逃げた後か…………なにか、妙な感じがする……何が引っかかってる? ……魔物が、こんな殺し方するだろうか? オークなんて喰らう犯すが基本みたいな奴なのに? 知能が高いならあり得るのか? 殺し方が猟奇殺人じみている。男も女も――女……? 襲っていた魔物の中にはオークも居たはずなのに、それなのに殺すだけ? ここに在る遺体は男女共にある。若い女性の遺体もいくらかある……でも犯したような形跡はない。愉しむという目的でオークも居たならこれはおかしい。群れで襲って一匹も手を出すことなく殺す事に従事したって事だよな。喰ったようでもないし……クロイツで見た事のある状態とは違う。喰った結果バラバラにされる事はあっても殺す為だけにバラバラにされているってのは……こういう異常を引き起こしたのが外法師のような一体なら分かるが、群れだと言っていたし外法師の様な化け物が何体も居るとかじゃないだろうな? 並べられた首、磔にされた人たち、どちらも喰う、犯すというものからは外れている。それをする物が群れ単位で居る……ロニを一人に出来ないし、俺かフィオ片方で探索するのは危険か。騎士団が着いたら早急に捜しだして始末しないと、こんなもの繰り返したくない。
「そうか?」
「どう見てもそうだっ! 私たちがワタルに甘えたくとも常にフィオが傍に居て引っ付いている状態だぞ。歩く時は寄り添い、食事など座っている時は膝の上、寝ているところに忍び込んでも既にフィオが居る状態!」
忍び込むなよ…………ナハトだけじゃないけど。
「駄々をこねて嫌われたくはないから色情狂で欲張りなところは我慢して目を瞑ろう思っていたが、贔屓をして平等にしてくれないのなら我慢も限界だ」
ん~、そんなにずっと一緒に居るか……確かに帰って来てから甘えんぼモードな気がするけど、座る時に乗ってくるのは今更だし、同じ部屋で寝てるのも寝てる間に忍び込まれてるからなんとも…………そして手は出してないのに色情狂とはこれ如何に。
「ワタルはろりこんだから仕方ない」
ぐはっ!? フィオにまでそんな認識されてるのか。元々はそうではなかったはずだからロリコンなんだとしたらロリコンになったのってフィオのせいだと思うんだけどなぁ。
「ふむ、やはり小さくないと駄目なのじゃな。ではティアに頼むとするか」
「待てまて、ただでさえ異常な状態なのに小さい娘を囲ってたら完全な異常者になるから勘弁してくれ、それに……大きいのも好きだし」
「ワタル何言ってるんですか…………」
顔を赤くしたリオに呆れられてしまった。
「ぷぷぷっ、そうよねぇ。よく私の事も見てるしぃ~」
「のしかかってくるなっての」
「胸が当たって嬉しいくせに~」
「大きくも小さくもない妾はどうすればいいのじゃーっ!」
「ミシャは猫耳と尻尾があるから」
「なるほど、違いを堪能しておるのじゃな。流石旦那様、やっぱり変態なのじゃ」
俺は大事にされているのか貶されているのか…………。
「あー、はいはい、ロリコンでも変態でも色情狂でも好きに呼んでくれ」
「どこに行くんですか?」
「散歩っ!」
「まったく……誰かを選ばずはっきりしない俺も悪いとはいえ、手を出してないのに色情狂ってのはどうなんだ――というかすげぇ贅沢な状態だな。みんなはこれでいいのか? ナハト以外は大して文句も言わないけど――」
「誰か一人に取られるくらいならみんなで共有した方が良いってティナが言った」
「うおっ!? 付いて来てたのか」
突然後ろから声がして振り返るとフィオが付いて来ていた。
「ワタルを一人にしたら何かしら問題が起こるから、もう一人にしない」
「俺はトラブルメーカーかよ…………」
「とらうまめーかー?」
なんか悪化したんだけど、俺ってばトラブルだけじゃなくトラウマも製造してるのか? ……俺が起こしたトラブルってそんなにないと思うんだが。
「どこに行くの?」
「どこでもいいだろ」
「怒ってるの? ……ろりこんって言ったのが嫌だったの? 私はワタルが小さい方が好きな方が嬉しい」
頬を薄く染めて少し不安そうな顔で可愛く見上げられましても…………可愛い、やっぱ俺がロリコンになったのこいつのせいだわ。
「まぁ、フィオの事は大切に思ってるよ」
ん~、顔を真っ赤にして動揺したように視線を忙しく彷徨わせている。こういう反応するようになったから余計に……それともこういう反応をするような事を俺が簡単に言ったりするようになった? だとしたらただの女誑しなんだが。
「あ、あっちにある屋台、美味しいから」
そう言って俺の手を引いて歩き出した。七日も家出してればこの町の店の良し悪しも知ってるか。クレープの屋台か、家出中に通ったんだろうか?
