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番外編~フィオ・ソリチュード~
頼み事
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私が捕まえて褒めてもらおうと思ってたのに――。
「面倒だって言うから数日掛かると覚悟していたのに…………」
絶対に一番に見つけようと思ってたら、ワタルの運の良さが炸裂して獲物が木の上からワタルの頭に降ってきた。降ってきたモフモフした獣はワタルに首の後ろを掴まれてぶらぶらしてる。こんなにあっさりと捕まるもののどこが面倒なの?
「ちょっとあんた持ち方! そんな持ち方したら可哀想でしょ!」
「はあ? これが普通だろ、猫だってこうやって持つし、こいつも大人しくしてるだろ、嫌なら暴れるって」
ねこって何? ワタルが捕まえた獣は特に嫌そうな素振りも無く大人しく掴まれてる、可哀そうには見えないけど、コウヅキはなんであんなに怒ってるの?
「あんた猫もそんな持ち方するの!? ありえない、最低ね」
「私も可哀想だと思うなぁ」
「僕もその持ち方は酷い気がするよ」
私には何が悪いのか分からないけど、コウヅキ達にはワタルの持ち方は不評みたい。暴れないし心地よさそうに目だって瞑ってるのに。
「ならお前らはどうやって持つんだよ? ほら紅月」
ワタルがコウヅキにぶらぶらしてる獣を差し出してる…………ちょっと面白い、私も持ってみたいかも?
「そんなのこうやって脇を抱え――」
『きゅぅー!』
「え、ちょっと、大人しくしてよ、こいつの酷い扱いから解放してあげようとしてるのよ」
コウヅキがモフモフに手を伸ばしたら暴れ出して前足でコウヅキの手を叩いたり引っ掻いてる。ん~、結構速い、威力は無いだろうけど、ぺちぺちする速さはかなりのもの、確かにあの速さで逃げ回る獣なら捕まえるのはそれなりの手間が掛かるのかもしれない…………それをあっさり捕まえたワタルって……やっぱり運が良いんだ。
「ダメじゃん、暴れまくってるし…………おい止めろ」
ワタルが上下に獣を揺すってびよんびよんしてる……可愛い、あれ私も欲しい。
「うわ、虐待じゃんそれ」
「なんでそうなる、引っ掻かれてるから止めてやったんだろ、それに猫とかの脇に手を入れて持つのは肩の関節に負荷が掛かるからやったら良くないぞ、人間と違って開くようになってないから、ずっとやってたりしたら痛める可能性があるし」
『猫というのが何かは知らんがカーバンクルを持つなら小僧のやり方のほうがいいだろう、親が子を運ぶ時にそこを銜えるからな、成体でもそこを掴まれれば相手を上位の存在と認識して大人しくなる』
偶然で弱点を掴んでたなんて、凄いけど何か納得いかない。
「一つ聞きたいんだけど、宝石を採ったら死ぬとかないよね?」
『ああ、問題ない、失ってもまた再生する』
そっか、必要なのは宝石なんだ……なら宝石を採ったあとの獣ならもらってもいい? モフモフしてて柔らかそうで、抱いて寝ると気持ち良さそう。それにリオにも見せたい。
「んじゃ遠慮な――なに?」
コウヅキ達に睨まれているのに気が付いてワタルの手が止まった。顔引き攣ってる、あんなの気にしなきゃいいのに。
「そんな可愛い子の持ち物取り上げるとかサイテー」
「鬼畜で外道ね」
「だって献上品を採りに来たのに採らずに帰るとか意味分からんだろ」
「ワタル、カーバンクル自体も珍しいから、そのまま持って行けばいいのではないか?」
えぇー!? 宝石採った後は私が貰いたかったのにそのまま持って行くことになったらもらえない。
「このままでいいか」
うぅ~、貰いたかった。ナハトが余計な事を言うから…………コウヅキ達のいない時に宝石を採ってワタルに渡せば、もらってもいい? ワタルが必要としてるのは宝石だけだし。
「ならさっそく名前を――」
「もさ、だな」
もさ、たぶん尻尾とかがもさもさだからだ。ワタルの名づけ方、安直…………それでも、もさと呼ばれた時にモフモフの尻尾が嬉しそうに揺らめいていた。
「なっ!? なに勝手に可愛くない名前を付けてるのよ」
「もさもさだからもさ、で分かり易いだろ」
『きゅぅ~』
「ほら返事もしたし」
本当に返事した!? …………なんでさっき拾ったばかりの獣に懐かれてるの? 首掴んだから? それだけで服従するの?
