黒の瞳の覚醒者

一条光

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番外編~世界を見よう! 家族旅行編~

帰ってからのこれから

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「はいは~い、緊急家族会議を開くわよ。娘たちの究極サプライズでワタルが私たちの元に戻ったのはいいけれど問題も発生したわ」
「ティナさんどこに問題が? ……まぁ娘たちがべたべたし過ぎて私たちが近付けないのは問題ですけど」
 そう、初対面にも関わらずほとんどの娘たちが甘え纏わりついている。
 膝の上は右からクロの娘のクロナ、シロの娘のシロエ、ミシャの娘のルーシャが占領して左手にはティリアが右手はアウラが、背中にはリュエル、リオの娘のリル、クーニャの娘のミューリャ、シエルの娘のマリアとリエルの娘のアリアが張り付いている。
 皆母親譲りの愛らしく、贔屓目に見ても将来絶対美人になると期待させる容姿だ。
 俺の遺伝でミューリャは片目が黒の、金とのオッドアイ、ルーシャは黒にゃんこだ。あとはアリスの娘のエリスの髪に黒いメッシュがある以外はみんな母親似である。

 そして、フィオにそっくりの――フィオをそのまま更に小さくしたようなフィアとアリスの勝ち気な瞳を受け継いだエリスには何故か睨まれている。
 部屋の隅からこちらに寄ろうとしない二人からは警戒が見てとれる。むしろこの反応が正しくも思う。長らく放置されていて今更父親が帰って来たということに納得いかないのも分かるからだ。
 手招きしてみるがぷいっと顔を背けられてしまった。

「そうそれね、リオの言うそれも問題よ。私だって……私だって甘えたい! でもそれは置いておきましょう、この子たちだって寂しかったはずだから。私たちには夜がある! それよりも先ず私たちの居ないところで時間を重ねてしまっている事、でもこれはティアに頼めばいいわね」
「みんなが歳取ってないのってティアの力か。なんでまた?」
「あのねぇワタル、エルフにドワーフ、ドラゴンまで居るのよ? ……ワタルに加えて更にみんなまで逝ってしまったら……寂しくて死んじゃうじゃない」
「そんな大袈裟な、だってみんなまだ若い――」
「人間や獣人は簡単に歳を取って変わっていくわっ! 寿命の違う種族を愛した私たちにはそれが凄く怖い事なの……なんとか出来るならしたいと思うでしょう?」
 あぁ……ティナは必死だったんだ。失う痛みと恐怖を知って、これ以上は何も失うまいと、を生きようと必死になった結果なんだ。

「ごめんな。寂しかったよな、俺も同じだ。ずっと苦しかった。だから、これからは俺も同じ時間を生きさせてくれ」
「ワタルそんなのは当たり前の事だぞ。このやり方は会ったばかりの頃に言っただろう?」
 あの時は能力者不在だったけどな。まさか現実になるとは当時は思ってもみなかった方法だ。能力を使用しているって事はティアも良くなっているんだろうな。

「次にクジョウの事」
 嫁たちに囲まれぽつんと座る綾さんは全員の視線が自分に向いた事でびくりと顔を引き攣らせる。
「あのティナ――」
「分かってるわワタル。私たちは寂しくても独りじゃなかった、ワタルが残してくれた娘だって居た。独りだったらきっと耐えられなかったでしょうね……だ・か・ら! ワタルを支えてくれていたっていうのは感謝しているわ。ワタルはそういう所弱いのだし、だからこそクジョウをどうするのかが問題でしょう? クジョウはどうしたいの?」
「わ、私ですか!? 私はその……帰るべき、です……よねぇ?」
 一同を見回した後俯きそう呟いた。そこには不安とみんなへの遠慮が見て取れる。長い間世話になったしあれだけ傍に居たんだ、綾さんの気持ちもなんとなく気づいてはいるけど……どうするのがいいんだろう。

