35 / 469
二章~異世界の日本~
髪の長さと三択
しおりを挟む
「ねぇ、まだその板使えないの?」
「まだだ、まだ充電が終わってない」
充電を開始してから結構経った様に思うけど、電池が百パー近くまで充電された時の緑のランプに色がまだ切り替わらない。同じ状態を維持し続けるってのも結構疲れるものだな、これはこれで力を使う訓練になってるのかも?
「ええぇー、廃坑でやってた時みたいにバーンってやれば直ぐに終わるんじゃないの?」
「いきなりそんなに電気流したらスマホがぶっ壊れるわ!」
これしかないんだ、壊れたから修理に出すとか機種変するとか出来ないんだぞ、大切に扱わないとダメなんだ。
「あたしもう待つの飽きたよ~」
「私もそろそろ飽きました」
そんなこと言われても俺が待ってろって言ったわけじゃないし、どんな反応をするのか見てみたくはあるけど別に今日じゃなくてもいいし。
「なら家に戻ればいいだろ、俺は待ってろって頼んでないぞ」
「だって今雨降ってるもん、雨の中帰るのめんどくさい」
美空の言葉で外を見るとたしかに雨が降っている。気付かなかった、それだけ充電に集中してたってことか。美空たちじゃないけど、俺もこの状態は少し飽きたし疲れた。かと言って流す電気を増やして壊してしまったらどうにもならない、まだしばらく我慢するしかないか…………。
「なにしてるんだ?」
愛衣が俺の後ろに回って髪を触ってくる。
「暇なので少し遊ぼうかと、お兄さん男の人なのに髪長いですよね。前髪もですけど後ろも背中の真ん中辺りまでありますよ」
「あぁ、まぁ、切るのが面倒で?」
面倒なのもあるが、病院に行くのと買い出し以外で外出しようとしなかったせいだ。それと少し切る事に抵抗がある。
小さい子供は結構残酷なところがあるもので、身体的特徴なんかであだ名を付けたり、イジメたりする。小学校に上がってすぐに同じクラスになった坊主頭の子がハゲと言われまくってたのを見て髪を切る事に抵抗を持つようになった。そのせいで髪、というか頭を触られるのも少し苦手だ。
「男の人でこんなに伸ばしてるなんて変わってますね~」
「俺髪を触られるの苦手なんだけど?」
触られると脱力するというか、なんか妙な感じがして落ち着かない。
「少し位我慢してください、お兄さんはやる事ありますけど私たちは無くて暇なので」
ああ? なら三人で遊べばいいだろうに、昔の室内で遊べる物って何があるんだろう? お手玉、将棋、囲碁、コマ、けん玉位か? 俺が思いつく昔っぽい物はこれ位だ。
「ぷぷぷ、航三つ編みにされてる」
「はぁ!? ちょ、やめろ愛衣」
「残念、もう出来ちゃいました。長いと色々出来そうでいいですね、私ももっと伸ばそうかな? 美緒ちゃん位長いといいかも。お兄さんは女の人の髪は長い方がいいですか?」
解こうにも右手は充電中、左手は骨折で使えない…………充電が終わるまでこのままか、自分じゃ見えないから特にどうという事もないはずだけど落ち着かない。
女の人の髪の長さねぇ、外に出ないんだから女の人を見る事もなかったわけで、こうだといいって思ったこともない。
「ん~、本人に似合ってればいいんじゃない?」
「なんだかおざなりな答えですね。ならお兄さんのお嫁さんになる人が坊主頭の似合う人だったら坊主頭でいいんですね?」
なにその無茶苦茶な返し!? というかどんな女だよ!? 坊主頭の似合う女って。
「いや、少なくとも俺はそんな相手と結婚しないと思うけど…………」
それよりそもそも結婚出来るか怪しい、こんな国に居るんだし、ここを出たら誰かと関わる事すら難しくなるだろうし。
「坊主頭が嫌なのなら好みの長さ、ありますよね? 私たち三人とも長さが違いますし、私たちから選んでもいいですよ?」
『え!?』
俺、美空、美緒、三人の声が重なった。なんか面倒な展開に…………美緒は俯いちゃうし、美空もそっぽを向いてる。愛衣だけがニヤニヤと楽しそうだ。
「どうしたんですか? 髪の長さの好みを答えるだけですよ? 三人から選ぶだけだから簡単ですよね」
なんだ? この状況…………髪の長さねぇ? 坊主頭は確かに嫌だが、似合ってればいいってのじゃダメなのか?