「そんなの偶々鳴いただけでしょ! そんな事で適当に名前を付けたら可哀想じゃない」
「ならそっちの希望は?」
「…………きゅーちゃんとか?」
「きゅーちゃん~? …………ぶふぅっ」
「なっ、何よ?」
「いや、別に、ぷくっ、ふふくくく、呼んでみたらいいんじゃない?」
コウヅキの提案した名前を聞いてワタルはお腹を抱えて笑ってる。そんなに変? きゅーちゃんも悪くないと思ったんだけど。
「……きゅーちゃん」
『…………』
「もさ」
『きゅぅー』
「ぷふぅっ、くくくっあっははははは! こいつはもさの方が良いみたいだな」
『きゅぅー、きゅぅー』
もさがいいというよりワタルの呼び掛けに反応してるだけな気がする。コウヅキの方は見ないでワタルをずっと見上げてるし、上位の存在として認識するって言うのは本当なのかもしれない。
「な、なんでよ、きゅーちゃんの方が可愛いのに…………もさとか可愛くないじゃない、猛者とも書けるし…………」
コウヅキが地面に手を突いて落ち込んでる。そんなに嫌なんだ……もさでも悪くないけど。
「もさ」
『きゅぅー」
鳴いたぁ!
「もさもさ」
『きゅぅーきゅぅー』
私が呼んでも返事する。もう自分の名前だと認識してる? もさは賢いかも、呼ぶ度に尻尾が揺らめいてつぶらな瞳で私を映してる。か、可愛い…………。
「ほれ、お前が持ってろ」
っ! ワタルが私の頭にもさを乗っけた…………これもいいかも、もさもさの尻尾が頬を撫でて首に巻かれた。頭に乗ってる胴体もモフモフしてて柔らかいし、ゲルトと同じで獣臭さが無くて毛並みも良い。
「なんで?」
「…………似合うから?」
ワタルは目を逸らして頬を掻いてる。似合う? …………よく分からない。でもワタルが良いって言うならこれでいい、乗せてるのも嫌じゃないし、もさも嫌そうじゃない。ふふふ……モフモフ貰った。頭へ手を伸ばしてもさを撫でる、良い触り心地、こんなモフモフに埋もれて過ごしてみたい。
「あ~、確かに可愛いかも…………私もロリコンになるかも、フィオちゃん写メ撮らせて~」
「あ、僕も」
ミズハラとユウヤが変な板でカシャカシャやり始めた。何が面白いのか、二人とも熱心な様子で続けてる……少し、目が…………。
『これで一応用は済んだのだろう? ならば早めに立ち去れ、襲わぬ様に指示してはいるが群れの中には他の種への接触を酷く嫌う者も居る』
「ゲルト、その前にもう一つ頼みたい事が出来てしまった、いいだろうか?」
『数年振りに会いに来たかと思えば頼み事ばかりだな、普通に会いに来れんのか、まったく……』
「今は審議中だが許可が出れば私たちは王都へ行く事になる、その時に乗せてはもらえないか? 最初は歩きで行くつもりだったのだが先ほどワタルを乗せているのを見て、頼めないかと思ったのだ」
歩き…………? この大陸には馬車が無いの? 普通の人間が歩きで移動すると時間が掛かる、その上異界者はひ弱な人間が多いのに。
『今言ったろう、いや、言わなくてもお前は知っているだろう、接触を拒む者も居るのだ。さっき小僧を乗せたのは少しの間だったが、移動となれば数日ここを離れる事になるだろう? その間にそういう者たちが勝手をしないとも限らない』
「あ~、馬とか居ないの?」
「馬はこの大陸には居ない、それに普段の移動は自分の脚で事足りるから困る事もないんだ」
いない……確かに身体能力の高い者からしたら自分の脚で移動する方が速かったりする。私も馬車なんて滅多に乗る事は無かったし、エルフ達も同じで自分の脚での移動が当たり前なんだ。
『ならば歩けばいいだろう』
「ワタル達は人間だ、私たちエルフや獣人の様にはいかない」
『…………他の者に話してはみよう、だがあまり期待するなよ、確約は出来んからな』