「娘よ、儂らはそういう建前が聞きたいのではない。お主の本音を言うてみよ」
「私は……ここに残って……皆さんみたいに航君の子供を作って傍に居たいです!」
「見よ、馬脚を現しおったぞ」
 言うてみよと言っておいてクーニャのこの反応……ニヤニヤと突き回す気満々だ。
「ク~ジョウ~? 私前にワタルはダメって言ったわよねぇ? これはお仕置きね」
 若干の嫉妬とからかいの混じったティナの言葉に全員が頷いて手をわきわきしながら綾さんににじり寄る。
「ひーっ!? 本音を言えって言ったじゃないですかぁ~、皆さん目が怖いですよぉ」
 全員が綾さんを取り押さえリュン子がその手に指輪を握らせた。全員が揃ってやれやれ仕方ないといった表情だ。

「ほら、これはあたしたちのを作った時の予備だぞ。これでアヤも家族だな。でも夜の順番は話し合いだぞ?」
 受け入れ態勢万全だった!? 気の早い事を囁いたリュン子は自分の指輪を見せて笑っている。あっさりと受け入れられた綾さんだけがぽかんと口を開けて指輪を見つめ固まっている。

「ねーねー父しゃま、赤ちゃんどうやって出来るのじゃ? ルーも赤ちゃん欲しいのじゃ」
「ルーシャにはまだ早いかなぁ……大人にならないと駄目なんだよ」
 この質問凄く困る! 無邪気な瞳から逃れる為に黒にゃんこのルーシャを撫で回す。子供の髪って柔らかいなぁ、娘……十二人の娘かぁ、改めて考えると凄いな。
「ふにゃん!?」
「ん? あっ、あーっ!? 旦那様何を、何をやっておるのじゃ! 娘の尻尾を掴むなど!」
「……ルーはもう父しゃまのお嫁さんになるしかないのじゃ」
 なんだって!? 黒つやふわふわ尻尾の魅力にケット・シーの風習を失念していた。というか七歳の娘にももうあの風習浸透してるのか。
「私も私も! 私もパパのお嫁さんなる」
 リルを初めに次々と上がる娘の声にほっこりしていると嫁たちがそれはだと呪いでもかかりそうな視線を向けてくる。別に娘に手を出すつもりなんてありませんよ!? ロリコンでも鬼畜じゃねぇんだから!
「女好きのワタル様ですからもしやと思いまして」
 冗談めかしているがクロの目はマジだった。あの頃の純粋だった君は何処へ……ちなみに尻尾の件はこの後一日掛けて話し合い、なかった事になる……なったんです。今後気を付けよう。

「はいはいはい! とりあえずその話は後! まだ一番の問題が残っているわ。ワタルを消したのはハイエルフよ、彼らがワタルに気付いたらまた同じ事を繰り返すに違いないわ」
 一瞬にして場は静まり緊張が走る。確かにその通りだ。レヴィ達にとっては脅威を招く可能性のあるものが舞い戻った状態だ。再び排除しようとするのは道理であろう。隠れ住むという選択肢もあるがレヴィが俺を目印に移動していたなら俺がヴァーンシアに戻った事を既に知っているかもしれない。

「あっ! そうだそうだよジズネが居るじゃん! 抜いてもらえばいいんだよ」
「旦那様、堂々と浮気宣言なのじゃ?」
 そういう抜くじゃないでしょうよ!? 最初の頃の初心なミシャはどこ行った……年月って残酷だ。
「それは私たちも考えました。でもそれでワタルは良いんですか? もし何かあった時、何の力も持ち合わせて居ない状態に後でワタルは苦しみませんか? 私たちの知っているワタルはきっと苦しみます。自分を責めて呪って際限なく落ちていきます。だからそれは最終手段にしませんか?」
 リオの言うことは当たっているだろう。もし自分が何か出来るの立ち位置で何も出来なかったら俺は悔やみ続けるだろう。だが――。

「もう平和なんだし問題なんてそうそう――」
「主よ、アホはどこにでも居る。ついこの間も家に強盗が入ったしな。裕福なうちに目を付けおって、儂らが出払いリオ達と娘たちしか居らぬ時を狙う。こういう馬鹿者はそこそこ多い」
 そこそこ強盗に入られる家ってなんか嫌だ……王都の治安どうなってんの。そんな話を聞いたら弱体化なんてしてられない、大切な女たちだけじゃなく今は大切な娘までいるんだ。リオの言う通り出来る事を減らすのは最終手段だな。