「ほらほら、どうしたんですか?」
さて、なんて答えたもんかな? 美緒は俯いてるし、美空はちらちらこっちを見てて目が合ったら顔を赤くしてまたそっぽを向いた。
「あ~、俺は…………」
「俺は?」
愛衣が凄く楽しそうだ。答えに迷って下を見た。
「充電終わったー!」
『へ?』
話してる間に充電が完了してたみたいでランプは緑色に光っている。やった、本当に自分で充電ができた!
「ちょ、ちょっとお兄さん! 答えは――」
「待てまて、そんなの後だ。やっと充電が終わって久々の再起動なんだ」
ああ、まさかもう一度電源を入れる事が出来る日がこようとは! 電源ボタンを長押しして電源を入れる。
「おお! ちゃんと起動した! よかったぁ、壊れてなくて」
「うわっ! 板がさっきより光って模様が出てきた!?」
起動画面だけでも美空も美緒もびっくりしている。愛衣は不満げで、少し離れてそっぽを向いてしまっているが。
「え!? それどうなってるの!? なんで触ったら絵が動いてるの!? あ、あたしにもやらせて!」
そうか、タッチパネルなんて当たり前になってるけど、初めて見たらこれもびっくりするか。
「まぁ待てもっと面白い機能を見せてやるから」
カメラを起動させてそっぽを向いている愛衣に向ける。
「愛衣ちゃんが板の中にも居る!?」
「え、ちょ、これどうなってるの!?」
「こうやって画面に映した後にここを押せば」
カシャッという音に三人がビクリとした。あぁ~、音が出るなんて思わないもんな。
「びっくりしたぁ、なに今の音?」
「航さん、これどうなってるんですか? さっきまでは板の中の愛衣ちゃん動いてましたよね?」
「さっきここを押しただろ? これに何かを映してここを押したらその時に映っていた光景を保存出来るんだよ」
美空と美緒の騒ぎ様に流石に興味を惹かれたのか愛衣もこちらに来た。
「本当に板の中に私が居る…………私こんなに無愛想な顔してますか?」
さっきまで不機嫌だったからなぁ。
「ねぇ、これあたしにもやらせて!」
やっぱりそうくるよな、凄い道具を見せられたら使ってみたくなるものだ。
「いいけど乱暴に扱うなよ。画面に何かを映した後にここを押せばいいから、あと押すって言っても強く押すなよ、軽くでいいんだからな」
「分かったって、早く貸して!」
興奮気味の美空にスマホを奪われた。大丈夫かな? さっき放り投げたから少し不安である。早速カシャカシャやっている。
「うわぁぁ、凄い! 本当にここ触っただけで動いてたのが止まって写る」
「美空ちゃん早く私にも代わってよ」
普段控えめな感じの美緒が主張している。それだけ興味があるって事か。
「これ、良いですね。これがあれば遠く離れてしまった人の姿を保存しておけばいつでも見る事が出来ますし、お兄さんの居た世界、日本にはこういう物がたくさんあるんですか?」
愛衣の機嫌も直ったようだ。
「色々あるよ、便利な道具が。俺が今持ってるのはあれだけだけど」
「日本、少し行ってみたいです。ご先祖様たちの故郷」
「あー、あたしも行ってみたい! こんな面白い物がいっぱいあるんでしょ?」
「私も、行ってみたいです」
自由に行き来する方法があればどんなによかったか…………。ここを出たらそれを探さないとなんだよな。
「それちょっと貸してみ、動画も撮れるから」
『動画?』
録画モードに切り替えて三人を映す。こっち見て固まってるからこれじゃ意味ないな。
「なんか動くか喋るかしてくれ」
「なにかって?」
「なんでもいいけど…………じゃあ自分の名前と年齢でも言ってくれ」