気遣い獣…………嫌う者がいるって言ったのに、即刻断る事はせずにこの対応、アドラの人間なんかよりゲルトの方が穏やかで温和、知性のあるはずの人間の方が獣のように感じる。
「ああ、それで構わない、ありがとうゲルト」
『ふん』
「どこに行くの?」
村に戻って暫くした後にナハトが天幕から出て行くのを見つけて声を掛けた。
「ワタルに頼まれた通り剣に能力付加をしてもらおうと思ってな」
ワタルの剣を持ち出してるからもしかしたらと思ったけど、正解だった。
「その事について話がある」
「…………ワタルの頼みだからやるのだぞ? お前の持ち物への能力付加はお断りだぞ」
「別にそんなの要らない。補助が必要なほど自分が弱いとは思わないし……そうじゃなくてワタルの剣に付加する能力についての話」
「ワタルの? …………はっ、まさか自分みたいに小さい者に魅かれるようになる効果を付加しろと言うつもりかっ! そんなものは絶対に付加させないぞ」
…………そんな馬鹿な効果を付加してどうするの? 魅かれる? ワタルが? …………そんな事どうでもいい。首を振って邪魔な考えを追い出して必要な事だけを考える。
「そんな事じゃない、ワタルの安全について」
「っ! 話を聞こう」
「ワタルの記憶、見た?」
「? ああ、見たが、それがどうかしたのか?」
「なら分かるはず、ワタルはすぐに無茶をする。自分が傷付くのを気にしない、自分の命すら投げ出す事もある。だから付加する能力に身体能力強化以外に身体を丈夫にするものと、稽古をした時に成長を高める効果を付け加えて」
たぶん無茶をするのは止められない。言っても聞きそうにないし、聞いたフリをして飛び出していきそう。もちろん悪い事態にならない様に傍に居て補助するつもりだけど、ワタル自身を強くして危険に陥りにくくしておくのも重要。
「なるほど、確かに無茶が過ぎるというか……自身の身の安全を顧みない行動があったな、お前に助けられた状況も多いようだったし…………しかしそんな能力を付加すると無茶な行動が更に助長されるのではないか?」
「黙っておけばいい、知ったら絶対無茶が増える」
「うむ、確かに…………あれはどうにかならないのか? 他者を大切にしようとするのは良いが自分も大切にしてもらいたいのだが――」
「出来ると思うの? あれが無くなったらたぶんワタルじゃなくなる」
「う、う~む……確かにああいった部分も魅力ではあるが…………ふむ、一応頼んではみよう。だが一つの物に複数の能力を付加し過ぎると複雑になって効果が現れない場合もあるから絶対に出来るとは言えない。その場合は別の物に付加してワタルに身に着けさせるしかないな」
「それでいい、ワタルの安全が優先」
「…………お、お前は何か欲しいものは無いのか? 特別に頼んでやらんでもないぞ?」
自分の身くらい自分で守れるし特に欲しい能力も…………。
「リオの安全に繋がりそうなもの?」
「……ふふっ、自分の為のものは頼まないのだな、リオは黒髪の娘だったな。何かいいものがないか頼んでおこう。お前がワタルとあの娘を大切に思っているのは分かったが、ワタルは私が貰うからな」
あげないしっ! ナハトは剣を持って出て行った。リオの安全に繋がるもの……身体能力の強化? でも、動けるようになったらリオも無茶しそうな気が…………流石に二人一遍に面倒を見るのは私でも大変だから何かそれ以外にしてくれるといいんだけど。
「リオ、今日もいい?」
頼みたい事も済んで、一緒に寝ようとリオの部屋を訪れた。
「いいですけど、フィオちゃんそれどうしたんですか?」
「ワタルに貰った。もさ、モフモフ」
「わぁ~、本当ですね――きゃぁ、くすぐったいですよ」
もさを掴んでベッドに座っているリオに差し出したら、リオにすり寄って行ってもさがリオの顔を舐め始めた。ん~? 懐いてる、私にも特に嫌そうな態度をしなかったし……なんでコウヅキだけ叩かれたの?