「ちなみにその強盗は?」
「ミューリャが精神を焼いた後にレイナに任せたが物理的にも焼かれていたな」
 物騒な……よくよく考えるとうちに強盗に入るとは無謀過ぎる。
 娘たちは皆混血者であり、一部は能力まで持っている上に何かあった時に抵抗出来るようにとフィオ達が厳しく鍛えているとか。
 これは嫁全員の方針らしいが……確実に俺が消された事が絡んでるよな。遊びたい盛りだろうに娘たちも災難な……これからは色んな所に連れ出してたくさん遊んでやろうと思う。混血者の体力と身体能力というのが若干不安だが。
「みんな強いんだな」
「うん強いよー! サボるとフィオママが怖いの」
 リルが無邪気に返事をしてわざとらしくフィオに怯える素振りを見せて肩にしがみつく。うんまぁ戦闘事に関するフィオの厳しさはよく知ってる……娘たちにもあんな感じなんだろうか? だとしたら厳し過ぎるように思うが。

「言い方……みんな特別強い混血者だから身体の使い方を教える必要があった。赤ちゃんの頃とかは加減が出来てなくてリオ達が怪我してたから」
 自分が怖い親をしていると思われたと思ってか少し拗ねたように俯きぼそぼそ言ってる。怪我したりしてたのか……混血者の子育てってやっぱり大変なんだな。
 相変わらず可愛いやつめ……本当は傍に来たいくせに今は娘たちに遠慮してもじもじしている。見た目が変わっていないせいで親になったという感じがしない――というより少女これが母親って背徳感がして勝手に悶えてしまう。
「パパどうしたの……?」
「ワタル様はそういう時があります。放っておいてあげましょうねシロエ」
 シロが残念なものを見るようにして我が子を抱き視界から俺を隠した。

「それにしても……そこそこ強盗が来るのか。大切なものはやっぱり自分の手で守りたいよな――」
「というわけで抜くのは保留、そうなるとワタルを隠すかハイエルフの説得しかないんじゃないの?」
 お手製だというクッキーをかじりながらアリスがちらちらとこちらを窺っている。フィオに負けず劣らず甘えっ娘だった彼女は娘たちが羨ましくて仕方ないようだ。

「隠すのは無理、ワタルの所に飛べるハイエルフが居るならもう気付いてる可能性すらある」
「そうね、シエルの言う通りよ。隠すのは無理……説得なんて聞きゃしないでしょ。根絶やしにする方が早いんじゃない?」
「物騒な案はやめなさい」
 自信満々に好戦的な笑みを浮かべるリエルの頬をみよーんと伸ばす。その瞳は戸惑いを映し、その頬は見つめ合った恥ずかしさで朱に染まった。
 リシエルとはスキンシップする時間ってあまり取れなかったからなぁ。耐性があまりないんだろう。
 膝を抱えてもう失くしたくないのにと呟く姿は何とも愛らしい。

「そうね、女は勿体なくて殺せないボウヤだものね。そこで私が提案してあげる! ハイエルフみんな快楽堕ちさせればいいんじゃないかしら?」
 寝癖だらけで居間に入ってきた魔神変態がとんでもない事を言い始めた。久々に会った第一声がこれとは……色欲の魔神なせいか何事も性欲で解決しようとしやがる。快楽堕ちってそれどんなハードエロゲだよ。
「まぁ何をするにしても先ず浮遊島の居所を掴まねばどうにもならぬだろうがな」
「浮遊島って今もそのままなのか? また隠してるんじゃないのか?」
「いいえワタル様、浮遊島は今も観測されています。ワタル様を消した事で追われる身になっても目撃情報が途絶えないという事は隠れる力が無いかとても弱いのだと考えられます」
 か。たしかにあの時ハイエルフの大部分が失われた。それにレヴィはハイエルフは繁殖能力が低いと言っていた。七年経った今も総数は増えておらず出来る事が限られている可能性は十分にあるか。