何か喋れって言っても大してなにも思いつかなかった。
「美空、十二歳」
「桜美緒、美空ちゃんと同じ十二歳です」
「私たちの名前と歳なんてお兄さん知ってるじゃないですか」
知ってるけど、何か喋ったり動いたりしないと動画の意味がないんだよ……。まぁこんなもんでいいや、録画を終了して撮ったものを三人に見せる。
『美空、十二歳。桜美緒、美空ちゃ――』
「板に映ったあたし達が動いて喋ってる!? な、なにこれどうなってるの!? なんで板からあたしたちの声がするの!?」
三人が驚愕している。美緒と愛衣はびっくりし過ぎたのか言葉を失っている。どうなってるって聞かれても俺も仕組みなんて知らない。そういう物って認識だし、仕組みを理解して使ってる人って日本にどの位いたんだろうな? 少しからかってみるか。
「実はそれな、映した人の魂を奪うんだよ。だからさっき映した時に奪った魂がスマホの中にあってそれが喋ってるんだ」
『!?』
三人が唖然として動かなくなってしまった。悪ふざけが過ぎたか? 初めて見る道具なんだし脅かすのはよくなかったかも。
「ならあたしが航の魂取ってやる!」
「あ、ちょ」
美空にスマホを引っ手繰られてしまった。
「あれ? さっき映ってたのと違う、これどうすればさっきみたいになるの?」
動画再生画面になってるから使い方を知らない美空に使えるはずもなく、魂を取るってのは呆気なく失敗、まぁスマホで魂なんて奪えないが。
「返せって、さっきのは冗談だから、魂奪う道具なんて人間が作れるわけないだろう?」
「本当ですか?」
美緒は困り顔だ。やっぱり脅かすのはよろしくなかった…………。
「ホント、ホント、なんならそれで俺の事映してもいいし、ほら」
スマホを返してもらって録画モードにして渡した。
「やり方はさっきと同じだから、丸いところを押したら動く絵の記録を開始するから」
「航さん、なにか喋らないと意味がないんじゃないんですか?」
「あぁ、そうか…………」
なにを喋ったもんかな? 俺も名前とかでいいか。
「俺――」
「ああ、どうせ喋るならさっきの答えを話してください。さっき後でって言いましたよね?」
喋り出そうとしたら遮られてさっきの答えを要求されてしまった。スマホの機能に驚いて忘れたと思ったのに、愛衣結構しつこいのな、またニヤニヤしてらっしゃる。
好みねぇ? ショート、セミロング、ロング、本当に似合ってればそれでいいと思うんだけど。
「似合ってればいいってのは?」
「ダメです」
笑顔で否定された。選ばないとこの話題終わらんのか…………。美空と美緒はさっきまでとは違う感じに困り顔だ。
「…………じゃあ長めで」
「ふ~ん、お兄さんは長い方が好きなんだ。どうしてですか?」
「どうしてって…………あぁ~、この村に来る前に助けてくれた人がいたんだ、その人が髪長かったから?」
選べというから選んだだけだ、理由は後付けだな。
「村に来る前って、この国の人が異界者を助けたって事!?」
「ああ、怪我の手当と食べ物を分けてもらったよ」
三人とも信じられないって感じだな、この国の人間がどういうものかよく知ってるんだろうから当然か。
「答えたんだからもういいだろ」
撮り終えた動画を確認させて、この後すぐに、一旦雨が止んだのでその間に美空と愛衣は帰って行った。
「まだだ、まだ充電が終わってない」
充電を開始してから結構経った様に思うけど、電池が百パー近くまで充電された時の緑のランプに色がまだ切り替わらない。同じ状態を維持し続けるってのも結構疲れるものだな、これはこれで力を使う訓練になってるのかも?