「この子とても人懐こいですねぇ。こんな動物見た事なかったんですけど凄く可愛いです」
一人残ったり元気がなさそうだったけど今は笑ってる。元気になった? だと、いいな。リオに抱き付いて、間にもさを挟んで眠りについた。
「面倒だって言うから数日掛かると覚悟していたのに…………」
絶対に一番に見つけようと思ってたら、ワタルの運の良さが炸裂して獲物が木の上からワタルの頭に降ってきた。降ってきたモフモフした獣はワタルに首の後ろを掴まれてぶらぶらしてる。こんなにあっさりと捕まるもののどこが面倒なの?
「ちょっとあんた持ち方! そんな持ち方したら可哀想でしょ!」
「はあ? これが普通だろ、猫だってこうやって持つし、こいつも大人しくしてるだろ、嫌なら暴れるって」
ねこって何? ワタルが捕まえた獣は特に嫌そうな素振りも無く大人しく掴まれてる、可哀そうには見えないけど、コウヅキはなんであんなに怒ってるの?
「あんた猫もそんな持ち方するの!? ありえない、最低ね」
「私も可哀想だと思うなぁ」
「僕もその持ち方は酷い気がするよ」
私には何が悪いのか分からないけど、コウヅキ達にはワタルの持ち方は不評みたい。暴れないし心地よさそうに目だって瞑ってるのに。
「ならお前らはどうやって持つんだよ? ほら紅月」
ワタルがコウヅキにぶらぶらしてる獣を差し出してる…………ちょっと面白い、私も持ってみたいかも?
「そんなのこうやって脇を抱え――」
『きゅぅー!』
「え、ちょっと、大人しくしてよ、こいつの酷い扱いから解放してあげようとしてるのよ」
コウヅキがモフモフに手を伸ばしたら暴れ出して前足でコウヅキの手を叩いたり引っ掻いてる。ん~、結構速い、威力は無いだろうけど、ぺちぺちする速さはかなりのもの、確かにあの速さで逃げ回る獣なら捕まえるのはそれなりの手間が掛かるのかもしれない…………それをあっさり捕まえたワタルって……やっぱり運が良いんだ。
「ダメじゃん、暴れまくってるし…………おい止めろ」
ワタルが上下に獣を揺すってびよんびよんしてる……可愛い、あれ私も欲しい。
「うわ、虐待じゃんそれ」
「なんでそうなる、引っ掻かれてるから止めてやったんだろ、それに猫とかの脇に手を入れて持つのは肩の関節に負荷が掛かるからやったら良くないぞ、人間と違って開くようになってないから、ずっとやってたりしたら痛める可能性があるし」
『猫というのが何かは知らんがカーバンクルを持つなら小僧のやり方のほうがいいだろう、親が子を運ぶ時にそこを銜えるからな、成体でもそこを掴まれれば相手を上位の存在と認識して大人しくなる』
偶然で弱点を掴んでたなんて、凄いけど何か納得いかない。
「一つ聞きたいんだけど、宝石を採ったら死ぬとかないよね?」
『ああ、問題ない、失ってもまた再生する』
そっか、必要なのは宝石なんだ……なら宝石を採ったあとの獣ならもらってもいい? モフモフしてて柔らかそうで、抱いて寝ると気持ち良さそう。それにリオにも見せたい。
「んじゃ遠慮な――なに?」
コウヅキ達に睨まれているのに気が付いてワタルの手が止まった。顔引き攣ってる、あんなの気にしなきゃいいのに。
「そんな可愛い子の持ち物取り上げるとかサイテー」
「鬼畜で外道ね」
「だって献上品を採りに来たのに採らずに帰るとか意味分からんだろ」
「ワタル、カーバンクル自体も珍しいから、そのまま持って行けばいいのではないか?」
えぇー!? 宝石採った後は私が貰いたかったのにそのまま持って行くことになったらもらえない。
「このままでいいか」
うぅ~、貰いたかった。ナハトが余計な事を言うから…………コウヅキ達のいない時に宝石を採ってワタルに渡せば、もらってもいい? ワタルが必要としてるのは宝石だけだし。
「ならさっそく名前を――」
「もさ、だな」
もさ、たぶん尻尾とかがもさもさだからだ。ワタルの名づけ方、安直…………それでも、もさと呼ばれた時にモフモフの尻尾が嬉しそうに揺らめいていた。
「なっ!? なに勝手に可愛くない名前を付けてるのよ」
「もさもさだからもさ、で分かり易いだろ」
『きゅぅ~』
「ほら返事もしたし」
本当に返事した!? …………なんでさっき拾ったばかりの獣に懐かれてるの? 首掴んだから? それだけで服従するの?