「そうだった! そういえばこの前ドワーフの領地うちの西側で目撃したって姉さんが――」
「早く言え!」
「早く言いなさい!」
 リュン子の言葉に血相を変えてクーニャとティナが怒鳴った事で彼女はびくりと縮こまった。
「うぐ……帰ってその話をしようとした時にワタル君が帰ってきたから仕方ないじゃないか」
「なぁリオ、どういう事だ?」
「あの……えっと、報復、といいますか――文句の一つも言って一撃入れないと気が済まないってクーニャちゃんとティナさんは時間を見つけては空を捜し回っていたので」
 俺の事に囚われて苦しい思いをさせていたんだろうな……そのせいで娘たちだって寂しい思いをしたかもしれない。その分を取り戻す為にもこの世界に居る事を勝ち取らないといけない。

「よ~し、それなら私が一っ飛びしてハイエルフを全員ボウヤに跪かせてくるわ。そうしたら今夜は私が一番よ?」
 どこの魔王だ!? そしてさらっと今夜の予定を入れてきた!? 男はどうする気だ!?
「待ちなさい、私も行くわ。勝手な事をしてくれたハイエルフにはきっちり話をしておきたいの」
「それでしたら全員で行きませんか? 言いたい事があるのはワタルの嫁全員が同じですから。クーニャちゃんお願いできますか?」
「任せておけ。んー、本格的に顕現するのは久しぶりだ。儂も人の暮らしに随分と慣れたものだ。主は子供たちの面倒を頼むぞ」
 伸びをしたクーニャが庭に飛び出し顕現したと思ったら嫁全員がその背中に乗って止める間も無く行ってしまった。
 アスモデウスの発言には不安しかないが……リオ達が居るし、大丈夫だよな? 物騒な事にだけはならないように祈りつつ娘たちと親睦を深める事にした。

 留守番を開始して程なくしたところで店の方から声が掛かった。なんとお嫁様方は店を開けたままお出かけになられました。俺にどうしろってんだ!?
「あれ? あんた誰? バイト? おかしいなぁ、リオちゃんバイトは雇わないって言ってたのに」
「おじさんおじさん、なんとこの人は私の父様なんだよ!」
「えっ!? ティナちゃん再婚するの? マジかー……でも七年だもんなぁ、そろそろ気持ちにも踏ん切りがつくか。ん? ……ってことは他の娘もフリー――おっしゃっ! 何か盛り上がってきた!」
 一般にも俺は死んだと伝わっているようで如月航だとは思われていないようだ。
 にやけ面で妄想を口にして一人で盛り上がっているおっさんに水を掛けて追い出した。
 人妻になんて妄想抱いてんだ……あの頃も美人女将目当てな客は多かったしああいう輩もいるだろうが……七年だよな……再会に喜んでくれたけどみんな新しい相手を見つけたりはしなかったんだろうか? なんか不安になってきた。
「パパ何やってるの! お客さんは大事にしないとダメ、なんだよ」
「許せリル、守る為なら俺は何でもするんだ」
「父しゃまやきもちカッコ悪い」
 グサッと来た。じっと俺を見上げて放たれた言葉が心を抉っていく。
 これではいけない、会ったばかりの娘たちに駄目なやつだと思われてしまう。流石にそんな情けない状態受け入れられない。

 ここは出来るところを見せないといけない、次はばっちり接客してやるぜ。
 そう意気込んだが客足が途絶えた。娘たちの話では普段は結構繁盛しているという、となれば俺が悪評を撒いてしまったという事に……さてどうしたものかと悩んでいる内に日が暮れみんなが帰還した。
 レヴィを連れて――。
「え~っと、これはどういう?」
「やっとのことでワタルの居住権を勝ち取ってきたわ! どうにか嫁追加は一人に抑えたわ」
「ふ、ふふふふ不束者ですが、どどどうぞよろしくお願いします」
 緊張で顔を強張らせ、年長者としての余裕など全く見られないレヴィが土下座する勢いで頭を下げる。
「…………ちょっと待て、何がどうしてそうなった!?」
 娘たちの活躍で愛しい人たちの居る世界に帰還したこの日、変態アスモデウスの策略か、はたまた嫁たちの活躍か、嫁が更に二人増えました。
 どうやら帰還と同時に俺のハーレム拡張も再開したようだ。異世界に来てから女運がとんでもないことになっているな。
 騒がしくもあたたかい時間が始まる予感と共にため息を吐き、俺は花の乱れ舞う空を仰いだ。
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