「ええぇー、廃坑でやってた時みたいにバーンってやれば直ぐに終わるんじゃないの?」
「いきなりそんなに電気流したらスマホがぶっ壊れるわ!」
これしかないんだ、壊れたから修理に出すとか機種変するとか出来ないんだぞ、大切に扱わないとダメなんだ。
「あたしもう待つの飽きたよ~」
「私もそろそろ飽きました」
そんなこと言われても俺が待ってろって言ったわけじゃないし、どんな反応をするのか見てみたくはあるけど別に今日じゃなくてもいいし。
「なら家に戻ればいいだろ、俺は待ってろって頼んでないぞ」
「だって今雨降ってるもん、雨の中帰るのめんどくさい」
美空の言葉で外を見るとたしかに雨が降っている。気付かなかった、それだけ充電に集中してたってことか。美空たちじゃないけど、俺もこの状態は少し飽きたし疲れた。かと言って流す電気を増やして壊してしまったらどうにもならない、まだしばらく我慢するしかないか…………。
「なにしてるんだ?」
愛衣が俺の後ろに回って髪を触ってくる。
「暇なので少し遊ぼうかと、お兄さん男の人なのに髪長いですよね。前髪もですけど後ろも背中の真ん中辺りまでありますよ」
「あぁ、まぁ、切るのが面倒で?」
面倒なのもあるが、病院に行くのと買い出し以外で外出しようとしなかったせいだ。それと少し切る事に抵抗がある。
小さい子供は結構残酷なところがあるもので、身体的特徴なんかであだ名を付けたり、イジメたりする。小学校に上がってすぐに同じクラスになった坊主頭の子がハゲと言われまくってたのを見て髪を切る事に抵抗を持つようになった。そのせいで髪、というか頭を触られるのも少し苦手だ。
「男の人でこんなに伸ばしてるなんて変わってますね~」
「俺髪を触られるの苦手なんだけど?」
触られると脱力するというか、なんか妙な感じがして落ち着かない。
「少し位我慢してください、お兄さんはやる事ありますけど私たちは無くて暇なので」
ああ? なら三人で遊べばいいだろうに、昔の室内で遊べる物って何があるんだろう? お手玉、将棋、囲碁、コマ、けん玉位か? 俺が思いつく昔っぽい物はこれ位だ。
「ぷぷぷ、航三つ編みにされてる」
「はぁ!? ちょ、やめろ愛衣」
「残念、もう出来ちゃいました。長いと色々出来そうでいいですね、私ももっと伸ばそうかな? 美緒ちゃん位長いといいかも。お兄さんは女の人の髪は長い方がいいですか?」
解こうにも右手は充電中、左手は骨折で使えない…………充電が終わるまでこのままか、自分じゃ見えないから特にどうという事もないはずだけど落ち着かない。
女の人の髪の長さねぇ、外に出ないんだから女の人を見る事もなかったわけで、こうだといいって思ったこともない。
「ん~、本人に似合ってればいいんじゃない?」
「なんだかおざなりな答えですね。ならお兄さんのお嫁さんになる人が坊主頭の似合う人だったら坊主頭でいいんですね?」
なにその無茶苦茶な返し!? というかどんな女だよ!? 坊主頭の似合う女って。
「いや、少なくとも俺はそんな相手と結婚しないと思うけど…………」
それよりそもそも結婚出来るか怪しい、こんな国に居るんだし、ここを出たら誰かと関わる事すら難しくなるだろうし。
「坊主頭が嫌なのなら好みの長さ、ありますよね? 私たち三人とも長さが違いますし、私たちから選んでもいいですよ?」
『え!?』
俺、美空、美緒、三人の声が重なった。なんか面倒な展開に…………美緒は俯いちゃうし、美空もそっぽを向いてる。愛衣だけがニヤニヤと楽しそうだ。
「どうしたんですか? 髪の長さの好みを答えるだけですよ? 三人から選ぶだけだから簡単ですよね」
なんだ? この状況…………髪の長さねぇ? 坊主頭は確かに嫌だが、似合ってればいいってのじゃダメなのか?