「あらお嬢ちゃん、仲直り出来たのね」
こう言うって事は家出中はここに来てたんだな。多少なりとも事情を知ってる風だし、知らない人とも打ち解けるようになってるんだなぁ。
「ん」
「そう、良かったわね。それじゃあこれはあたしからのお祝いだ。ほら君も」
「あ、どもです。へぇ、これ美味いですね」
店主のおばさんから受け取ったクレープを齧ると爽やかな香りが口いっぱいに広がった。何かの果肉なんだろうけど、瑞々しくてとても柔らかい。味は酸味を弱めて甘さを強くしたレモンってところだろうか。甘いけどしつこい感じじゃなくてさっぱりしている。
「メドゥって果実なんだ。美味しいでしょう? うちの人気商品さ。気に入ったら次は買って食べとくれ」
「じゃあ早速五つ」
かなり美味しいし変な感じで出て来てしまったからお詫びとしてリオ達に買って帰ろう。
「あっはっは、そうかいそうかい、そんなに気に入ってくれたのかい――」
「き、キサラギ様ーっ…………はぁはぁ、はぁ~、よかった、まだこの町に居られた。つい今し方知らせの者が、着きまして、この町から南へ行った所にある村が魔物の群れに襲われているとの知らせが! 騎士団にも知らせの者が行きましたが団長様は王都に戻っておられるし、村などの小さな集落にまでは陣は設置されておりませんからすぐに移動できるという訳でもありません。どんなに馬を走らせても五日は掛かる距離です、少しの時間も惜しいのです。今すぐに向かって頂けないでしょうか? 急がないと、村が、私の故郷がっ! お願いします!」
俺を捜して走り回ったのか、額から大量の汗を流し、血相を変えた若い兵士が頭を下げ必死に訴えかけてくる。
「行きます。案内を頼めますか?」
「は、はいっ! よろしくお願いします。すぐに馬を準備しますので町の入り口で落ち合いましょう」
「忙しくなってきたな。フィオはリオ達に伝えに――」
「私も行く」
「いや、でも伝えとかないと心配させるし――」
「それならあたしが言付かるよ。どこに行けばいいんだい?」
「闘技場近くの宿に居るリオに今兵士の人が言ってた村に行く事を伝えてもらえますか? フィオも居るから心配ないって」
「分かった。村の人たちを頼むよ、黒雷の騎士様」
「全力を尽くします」
「お待たせしました。すぐに向かいましょう、こちらの馬をお使いください。騎士団の方は準備が整い次第村に向かうとの事ですからどうかそれまでお願いします」
兵士が連れて来た馬にフィオと一緒に乗り、既に駆け出した兵士の後を追う。故郷が、と言っていたから気が気でないのだろう。
「やれる事はやりますけど…………あの、気になってたんですけど知らせも馬で来たんですか? それに状況とかは?」
「ええ……馬での知らせです。ですので村が魔物に囲まれてから既に五日が経っている事になります。状況はコボルトやオークなどが狩りを愉しむかのように徐々に人を殺し追い詰めているような状況だったそうです。頭も回るようでただ逃げるだけなら怯えさせて遊ぶような素振りを見せたり放置もするようなんですが、町へ救援要請に向かった者は見せしめのように痛めつけ叫ばせた後に殺され寸断した死体を投げ付けてくるそうです。知らせに来た者は命からがら辿り着いたそうです。村人たちは近くの森に散り散りに隠れているそうですがいつまで持つか……村にも多少の兵士は居ましたが、それでは対処出来ない程の数だからこそこんな事になっている訳で…………分かっています。間に合わない可能性の方が高いと、でもっ! それでも――」