「そんなの偶々鳴いただけでしょ! そんな事で適当に名前を付けたら可哀想じゃない」
「ならそっちの希望は?」
「…………きゅーちゃんとか?」
「きゅーちゃん~? …………ぶふぅっ」
「なっ、何よ?」
「いや、別に、ぷくっ、ふふくくく、呼んでみたらいいんじゃない?」
コウヅキの提案した名前を聞いてワタルはお腹を抱えて笑ってる。そんなに変? きゅーちゃんも悪くないと思ったんだけど。
「……きゅーちゃん」
『…………』
「もさ」
『きゅぅー』
「ぷふぅっ、くくくっあっははははは! こいつはもさの方が良いみたいだな」
『きゅぅー、きゅぅー』
もさがいいというよりワタルの呼び掛けに反応してるだけな気がする。コウヅキの方は見ないでワタルをずっと見上げてるし、上位の存在として認識するって言うのは本当なのかもしれない。
「な、なんでよ、きゅーちゃんの方が可愛いのに…………もさとか可愛くないじゃない、猛者とも書けるし…………」
コウヅキが地面に手を突いて落ち込んでる。そんなに嫌なんだ……もさでも悪くないけど。
「もさ」
『きゅぅー」
鳴いたぁ!
「もさもさ」
『きゅぅーきゅぅー』
私が呼んでも返事する。もう自分の名前だと認識してる? もさは賢いかも、呼ぶ度に尻尾が揺らめいてつぶらな瞳で私を映してる。か、可愛い…………。
「ほれ、お前が持ってろ」
っ! ワタルが私の頭にもさを乗っけた…………これもいいかも、もさもさの尻尾が頬を撫でて首に巻かれた。頭に乗ってる胴体もモフモフしてて柔らかいし、ゲルトと同じで獣臭さが無くて毛並みも良い。
「なんで?」
「…………似合うから?」
ワタルは目を逸らして頬を掻いてる。似合う? …………よく分からない。でもワタルが良いって言うならこれでいい、乗せてるのも嫌じゃないし、もさも嫌そうじゃない。ふふふ……モフモフ貰った。頭へ手を伸ばしてもさを撫でる、良い触り心地、こんなモフモフに埋もれて過ごしてみたい。
「あ~、確かに可愛いかも…………私もロリコンになるかも、フィオちゃん写メ撮らせて~」
「あ、僕も」
ミズハラとユウヤが変な板でカシャカシャやり始めた。何が面白いのか、二人とも熱心な様子で続けてる……少し、目が…………。
『これで一応用は済んだのだろう? ならば早めに立ち去れ、襲わぬ様に指示してはいるが群れの中には他の種への接触を酷く嫌う者も居る』
「ゲルト、その前にもう一つ頼みたい事が出来てしまった、いいだろうか?」
『数年振りに会いに来たかと思えば頼み事ばかりだな、普通に会いに来れんのか、まったく……』
「今は審議中だが許可が出れば私たちは王都へ行く事になる、その時に乗せてはもらえないか? 最初は歩きで行くつもりだったのだが先ほどワタルを乗せているのを見て、頼めないかと思ったのだ」
歩き…………? この大陸には馬車が無いの? 普通の人間が歩きで移動すると時間が掛かる、その上異界者はひ弱な人間が多いのに。
『今言ったろう、いや、言わなくてもお前は知っているだろう、接触を拒む者も居るのだ。さっき小僧を乗せたのは少しの間だったが、移動となれば数日ここを離れる事になるだろう? その間にそういう者たちが勝手をしないとも限らない』
「あ~、馬とか居ないの?」
「馬はこの大陸には居ない、それに普段の移動は自分の脚で事足りるから困る事もないんだ」
いない……確かに身体能力の高い者からしたら自分の脚で移動する方が速かったりする。私も馬車なんて滅多に乗る事は無かったし、エルフ達も同じで自分の脚での移動が当たり前なんだ。
『ならば歩けばいいだろう』
「ワタル達は人間だ、私たちエルフや獣人の様にはいかない」
『…………他の者に話してはみよう、だがあまり期待するなよ、確約は出来んからな』
気遣い獣…………嫌う者がいるって言ったのに、即刻断る事はせずにこの対応、アドラの人間なんかよりゲルトの方が穏やかで温和、知性のあるはずの人間の方が獣のように感じる。
「ああ、それで構わない、ありがとうゲルト」