「ほらほら、どうしたんですか?」
さて、なんて答えたもんかな? 美緒は俯いてるし、美空はちらちらこっちを見てて目が合ったら顔を赤くしてまたそっぽを向いた。
「あ~、俺は…………」
「俺は?」
愛衣が凄く楽しそうだ。答えに迷って下を見た。
「充電終わったー!」
『へ?』
話してる間に充電が完了してたみたいでランプは緑色に光っている。やった、本当に自分で充電ができた!
「ちょ、ちょっとお兄さん! 答えは――」
「待てまて、そんなの後だ。やっと充電が終わって久々の再起動なんだ」
ああ、まさかもう一度電源を入れる事が出来る日がこようとは! 電源ボタンを長押しして電源を入れる。
「おお! ちゃんと起動した! よかったぁ、壊れてなくて」
「うわっ! 板がさっきより光って模様が出てきた!?」
起動画面だけでも美空も美緒もびっくりしている。愛衣は不満げで、少し離れてそっぽを向いてしまっているが。
「え!? それどうなってるの!? なんで触ったら絵が動いてるの!? あ、あたしにもやらせて!」
そうか、タッチパネルなんて当たり前になってるけど、初めて見たらこれもびっくりするか。
「まぁ待てもっと面白い機能を見せてやるから」
カメラを起動させてそっぽを向いている愛衣に向ける。
「愛衣ちゃんが板の中にも居る!?」
「え、ちょ、これどうなってるの!?」
「こうやって画面に映した後にここを押せば」
カシャッという音に三人がビクリとした。あぁ~、音が出るなんて思わないもんな。
「びっくりしたぁ、なに今の音?」
「航さん、これどうなってるんですか? さっきまでは板の中の愛衣ちゃん動いてましたよね?」
「さっきここを押しただろ? これに何かを映してここを押したらその時に映っていた光景を保存出来るんだよ」
美空と美緒の騒ぎ様に流石に興味を惹かれたのか愛衣もこちらに来た。
「本当に板の中に私が居る…………私こんなに無愛想な顔してますか?」
さっきまで不機嫌だったからなぁ。
「ねぇ、これあたしにもやらせて!」
やっぱりそうくるよな、凄い道具を見せられたら使ってみたくなるものだ。
「いいけど乱暴に扱うなよ。画面に何かを映した後にここを押せばいいから、あと押すって言っても強く押すなよ、軽くでいいんだからな」
「分かったって、早く貸して!」
興奮気味の美空にスマホを奪われた。大丈夫かな? さっき放り投げたから少し不安である。早速カシャカシャやっている。
「うわぁぁ、凄い! 本当にここ触っただけで動いてたのが止まって写る」
「美空ちゃん早く私にも代わってよ」
普段控えめな感じの美緒が主張している。それだけ興味があるって事か。
「これ、良いですね。これがあれば遠く離れてしまった人の姿を保存しておけばいつでも見る事が出来ますし、お兄さんの居た世界、日本にはこういう物がたくさんあるんですか?」
愛衣の機嫌も直ったようだ。
「色々あるよ、便利な道具が。俺が今持ってるのはあれだけだけど」
「日本、少し行ってみたいです。ご先祖様たちの故郷」
「あー、あたしも行ってみたい! こんな面白い物がいっぱいあるんでしょ?」
「私も、行ってみたいです」
自由に行き来する方法があればどんなによかったか…………。ここを出たらそれを探さないとなんだよな。
「それちょっと貸してみ、動画も撮れるから」
『動画?』
録画モードに切り替えて三人を映す。こっち見て固まってるからこれじゃ意味ないな。
「なんか動くか喋るかしてくれ」
「なにかって?」
「なんでもいいけど…………じゃあ自分の名前と年齢でも言ってくれ」
何か喋れって言っても大してなにも思いつかなかった。
「美空、十二歳」
「桜美緒、美空ちゃんと同じ十二歳です」
「私たちの名前と歳なんてお兄さん知ってるじゃないですか」
知ってるけど、何か喋ったり動いたりしないと動画の意味がないんだよ……。まぁこんなもんでいいや、録画を終了して撮ったものを三人に見せる。
『美空、十二歳。桜美緒、美空ちゃ――』
「板に映ったあたし達が動いて喋ってる!? な、なにこれどうなってるの!? なんで板からあたしたちの声がするの!?」
三人が驚愕している。美緒と愛衣はびっくりし過ぎたのか言葉を失っている。どうなってるって聞かれても俺も仕組みなんて知らない。そういう物って認識だし、仕組みを理解して使ってる人って日本にどの位いたんだろうな? 少しからかってみるか。