「急ぎましょう」
「はいっ!」
それからはどちらも喋る事なく馬を走らせ、途中にある別の村で馬を乗り換えひたすら馬を走らせ目的地を目指した。
五日後、目的の村に辿り着いた時には村は酷い有様だった。形を留めている家はまだマシな方で、焼け落ちたり破壊されている物の方が多かった。
「そんな…………誰も生きていないのか…………?」
村の中央に奇妙なくらい等間隔に並べられた首の円陣の前に兵士のロニが崩れ落ちた。村の入り口からここまでの間に遺体の一部が散乱していたが、首だけはここに集めてあるようだ。
「……全員、なのか?」
聞き辛かったが聞くしかない。異様な光景に吐き気がするしじっくりも見られないが、村の規模、家の数に比べて死体が少ない気がする。
「え? …………違う、まだ生きてる。ここに居ない人もいます。まだ逃げてるんだ、捜さないと……手伝ってもらえますか!?」
「急ごう、土地勘のある人の助けがないと捜せない」
「そ、そうですね。土地の者しか知らない場所もありますし、逃げ延びている人もいますよね!」
まだ生きている人が居る、その可能性を信じて自分を奮い立たせたロニは村近くの森へ向かって歩き出した。その後を周囲を警戒しながら俺とフィオが続いた。
「あ、あ、ああ、あぁぁあああああああああああっ!? 父さんっ、母さんっ! そんな、どうして……なんでこんな、なんでっ!」
間に合わなかった。森の奥で見つけたのはオブジェか何かのように木々に痛々しい姿で磔にされた残りの村人だった。ここに辿り着くまでにもバラバラにされた遺体と点々と続く血の跡があったし、この数から考えてもこれで全員なんだろう。今度こそ動けなくなってしまったロニは村人が磔にされた木々の前でうずくまった。
「フィオ、変な気配はあるか?」
「…………ない。ここ以外は普通の森」
「そうか」
この事態を引き起こした魔物だけでも処理しておきたかったが、救援を警戒する頭があるだけあって既に逃げた後か…………なにか、妙な感じがする……何が引っかかってる? ……魔物が、こんな殺し方するだろうか? オークなんて喰らう犯すが基本みたいな奴なのに? 知能が高いならあり得るのか? 殺し方が猟奇殺人じみている。男も女も――女……? 襲っていた魔物の中にはオークも居たはずなのに、それなのに殺すだけ? ここに在る遺体は男女共にある。若い女性の遺体もいくらかある……でも犯したような形跡はない。愉しむという目的でオークも居たならこれはおかしい。群れで襲って一匹も手を出すことなく殺す事に従事したって事だよな。喰ったようでもないし……クロイツで見た事のある状態とは違う。喰った結果バラバラにされる事はあっても殺す為だけにバラバラにされているってのは……こういう異常を引き起こしたのが外法師のような一体なら分かるが、群れだと言っていたし外法師の様な化け物が何体も居るとかじゃないだろうな? 並べられた首、磔にされた人たち、どちらも喰う、犯すというものからは外れている。それをする物が群れ単位で居る……ロニを一人に出来ないし、俺かフィオ片方で探索するのは危険か。騎士団が着いたら早急に捜しだして始末しないと、こんなもの繰り返したくない。
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