『ふん』
「どこに行くの?」
村に戻って暫くした後にナハトが天幕から出て行くのを見つけて声を掛けた。
「ワタルに頼まれた通り剣に能力付加をしてもらおうと思ってな」
ワタルの剣を持ち出してるからもしかしたらと思ったけど、正解だった。
「その事について話がある」
「…………ワタルの頼みだからやるのだぞ? お前の持ち物への能力付加はお断りだぞ」
「別にそんなの要らない。補助が必要なほど自分が弱いとは思わないし……そうじゃなくてワタルの剣に付加する能力についての話」
「ワタルの? …………はっ、まさか自分みたいに小さい者に魅かれるようになる効果を付加しろと言うつもりかっ! そんなものは絶対に付加させないぞ」
…………そんな馬鹿な効果を付加してどうするの? 魅かれる? ワタルが? …………そんな事どうでもいい。首を振って邪魔な考えを追い出して必要な事だけを考える。
「そんな事じゃない、ワタルの安全について」
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「? ああ、見たが、それがどうかしたのか?」
「なら分かるはず、ワタルはすぐに無茶をする。自分が傷付くのを気にしない、自分の命すら投げ出す事もある。だから付加する能力に身体能力強化以外に身体を丈夫にするものと、稽古をした時に成長を高める効果を付け加えて」
たぶん無茶をするのは止められない。言っても聞きそうにないし、聞いたフリをして飛び出していきそう。もちろん悪い事態にならない様に傍に居て補助するつもりだけど、ワタル自身を強くして危険に陥りにくくしておくのも重要。
「なるほど、確かに無茶が過ぎるというか……自身の身の安全を顧みない行動があったな、お前に助けられた状況も多いようだったし…………しかしそんな能力を付加すると無茶な行動が更に助長されるのではないか?」
「黙っておけばいい、知ったら絶対無茶が増える」
「うむ、確かに…………あれはどうにかならないのか? 他者を大切にしようとするのは良いが自分も大切にしてもらいたいのだが――」
「出来ると思うの? あれが無くなったらたぶんワタルじゃなくなる」
「う、う~む……確かにああいった部分も魅力ではあるが…………ふむ、一応頼んではみよう。だが一つの物に複数の能力を付加し過ぎると複雑になって効果が現れない場合もあるから絶対に出来るとは言えない。その場合は別の物に付加してワタルに身に着けさせるしかないな」
「それでいい、ワタルの安全が優先」
「…………お、お前は何か欲しいものは無いのか? 特別に頼んでやらんでもないぞ?」
自分の身くらい自分で守れるし特に欲しい能力も…………。
「リオの安全に繋がりそうなもの?」
「……ふふっ、自分の為のものは頼まないのだな、リオは黒髪の娘だったな。何かいいものがないか頼んでおこう。お前がワタルとあの娘を大切に思っているのは分かったが、ワタルは私が貰うからな」
あげないしっ! ナハトは剣を持って出て行った。リオの安全に繋がるもの……身体能力の強化? でも、動けるようになったらリオも無茶しそうな気が…………流石に二人一遍に面倒を見るのは私でも大変だから何かそれ以外にしてくれるといいんだけど。
「リオ、今日もいい?」
頼みたい事も済んで、一緒に寝ようとリオの部屋を訪れた。
「いいですけど、フィオちゃんそれどうしたんですか?」
「ワタルに貰った。もさ、モフモフ」
「わぁ~、本当ですね――きゃぁ、くすぐったいですよ」
もさを掴んでベッドに座っているリオに差し出したら、リオにすり寄って行ってもさがリオの顔を舐め始めた。ん~? 懐いてる、私にも特に嫌そうな態度をしなかったし……なんでコウヅキだけ叩かれたの?
「この子とても人懐こいですねぇ。こんな動物見た事なかったんですけど凄く可愛いです」
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