「実はそれな、映した人の魂を奪うんだよ。だからさっき映した時に奪った魂がスマホの中にあってそれが喋ってるんだ」
『!?』
三人が唖然として動かなくなってしまった。悪ふざけが過ぎたか? 初めて見る道具なんだし脅かすのはよくなかったかも。
「ならあたしが航の魂取ってやる!」
「あ、ちょ」
美空にスマホを引っ手繰られてしまった。
「あれ? さっき映ってたのと違う、これどうすればさっきみたいになるの?」
動画再生画面になってるから使い方を知らない美空に使えるはずもなく、魂を取るってのは呆気なく失敗、まぁスマホで魂なんて奪えないが。
「返せって、さっきのは冗談だから、魂奪う道具なんて人間が作れるわけないだろう?」
「本当ですか?」
美緒は困り顔だ。やっぱり脅かすのはよろしくなかった…………。
「ホント、ホント、なんならそれで俺の事映してもいいし、ほら」
スマホを返してもらって録画モードにして渡した。
「やり方はさっきと同じだから、丸いところを押したら動く絵の記録を開始するから」
「航さん、なにか喋らないと意味がないんじゃないんですか?」
「あぁ、そうか…………」
なにを喋ったもんかな? 俺も名前とかでいいか。
「俺――」
「ああ、どうせ喋るならさっきの答えを話してください。さっき後でって言いましたよね?」
喋り出そうとしたら遮られてさっきの答えを要求されてしまった。スマホの機能に驚いて忘れたと思ったのに、愛衣結構しつこいのな、またニヤニヤしてらっしゃる。
好みねぇ? ショート、セミロング、ロング、本当に似合ってればそれでいいと思うんだけど。
「似合ってればいいってのは?」
「ダメです」
笑顔で否定された。選ばないとこの話題終わらんのか…………。美空と美緒はさっきまでとは違う感じに困り顔だ。
「…………じゃあ長めで」
「ふ~ん、お兄さんは長い方が好きなんだ。どうしてですか?」
「どうしてって…………あぁ~、この村に来る前に助けてくれた人がいたんだ、その人が髪長かったから?」
選べというから選んだだけだ、理由は後付けだな。
「村に来る前って、この国の人が異界者を助けたって事!?」
「ああ、怪我の手当と食べ物を分けてもらったよ」
三人とも信じられないって感じだな、この国の人間がどういうものかよく知ってるんだろうから当然か。
「答えたんだからもういいだろ」
撮り終えた動画を確認させて、この後すぐに、一旦雨が止んだのでその間に美空と愛衣は帰って行った。
0
お気に入りに追加
508
あなたにおすすめの小説
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
前回は断頭台で首を落とされましたが、今回はお父様と協力して貴方達を断頭台に招待します。
夢見 歩
ファンタジー
長年、義母と義弟に虐げられた末に無実の罪で断頭台に立たされたステラ。
陛下は父親に「同じ子を持つ親としての最後の温情だ」と断頭台の刃を落とす合図を出すように命令を下した。
「お父様!助けてください!
私は決してネヴィルの名に恥じるような事はしておりません!
お父様ッ!!!!!」
ステラが断頭台の上でいくら泣き叫び、手を必死で伸ばしながら助けを求めても父親がステラを見ることは無かった。
ステラは断頭台の窪みに首を押さえつけられ、ステラの父親の上げた手が勢いよく振り下ろされると同時に頭上から鋭い刃によって首がはねられた。
しかし死んだはずのステラが目を開けると十歳まで時間が巻き戻っていて…?
娘と父親による人生のやり直しという名の復讐劇が今ここに始まる。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
全力で執筆中です!お気に入り登録して頂けるとやる気に繋がりますのでぜひよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。
「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」
私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる